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猫25匹目 デスペナルティー

 とにかくリベンジに今すぐ行こうとするたまみさんを宥め、まずは中央広場で合流した。


 たまみさんのリスポーン地点はドライの街の従魔たちの無料給餌所の一室だったらしく、中央広場からさほど離れていない。

 リスポーンが神殿ではないことからやはりプレイヤーとは区別されているようだが、何はともあれ復活できるということで一安心した。


「さて、まずは使い切った消耗品を補充しますか。」


 ということで買い付けに向かうが、僕もたまみさんもデスペナルティー中なので動きが遅い。

「うにゃ~~~」『体が重くてしょうがないわ。』

「そういえば、たまみさんは初のデスペナルティーなんでしたっけね。」

 残念ながら僕は、初期の頃から時々死亡していたし、普通なら死亡回数が減少していく中級者レベルでもたまみ落ちで頻繁にデスペナルティーを食らっていた。

 これが上級者になると一回のペナルティーが重くのしかかってくるにも関わらず強敵に向かっていくようになるので、また死亡頻度が上がっていくらしい。


「NEOでのデスペナルティーはまず5分間全ステータス-50%。

 さらにその後20分間-20%、ステータスが低下します。

 今時のVRゲームにしては軽いほうですが、このペナルティー時間内にもう一度死亡すると次は二倍の時間のデスペナルティーがかかってくるので注意です。

 この辺りは復帰可能な戦闘でのゾンビアタック防止のためですね。

 あと、モンスターにやられた場合は経験値の1割と所持金の2割が減少します。

 レベルは下がりませんしマイナスになった分は0で止まりますし、所持金も銀行に預けてあるので今のLvではまだ大したことではありませんね。

 これがプレイヤーに倒された場合、所謂PKされた場合は、経験値減少なしと所持金1割に減る代わりに装備品とインベントリ内のアイテムの中からアンコモン以上ユニーク未満の等級のものがひとつドロップしてしまいます。

 取引可能な高級素材とかはドロップしてしまうので、倉庫に預けるのが大事ですね。」

「なぁ~」『ふーーーん。』

 まぁ、たまみさんの場合、ドロップ品と所持金はすべて僕に預けているので、僕さえしっかり銀行に行くのを忘れていなければ問題ない。

 そして以前はたまみ落ちでいつデスペナルティーを喰らうかわかったものではなかったので、こまめに預けるのが習慣として体に染み付いている。


 ということで、まずは消耗品を買うための軍資金を下ろしに行かなければいけない。


 貴族を相手にしている銀行なども存在するが、冒険者は普通に冒険者ギルドで所持金を預けることができる。

 しかも、銀行や商人ギルドに比べて手数料は割安になっている。

 これは死亡しやすい冒険者がデスペナで所持金が減りすぎて資金繰りが悪化することを防止するための救済策だろう。

 冒険者ギルドの預金は、利子と利息で儲けを出すためのものではないというのも手数料が抑えられている理由の一つだ。



 ドライの街の中心にある冒険者ギルドはやや閑散としていた。


 普段からNPC冒険者が少ない時間ではあったが、モンスター討伐イベントでプレイヤーが出払っていることがひとつの原因だろう。

 もとよりNEOではリアルと内部時間でのズレがあるため朝夕が混むというよりコアタイムと呼ばれる多くのプレイヤーがログインする時間に混む傾向があるが、討伐イベントではいちいち冒険者ギルドで受注と報告をしなくても自動的にポイントがカウントされ、イベント期間終了後に自動で報酬がメールで送られてくるためイベントだけに集中している人はギルドに戻ってくる必要はない。

 プレイヤーが増える時間に合わせて開け閉めするわけにもいかないので冒険者ギルドは24時間営業であり、ゲーム内では真夜中であってもリアルがコアタイムであればなぜか受付嬢がたくさん勤務についていたりする。

 もっとも、ゲームの中でリアルのように混雑しているからストレスを溜めながらも行列に並んで待つということをする必要はないわけで、懺悔室のような形の何人でも無限に入室することができてすぐに処理してくれる代わりにどこかの役所のおっさんが対応してくれる特別受付が存在する。

 枯れた中年に受け付けてもらうのが嫌な人は多少並んでも美人受付嬢がいる正規のカウンターに並び、受付嬢を口説こうプレイや新人冒険者をいびる熟練冒険者プレイをしているうざい人たちを掻き分けていく必要があるのである。



 空いていた正規の受付で少し多めにお金を引き出したところでヒカリさんからのボイスチャット要請が届いた。

 一度パーシヴァル達に狙ってるレアドロップが出たかを確認しようと思っていたところなのでちょうど良かったが、パーシヴァルではなくヒカリさんなのはなぜかな?と思いながら、要請に許可を出した。


『ちょっとちょっと! 死んじゃったみたいだけど、大丈夫なの?』

 許可するなりかなり慌てたヒカリさんの大声が響いてきた。

 随分と情報が早いが、フレンドでも遠くのフレのHPは見えないはずなので現在地の違いで気付いたのだろうか?

「死亡したので大丈夫ではありませんが、いまはちょっとデスペナルティーで体が重いだけですよ。」

『いや、トールのことじゃなくて、たまみちゃんのことよ! 今、掲示板のたまみちゃんスレでたまみちゃんがやられたって大騒ぎなんだから!』

 どうやら情報が早かったのは掲示板のせいらしい。

 ドロップが猫缶の割にあのエリアで狩りをしているプレイヤーが多かったし相変わらずのストーカーが何人かはいたようなので、僕たちがTKファンガスにやられたのを誰かが見ていたのだろう。

「たまみさんも死亡したけど、ちゃんと復活してますよ。今はデスペナルティー中なのとかなり不機嫌なのはしょうがないですけどね。」

『とりあえず、よかったぁ。たまみちゃんはNPC扱いなんだから死亡したら復活しないんじゃないか?って掲示板で議論になっていてね。とりあえず復活したって報告してもいいかな?』

「いいですよ。ただし、以前言ったように僕の名前は出さないようにしてくださいね。」

『わかっているわ、ありがとう。』

 たまみさんが注目されてその情報が掲示板に出てくることも当然のことだし、たまみさん専用スレが掲示板に出来ていることも仕方がないことだ。

 ただ、その中でたまみさんと行動を共にしていることの多い僕のことも注目されるのは遠慮したい。

 まぁ、掲示板に個人名を出した時に削除依頼をしているとはいえもうだいぶ情報も広まっていてたまに僕にフレンド申請を飛ばしてくる人もいるが、たまみさんと仲良くしたいだけの見ず知らずの人のフレンド申請を受けるほど僕もお人好しではない。


「ところで、目的のレアドロップの魔砲は出たんですか?」

『出ないわ。LILICAが目の色を変えて探し回ってるせいで、完全に物欲センサーに引っかかってるわね。』

 われわれも物欲センサーに引っかかって猫缶がドロップせず、挙句の果てにあのボスに引っかかったのでLILICAのことを笑えない。

「そうですか、残念です。たまみさんがリベンジしたいって言ってるので、もしもうドロップしたなら手伝ってもらおうかと思ったんですがね。」

『掲示板に書かれてたけど、かなりヤバイボスが出たんですって?』

「ええ、TKファンガスというんですがあれはAGI極で近接攻撃のみのたまみさんではどうにもならないボスですね。頭の先からつま先までどこを攻撃してもたまみさんでも回避できないオートカウンターで猛毒と麻痺をかけてきます。

 攻撃がかすっただけでも猛毒を貰いますし、遠距離攻撃もあり。

 その上、離脱不可能なバリアを張った状態で全体攻撃まで使ってくるんですから。

 少なくとも今のたまみさんでは攻撃の仕掛けようがなく、僕の魔法も火力不足です。

 もっと遠距離火力がないとどうにもならないんですが、たまみさんは今すぐ借りを返したくてウズウズしてるんですよねぇ。」

 たまみさんはとにかく負けず嫌いで、やられたらやり返さないと気がすまない。

 けれども、クラクションでビビらされたからと大型トラックに向かって行ってそのバンパーに爪を立てるのはやめて欲しい。

『こっちは一つでもドロップしたら手伝いにいけるんだけど、いつ出るかはわからないからねぇ。

 たまみちゃんも待ってはくれないんでしょう?』

「ええ、たまみさんはせっかちですからね。とりあえずデスペナルティーが明けるまでは解毒ポーションなどの消耗品の補充をするからと引き止めておく予定ですけど、このままだと対抗手段がないまま突撃しそうなんですよねぇ…」

 今回は消耗品が尽きかけていた時に遭遇したことや解毒ハイポーションと麻痺用ポーションが数少なかったことが敗因のひとつではあるが、オートカウンターのせいでたまみさんが思うように攻撃できないという方が原因としては大きい。

「スキルポイントはまだ余ってるんだから、たまみさんが魔法を覚えてくれると助かるんですがねぇ。」

『あら、ポイントが残ってるなら覚えてもらえばいいのに。』

「魔法はまどろっこしいから嫌だって言うんですよねぇ。」

『それなら闇魔法にたまみちゃん向けの魔法があるわよ?

 闇の爪っていう魔法で武器を振るのに合わせて中距離くらいの攻撃魔法が出るんだけど、武器を振る必要があるせいで純魔法職の人には人気がなくてあまり知られてないのよね。

 詠唱自体は短いし、たまみちゃんは黒猫だから闇の適性もあるだろうし、きっとたまみちゃんも気に入る魔法だと思うわよ。

 闇魔法のレベル3が必要だけど、十分なスキルポイントがあるなら闇魔法には行動阻害系や移動補助系の魔法もあるからたまみちゃんがとっても損はないと思うな。』

「なるほど、少したまみさんと相談してみますね。」

 さすがにヒカリさんは僕と違って魔法に関する知識が幅広い。




 消耗品を補充するために薬屋や雑貨屋、露店などを巡りながら、先程ヒカリさんから聞いた魔法についての説明をしていた。

「なぁぁ~~ん」『ふ~~ん、面白そうねぇ。』

 魔法を嫌っていたたまみさんが珍しく興味を示してくれていた。

 『闇の爪』という魔法の名前に惹かれたのかもしれない。

 いや、説明を始める前に献上した『猫ちゃんの健康のためのヘルシーチキン&ツナDX』という高級猫缶がよかったのかもしれない。

 これからやや栄養バランスが怪しい猫缶を食べる機会が増えそうだからと選んだ、健康志向の一品だ。


「この魔法があれば、CKファンガスはもちろん、さっきのボスも好きなように殴り放題ですよ?

 他にも闇魔法にはたまみさんが好きそうな魔法があってお得ですよぉ。」

 少し怪しいセールストークのようになってしまっているが、これでたまみさんが魔法を覚える気になってくれるならば安いものである。

「にゃにゃん!」『そうね、字もいつの間にか読めるようになってるし覚えてしまいましょう!』

 そういうと、たまみさんは闇魔法を一気にレベル5まで上げてしまった。

 いや、どれだけスキルポイントを余らせてたのかとかいきなり魔法のレベルで追いつかれると僕の立つ瀬がないとか、突っ込みどころが満載である。

 そして今になって判明したが、たまみさんが魔法習得を渋っていた理由の一つに文字が読めなかったからというのがあったらしい。

 システムメッセージやスキル名などは音声付きで読み上げてくれるが、習得してない魔法やスキルの説明は文字が読めないと細かいところまでは確認できない。

 スキルの方はまだ使っている所を見れば効果がわかるが、魔法は他人が使っているものを見てもわかりにくい部分があるので習得を渋っていたらしい。

「あれ? ということは今は文字が読めるようになったんですか?」

「にゃ~~」『なぜか今は字が読めるのよ。』

「へー、急に文字が読めるようになるなんて、不思議なこともあるものですねぇ。」

 ここはゲームの中であるしたまみさんも元々賢かったから字が読めるようになっても不思議ではないのかもしれないが、習ってもいないのに急に読めるようになるのはちょっと不自然である。


 ただ、気にはなるけどそれで魔法を習得してくれる気になってくれたのなら、それ以上追求しても仕方のないことだった。




「さて、消耗品はこんなところですかね。」

 前回買い集めた以上の数の解毒ポーションに加えて、解毒ハイポーションと麻痺用ポーションを引き下ろした資金を使い切るまで買い込んだ。

 特にこの周辺では猛毒や麻痺用のポーションは需要が少ないので出回っている量も少なく、買い占めに近い形になってしまった。

 ドロップ品が猫缶では完全に赤字ではあったが、たまみさんの欲求のためには致し方がない。


「にゃにゃ!」『さっさとリベンジに行くわよ!』

 デスペナルティーも明けてたまみさんはいますぐ突撃する気満々だ。


「その前に少し魔法の確認を実地でするべきですよ。

 使えるようになった全部の闇魔法をすみずみまで試せとは言いませんが、『闇の爪』だけはしっかりと確認して思うように使えるようにしてからボスに行くべきです。」

「にゃー」『めんどくさいわね。』

「ちゃんと確認しておかないと、いざボスにリベンジしに行ってから使いこなせませんでしたじゃ困りますよ?」

 僕は慎重な凡人であるので、こういうのはしっかり確認してからでないと気が済まない。

 たまみさんもいつもは面倒なことはすぐ端折ってしまうのだが、一度負けてるせいで今回は僕の意見を受け入れてくれた。


『闇の爪』は一度武器にあらかじめチャージしておき、その武器を振った際に飛んでいくという風変わりな魔法だった。

 普段武器を振って戦わない魔法使いにとってはこれが使いづらい魔法というのがよくわかる。

 チャージはたまみさんの爪でも出来るが普通は手持ちの剣などに闇魔法のレベル分、いまのたまみさんなら5回分チャージをあらかじめ重ね掛けしておくことができるようだ。

 射程はやや短めで10mほど。

 魔法の射程は誘導型でも20m、誘導なしだと30m位の射程があるので短めだが、近づく前にあらかじめ掛けておけば詠唱時間なしで即時発動できるというメリットがある。

 チャージした状態で回避はもちろん受け流しなどもできるようで、その上で直接攻撃した時にも攻撃に魔法の威力が上乗せされる。

 そして、爪を飛ばした時でも武器の攻撃力で威力が上乗せされるという利点もあるようだ。


 いろいろとメリットとデメリットはあるようだが、やはり特殊な魔法といっていいだろう。


 おそらく暗黒騎士をイメージして作られた魔法だろうか?

 剣士寄りの魔法剣士なら使うかもしれないが、バトルメイジである僕はわざわざ闇魔法を上げてまで使おうという魔法ではない。

『闇の爪』という名前も、ホラー系でたまにあるようなポルターガイストでいきなり壁に爪で引っかいたような傷をつけるのをイメージしての名前のようだが、この爪という響きをたまみさんは気に入ったようだ。

 闇の爪は放ってから到達するまで少しラグがあるようで、たまみさんの速度だとこのデメリットを逆に利用して牽制に使って闇の爪を追い越して攻撃するといったこともできる。

「見れば見るほど変な魔法ですね。人気が出ないのもうなずけます。」

「にゃにゃにゃ」『あら、なかなかいい魔法じゃない。これでリベンジできそうだわ。』

「まぁ、オートカウンターには効きそうですし、たまみさんが気に入ったならそれはいいですけどね。」

 ちなみに、ダークボールやポイズンブロウなどの普通の闇属性の攻撃魔法はたまみさんのおメガネには適わなかった。

 阻害系の魔法や補助系の魔法にはいくつか気に入ったのがあったらしいので、闇魔法を取った甲斐はあったようだが…。


「シャーーーー!」『さぁ、いよいよリベンジしに行くわよ!』

「ええ、行きましょう。今度は大丈夫な気がします!」


 二人でいざ突撃と気合を入れたその時、ほぼ同時にぽんっと一つのシステムメッセージが強制的に視界内に表示された。


『10分後に緊急臨時メンテナンスを行います。可能な限り近くのセーフポイントに移動してログアウトしてください。』


「にゃ?」『え?』

 NEOにおいて臨時メンテナンスを行うというのは非常に珍しいことだった。

 しかも10分後というのはあまりに時間が無さ過ぎる。


『離脱防止のバリアは解除され、モンスターのアグロは一度リセットされます。また、セーフポイント以外でのログアウトでも待機時間なしでキャラクターがログアウトされますが、なるべく安全な場所で行うことを推奨します。』


「ええ?」

 さすがにできるだけ安全にログアウトできるように配慮してくれてはいるようだけど、それでもかなり押し付けがましい話だ。

 レイドボス戦の途中である程度のダメージを与えた状態などであったら、かなり腹が立つだろう。

 幸いにして僕達はまだ突撃前であり、10分でセーフポイントにたどり着ける場所にいるが。


『メンテナンス時間は30分ほどを予定しています。また全てのお客様に後日補償を行う予定です。この度は急なメンテナンスとなり大変申し訳ありません。』


「ということで、リベンジに向かうのはメンテナンスが明けてからですね。」

 仕方がないので、僕はセーフポイントへと向かう。



「フシャーーー!!」『いきなり邪魔されたわ!!』


 たまみさんはお怒りのようだが、残念ながらメンテナンスには勝てないのだった…。


やや、対策用の魔法がオートカウンターに特化しすぎているような気がしますが、

気のせいということにしておいてください。

黒猫なんだから魔法ガンガン使ってもと思うかもしれませんが、

そのスタイルはあまりたまみさんらしくないと思ったりするんですよねぇ…


評価やブクマ、感想などよろしくお願いします。

ちょっとしたことが励みになって筆が進むかもしれません…(進まないかもしれませんがw

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