猫4匹目 セカンの街
たまみさんはパーティーを解散させると、優雅にセカンの街見聞を開始した。
この尻尾のゆったりとした揺れ方は、まず新たな縄張りをゆっくり一通り見て回り、それから縄張りの掌握に乗り出そうという構えだ。
新たな領地を見出した以上、ここはこれからたまみさんの縄張りになるに違いない。
「あぁ、これからたまみさんはセカンの街をゆっくり見て回るつもりみたいです。ちょっと空振りっぽくなってしまったけれど、今日は来てくれてありがとう。」
たまみさんが新たな縄張りを見聞に行くというなら、当然僕はついていかないといけない。
時間がかかることが予想されるので、4人にまで付き合わせることはできない。
「いや、トールの元気な顔が見れてよかったよ。それが目的だったしな。」
「僕たちがなにかしたというより、たまみ君のおかげでだろうけどね。」
「たまみちゃん…かっこよかったですぅ…」
「ま、なんかヤバイもん見せられたきぃもするけどな。」
「また臨時で入れてくれる時はいって欲しいし、こっちも手伝いが必要になったら連絡するから。下手すると、またすぐ次のエリアボスに行きそうな気もするんだよね…」
「いつでも連絡をくれよ。俺たちも必要な時は連絡するから。」
「たまみちゃんも一緒でいいからね? というか、むしろ絶対連れてきて欲しい…」
「下手すると、また全部持って行かれんで?」
「そうならないように次は頑張りましょう。」
四人は爽やかに別れを告げて、自分たちの冒険へと旅立っていった。若干一名こちらについてきたそうにしていたが、ヒカリさんが抜けると回復が間に合わなくなるので仕方なく引きずられていった。
「な~?」(なにしてるの、はやくいくわよ? と急かされている気がする。)
「はいはい、今行きますとも、たまみさん。あの四人も僕のために来てくれたんですから、粗雑に扱っちゃダメですって。」
「にゃああ」(でも、ただ付いてきただけでしょ とやや呆れ気味に見える。)
「それはたまみさんがいろいろ全部持って行っちゃったからですって。」
たまみさんは心外だとばかりにフンスと鼻を鳴らすと、また再び歩き始めた。
セカンの街は始まりの街よりも少し規模は小さいが、活気のある街だ。
その最大の特徴は商業。
ゲーム初期の頃においてはセカンの街からオークション機能が解放されるとともに、商品の流通量が質と量ともに一気に跳ね上がる。
セカンの街はNEOの初期所属国であるグランド王国のちょうど中継点にあり、全ての商品がここを通って流通しているといっても過言ではない。
そのため、ここを本拠地とする商人や通過している商人などでいつも活発に売買が行われている。
物価もほぼ安定しており、必需品と言えるものは常に在庫がキープされている。
そして、NEOにおいてはすべての物価が変動するが、そこにNEOならではのシステムがある。
NEOではNPCの店の物価も在庫もプレイヤーと同一のものを使っているのだ。
つまり、NPCの買取金額はプレイヤーの買取金額とほぼ同じであり、NPC商品の販売価格もまたプレイヤーとほぼ同等である。
NPC売りをしたからといって極端に安く買い叩かれるわけでもないし、NPCの店の商品が性能の割に高いなんてこともない。
特定の素材を買取で買い集めようと思うと少し買取価格を高めに設定しないといけないし、高く売れるからと大量に売りに出すと値段が下がる。
それって、生産職殺しなんじゃないか?とサービス前は言われていたこともあったが、いざ蓋を開けてみると生産したものをNPCに売っても儲けが出るので、むしろ腕のいい生産職は安定した。
NPCに売っても儲けが出るならと利益率の高いものを大量生産する馬鹿は当然現れたが、作られたものが大量に出回りすぎて在庫が過剰になるとあっという間に買取金額が下がって赤字に転落してしまった。
在庫も共通なら買い占めればウハウハじゃね?と思う阿呆も出てきたが、買い占めると一時的に値段が上がるが値段が上がったものをプレイヤーだけではなくNPC冒険者までもが狩り集めて一気に市場に流すようになり、買い占めに使った金額を回収する前に暴落して、買い占めたプレイヤーが不良在庫を抱えるなんてこともよく起きた。
また、珍しい素材などは多少の買い占めができたが、生活必需品は国の介入もあって安定して供給する仕組みができており、それを越える買い占めを行おうとすると国家転覆を目論んでいる可能性あるとして衛兵に捕らえられ、財産を没収された。
全体としてみると、とても良く出来た流通システムに仕上がっていた。
ただ局所的に見ると、うっかり安値で買い叩かれるプレイヤーやぼったくりに会うNPC、値段設定を間違ってしまってるNPC商店などもたまにあり、思わぬ掘り出し物があったり詐欺があったりする。
もちろん、わざと詐欺を行うのはプレイヤーでもNPCでも犯罪であり、それが故意で行われたと証明されれば犯罪者落ちとなる。
NPCでもプレイヤーでも犯罪者はタグの色が変わってしまうので、犯罪者カラーの商人と取引する人間など滅多にいない。ご禁制の品々を扱うならありえるかもだが、客の側であっても禁制品の売買は犯罪なので、ばれると商人ともども犯罪者行きである。
ただ、それでも詐欺に遭う可能性はゼロではないし、詐欺と言えないまでも微妙に不当な価格での取引はあり得る。
どうやって防ぐかといえば、大手の商人の店を利用するか、信用できる馴染みの商人を見つけるかである。馴染みの商人であれば買取に色をつけたり、売り物の値段を少し勉強してくれるようになったりする。
そんな僕にとっての馴染みの商人がセカンの街にいたりする。
「たまみさん、たくさんモンスターを狩ってたならドロップが貯まっていませんか? そこに僕の馴染みの商人の店があるので、買い取ってもらいましょうよ。」
「にゃ~」(そうね、だいぶ貯まってるからそうしましょう とインベントリを確認してる雰囲気だ。)
僕はたまみさんの了解が得られたので、馴染みの商人の店の扉をくぐった。
「あら、トール、久しぶりじゃない。ひと月ほど見かけなかったけど、元気にしてた?」
「やぁ、アリス。ちょっとしばらく長い時間INできなくて、始まりの街に篭ってたんだよ。」
ここは馴染みの商人アリスがセカンの街に構えた店舗。
ちなみに、アリスはNPCの商人だ。
「なんか、外界で飼ってる猫の具合が悪いんだって噂で聞いたけど、もう大丈夫なの?」
「いや、三日前に死んでしまった…はずなんだけど…」
僕はどう説明していいのかとたまみさんに視線を向ける。
たまみさんは自分のことを言われてるなんて気付かずに店に並んでいる商品を眺めているところだ。
「あら? その猫ちゃんは?」
「こちらはたまみさん。死んだはずのうちの猫なんだけど、なぜかNEOの中にいまして。」
「内界人…というか内界猫なのかしら? 外界の猫のはずじゃなかったの?」
「ぼくも、なぜ中にいるのか、さっぱりわからないんですよ。」
僕にもさっぱり理由がわからないのに、他人に説明できるはずがない。
NEOのNPCは自分たちのことを『内界人』、プレイヤーのことを『外界人』と呼ぶ。
そして、NEO内を『内界』、リアルの方を『外界』と呼んで区別している。
ただ、プレイヤーの方はその使い分けに慣れておらずによくそのまま『NPC』と呼んでしまうため、NPC達ももうそう呼ばれても気分を害したりはしなくなっている。
まぁ、一部のお偉いさんは未だに『NPC』と呼ばれると怒り出す人もいるので、マナーとして注意するべきことだ。
「それで、今日はどういった御用で?」
「素材の買取をお願いしたいんだけど…ほら、たまみさん、買い取りに出す素材を渡してください。」
「なぁ」(わかったわ とこちらに注意を戻した気がする。)
たまみさんはさっと店のカウンターの上に飛び乗ると、僕に対してトレードの申請を出してきた。
「あれ? 買取りならアリスさんのほうにトレード申請をしてもらわなくちゃ。僕にくれるんですか?」
そんなわけないじゃないとお怒りの猫パンチが飛んできた。
「にゃにゃ~~」(あたしじゃ物の値段がわからないから、下僕たるあんたが一度確認して整理しなさい と押し付けてきてる気がする。)ということだった。
ま、たまみさんにとって、僕のものはたまみさんのもので、たまみさんのものはたまみさんのものなので、僕に何かをくれるなんてことはあり得なかった。
どこのジャイアンだよ?とよく思う。
たまみさんはなんでも出来そうに思えるけど、実は字は読めなかった。
まぁ、猫なのであるから、読めなくても当然である。
猫の生活の中で文字を読む必要はなく、餌を選ぶのは匂いや味だけを頼りに覚え、そしてペット同伴禁止や動物お断りなどの注意書きは、たまみさんは分かっていても基本無視である。
NEO内のシステムコンソールは感覚で使えるらしく、システムメッセージについてはVR機器が医療機器の一種であるがゆえに、すべての文字に音声で通知する機能が付いている。
ちなみに、逆の音声を文字で表示する機能もすべてのVRゲームに搭載されている。
この機能とVR機器の直接音や映像を脳に送る機能を組み合わせて、目が見えないひとや耳が聞こえない人にも、文字や言葉の発音を覚えさせることができるのだ。
一部ではARとして、目の見えない人の脳に直接映像を送って健常者と同じ生活をさせようという機能が実用化しつつあるが、本来先行していたはずのその研究は他の感覚を残したまま脳の一部をコントロールするという部分に難航して、いつの間にかフルダイブに追い抜かれてしまったらしい。
僕はたまみさんが渡してきたドロップ品の中から残しておいたほうがいいものをたまみさんに戻し、アリスに僕から買い取りのトレードを要請した。
始まりの街周辺のフィールド限定とはいえ、強モンスターやレアモンスターのドロップも含まれていてしかも結構な量であった。
北のフィールドのモンスターのものや南の海岸沿いのものも入っている。
本当にフィールドで狩りまくったモンスターの経験値だけで三日でLv20まであげたらしい。
「それで、買い取りの合計金額はこんなものだけど、確認してくれる?」
「えぇ、こんなところですね。たまみさん、代金の方はたまみさんに渡します?」
「にゃ~」(どうせ、透に買い物もさせるから持ってなさい と押し付けられた気がする。)
「代金は僕に預けるとのことです。これでお願いします。」
トレードが成立し、代金が僕に渡された。
まぁ、数は多かったがやはり始まりの街周辺のフィールドは難易度が低いせいでびっくりするような金額にはならない。
それでもたまみさんだと使える装備もほとんどないだろうし、出費もないだろうなと思っていたら、ちょっと気になるものを商品リストに見つけた。
「あれ? 猫専用の餌なんて商品リストにありましたっけ?」
汎用のペットフードや従魔用のフードは見たことがあるが、猫専用はなかった気がする。
「それって、三日前に急に上から置くようにって言われて仕入れたものなのよね…」
「三日前ですか…。とりあえず、ひと袋ください。」
まさか、たまみさん用に急遽用意された? 誰が用意したの?
まぁ、各種値段帯のものや高級猫缶などが用意されてなかっただけマシと思うべきか?
「それと…」
回復ポーションなどを買い足しておこうと思ったところで、たまみさんが店に並んでいる商品の中から何かを加えてカウンターの上に上がってきた。
猫用の餌入れで、少し高さがついていて、転がらないように少し重めに陶器で作られている。
「この猫用の餌入れも。こんなあからさまに猫専用のものなんて、置いてましたっけ?」
「あら? こんなもの、置いてたかしら?」
アリスは首をかしげながらも会計を済ませてくれた。
なんか、いろいろたまみさん用に用意されてないか?
これって、上の方でもたまみさんを認めているってことか?
でも、ここまで完全にたまみさんなのはなんでだ?
謎はますます深まるばかりである…。
「毎度ありがとう。またよろしくね、トール君、たまみちゃん。」
「はい、ありがとうございました。」
「にゃ~」(また寄らせてもらうわ と少し満足しているように感じる。)
たまみさんは挨拶に一声鳴くと、ドアを押し開けて外へと出て行った。
当然のように押して開けるドアはたまみさんは自分で開ける。
捻るタイプのドアノブは無理だが、ドアノブを押し下げるタイプやボタンを押すと開く自動ドアも開けることが出来る。
ただ、ジャンプが必要なドアはいろいろ危ないので僕が急いで開けるようにしている。
また引き戸も開けられるが、たまみさんは引き戸は嫌いだ。
どうも重くてなかなか開かないのが嫌らしく、開かないなら迷わず誰か呼ぶけどガンバレば開けられなくもないという部分にイライラするらしい。
たまみさんはさらにセカンの街の見回りを続ける。
きちんとした店舗も多いが、露店も結構な数が出ている。
扉があるからわざわざ店舗の中には入ろうとはしないが、店先に並んでいるものや露店の商品などを買う気もないのにあれこれと覗いては匂いを嗅いでいる。
店の方も意外に猫の動きに慌てた様子は見せず、たまみさんの好きなようにさせている。
装備品についてはほぼ装備できないので、本当に見ているだけである。
たまに素材を確かめるためか前足でちょんちょんとつつくが、試しに引っ掻いてみようとはしない。
食材が並んでいる時も、いたずらに触るようなことはしない。
昔はいろいろと悪さをして店の人を怒らせてバトルになっていたが、僕のたゆまぬ努力によって店に並んでいてまだ購入していない商品に手を出してはいけないということはちゃんと学習してくれた。
誰かが既に購入した商品については、子供はかわいそうなのでやめるようにとの説得を理解してくれた。
まぁ、大人相手だとたまに掠め取ったりして、僕が謝る羽目になっていたが…。
ともかく、ただフラフラしながらも、店先に並んでいるそれが商品であり、どんな商品なのかを理解しているのがたまみさんだ。
そんな風に色々と見ていたたまみさんが、一つの露店の前で立ち止まって熱心に何かを見ていた。
「にゃあ~?」(ねぇ、これいいと思わない? と聞いてきてるようだ。)
みるとそこには真っ赤な首輪が飾ってあった。
僕はその首輪を手に取り、確認してみる。
どうも、猫用に作られている首輪のようだ。
サイズもちょうど普通の猫サイズのようだし、鈴もついている。
ただ、鈴は音が鳴らないようにか、わざと中の石を抜いてあるようだった。
「猫用のようですし、鈴もわざと音が鳴らないようになっていますね。なかなかいいんじゃないですか?」
「にゃ」(では購入してちょうだい と決定したように見える。)
「わかりました、これをください。」
「毎度!」
僕は一瞬その露店商を始まりの街の噴水近くで見たような気がしたが、よく見ると別人であった。
早速、たまみさんに首輪を付けると、その赤がとてもよく似合っていた。
「とてもよく似合ってますね、たまみさん。」
「にゃにゃ♪」(当たり前でしょ♪ と上機嫌なようだ)
たまみさんは機嫌よくセカンの街の見回りを続ける…。
どうも、餌といい首輪といい、いろいろ仕込まれてる気がするなぁと思いながら、たまみさんの後ろをついていくトールであった。
最近、猫に関する検索をするせいか、ヤフーのトップページに猫の餌の宣伝が出るようになりました。
でも、なんでちょっとタメになる記事を装って特定の商品を宣伝してるですかね?
安い餌は使ってる肉がダメと言い、その商品は違うよと言いながら、
ではなんの肉を使っているとはっきり言っていないところが実に残念です。
本当に高くていい餌は、原料に何を使っているか明言してて、高いのも納得させようとするんですがねぇ
猫の餌に限らず、こういうステマ的な記事って増えましたよね?
その商品が素晴らしいかどうかはともかく、嘘を書いてないといいんですが…。
ちなみに、私は猫は飼ってないので猫の餌は買いませんw
猫を飼える環境にないので、軽々しく飼えないんですよね…。