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タマ30匹目 開発部雑話3

キリ番なのに開発部なのもどうかと思いましたが、

今、この話をしておかないとあとでは不自然なので入れてしまいました。


あと、サブタイの捻りもいいのが見つかりませんでしたね…

◇関東S市NEO株式会社S市ビル開発部棟、プログラマー室


 NEO開発部は次期アップデートに向けて多忙を極めていた。


 次回のアップデートでは領域拡張だけでなくレベルキャップの開放とそれに伴う3次転職の実装を予定しており、デザイナー、グラフィッカーはもちろん、プログラマー達も膨大な作業をタイトなスケジュールの中でこなしていた。

 プログラマー達のまとめ役であるチーフプログラマー二人も全力運転している…はずだった。



1stチーフプログラマーO:「だめだな、アレが気になって思うように作業が進まない…」


2ndチーフプログラマーG:「Oさんもですか? 実は俺も集中できなくて作業効率がさっぱり上がらないんですよねぇ…」


1stチーフプログラマーO:「分かっていての罠だが、いざ仕掛けてみるとそれを実行してよかったのか良くなかったのか、罠が発動しているのかいないのか気になって仕方ない…」


2ndチーフプログラマーG:「そして、罠にかかって欲しいようなかからないで回避して欲しいような、複雑な気持ちですね?」


1stチーフプログラマーO:「発動すれば問題になる可能性があるが、スルーされたらそれも悔しいだろうしな…」


グラフィックサブチーフS:「おや? お二人共手が動いてないっすねぇ。だめっすよ、アプデまであまり時間はないんすから。」


1stチーフプログラマーO:「S、お前ならなぜ俺たちの効率が上がっていないかわかっているだろうに…」


2ndチーフプログラマーG:「お前こそ、こんなところで油を売ってていいのか? アプデに向けて忙しいのはグラフィックチームも同じだろうに。海中のモンスターの作画が思うように行かなくてスケジュールが押して来てるって聞いてるぞ?」


グラフィックサブチーフS:「大丈夫っすよ、俺はサブなんでw 他のグラフィッカーの取りまとめはチーフのWの仕事ですし、スケジュールに遅れてるところは俺が担当してる場所とは違いますからね。俺の重要な仕事のひとつはプログラムチームとの調整とプログラマーさんから要望されるグラフィックの作画ですからね。」


1stチーフプログラマーO:「つまり、俺たちの手が止まってたらお前の仕事も少なくて済むってことだな。」


グラフィックサブチーフS:「そうっすwww ただ、今滞ってる分が後でまとめて雪崩れ込んできても嫌なんで、調整役として耳寄りな情報を持ってきたっすよ。」


1stチーフプログラマーO:「お? というと?」


グラフィックサブチーフS:「もちろんあの黒猫の情報っすよ。たまみさんの追っかけの一人が例の区域のドロップとして設定した猫缶をたまみさんに献上したらしく、その区域のイベントモンスターに興味を持ってこれから向かうところらしいですね。まさに猫は餌に食いついたってやつっすよ。」


2ndチーフプログラマーG:「暗号でもなんでもなく、まさにそのままの意味だがなww これで黒猫を罠にかけるための第一段階は進行したわけだ。」


グラフィックサブチーフS:「でも、罠を用意した区域への誘導はできたっぽいですけど、これですんなり掛かりますかね? CKなんとかってイベントモンスターをばら撒いてあるって話っすけど、本命はボスモンスターなんすよね?」


1stチーフプログラマーO:「雑魚モンスターはCKファンガス、つまりキャットキラーファンガスな。この雑魚自体も黒猫にはきついように作ってあるけど、まだまだAGI極近接オンリーのプレイヤーでもなんとかなる程度の控えめなモンスターに設計してある。しかしながら、本命のボスモンスターTKファンガス、たまみキラーファンガスはあの黒猫の早さでもどうにもならないように仕込んであるし、いつも一緒にいるプレイヤーが加わっても戦況をひっくり返せない強さにしてある。」


2ndチーフプログラマーG:「あそこまでえげつないボスだと、どう頑張っても黒猫には倒せないでしょう。というより、ドライの街周辺で活動してるプレイヤーではまず倒せないし、最前線にいるカンスト組でもパーティー構成によっては全滅するでしょうね。」


グラフィックサブチーフS:「そんなイベントモンスターをよくイベントに紛れ込ませることができたっすよねぇ。それにモンスターの名前もモンスター討伐イベントっぽくないですし。討伐イベントのモンスター配置はデザイナーチームの管轄で、イベント担当はMでしたっけ? あの残念な名前もMのセンスらしいっすよ。」


1stチーフプログラマーO:「所詮デザイナーの連中はああしろこうしろと要望を出すだけ出しておいて実際の出来上がったものの細部は見てないってことさ。ぱっと見の外面が悪いとダメ出ししてくるがな。」


2ndチーフプログラマーG:「”デザイナー”って響きにこだわりすぎてキャラのデザインや街のデザインにばかり力を入れて、ゲームバランスのデザインはおざなりなのさ。そのゲームバランスが実はMMOゲームにとってはかなり重要な部分なんだけどな。」


グラフィックサブチーフS:「それにしてもよく紛れ込ませることに成功したっすよね。デザイナーチームがザルだったとしても、そのあとにデバッグチームのチェックが入って、さらに運営チームがテストプレイと監視をしてっすよね?」


1stチーフプログラマーO:「そこはプログラマーとしての特権を使ったのさ。デバッグチームも最終的な現象しか見てないから、発現させにくい隠し要素をプログラマーに仕込まれても見つけられずに流してしまうことはよくあること。運営部のテストプレイも表面だけだし、今回は運営部にいる友人にちょっと頼み込んで、監視しつつも見逃してくれるように頼んであるしな。」


2ndチーフプログラマーG:「TKファンガスがデバッガーやほかのプレイヤーに見つからないようにCKファンガスをあるしきい値以上の速度で狩らないと出現しないように設定したし、その値もあの黒猫じゃないととてもクリアできないような厳しいものにしたしな。加えて、黒猫がCKファンガスを乱獲するように猫缶のドロップを序盤の渋い状態からさらに渋くなるように変化させてほぼドロップしないように運営部の友人に頼んであるんだよ。」


グラフィックサブチーフS:「えぇぇ?? アイテムのドロップ率を変化させるのはまずくないっすか?」


2ndチーフプログラマーG:「昔のゲームみたいにガチャを設置しておいてその排出率を変化させるのとは話が違うさ。元々レアな状態から変化させても乱数のせいだと言い切れるし、アイテムのドロップ率はゲーム内の設定でしかないしな。外部に漏れると炎上しかねないが、それを証明する方法はないよ。」



 昔のネットゲームは月額課金だったのが基本無料のアイテム課金になり、さらにガチャ課金へと変化した。そこから携帯ゲームやスマートフォンの普及によりガチャ課金がより強力になったが、その頃は暗黙の了解として内部でガチャの排出率を変更してより儲けを大きくするのが当たり前であった。

 しかしながら、エスカレートした一部の会社が起こしたトラブルが社会的に大きく何度か非難され、その結果ガチャの排出率を明示した上で厳しく監視を行う法律が成立するまでに至った。

 通称ガチャ規制法は何度かの改正を経てより厳しくより厳格となりガチャに頼りきってた大手ゲーム会社を疲弊させ、加えて技術力も著しく低下していたところに本格的VR機器の技術革新が直撃してあまたのゲーム会社が盛衰を繰り返していくことになる。

 現在においてはモバイル端末におけるガチャ中心のゲームは未だ存在するが、ガチャ規制法はかなり厳しくなっていて最高レア度の排出率や一回の金額、割引の比率などが厳密に決められた上で、外部機関によるガチャの内部設定の監視が義務付けられている。

 最高レア度の引き上げを行おうとしようものなら行政機関に膨大な量の届出をした上で既存ユーザーへの十分な補償を要求され、本来それによってもたらされる利益が吹き飛んでしまうほどだ。


 いまのVRゲームにおいては利用登録者一人当たりの技術料が行政によって徴収されて開発に携わった研究機関に支払われるため、基本無料というゲームがほぼ存在しない。

 その上でガチャ規制法は定額課金+ガチャという形式を禁じているため、VRゲームにガチャはほぼ存在しなかった。


 ガチャという魔物から解放されたVRゲームではあるが、最近では技術開発費をかけずにゲームを延命させようとアイテムドロップ率を極端にいじったゲーム会社が社会問題となっており、一部の識者がアイテムドロップ率もガチャと同様に規制すべきだと言い始めている。

 しかしながら、アイテムドロップ率はガチャとは違って統計の取りやすいものではなく、またそのドロップ率を監視するということが現実的ではないために実際に規制されることはないだろうと見られている。



 そのような情勢下でいまやVRゲーム大手と言える程に成長したNEOにおいてアイテムドロップ率が不当に調整されていたと発覚すれば大問題になる可能性はあった。




1stチーフプログラマーO:「なぁに、相手はNPCの黒猫一匹。罠にはまるかどうかも定かじゃないうちから余計な心配をする必要はないさ。」


グラフィックサブチーフS:「そうっすよね。NPCが強すぎるボスや渋すぎるアイテムドロップ率でクレームつけてくるわけがないっすもんね。」


 だがこの時、3人はたまみさんが多くのプレイヤーから注目されていることや他の特級種からの関心を引いていること、そしてこれがNEOであるがゆえに信じられないことが起こりうるということに気付いていなかった。


 そこから2時間後、事態はある意味彼らが画策した方向へと推移していく…。





グラフィックサブチーフS:「きたっすよ。たまみさんがTKファンガスとエンカウントしたらしいです。」


1stチーフプログラマーO:「ほぅ。それで結果は?」


グラフィックサブチーフS:「まだ戦闘中っすよ。とはいえ、エンカウントしてしまったらもう結果も決まったようなもんなんすよね?」


2ndチーフプログラマーG:「我々からすれば黒猫がTKと戦闘に入った時点で成功だからな。どんなに強くともAGI極近接である黒猫に倒されるような中途半端なスペックじゃないからな。それにしても随分情報が早いじゃないか、S。まさか、ずっと監視してたのか?」


 二人のチーフプログラマーはSが表示していたゲーム内監視用の画面を覗き込む。

 今まさにTKファンガスとの戦闘を開始したたまみさんの姿がそこには映し出されていた。


グラフィックサブチーフS:「まさか、おいらもずっと張り付いてるほど暇じゃないっすよ。お二人が思うように作業が進んでいなくてもそれ以外の仕事もちゃんとあるんすから。たまみさんの情報が早いのは、たまみさん専用スレをたまに見てるからっすよ。あそこは暇人が多いらしくてほぼリアルタイムでたまみさんの情報が入ってくるっすからね。」


1stチーフプログラマーO:「ほぅ、流石にもう専用スレができてるのか。それもこの先どうなるかわからないがな…」


グラフィックサブチーフS:「自信満々っすね。まぁ、それだけのスペックのボスってことでしょうが。しかし、こうして見ると3mの大きさのカエンタケってのはヤバイっすね。」


2ndチーフプログラマーG:「こいつのグラフィックを描いたのはお前じゃなかったか?」


グラフィックサブチーフS:「描いたのは自分っすけど、作業用PCの画面とVRゲーム内での見え方はまた別モノっすよ。それにしてもなんすか、このバリア。それに全身隙なくオートカウンターの上に範囲攻撃アリ、遠距離攻撃アリ、火属性無効アリ、その上で二つの凶悪な状態異常を一気に掛けるんすか…。」


1stチーフプログラマーO:「どうせやるなら、徹底的にってことさ。黒猫に負けてしまうようでは意味がないし、普通のプレイヤーでは出現させられないような厳しい条件にまでしたんだからな。」


グラフィックサブチーフS:「さすがにここまでされると、たまみさんとはいえ手も足も出ないようっすね。お付のプレイヤーに続いてたまみさんが今、散っていったっす……」


1stチーフプログラマーO:「ふっ、やってしまったな…」


2ndチーフプログラマーG:「エンカウントした以上結果はわかっていたが、こうなってしまうと達成感よりも虚しさのほうが大きいな…。あとはこの黒猫が復活するかどうかが問題だが。」


グラフィックサブチーフS:「その前にこの戦いを結構な数のプレイヤーが見てたことが問題っすよ。たまみさん専用スレも阿鼻叫喚の大騒ぎですし。…そういえば、このTKファンガスってこの後どうなるんすかね? 一度出現してたまみさんが倒された後って、勝手に消えるんすか?」


1stチーフプログラマーO:「あ…」


2ndチーフプログラマーG:「そういえば、黒猫を倒したあとのことは考えてなかったような…」


グラフィックサブチーフS:「やばいっすよ、たまみスキー達が仇討ちしようと準備を始めたっす。さすがに大量のプレイヤーたちがやられたらこいつの存在がバレてしまう……って、え? え? こいつってもしかして…」


1stチーフプログラマーO:「うん? なんだ、この白い狐? NPC? 黒猫以外のNPCもこの罠にかかったって話か?」


グラフィックサブチーフS:「Oさん、この狐の噂って聞いたことないっすか? まぁ、プログラムチームやグラフィックチーフにはあまり直接関わってこないから、知らなくても仕方ないっすけど。」


2ndチーフプログラマーG:「そういえば聞いたことがあるな。狐のNPCがゲーム内のバグやバランスのおかしいモンスターなんかを見回ってて、たまにそうと知らずに攻撃したプレイヤーたちが返り討ちに遭うって話を…」


グラフィックサブチーフS:「まさにそれっすよ。こいつは不知火って名前らしくて、どうやら例の分類で特級2種に当たるらしいって言われてるっす。今、TKファンガスをあっという間に焼き殺したっすけど、普段はもっと難易度の高い地域を見まわってて鬼のように強いって話っす。」


2ndチーフプログラマーG:「焼き殺した? TKファンガスは火属性無効じゃなかったか?」


グラフィックサブチーフS:「一度普通の火が効かなかったから、なんか特殊な白い火で焼き殺してたっす。そういうのも含めて、いろいろと元の仕様では考えられない現象が起きるらしいっすね。それと、こいつから直接バグ報告や修正要求が送られてくるらしいっすよ。」


1stチーフプログラマーO:「なにぃ? ってことは、こいつにTKファンガスを見られたのはまずいんじゃないか?」


グラフィックサブチーフS:「そうっすね。どこに報告が行くかはわからないっすけど、お二人が悪さしたってことがバレる可能性が高いっすね。」


O&G:「「……ヤベェ…」」



 その後、不知火による報告は中間をすっとばして直接NEO社社長にメールとして届けられ、異例の早さで修正のための緊急臨時メンテが決定される。

 臨時メンテではTKファンガスの削除とともに異常に下げられていた猫缶のアイテムドロップ率も修正され、公式HPにて謝罪が行われるとともに後日メンテの補償が行われると発表された。

 首謀者であるOとG、そして巻き添えとなったSの3人は総合プロデューサーのKにこっぴどく叱られ、しかもその叱責の最中にたまみスレの住人による多数の抗議が運営に寄せられたとの報せが入る。


 加えて、たまみさんが復活したとの知らせが入った上に、そのたまみさんが周辺のイベントモンスターを乱獲し、ボスはもちろんレイドボスまで異常な早さで討伐したがためにたまみスレ以外のプレイヤーからもモンスター討伐イベントがバランスが悪いというクレームが寄せられ、公式HPが炎上することとなる。


 ただ、アイテムドロップ率を変更したではなく不適切だったと発表したことや素早く修正したこと、そしてたまみさんの復活によって黒猫ファンの抗議が沈静化したことで問題は社会的にはそれほど大きくはならなかった。

 外部のネトウヨによるNEO運営へのバッシングが何者かによってブロック、削除されたのも事態の沈静化に大きく関わっていた。

 一部のネトウヨ達の間では、NEOには強力なガーディアンがついているので叩いても無駄だと言われているらしい。




 社会的に問題が広がらなかったとはいえ、NEO内部では次期大型アップデートに向けて忙しい最中での臨時メンテ騒ぎとなったことで、その首謀者にお咎めなしというわけには行かなかった。


 結果として、3人は厳重注意の上減俸処分を課せられることになるのであった。

 グラフィックサブチーフのSも主犯ではないと抗議したものの、ここまで深く関わっている以上同罪として減俸から逃れることはできなかったのである。


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