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猫32匹目 バトルメイジ

 たまみさんのダイエットは予定通り()()で完了した。


 あくまで僕の中での予定通りではあるが、ここ最近は肥満になるほど猫缶を好きに食べていたのだから、急に我慢しようとしても無理なのは仕方ない。

 お腹が鳴り始めるくらいに空腹度が下がった状態で執拗に猫缶を献上しようと迫られればどうしても誘惑に負けてしまうだろうことはあらかじめ想定していた。

 なんといっても、今差し出される猫缶といえば、『幻のあらほぐし金目鯛の誘惑』なのだから…。


 まぁ、猫缶の名前はともかく、このダイエット期間中に間食した猫缶が一つだけにとどまったのは十分評価していいだろう。

 ただし、それを頑張ったなぁと思っていてもけして褒めてあげてはいけない。

 一応建前上はダイエット期間中は猫缶は禁止でダイエットは三日で終わらせる予定だと言っていたので。



「無事に肥満状態は解消されましたが、たまみさんが約束を破って猫缶を食べたおかげで四日かかってしまいました。そこは反省してくださいね?」

「ぅなぁぁ~~…」『お腹すいてしょうがなかったんだから仕方ないじゃない…』

 どうやら僕のログアウト中に戦ったグリリフォンのレイド戦で猫缶を献上され、再三断ったにも関わらず引こうとしない相手と鳴り止まない自分の腹の虫の鳴き声に負けてしまったらしい。

「そんな風に猫缶の誘惑に負けてるとまたすぐに肥満になってしまいます。NEO内では姉がたまみさんをからかいには来ないとは思いますが、それで動きが鈍ると敵にやられてしまいますからね。」

 少し厳しいかもしれないが、ちゃんと日頃から意識させておかないとまたあっという間に肥満になってしまいそうだ。

 いまはやっと下火にはなってきたがたまみさんの追っかけが猫缶を献上するという技を覚えてしまったのだから…。


「肥満になって遅くなった時も速度が落ちて少し危なくなりましたが、肥満が解消された直後もまた思わぬ失敗をする危険性があるので注意ですよ?」

「にゃ~~?」『速くなるんだから問題ないでしょ?』

「しばらく肥満で遅くなった体に慣れかけているので、また感覚が変わると思うように体が動かせない時があるんですよ。」

「な~~ん」『そういうものなのかしらねぇ』


 ということでまずはゴゴーレムと戦ってみたのだが、正直ゴゴーレムの動きが遅すぎて慣らし運転にもならなかった。

 自身の速度の変化による微妙な違いというものはそれなりに俊敏な動きとそれに伴う回避運動にこそ現れるものであり、まったく当たる気配のない鈍重なゴーレムパンチではわからないものだ。


 仕方がないので、そのままグリリフォン戦へと突入。

 本当はもう少し慣らし運転を行ってからにしたかったが、結局はこの周辺で敏捷性と攻撃力と体力が兼ねそなわっていて遭遇しやすいモンスターといえばグリリフォンしかいなかったのだ。

 なかなか発見できない徘徊型ボスを探しても簡単に見つかるものではないしダンジョンの奥に居るボスはそこまでたどり着くのに時間がかかる。

 次の街へのエリアボスに挑むにはまだ準備が足りないし、エリアボスを超えていないのでスーの街周辺の敵を探しに行くこともできない。


 それにモンスター討伐イベントももうすぐ終わりなので、今のうちに経験値効率のいいレイドボスをもう少し殴っておかなければ。


 本音はそんなところにあるのだが、もうすぐレベル40ということで少しでも効率のいい経験値稼ぎが急務なのだ。

 僕もこのイベント中での稼ぎで順調に40に近付いてきてはいるがやはりたまみさんのほうが成長が早く、いつ追いつかれるかと気が気ではない。

 またたまみさんの冒険者ランクDへの昇格条件も、レイドボス戦でのMVPもしくは単独での10%ダメージ達成という条件を満たしたのでこれで条件三つ目をクリアしていて、あとは貢献ポイントさえ満たせば昇格できる。

 ランクDに上がったら次のエリアボスを倒してスーの町に行こうと決めているのでもうすでに準備を始めているところだった。

 レベル40に達して二次転職クエストを始めるのが先か、ランクDになってスーの街を目指すのが先か、微妙なところだった。


「まずはヘイストなしで行きます。

 その状態で肥満だった時にヘイストをかけていた時よりも少し速い程度になるはずです。

 そこで少し慣らしてからさらにヘイストをかけていこうと思いますが、違和感が強いようなら迷わず一度引いて間を取ってください。

 あくまでまずは慣らし運転からですから、安全を最優先に。

 いいですね、たまみさん?」

「にゃー」『わかったわ』

 素直な返事だが、たまみさんは素直に返事をする時ほど話を聞いていなかったりするので注意だ。


 軽やかな足取りでたまみさんがグリリフォンへと突撃していく。

 僕は滑るようにたまみさんに追従し、戦闘区域内にほぼタイムラグなしに参加。

 そこへたまみさんの追っかけたちが競うように参加していく。

 たまみさんがグリリフォンのアグロレンジに入り人数調整用のフィールドが展開されるなかでたまみさんの先制攻撃がグリリフォンの後ろ足にえぐるように突き刺さった頃には既にレイドの上限人数まで埋まっていた。

 たまみさんが肥満状態だったときはあまりグリリフォンと戦わないようにしていたというのに、相変わらず野良の参加者が集まるのが早い。

 しかも、野良の参加者であるはずなのにある程度メンバーが固定化されつつあり、その動きが洗練されてきている。

 たまみさん優先が徹底されているのは同じだが、よりたまみさんが攻撃しやすいように牽制が入り攻撃後の隙を打ち消すように追撃しグリリフォンが空中に留まっているときはすかさず遠距離攻撃を加えて地上へと引きずり下ろす。

 たまみさんがそのダメージ量で強烈にヘイトを持っていくのでターゲットを奪うことはできないようだが後衛に攻撃が跳ねないように頑張っているタンクもいるし、前衛と後衛のバランスもよく連携も取れている。


 あれ? これ野良参加のレイドですよね?


 参加枠が埋まるのもあっという間なのにどうしてこんなにバランスが取れてるんですかね?

 野良参加者の中でバランスが取れるように誰か調整してる?

 枠から溢れた参加希望者が周辺にまだいるようだけれど、どうやら役割ごとにローテーションしながら参加してきているらしい。

 自主的に行われているようだが、統率している人間がいないことが嘘のようなバランスと連携だ。

 これはイベントならではのレイド戦が複数かつ連続で行えるという特殊な状況であるがゆえにできるローテーションだろうが、みなの意識が非常に高い。

 しかもレベルは僕よりも高い人ばかりのようで、ひとりひとりの攻撃が強烈で巧い。

 たまみさんが肥満状態になる前からかなりバランスは取れていたが、肥満前後で動きが変わっても綺麗にアジャストしてくれて慣らしも危なげなく終わりそうだ。



 このレイド戦、実は一番動きが悪いのは僕だったりする。


 たまみさんは元より異常な速度と攻撃力があるので肥満だった時でも十分主力で動けていた。

 野良参加者たちは、いずれも野良とは思えない動きをする。

 そんな中でバトルメイジである僕は前衛として攻撃することはできず、後衛としての魔法攻撃も威力が足りていない。

 スキルを入れ替えて回復魔法も入れた現在はそれがより顕著ではあるが、入れ替え前でも近接攻撃力も魔法攻撃力も中途半端で物足りない存在だった。

 今の野良レイド戦ではたまみさんに追従するために毎回必ず参加できているが、周囲の雰囲気的にも僕はたまみさんのおこぼれで参加できるようにしてもらっている感じだ。



 NEOには様々な職業がある。


 現在は2次転職まで実装されているので基礎職から2次職まで存在し、それらをすべて合わせた数は現時点で87種確認されているがまだ未発見のものもあるだろうと言われている。

 まもなく大型アップデートが行われて3次転職が実装される予定であるので、そうなればさらに種類は倍増することだろう。

 そんな数ある職業の中でも定番のものから珍しいもの、初心者でも扱いやすいものから玄人好みのピーキーなものまで様々なものがある。


 そんな数ある職業の、2次職になる前に経由した物も含めた1次職の中で、バトルメイジは特に不人気だった職の一つだ。


 理由は単純に中途半端であるから。


 古来より、RPGにはウィ○ードリーのサムライやドラ○ンクエ○トの勇者など剣と魔法の両方を使うキャラクターが存在していたが、その中途半端さからいらないんじゃね?と言われてきた。

 とくにド○ゴンク○ストの勇者は主人公キャラで絶対に使わなければならず、強力な専用魔法を用意してもらった上でバッシングを受けていたから相当なものである。

 そんな普段は使いにくいと思われながらもRPGの必須クラスの中に入っていたのは、特定の場面ではどうしても必要となるから。


 僕がバトルメイジという職を選んだのも、中途半端でありながら必要とされることがあるから。


 僕は魔法使いでNEOを始めたが、開始当初は頻繁にたまみ落ちで強制ログアウトされていたので同時期に始めた人達と固定パーティーを組むことができなかった。

 そうなると、ソロか常に野良パーティーに参加するしかないのだが、頻度が下がったとは言えたまみ落ちする危険性があったために僕はソロ重視という方針を取った。

 しかしながらNEOはVRであるために常に距離がある状態から戦闘を開始できるとは限らず、いきなり奇襲を受けて近距離で戦闘が開始されることもしばしば起こる。

 そんな中では専業魔法使いでは防御や回避能力が足りず、魔法剣士系を選ぶことになったのである。


 魔法剣士系の1次職には他に剣士寄りの魔剣士や格闘と魔法を組み合わせた魔闘士などがあるが、僕は魔法使い寄りのバトルメイジを選んだ。

 初めは魔法使いをやろうとしたこだわりもあるが、僕は臨時でもいいからある程度知り合いのパーティーに入れてもらえるような職にしたかったのだ。

 魔剣士や魔闘士はよりソロ向けの志向が強く、野良ならともかく臨時で固定パーティーには呼びにくい。

 たまたま欠席している前衛の穴埋めならともかく、普通フルパーティーに満たない場合は後衛の方が少ない傾向にあるため入れにくい。

 急な欠員の場合でも魔剣士はタンクはできないし前衛としての物理攻撃のDPSは近接専門職には遠く及ばない。

 魔剣士自体にはそれなりの人気があるため固定パーティーに魔剣士が入っている場合があるが、それは常に入っていることを前提として全体でバランスを取って他のメンバーが補っているためだ。


 その点、後衛職としてのバトルメイジには時折臨時メンバーとしての需要が有る。

 NEOでは時折物理攻撃が効きにくいモンスターが登場するし、極端に奇襲が多い場所では中途半端なことが後衛でも役に立つためだ。

 そして、そのような必要な時だけ呼んでくれるパーティーとの関係を築いておくことで、こちらがパーティーとしての攻略が必要な時に助っ人を頼みやすくする。

 その筆頭がパーシヴァルたちのパーティーであり、特に今はたまみさんとセットで加入させてもらえるために4人で固定パーティーである彼らに頼むことが多くなっている。

 脱退者が出たために4人以下になってしまっていたりその日はたまたま都合が付かないメンバーがいて4人以下だというところはたまに呼ばれたりするのだが、固定メンバーが4人で安定しているパーティーというのは珍しいので今後もパーシヴァルたちにはお世話になることだろう。




「それにしても、レイド戦ともなると自分の火力不足が身に染みますね。」


 元より攻撃力不足はあったのだがスキルの再構成によって近接攻撃でのDPSは激減。

 他にも多くの前衛職が参加しているレイドではとてもじゃないがその中に割り込もうとは思えない。

 結果として後衛職の中に混じってペチペチと魔法を撃ち込んでいるのだが、レイドの中のダメージランキングでは回復職やタンクなどを含めても底辺に近い順位だ。

 まぁ、この野良レイドに参加している人たちは僕よりもレベルが高いので仕方ないとも言えるが、レベル40に上がる前にたまみさんに追いつかれないためには少しでもダメージを与えて経験値を多めに稼がなければいけない。

 スキル再構成における回復魔法の分のポイントは近接攻撃スキルを削ることによって稼いだため魔法攻撃力が減少したわけではないが、元の攻撃力も大したことはないのだから。


 そもそも器用貧乏の中で魔法も水と風の2系統に分散されているために低いとも言えるが、NEOでは魔法完全無効よりも特定の系統が極端に効かないという場合の方が多い。

 TKファンガスが火魔法無効だったように、グリリフォンは風魔法に対して耐性が極端に高い。

 再構成後の僕は風魔法が主系統でレベル5あるが、グリリフォンへの攻撃はレベル4のサブ系統の水魔法で行っている。

 このように魔法攻撃職は2系統以上上げることが一般的であり、1系統のみ極上げしてその系統が効かない時は玉砕という人は博打打ちのような扱いだった。


「もうすぐ2次転職でぐっと強くなると信じたいところですね。ともかく、レベル40になる前にたまみさんに抜かれないように頑張るところです。」

「にゃにゃ~~~ん?」『あらん、トールのレベルなんてあっという間に追い抜いちゃうわよ?』

 たまみさんのレベルは既に38に達し、もう僕のレベルなど射程内だと思ってもいい。

「ただ、このモンスター討伐イベントもあと二日ですからね。

 終われば今までのようにレイドボス戦を野良の人たちを集めて連戦なんてできなくなりますから、経験値を稼ぐペースは落ちるので注意してくださいね。」

「にゃにゃ!」『あら大変、ならもう一度あの真っ赤なキノコを探しに行かなくちゃ!』

 たまみさんは未だにTKファンガスへのリベンジを諦めていないようだった。

 忘れっぽいところもあるけれど、たまみさんは一度不覚を取った相手への執念はしつこかった。


「いや、もう臨時のパッチがあてられたせいでTKファンガスは出ませんって。

 あれだけ散々探して見つからなかったんだから、リベンジはいい加減諦めましょうよ…。

 ま、僕がログアウトしている時に探しに行くのは止めませんしその途中で雑魚のCKファンガスを倒すのは一向に構いませんが、また猫缶を自分で勝手に開けてつまみ食いしないようにしてくださいね?

 またすぐ肥満になってダイエットしなきゃならなくなりますよ?」

「な、なぁ~~ん」『わ、わかってるわよ、そんなこと』


 目を逸らしながらの回答は素直すぎる返事よりもさらに信用ができないので、しばらくは注意深く観察しながらログアウト前の空腹度は少なめにしなければいけないか?と僕は思案するのであった…。


ちなみに、基礎職から2次職まで合わせた職業の数は適当です。

システム的にそこは複雑にするつもりではありますが、

細かく全部設定するほどの余裕はない気がしますね…。



よろしければ、評価、ブクマ、感想などをよろしくお願いします。


低めの評価でも受け止めますが、低い時はなんで低いのかが気になってしまいますね…(小心者なので

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