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絶対に成功する宇宙事業

作者: さきら天悟

名探偵藤シリーズ!

太田は足止め、夜空を見上げた。

夜空に光の花が咲き、散っていく。

ふっ、と息をもらし、ほほ笑んだ。

「良かった。開催できて」

今日は隅田川花火大会だった。

経済産業大臣の太田は大会中止による経済損失が気になっていた。

夜空を見上げていた太田は視線の向きを変えた。

そこに月が輝いていた。

太田は月に魅せられるように立ち尽くした。

「大臣」と秘書官から声がかかる。

次の会議が待っている。

分刻みのスケジュールだ。

「宇宙・・・」

太田は言葉を漏らした。

太田は日本の宇宙事業推進をはかろうとしていた。

しかし、省庁の壁がある。

明確な所轄官庁がなく、文部科学省、総務省、外務省、総務省などが

利権を争い、日本国としてのビジョンが打ち出せなかった。

「未来のための投資・・・」

しかし、日本の財政を考えると、宇宙事業に予算を割くことを国民が承認すると思えなかった。

年々膨らむ医療費、年金。

宇宙事業は巨額投資のわりに、見返りは少なく遠い未来なのだ。

「大臣」ともう一度声がかかる。

車に乗る足が重い。

宇宙事業の主導権を経産大臣の太田が握るには、

即効的に利益が上がる施策が必要だった。

しかし、万策は尽きていた。

「あっ、そうか」

太田は車に乗ると、すぐにある男に連絡をした。

打つ手のない時はあの男にかぎる。

「絶対に成功する宇宙事業、何かないか」


『・・・』

男の返事はなかった。


「コストがかからないヤツ」


『・・・』


「即効性があって、

利用する方も高額じゃいないの。

数千万円の宇宙旅行とかじゃあな」


『・・・

名探偵にお任せあれ』

太田の電話の相手は、自称名探偵の藤崎誠だった。

太田とは官僚時代の同期で、

これまで何度も太田を助けていた。


電話を切ると、太田の顔は一つ心配ごとが無くなったのか、すっきりしていた。






太田は待ち合わせのバーのドアを開けると、

すぐに藤崎を見つけた。

いつものカウンターの奥の席だ。

「久しぶり」と太田が声をかけると、

藤崎は振り返った。

そして、太田を睨んだ。


「振られたのか」

太田は藤崎の不機嫌そうな顔を見て言った。


藤崎は驚いた顔をした。

図星だった。

ジュリアとホテルのバーで花火を見ていたのだが・・・


「それにしても早いな」

太田が電話をして4時間しか経ってなかった。


「当然だ」

というのを当然だという顔で答えた。

「即効性があるモノなんて、今ある技術でしかできない。

宇宙船とか宇宙工場、宇宙移住なんて遠い先のことだ」


「じゃあ、なんだ」

太田はエサを待つ子犬のような顔で聞いた。


「サンコツだ」


「サンコツ?」

太田はその言葉を聞いても、ピンと来なかった。


「散骨」


「散骨ッ?」

太田はあからさまにがっかりした顔を見せた。

「海とかに遺骨を撒くアレか?」


「そうだ」


「ダメだ。ダメだ。

宇宙ゴミになるぞ」

地球の衛星軌道上にある人工衛星などの宇宙ゴミが、

現在問題になっている。


「燃やしてしまえばいい。

地球に落として」


老朽化した人工衛星は地球に落として燃やし処分している。

そうすれば問題にならないはずである。


「燃やすことが前提で、それを散骨っていうのか?」

太田は小首を傾げる。


「じゃあ、海に撒いて魚に食われるのはいいのか?」

藤崎は質問で返した。


「でも、そんな散骨で金を出すか?」

太田は独り言のようにつぶやいた。


藤崎は不敵にほほ笑む。

「名探偵にお任せあれ」

藤崎は立ち上がり、右手を胸に当て、深く頭を下げた。

藤崎にはもう一つ切り札があった。




2020年、東京オリンピックが開催した。

新国立競技場に聖火が灯り、

日本らしいパフォーマンスが観客を魅了した。

そして、宴もたけなわを迎えた時、会場の光が消された。

場内アナウンスにより観客が夜空を見上げる。

その時、流れ星が流れた。

一つ、二つ、三つ、四つ、五つ。

オリンピックの五輪を意味するように。

その後、無数の流れ星が夜空を流れた。

観客は日本の技術に、思わず歓声を上げた。

これは人工的な流れ星だった。

人工衛星から地球に流れ星のモトを投下し、

燃焼させるのだ。

人工衛星から投下する時間、軌道を算出すれば、

ほぼ思い通りに流れ星を流すことができるのだ。

観客は流れ星に酔いしれ、開幕式は無事終了した。

翌日、東京オリンピックの開幕式は、この人工流れ星の話題で持ちきりになった。

そして、世界各国から流れ星のオファーが殺到した。





「流れ星に乾杯」

太田はロックグラスを掲げた。


藤崎は無言でグラスを合わせる。


「さすが名探偵だな。

あの流れ星に・・・」

もともと人口流れ星の計画はあったのだった。


「一石二鳥だろ」

藤崎は微笑む。


「あの流れ星に遺骨を入れ込むとはね」

太田は少しあきれた顔で言った。

それを知っていたら観客はもう少し複雑な表情だったに違いない。


そう藤崎は人口流れ星に遺骨を入れ込んだのだった。

そうなれば流れ星と散骨はコストダウンとなり、

名古屋流に言えば、『お値打ち』だ。

そして、流れ星の需要が増えれば、ロケットの需要が増え、

宇宙事業の推進が図れる訳だ。

藤崎はその即効性を2年で実証したのだった。


藤崎は言った。

「みんな死んだら、星になりたいのさ」

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