恋難
翼たちは、朝食をとっていた。
「はい、美月。あんまりバター塗りすぎるなよ」
「はぁい!」
「きゃわん~!」
三人、和やかに朝食を摂る風景。
(そうだよ!これだよこっれ!ああ、やっと俺達の平和が戻って来たぜ)
その時だった。
ピンポーン、ピンポンピンポンピンポピンピピピピピピッ!ドンドンッ!!
(絶対、開けねぇ!!)
「馬一さぁん!郵便ですぅ!!」
その声は、あの夫婦のものでは無かった。
(ん?ほんとに郵便?でもウチ、オートロックなんだけど…)
そう言って、玄関まで足音がたたないように行き、ドアの穴から外を覗く翼。
すると
外に居るのは、佐本急便の人だった。
「居ないのか…」
そう言って帰ろうとする、佐本の人。
翼は慌てて、ドアを開け、
「あ、すいません!居ますよー」
と言った瞬間だった。
「…そりゃ、居るわよね…」
と言って、ドアの影に隠れていた律子に、腕を掴まれる。
(ひいいいいいいぁっ!)
そして忠義は、佐本の人に千円を渡していた。
「さ、美月ちゃん、食べてぇ。朝からパンなんてダメよ?スカスカじゃない。ねぇ~?」
そう言って、翼を見る。
「そうだぞ、美月。朝はいっぱい食べても太りにくいんだ。食べるなら朝にしなさい、朝に!そして、ジャジャ馬でもいい、逞しく育って欲しい!」
忠義は、なかなかに体格が良かったので、太らないに疑惑が残る。
(ハムの人かよ…)
「あ、あの…律子さん、忠義さん?朝から何故?」
「朝だからでしょ!可愛い美月ちゃんに、変なもの食べさしてるんじゃないかと思って来たのよ」
(朝から変なもの食わせる方が難しいだろ…)
「そうだそうだ」
そう言いながら、忠義は腕を組み頷いている。
「ほらぁ~おじいちゃんですよォ?お小遣いあげるねぇ~」
そう言って、美月に千円をチラつかせている。
それを翼が取り上げる。
「やめいっ!!」
「あ、お前にはやらん!返せ!!」
「返さん!!!」
そう言って、翼はパンツの中に千円札を入れる。
「うわぁ…親の顔が見てみたい…」
「そうね…苦労したでしょうね…育てるの」
(あんたらに言われたくねーよ!)
「って、てか…お父さん。仕事は、してるんですか?」
「え?あー、うん…」
(…怪しい)
「じゃぁ、なんで行ってないんですか?」
「そ、それはそのぉ…」
「この人、息子が旅に出てから仕事休んだまま、行こうとしないのよ…」
(…旅。まぁ、それはいい。なんで行かねぇんだ?)
「あ、こら律子!言うんじゃない!」
「なんか…休んだら、行きたくない。とか言って行こうとしないの…」
(夏休み明けの小学生かよ…)
「いや、忠義さん!ちゃんと仕事行ってください!じゃないと、1人減らな…いや、家族を守れないでしょ?!いつも家で何してるんですか?」
「ボトルシップを、作っている!!」
(デカい図体してんのに、趣味こまけぇ!!!)
「そして、ボトルシップ作りに飽きて、律子に何か食べるものを作ってもらおうと、家を探すが、いつも居なかったんだ」
(いや、ずっと見張っとけよ!!24時間セコムしててぇ?!)
「な、何なんですか…それ…」
「さ、ここは任せて、翼は仕事へ行って…!ふふ、アタシ達の事は…気に、しないで…」
倒れる律子。
「り、律子?!だ、大丈夫か?ほら、これを飲むんだ…」
そう言ってテーブルの上にある、牛乳が入ったグラスを律子に手渡す。
「ンクッ…ンクッ…さ、翼…行って…」
「これで闇に支配されていた、律子の身体は大丈夫だ!さぁ、行くがよい!翼よ!」
(なんなの…)
しかし、時間を見ると出勤時間ギリギリだった。
翼は慌てて用意をして、家を出ようとする。
「あ!翼、これ!」
そう言って律子が、お弁当と思わしき包みを持って、走って来る。
「え、何これ?」
「見りゃ分かるでしょ!お弁当よ!さ、行ってらっしゃい」
「行って来い、翼!」
「パパ、いってらっしぁい」
「きゃっわ~ん」
「み、みんな…お、俺が無事に帰って来たら、みんなでお祝いしてくれよな!」
そう言って、エレベーターの方へ走って行く翼。
(もうめんどくさいからノリに乗ったけど、めっちゃ恥ずかしい。ムリ)
店の前へ行くと、あの夫婦の息子の友達と思わしき、女の人がいた。その隣りに居るのは、いつもの男ではなかった。
(美形だな…モテるんだろな…)
「…、;:^ったら、アタシ達を置いて、逝っちゃうなんて酷いわよね!あ、逝っちゃうって、そっちの意味じゃないからぁ」
(オネェなんだ…)
「マコッチ…今度、みんなで…」
翼は、急いでいたので店に入った。
すると事務所からロッシーちゃんが出て来て、こちらに来る。
(ん?あれ?ロッシーちゃん?何してんの、こんな時間に…)
「みんな、おはよぉ~」
翼はみんなに、挨拶をする。
「ロッシーちゃん、店長に話があるみたいで、ずっと待ってたんですよ」
と、山下くんが言う。
(え?!朝から待ってたの?!なんで?!)
「朝からじゃないですよ、店長なら勘違いしそうだから付け加えておきますね」
(山下くん。分かってんじゃん?俺のこと☆)
翼は山下くんに、ウインクする。
山下くんは、笑顔でウインクしてくれる。
(うーん!山下くぅん!!)
「あ、あの…店長。おはよおございます。店長って、遅く来て、早く帰るんですね。私、知らないくて、待っててすいませんでした!」
(あーん!ロッシーちゃぁん!!無邪気って怖い!)
「い、いや、こっちこそゴメンね。僕が悪かったよ。それで、なんで待ってたの?」
ロッシーちゃんは、何故かモジモジしながら目を横に流す。
(え?ええ?!こ、これは…も、もしや?!告白か?!俺の事、好きなのか?!でも、こんな店の入口で?!いやいやいや、やりかねん。ロッシーちゃんならやりかねないぞぉ?)
「ロ、ロッシーちゃん!とりあえず事務所へ行こう!新しいママになるのは!その後だ!」
「え?ママ?あ、はい。それじゃ事務所行きましょう…」
事務所へ入る2人。
何故か、翼もモジモジし出す。
もう気分は、伝説の木の下だ。
「そ、それで…話、って…」
(あー、ドキドキする、あー、ドキドキするぅ!)
「あの…店長…」
「は、はい!オッケーでえええっす!!!」
「え?オッケーですか?やった!良かった、これでニアちゃんの晩御飯作ってあげれる!ありがとうございました!お疲れ様です!あ、今日の夜は、私、休みなので、明後日、またシフトの相談お願いしますね!お疲れ様でした!」
そう言って、ロッシーちゃんは事務所を出て行った。
「…ふぅ…寝よ…」
そして、翼は眠りについた。
「なぁ、翼…お前、死んだんだよ?俺…寂しいよ。友達少ねぇのに、俺…」
翼は、何か夢を見ていた気がしたが、目覚めると忘れてしまっていた。
時計を、見ると10分しか経っていなかった。
(全然、寝てないじゃないか…んー、眠く無いし、仕事でもするか…)
そう思って起き上がり、PCの電源をつける翼の横に、野村さんが立っていた。
「うわあああああああっ!!!」
派手に椅子から転げ落ちる翼。
「な、何してんの?!野村さん!?いつからそこに?!」
「さっきです。昨日ですね。店長の事を占ったんですけど…」
(え、なんで俺の事、占ったの?!)
「なんと、恋難のお告げがありまして…私は、店長にそれを伝えるべく、ここに舞い降りたのです」
(いや、立って起きるの待ってたんだよね?店、暇なのかな?レジは?)
「こ、恋難って…俺、娘がいるし…再婚は…」
「何を言って居るんですか?!恋…それは、愛。愛、それは恋。交差する想いを好きに伝えて、男と男、女と女が、その想いをぶつけ合い、バトルする、ここはラブコロセウム、小宇宙を燃やし、今こそ放つのですっ!ペガッ…」
「はーい、そこまでぇ~!」
翼は、何故か本能的に、止めなければならないと思った。
「でわ、そういう事ですので、お気をつけくださいね。店長…」
(だから、なんなの、あの子…。恋ねぇ…そーいや、恋なんて全然してな、ってか俺、結構してるし、全然覚えて無いけど奥さん死んで、ショック過ぎるのは俺の方なのかもな…セラピーでも行こうかな…)
そう言って、来たばっかりなのに弁当を食べだす翼。
開けるとメモが入っていた。
《今日はキャラ弁よ 律子より》
(キャ、キャラ弁?!なんのキャラだろ…)
そう思いつつ、弁当の蓋を開けると、弁当の3分の2を占める米の部分に、緑色のゼリーの様な物が乗っていて、目が2つと笑った口があった。
(やりやがったな…あのババア)
とりあえず、食べてみる翼。
(ん、何かは分からんが、美味いな。あのオバサン、あんなだけど料理出来る人なんだな…)
そんな時だった、事務所へ吉田さんが、事務所へ勢い良く入って来る。
「店長!皆さん、来てますよ!!」
驚いた翼は、弁当を隠し、食べてた物を、一気に飲み込もうとする。
「ンッ!ングーッ!」
何か良く分からない緑の物体が、翼の喉に詰まっている。
(み、水ぅ~!これが狙いか、あのババア!?)
落ち着いた、翼と吉田さんは、事務所を出る。
(嫌な予感しかしない…事務所、出るの嫌だな…)
そして案の定、店の前に、律子、忠義、美月にジョージが居た。
(今度は何なんだよ…もう面倒はやめてくれよ…ん?)
みんなの後ろに2人、女の人と、男の人がいる。
(この2人って、さっき店の前に居た…)
外へ出るなり、律子が叫ぶ。
「もう!翼!何してるの?!遅いじゃない!」
「わ、悪い…」
(あんたの作った、バブスラが喉に詰まってたんだよ!!)
「夏美ちゃん、誠ちゃん、私たちの息子よ。よろしくね!」
「こら!翼、友達にちゃんと挨拶しないか!」
忠義が、畳み掛けてくる。
「あ、あの…=…、:;-君のお母さん。息子さんって、こ、この人なんですか?」
「あら、あたしタイプかもぉ!よろしくお願いしまぁす!誠でぇす!キラッ」
そう言って、誠は翼の両手を握り、握手する。
「あ、ああ…どうも…」
その時だった。
店内から、山下くんが走って出て来た。
「ちょっと待ったああああああああぁぁぁっ!!!」
(え?え?何?どしたの山下くん?!)
「僕は、面接の時から、店長の事がタイプでした!よろしくお願いします!」
そう言って、山下くんは翼に頭を下げて、両手を差し出す。
「おおおっと!?ここで乱入者だぁぁぁっ!翼はどうするのでしょうか?どう思いますか?忠義さん」
「そうですね、律子さん。これは、なかなかにイレギュラーな事態ですね。男の翼に、2人も男が言いよっていたとは、驚きです!!」
「おどろきー!」
「きゃうん~!」
何故か、美月とジョージもノリノリだった。
(アイツらと一緒に居させ過ぎたかな…美月まで汚染されて来たんじゃ…てか、なんなんなの?!なんなのこのシチュ!?1人は分かるよ?!初登場からオネェだったもんね?!山下くん?!山下くんは何なの?!何なのぉぉぉぉっ~?!)
翼の心の叫びは、全宇宙に響き渡った。
― 空間 ―
「キタキタキタキタキタキターッ!うっひょー突然のBL展開ですよ!ほら!ゼウス様!?」
「あ…ああ、BLってなんだ?あれは、男同士では無いのか?」
「ボーイズラブですよ!ボーイズ…んー、三十路過ぎたオジサン2人と、二十代半ばの青年1人ですけどね…」
「お前の問題は…そこなんだ…」
(コイツ、邪念が全くないぞ…ッ!!)
― 虹之町 ―
果たして、3人の恋の行く末は…。
続く!




