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猫23匹目 TKファンガス

作者名をちょっと変えましたが、中の人は同じなので問題ないです。


更新がかなり遅くなってるのは問題かもしれませんがね…(^^;;

 件のイベントモンスターがいるという森はジメジメとした深い森で、足元がぬかるんでいた。


 ファドの森と呼ばれるドライの街の北西にある森で、植物系と毒持ち系のモンスターが多く出る地域だ。

 僕も小川を越える手前の地域は討伐系のクエストできたことがあったが、手前の地域はまだ足元がぬかるんでいないので今の場所ほど動きづらくはなかった。

 木材系の素材を集めるために杖や弓を使っているプレイヤーが小川を越えた地域まで踏み込んでいくという話だが、よくこんなところに出てくるイベントモンスターが今まで出ていない新種だと判明したものだ。

 新種のイベントモンスターが出ると判明した直後は多数のプレイヤーが狩りに来ていたらしいが、レアドロップが猫缶だと判明した途端に別の場所に移って行ったらしい。

 本当に情報に敏感な効率厨たちは、情報が早くてその行動が極端だ。

 今はスーの街の北側の山で新種が発見されたとかで、そこが混雑していて凄いらしいと掲示板に書かれていた。


「掲示板の情報を見ると、この辺りが猫缶がドロップするイベントモンスターの出現する地域で間違いないようですね。かなりドロップ率が低かったと愚痴が書かれています。」

「にゃにゃん!」『出にくくても沢山狩ればいいのよ!』

 たくさんはいいけれど、いくつくらいドロップすれば満足するのだろうか?と今から不安を感じる。

 周囲はそれほど木が密集はしていないが全体的に暗めの配色で、足元も沼地に近い感触だ。

 このあたりに出てくるイビルツリーやポイズンパイソンなどはこの暗い雰囲気に合わせて擬態しており、全体的に見つけにくいモンスターばかりだ。

 周囲とは雰囲気の違うイベントモンスターならすぐ見つかるだろう。


「例の猫缶をドロップするイベントモンスターはCKファンガスというらしいですね。

 赤いキノコ型のモンスターということですから、まぁ毒キノコでしょうね。」

「んにゃー」『別にキノコを食べるわけじゃないから毒でもいいじゃない。』

「食べるわけじゃなくても、毒攻撃してくるのが問題なんですよ。

 このCKってのは一体何の略ですかね?

 どうも癖のあるモンスターらしいですが…」


 掲示板にある情報では、どうもこのCKファンガスについてはよくわからなかった。

 強いという書き込みと全然余裕だったという書き込みが混在していたのだ。

 ボスモンスターではなくただの雑魚クラスのようだが、それでもその強弱でここまで意見の分かれるのは珍しい。

 新規のイベントモンスターだからと詳細の書き込みを控えるような雰囲気もあったため、はっきりとしているのは出現場所と見た目、そしてドロップ情報だけだ。

 まぁ、エリアボスやレイドボスでもないのに細かく攻略法を書いてるのはめったにないので十分情報は出ているとは言えるが…。


「気になるのは、CKファンガスが強いと言ってるのは近接職の人たちで、余裕と言ってるのは遠距離職の人たちってことですね。

 弓系の人も余裕と言ってる方に入っているので、魔法じゃなきゃ攻撃が通じないという話ではなさそうですが…。」

「にゃにゃーー」『ちょっと硬いくらいならあたしの爪で引き裂けるわよ。』

 いままでどんなに物理防御力の高い敵でも当たり前のように倒してきたたまみさんの攻撃力なら問題ないかもしれないが、どんな敵でも大丈夫と断言はできないと思うのだが。

 まぁ、物理攻撃完全無効の敵が出てきたという話はまだまだずっと先のエリアでの話なので、イベントモンスターといえどドライの街周辺には出さないだろう。

「とにかく油断しないでくださいね。」

「にゃ」『わかってるわよ。』

 足が濡れないように乾いた所を選んでひょいひょいとたまみさんが進んでいく。


 しばらくして問題のイベントモンスター、CKファンガスを発見した。

 暗色系の森になかに真っ赤なキノコがあれば流石に目立つ。

 色合い的には完全にベニテングタケ、どう見ても毒キノコだ。

 真っ赤な傘の下には手足のついた柄があり、三つの虚のような穴が顔になるように開いていた。

「随分と動きが遅いな…攻撃方法は?」

 手足が短く、動きがとても遅い。

 昔のゲームとは違ってVRゲームでは見て回避することができるのが基本なので、どう見ても手が届かないような敵にいきなり殴られるなどということはない。

 移動できないモンスターは遠距離攻撃を飛ばしてくるし、移動の遅い亀のようなモンスターも飛び道具があったり遠距離攻撃無効があったりするものだ。

 ではCKファンガスは?

 遅い動き…毒キノコ…短い手足…虚のような顔…。

「にゃ~~」『とにかく殴って見ればわかるわよ。』

 せっかちなたまみさんは初見であろう構わずCKファンガスに突っ込んでいく。

 仮に突撃したのが僕であっても反応することができないと思われるようなゆっくりとした回避行動を取るCKファンガスにたまみさんの鋭い猫パンチがその脳天に突き刺さったかと思った瞬間、


ボフンッ!!!


「フギャ!」『きゃあああ!』


 紫色の煙が噴出し、悲鳴を上げてたまみさんが飛び退く。

 さらに追撃とばかりにCKファンガスが口になっている虚の部分から紫色の煙を吹き出したが、その煙は素早く回避した。

「た、たまみさん、毒状態になってますよ! 解毒ポーションを早く!」

 パーティーメンバーである僕にだけ見えるたまみさんのHPバーの横に毒状態を表す髑髏マークが付き、HPバーが紫色になってじわじわと減っていく。

「フ、フニャ?」『こ、こうだったかしら?』

 あたふたと以前にポーチにセットしたポーション類の中から解毒ポーションを選択し、実物を実体化させないまま自分自身に使用する。

 受けた毒はそれほど強力なものではなかったが、たまみさんはもともとのHPが少ないので弱い毒でも致命傷になりかねない。

 たまみさんのステータスバーから毒のデバフ表示が消えた時には、1/4ほどのHPが持って行かれていた。

「毒攻撃を使ってくるとは思っていましたが、今のって敵が吹き出した煙とは違うところで毒を食らっていましたよね?」

 戻ってきたたまみさんに低級HPポーションをふりかけながら、先ほどの攻撃の瞬間を確認する。

「にゃにゃにゃ!」『今度は一撃入れたら素早く退避するわよ!』

 確認なんて不要とばかりにたまみさんは再び突撃をかける。

 ゆっくりとしか動けないCKファンガスに対して細かくジグザグにフェイントをかけながら鋭く迫り、わざわざシャドーステップまで使ってその背後から袈裟斬りのように右斜め上から鋭く爪を振り下ろした。


ボフンッ!!!


「!!」『!!』


 またしても紫色の煙が吹き上がるが、今度はある程度覚悟していたのか悲鳴を上げずに素早く退避してきた。

 攻撃直後に素早く遠ざかったはずではあるが、同じように毒状態になっている。

 先程よりはスムーズに解毒ポーションを使いながら、たまみさんは苛立ちで毛を逆立てていた。

「フーー!」『攻撃した瞬間に毒を食らったわ!』

「どうやら、オートカウンターのようですね。

 元のHPが低い軽戦士や毒耐性が低い近接職なら辛いでしょう。

 つまり、HPが少なくて耐性系スキルを全然取ってないたまみさんには向いてない敵ってことですよ。

 魔法で攻撃したらどんな感じかやってみましょうかね?」

 反撃が飛んできても大丈夫なように身構えながら、植物系によく効くはずの火魔法の中級であるファイヤジャベリンを撃ち込んでみた。

 着弾した瞬間、たまみさんが攻撃した時と同じような紫の煙が吹き出たがあくまで2m程度の範囲までで、少し離れたところから魔法を撃った僕には届かなかった。

 ただ、苦手な系統であるはずの火魔法でもあまりダメージパーティクルが出ておらず、思ったよりダメージが少ないようだ。

 これだともっと高威力の魔法でも倒すまで数発撃たなければいけないが、こちらに向かってこようとするCKファンガスの足は遅く、引きながら魔法攻撃しても余裕で対応できそうだ。

「なるほど、これなら遠距離職からすれば一方的に攻撃できるカモでしょうね。

 ただ、たまみさんのヒット&アウェーでもカウンターを食らったことを考えると、毒攻撃に弱い近接職からすると強敵と言える、それゆえに評価が分かれていたんですね…」

「にゃにゃ~~ん」『でもそれじゃ、あたしが攻撃できないじゃない。』

「だから、たまみさんも遠距離攻撃手段か魔法が必要だって話をしてるじゃないですか。

 CKファンガスは僕が頑張って倒してたまみさんにはほかをやってもらうという方法もありますが……そうですね、あの手の毒キノコは毒は傘の部分だけで柄の部分にはないことがあります。

 頭の部分を殴らずに体の方を攻撃したらカウンターを喰らわずに済むんじゃないですかね?」

「にゃ」『やってみましょ。』

 さっそくとばかりにたまみさんは突撃し、低い位置から顔の少し下あたりに爪を立てた。


ザクッ!


 今度は紫の煙は吹き出ず、しっかりとダメージが入ったことを示すパーティクルが飛び散った。

 お返しとばかりにCKファンガスの口から毒の煙が吐かれたが、そのときにはもうたまみさんは背後に回り込んでおり、素早く背中に二連猫パンチを叩き込んでいた。

 ふたたび大量のダメージパーティクルが飛び散るが、もう少しというところでCKファンガスを倒しきれていない。


「口から吐く方の煙は指向性があるから、たまみさんの速度なら回避できそうですね。

 ただ、一撃で倒せてないところを見ると結構HPは高いですねぇ。

 こうなると、僕だけで倒すのはちょっと大変ですから、たまみさんにも殴ってもらわないとダメですね。」

「にゃにゃ!」『やり方さえわかってしまえば簡単よ!』

 瀕死のCKファンガスにさくっとトドメを刺し、さらなる毒きのこを求めて暗い森の中にたまみさんは突撃していった…。



「うーん、ドロップ率が渋いとは言ってましたが、こりゃ相当ですねぇ…」

 既に2時間近くファドの森で狩り続けており、CKファンガスの討伐数は100を超えた。

 しかしながら、未だに猫缶のドロップは0である。

「フーー!!」『こいつ、またわざと倒れた!!』

 そして、へたの部分ならオートカウンターを受けないはずとは言っても、たびたび発動させて毒状態になっていた。

 CKファンガス自体が個体ごとに大きさがそれぞれ違うが、そこからさらに傘の部分を変形させて自分から当たりに行ったりしてくるうえに、少し傘にかすっただけでもオートカウンターが発動する。

 更には攻撃の反動で周囲の木に当たったり地面に倒れたりした時にも、結果として攻撃を受けてダメージが来たと判定してオートカウンターが当たるようになっている。

 今もたまみさんの攻撃を受けながらもHP全損を免れたCKファンガスがわざとらしく地面に倒れ、その衝撃を攻撃と判定してオートカウンターが発動していた。

 リアルの世界ではその状態でカウンターが当たるわけもないが、抜け道的な方法があることもオートカウンターが必中であることもゲームであるが故の歪みと言えなくもない。


「多めに用意してきたはずですが、そろそろ解毒ポーションの残量が怪しいですね…」

 ファドの森のキノコ型のイベントモンスターを狩るとなると毒を食らう可能性が高いだろうと予想できたので出発前に解毒ポーションを多めに用意したが、これほど頻繁に毒を受けるとは思っていなかったので流石に足りなくなってきた。

 在庫が怪しくなったら毒になっても少しの間我慢するというのが一般的な対処方法だが、HPが少ないたまみさんはすぐに回復させないと危険なので節約が難しい。

 もちろん、僕もたまみさんも回復魔法が使えないのが一つの原因だが、職業的に適性がない職に就いていると回復魔法習得にかなり多めにポイントを持っていかれるので、どれだけ安全思考であろうとも回復に縁のない職業についている人は諦めるしかない。

 地面に転がっていた瀕死のCKファンガスにファイアジャベリンでトドメを刺した僕は、また低級ポーションでたまみさんを回復させていた。

 HPも毒を食らうたびに回復させなければいけないが、低級HPポーションは回復量が少なすぎてインベントリの肥やしになっていたものなのでそれほど惜しくはない。

 CKファンガスのノーマルドロップは鑑定不能の謎のキノコでどう考えても食べる気にはなれなかったし毒蛇系や毒虫系のドロップも微妙なものが多かったが、イビルトレントやイビルトネリコなどの植物系のモンスターから比較的価値の高いドロップが出ていたので費用的にはプラス収支だった。

「これでコンスタントに猫缶が出ていれば問題ないんですがねぇ…」

 こんな調子でドロップが猫缶なら人気がないんじゃないか?と思っていたが、意外に周囲で狩りをしているプレイヤーを見かける。

 なんとなく見覚えのある人が多いので、もしかしたらたまみさんに猫缶を献上するために狩りをしているのかもしれない。

「たまみさんのファンの人が献上してくれるなら、自分たちで取らなくても大丈夫じゃないですか?」

「ブニャ!」『だめよ、自分で取るの!』

「食べ物でがっついて欲張っていると、また痛い目を見ますよ?」

 過去にいろいろと問題を起こしているたまみさんだが、縄張り争いやプライドからくる争いよりも食べ物に関することで痛い目にあうことのほうが多い。

 食べ物に気を取られて注意力が低下してるせいなのか、威嚇してくる大型犬より転げ落ちそうな場所に落ちている餌の方がたまみさんにとっては危険なのだ。

「それにここまでドロップしないってのは、元のドロップ率も渋いんでしょうけど物欲センサーにがっつりはまっちゃってる気がしますね。」

 先程パーシヴァルからインスタンスメッセージで愚痴が来ていたが、LILICAのほうも物欲センサーに引っかかってなかなかドロップしないらしい。




 なかなかドロップしない猫缶にうんざりしながら次のイベントモンスターを探していた時、それは目の前に現れた。


 暗色系の森の中に真っ赤なキノコというところまでは同じだが、形状が違う。

 柄の根元まで真っ赤に染まっており途中で何本かに枝分かれして上に向かって伸びている手のような形。

 そしてなにより3mほどの大きさがあること。

 その不自然さはどう見てもイベントモンスターだったが、それはどうも巨大なカエンタケのような形をしていた。

「待ってください、たまみさん。コイツは今までのと違ってボスモンスターです!」

「にゃにゃ?」『ボスなら猫缶のドロップ率も違うってことじゃない?』


 すぐ突撃しようとするたまみさんを押しとどめてそのモンスターの名前を確認すると、『T()K()ファンガス』

となっていた。


 その名前を見た瞬間、ぞくっと背筋が寒くなった。


 次の瞬間、周囲を取り囲むように透明な壁が出現する。

 それはまるでエリアボスに挑んだ時のようなフィールドだった。

「撤退不可能なボスってことか?」


 僕はその時、罠にハマったと思ったのだ。


どうも自分の書く力が足りないような気がして、

一生懸命別作品を見て充電してます(他人の小説を読むのに時間を使っているだけw


ベニテングタケは実物をよく見たことがありますが、カエンタケって見たことがないですね。

いろんな種類の毒キノコがあるので、判別が完璧じゃない人は慎重になってくださいね。

(カエンタケの見た目で食べてみようってのはよほどのチャレンジャーだけどw


ベニテングダケ(紅テングダケ)→ベニテングタケ に修正しました

濁点が見にくい人にとってはバーミヤンの間違いのように見えるかもw

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