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猫19匹目 ダンジョン

ここから猫語翻訳機フル稼働で行きますw

 たまみさんはご機嫌だった。


 もちろん、闘技大会でこれでもかと暴れまわり、優勝をさらって自分の強さを証明できたというのはある。


 途中、正面から相手をねじ伏せてもイカサマだと騒ぐ連中もいたが、予選ならともかく決勝トーナメントでは八百長の入り込む余地はほとんどなくみな真剣だというのが分かっているのかそのような声も聞こえなくなった。

 相手の不甲斐なさばかりを叩き、たまみさんの強さを頑なに認めようとしない連中も、大会上位常連の相手を倒したことでしぶしぶ認めるようになった。

 だが、やはり賭けは行われており、ハズレた連中の罵声は少なからず存在した。


 それでも、たまみさんは今現在、たいへんご機嫌だった。


「なぁー?」『ねぇ、似合ってる?』

「はいはい、似合ってますよ。とっても素敵ですって。」

「にゃ~~!」『言い方が適当になってるわ!』

 たまみさんの猫パンチが飛んでくるが、もうそれも食らい過ぎてどうでもいい気分だった。

「同じことを一日に15回も訊かれたら、答えもぞんざいになりますって…」


 そう、たまみさんはGMたちに無理を言って大会の賞品としてせしめた猫語翻訳機の成れの果ての鈴のおかげでご機嫌なのだ。


 確かに、その銀色の鈴はデザインも素晴らしく、その機能も便利かつ正確に動作している。

 この猫語翻訳機は鈴として首輪についているために行動の邪魔にはならず、今後僕以外の人間とも意思の疎通ができるようになるためたまみさんの行動範囲は広がっていくだろう。


 だからといって同じ質問を僕に続けて、毎回心のこもった言葉を期待しないで欲しいものである。


「はぁ~~たまみちゃん、とっても良くお似合いですよぉ。銀の鈴は控えめで上品なデザインながらも緻密な加工の施されたシルバーアクセサリのような高級感で、しかも私たちにもたまみちゃんの言葉が分かるようになるという夢のような高性能。とっても素敵なので、ちょっとだけモフモフさせてくださいぃ~」

「にゃにゃにゃ~~~」『そうでしょ、素敵でしょう? でも勝手に触ろうとするのはやめて頂戴。』

「はぁー、たまみちゃんのいけずですぅー。」

 必死にたまみちゃんに触ろうとするヒカリの手を、たまみさんはそっけなく猫パンチで叩き落とす。

 ヒカリさんがその問を聞くのは10回目だが、僕とは違って10回とも同じ答えを情熱を込めて繰り返し、そしてモフろうとする手を10回懲りずに叩き落とされている。


「ヒカリ、同じ答えばかり返さんと、同じ質問でもひねりを入れて返そうや。それにたまみさんも嫌がってるんやから、モフるんもいい加減諦めや。」

「いやよ、たまみさんをモフるのは私の永遠の目標なんだから。」

 LILICAの呆れた視線もものともせず、ヒカリさんはたまみさんの猫パンチをかいくぐろうと攻防を続ける。

「たまみさんも、いつまでも鈴の自慢しとらんと。そもそもたまみさんが闘技大会で大暴れしたから慌ててこんなところに逃げてきてるんやし。」

「にゃ~」『あら、追っかけくらい気にせず狩りをしててもよかったじゃない。』

 闘技大会以前もそれなりにたまみさんの追っかけっぽいプレイヤーはいたんだが、闘技大会で有名になりすぎて街中では人だかりができ、フィールドでは結構な数のパパラッチっぽいのが後を付いてくるようになっていた。

 まぁ、彼らが襲ってきたりするわけでもないんだが、ちょっとモンスターを倒しただけで歓声を上げたりスクショを撮ったりするのはやめてほしい。

「それにしても、その猫語翻訳機は凄いな。たまみさんの言葉をこうも見事に翻訳してくれるとは…」

「ほんとうに、そんなものを決勝トーナメントに合わせて作ってくることもすごいけど、それをたった一日でアクセサリとして改造してきたことにもびっくりしたよ。よほど、GMたちはたまみさんの爪が怖かったんだろうね。」

 たまみさんの脅しがよほど効いたのか、GMたちはたった一日で翻訳機を鈴の形にして送ってきた。

 まぁ、ここはあくまでゲームの中の世界なので、猫語の翻訳機が大変なのかその形を変えることが大変なのかはともかく、不可能なことではない。

「その猫語翻訳機があることもたまみさんと会話しようと突撃してくる人間が増えた原因だろうけどね。おかげで僕たちにまで質問してこようとする連中が増えてしまって…」

「俺たちと仲良くしたくて話しかけてくるならともかく、たまみさんと仲良くしたいから()()()()俺たちと仲良くしようって輩は勘弁して欲しいよな。」

「うちらはともかく、トールはたまみさんに付き合わされるから逃げられへんしな。おかげで久しぶりにトールとダンジョンアタックや。」


 ボクとたまみさんはしつこい人たちを振り切るためにダンジョンに来ていた。

 ただ、二人だけではダンジョンはどうにもならないので、パーシヴァルたちに応援を頼んだというわけだ。


 NEOにはいくつかのダンジョンの形式があり、他のパーティーと遭遇するダンジョンもあるが、その多くは個別に生成される、所謂インスタンスと呼ばれるダンジョンだ。

 インスタンスダンジョンではパーティーもしくはレイドを組んだ者たち以外は別の空間に送られるため、たとえダンジョンの中まで追ってきても中で遭遇することはできない。


 また、ダンジョンには形式、階層、難易度など様々な違いがあり、ランダムに発生する小規模な野良ダンジョンから、固定かつ大規模で国が管理を行っているダンジョンまで様々である。

 我々が今回挑もうとしているのは位置固定のインスタンスダンジョンで、ドライの街周辺としては難易度低め、フロアの大きさは小さめながら40階層、そして5階層ごとに転移石があるという、オーソドックスかつやや難易度低めのダンジョンである。


 そして、時間のない社会人への配慮か、ダンジョンによっては内部が外とは異なる時間の流れとなっているものがある。

 NEOではインスタンスかつ時間制限ありという条件のもと最高で三倍速で二時間までという倍速ダンジョンが多く、今回のダンジョンもそのタイプだ。

 等倍で時間制限のないダンジョンもあるがおしなべて設定難易度が高く、長時間挑戦し続けるというよりも時間あたりの体への負荷が高いということと制限があると帰還ポイントまでたどり着かないということがあるためらしい。


「たまみさんはダンジョンに入るのは初めてですよね?」

「にゃーー」『あたしはジメジメしたところは嫌いだから穴の中になんか入らないわよ。』

「ダンジョンは確かに穴の中に入っていくものが多いですけど、必ずしもジメジメしているとは限りませんよ?」

「洞窟系や水系のダンジョンはジメジメするしアンデッドが多いダンジョンだと空気が澱んでてちょっと臭ったりするけど、今回のは大丈夫だぞ。」

「たまみちゃんが多分初めてのダンジョンだろうからって、無難な簡単なやつにしましたからね。たまみちゃんの初めて……ぶふふふ。」

「怪しい笑い方せんといてや、ヒカリ。このダンジョンはちょっとゴーレムが多めでデミヒューマン系も少しいるのと、ちょっと罠が多めなくらいで難しくはあらへん。ただ、うちらのパーティーだと千の心はんが罠を見つけてあたしが罠を解除するって手順やから、罠の解除に少し時間がかかるから注意や。」

 パーシヴァルたちは4人でどこでも行けるようにバランスを取っているために、足りない部分を無理やり埋めているものがいくつかある。

 ダンジョンアタック特有のスキルもその類で、本来屋外での探知がメインである千の心さんが少し性能が劣るながらも屋内の探知も行い、LILICAさんが罠の解除と鍵開けを。ヒカリさんが照明と魔法系の鍵と罠の解除、パーシヴァルが聞き耳と登攀技能をとっている。

 ちなみに僕はダンジョンにソロアタックすることは想定してないので、ダンジョン用のスキルは特に取っていない。

 文字判別に役立つ翻訳が謎解き系のダンジョンでちょっと役に立つくらいだ。


もちろん、ダンジョンに入る気が全くなかったたまみさんがそれらのスキルを取ってるはずはなかった。


「ちょっと狭くて戦いにくいのもありますが、特に罠には気をつけてくださいね。」

「にゃ~」『わかったわ、ちゃんと気をつけるから。』

 そう答えると、颯爽とダンジョンの中に踏み込んでいった。


 そう、たまみさんは颯爽と()()()()()()ダンジョンに入っていった。


「あぁ、だから、罠を見つけなきゃいけないから先頭を歩いちゃダメですって!」

 僕たちは慌ててたまみさんを追いかけた。



 パーシヴァルたち4人+僕でダンジョンを探索する際の隊列は、先頭を罠を見つける千の心さんと聞き耳を立てるパーシヴァルが二人で進み、後ろからの奇襲に備えて僕が最後方を歩く形になる。

 先頭を前衛二人で行かないといけないためどうしても後ろが疎かになり、奇襲が多いダンジョンの時は後方の警戒要員として僕が呼ばれることがよくあった。

 このダンジョンはそれほど奇襲が厳しくはなく、罠が多いために小型のモンスターが少しだけ徘徊してる程度ではあったが全く奇襲がないわけでもないので僕は最後方を歩いていた。


 では、たまみさんのポジションは?というと、本来は前のふたりの後ろをついていき戦闘になったら追い抜くという形になるべきであろう。


 だが、たまみさんは結局、そんな理屈をすべて無視して先頭を軽やかに進んでいた。


 何度か下がって欲しいとお願いして下がってもらったが、たまみさんはだれかの後ろをついて歩くというのが気に入らなかったらしい。

 いつの間にかするするっと前の二人を追い抜き、悠々と先頭を歩いていた。



 もちろん、たまみさんは罠の発見も解除もできないので罠の中にまっすぐ踏み込んでいくことになる。



 その結果の罠の挙動には二種類が存在した。


 一つはたまみさんが軽すぎて罠が作動しないパターンだ。

 もともとこのダンジョンを徘徊する小型のモンスターに合わせて調整されているのか、たまみさんの体重では作動しない仕組みの罠が結構存在した。

 それらの罠は僕たちの体重では作動するため、たまみさんが何事もなく通り過ぎた場所でも油断して踏み込むと危険だった。


 もうひとつのパターンは、作動はするけれどたまみさんには当たりようがないもの。

 もともとダンジョンの罠は侵入した()()排除するためのものであり、その身長を想定したものが多い。

 それらは胸や頭の高さを狙ったものが多く、たまみさんからすると頭上を毒矢やのこぎりの歯が通り過ぎていったわ~というものばかりだった。

 たまみさんが当たる可能性があった罠は床から槍衾が飛び出してくるものと毒ガスが吹き出す罠の二つだけだったが、どちらもたまみさんの速さなら余裕で回避できた。

 おそらく、たまみさんが回避できないような部屋全体で動作するような大掛かりな罠はたまみさんの体重では動作しない方に含まれるのだろう。

 ちなみに、落とし穴系の罠もたまみさんの体重では作動せず、罠発見など持っていない僕にもわかるようなあからさまな落とし穴の上もたまみさんはスタスタと進んでいく。

 ただ、このパターンの場合注意しなければいけないのは、動作した罠はたまみさんには当たらないが後ろをついていく僕たちには当たる可能性があることだ。

 途中から諦めて素直にたまみさんの後ろをついていったが、油断して眺めているとたまみさんをスルーした矢が後方にまで飛んできたりするので危険だ。



 しかしこの二つのパターンに属さない、たまみさんの体重でも正常に作動し本来の驚異を発揮する罠も存在した。


ジリリリリリリリリリッ!


「シャーーー!」『またこの音なの? 嫌な音ね!』

「たまみさん、またアラーム踏みましたね? 同じように敵が集まってきますよ!」

「俺たちはまた同じように固まって少しずつ敵を減らしていく。たまみさん、敵の大部分を同じように引きつけておいてくれ!」

「にゃー!!」『任せておきなさい!!』


 たまみさんが作動させたアラームは小さな広場のようになっている空間の中心にあり、周囲の隠し扉が開いて大量のデミヒューマン系のモンスターが出てくる。

 オークやオーガも混じっているが、その中心は上位ゴブリン系やコボルド系で一匹一匹がそれほど強いわけではない。

 ただその数が多いため、本来この広場の中心でこの大群を相手にすると厄介で、普通にドライの街にいる程度の冒険者のパーティーなら全滅しかねない。

 もっともパーシヴァルたちは二つ先の街を拠点していてもおかしくない強さだし、僕もフィールドならスーの街周辺でも活動できるレベルだ。

 加えて、またたまみさんが先に行ってアラームを作動させただけなので、僕たちはほぼ壁際にいる。

 後衛のふたりを壁際に置いて僕を含めた三人で半円状に守りを固めていれば十分に抑えることができ、あとはゆっくりと倒していくだけでも十分対応できた。

 だが、もしもパーティー全員が広場の中心にいても、問題なく対処できただろう。


 大量に沸いてきたモンスターたちの間を黒い風となってたまみさんが駆け抜けていく。


 僕たちはあくまで引きつけておいてくれといったが、たまみさんはそんなの関係ないとばかりに攻撃を加えながら高速で移動する。

 その猫パンチが閃くたびに大量のダメージパーティクルが舞い、モンスター消滅の光が瞬く。

 ダンジョンという閉じられた空間で大量の敵に囲まれるとAGI極の回避盾は動き回る空間が足りなくて機能しなくなるという危険性があったが、たまみさんの体の大きさなら全く関係はなかった。

 僕たちも本来はカイトと呼ばれる、敵を引っ張って連れ回し戦闘に参加させない技術を使ってもらいたかったんだが、結果として敵の大部分はたまみさんを追いかけようと右往左往しているので結果としてはオッケーだった。

 そして、大量に出てきたモンスターたちもあっという間に駆逐されていた。

 それはまるで、高Lvパーティーがわざとアラームを作動させて行う、パワーレベリングかのようだった。


「にゃ!」『ほら、簡単なものでしょ!』

「いやいや、本来はアラーム起動させちゃダメなんですって。こんなあからさまに大量に敵が出ますって言ってるような広場で迷わず中心に行かないでくださいよ。」

「まぁ、ええやないか。実際簡単なものやったし、経験値もドロップもぎょうさんあるしな。」

 アラームで出てくるモンスターはゲームによっては経験値やドロップは無しとするものもあったが、NEOはそこまで意地悪ではなくちょっと経験値少なめドロップ率控えめなくらいでちゃんと手に入れることができる。

 少なめであってもこれだけの数が一気に出てくると時間効率的にはかなり良かった。

「にゃ~~」『あたしにとってはあの音が気に入らないだけよ。』

 それがあからさまなアラームを作動させたのが三回目だったとしても、たまみさんにとっては気にしない出来事でしかなかった。



 ただし、そんなたまみさんにも絶対越えられない天敵が存在した。


 本来ダンジョンに配置されているモンスターたちではない。

 デミヒューマン系のモンスターたちはもちろん、物理攻撃が効きにくいはずのゴーレムたちもあっさりとその爪で削っていく。

 アイアンゴーレムなどは物理防御力が高くて本来は前衛が抑えたところを後衛が魔法で削っていくのがセオリーなのだが、たまみさんは気にせずギャりギャり爪で削っていく。

 一匹だけ出てきたミスリルゴーレムも、魔法が効きづらくて苦戦するなどということはたまみさんには関係なかった。


 宝箱でもない。

 たまみさんは戦闘は好きだが、お金やドロップ品にはあまり興味がなかったので、鍵が掛かっていて開かない箱や不用意に開けると飛び出してくる罠も関係なかった。

 そういうのは僕たちに丸投げであり、LILICAが喜々として宝箱を開けているのを横目で見ながら、放置してさっさと先に行きたいオーラを放っていた。


 そして謎解きでもない。

 このダンジョンは難易度が低くて謎解きの数も少なかったのはあるが、それはたまみさんの敵ではなかった。


 もちろんたまみさんが簡単に解けるわけではない。


 それらは元から僕に丸投げするだけのものであり、たまみさんが相手にするものではなかっただけだ。



 では、たまみさんが超えられない天敵とは何か?



「シャーー!」『ほら早く来なさいよ!』

 たまみさんは苛立たしげにその天敵にガリガリと爪を立てる。

「はいはい、そんなに急かさんでもすぐに調べるから待ってや。」

 通路や壁などに仕掛けられている罠の発見は千の心さんの担当だが、宝箱やこのように固定されたものの罠を調べるのはLILICAさんの仕事だ。

「ふむふむ、大丈夫やな。罠はないから開けていいでぇ。」

「シャシャー!」『開けていいじゃなく、さっさと開けなさいよ!」

 たまみさんはさらにガリガリと爪を立てる。

 時にはたまみさんにも開けられるものがあるが開けられないものの方が多く、基本的には周囲の人間を脅してでも開けさせる。



 そう、たまみさんはほとんどの扉を開けることができないのだった。


一気に目標の地点まで行こうかなと思いましたが、

分割にしてしまいます

(その理由にどれだけ文字数をかけるかはまだ未定ですがw


猫語翻訳機をフル稼働させてたまみさんの発言の形式を変えましたが、

やはり、透以外の人物にもたまみさんの言葉が分かって欲しいのでご理解いただきたい


まぁ、猫語翻訳機が現実にあったら欲しいですよねw


よろしければ、ブクマ、評価、感想などよろしくお願いします

ブクマがじわりと増えてるのは嬉しかったりします(じわりですがねw

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