猫12匹目 ドライの街へ
やっと風邪が治りましたが、まだ体力が…
書く方のペースももう少し回復して欲しいところです
「ナァア~~~」(そろそろ次の町に行くわよ、透 と言ってる気がする。)
「そろそろ言い出すと思っていましたよ、たまみさん。でも、出発は明日の朝ですからね?」
僕は狩りのあとの軽食をだしながら、たまみさんの突然の宣言を受け流してみせた。
Eランクへの昇格済みだというのもあるが一緒に狩って回っていればそろそろ飽きるだろうというのはわかりきっていたことだったから、既に友人たちにも相談済みで四人組にエリアボス突破を手伝ってもらう予約も入れていた。
たまみさんが言い出さなければ、そろそろ僕から切り出そうかというタイミングだったのである。
「にゃぁ?」(今からじゃダメなの? と疑問に思っているように見える。)
「前に話したかもしれませんが、この先の街への移動は始まりの街とセカンの街の間よりもずっと時間がかかるんですよ。
セカンの街からドライの街へ行くには、エリアボスまで6時間、そこからドライの街まで2時間かかります。途中の休憩とエリアボス戦などの戦闘時間を合わせると10時間近くなるんです。
僕だけ同行するとしても今から10時間はとても無理ですし、エリアボスを倒そうと思うならもう少し協力者が必要です。
今日は金曜なので、明日の土曜のうちに行こうと計画を立てておきました。
既にこの前の四人に了承をもらっているので、明日の朝から出発して明日一日かけてドライの街まで行きましょう。」
「にゃ~~~?」(四人のこの前のでしょ? 役に立つの? と首をひねってる気がする。)
「彼らは強いですよ。この前はたまみさんが予想以上に強くてさっさと終わらせちゃったから、手が出せなかっただけですって。」
どうやらたまみさんは次のエリアボスも一人で倒すつもりのようだが、さすがに初めのお試し版エリアボスだったシニアシルバーウルフとは違う。
セカンの街からドライの街へと通じるエリアのボスは、その耐久度の桁違いながらさらにスリップダメージを持つ攻撃や範囲攻撃などの特殊攻撃が増えてくるのだ。
速度自体はだいぶ遅くなるので油断していなければ通常攻撃を食らうことはないだろうが、範囲で痺れさせる技を食らってから殴られれば一撃で終了だ。
「僕はここらでログアウトしますけど、たまみさんはもう少し狩るんですよね?
明日の朝、冒険者ギルドで報告できる討伐クエストと納品クエストを終わらせて、残りをアリスの店で売却、その後友人たちと合流してドライを目指しますからね。
NEO内で明日の朝がちょうどリアルでも朝なので、冒険者ギルドで待ち合わせましょう。
明日は一日移動になりますから、今日はそこそこ狩ったら十分に休んでおいてくださいね?」
「にゃー」(わかってるわ、透 とやや投げやりに答えてる気がする。)
僕はそんないつもどおりのたまみさんの返事を聞きながら、ログアウトシークエンスを開始した。
NEOにおいてはログアウトシークエンスがいくつか存在する。
ひとつはVR法で定められた異常発生から10秒以内にリアルの体が動かせるようにしなければいけないという規定に準拠した5秒での強制ログアウト。
当然5秒ログアウトは周囲に警告を発することもできず、精神に深刻なダメージを及ぼさない境界は守っているものの強烈なめまいと不快感を伴う。
そして、安全圏にて行う通常のログアウトは、人によって何秒かけるかの選択肢がある。
標準的な時間は合計20秒で、ログアウトシークエンス開始から10秒間NEO内でカウントが行われ、その後ログインロビーにて10秒間本来の体の感覚とのキャリブレーションが行われる。
極端な体格の変更ができないとは言えどもそれなりにリアルの身体とVRのアバターとの差異は生じるものであるからキャリブレーションは必要であり、人によってはここを長めに取ってログアウト後の不快感を軽減しようとする。
また、安全圏にたどり着く前にどうしてもログアウトしたいという人のために、安全圏外でログアウトすることも可能になっている。
ただし、安全圏外ではログアウトシークエンス開始から60秒はその場にアバターが残り、その間に受けたダメージは反映され、HPが0になれば死亡となる。
死亡せずに生き延びたとしても安全圏外でログアウトした場合はログアウト中のHP回復は行われず、ログインシークエンス中も10秒間動けない時間が生じる。
これらはもちろん、戦闘中に落ち逃げすることによって生き延びようとすることを防止するためのものであり、PK達はもちろんモンスターも知能の高いものはこの現象を理解しているので緊急脱出として使おうというものはほとんどいなくなっている。
ただ、残念なのは安全圏外で強制ログアウトが行われた場合もこれに準ずる扱いをされるので、当然僕はログアウトシークエンス中に死亡したり、再ログインした時に待ち構えられていたりということをよく経験している。
まぁ、この強制ログアウト、安全圏ログアウト、安全圏外ログアウトの3種類はフィールド型のVRゲームではどれでも同じように存在するのもので、特に目新しいものではない。
僕はしっかりとログインロビーでキャリブレーション完了を確認してからVR機器を停止させた。
体の各所に取り付けたセンサーを取り外し所定のホルダーに収納、環境モニターの情報と室内の様子を確認し、ゆっくりと身を起こした。
この部屋の機器はVR法に基づいて定められた基準を満たした設備であるため、今までは不具合を起こしたことはないし、これからもそうそう故障することはないだろう。
僕の部屋の問題点は未だにキャットドアが付いていることだけであり、たまみ落ちによる強制ログアウト数が異常に多いと一度調査を受けたことがあるだけで、僕にとっては仕様である。
時刻はまだ9時すぎ。
夕食はもう既に一度ログアウトして済ませてあるので、金曜の夜にNEOを終了するには少し早い時間だが、これも明日の長時間移動を考えると必要なことだ。
僕はVR機器を片付けると、室内に十分なスペースを確保し、筋力トレーニングを始めた。
専門的なトレーニング機器こそないが、簡単な補助器具などは置いてある。
ゴムを用いて肩や腰の筋肉を伸ばし、ダンベルを用いて腕の筋肉を鍛えていく、
VR法では短期間的なログイン時間などの制限もあるが、長期間的な体力面での制限も存在する。
半年に一度体力測定に参加し、そこで最低限の筋力を維持していることを証明しないと、一時使用停止処分が下されるのだ。
定期の体力測定自体は大学や地方自治体が無料で行ってくれるが、再測定は自費となるため、普段からしっかりとトレーニングしておいて定期の測定でクリアしておくべきだ。
まぁ、基準自体はお役所の決めた曖昧な緩いものなので、極端に筋力を落としてたり体重が減っていたりしなければ大丈夫だが。
トレーニングのあとは入浴を済ませ、就寝。
ゲーマーにしては健康的と思うかもしれないが、きちんと準備をしないと10時間移動はこなせない。
普通のゲームで10時間移動はちょっと無理をすれば健康な人なら誰でもいけそうだが、フルダイブVRでは皆センサーが付いているから、途中で基準値を満たすことができなくなって強制ログアウトさせられると、そこから再開するまでに結構時間を要するのだ。
熟練のゲーマーほど、仲間に迷惑をかけないようにきっちり準備してくる。
ま、よくたまみ落ちで迷惑をかけた僕が言っても全く信用はないがw
「今日はよろしく頼むよ。」
「にゃ~」(遅れないようについてきなさい と挨拶のようなものをしてる気がする。)
「任せておけ、トール! 今日はこの前みたいにはいかせないぞ!」
「道のりは長い。焦らず、役割分担をしっかりな。」
「うぅ、たまみちゃん、今日も可愛いです…少し撫でさせてください…」
「あたいは途中は楽でもぜんぜんかまへんけどな。エリアボスはそうはいかんで?」
四人とも、しっかり気合が入っている。
まぁ、約一人気合の方向が違っていて、たまみさんに拒否の猫パンチをもらっていたりするが。
セカンの街の北の門を出発し、そのまま北上する。
しっかりとした石畳の街道が整備されているが、あえて道を外れて森の中を進む。
方向を見失わないようミニマップの端に街道が表示される程度の位置を沿ってき、エンカウントするモンスターを片っ端から殲滅していた。
なぜこんなことをしているかといえば、街道をそのまま進んでは敵が少なすぎて暇だからである。
実際のところ、仮に僕がソロで行動していたとしてもこの辺りの敵より2段階くらい上の難易度の場所が適性Lvだ。
たまみさんが一緒であればもっと余裕が有るだろうし、パーシヴァル達四人組はさらに上なのだからもはやグランド王国国内では適正な狩場はフィールドにはないかもしれない。
街道はもともと平坦でモンスターの出現が少ない場所を選んで作られ、街道そのものにも多少の魔物よけの効果が付与されているので街道を外れなればかなり楽に移動できる。
移動だけが目的の商人は街道を馬車で行くし、その護衛も安全に届けるのが目的なのでわざわざ街道を外れたりはしない。
我々は?といえば、長時間移動とその後のエリアボスのために体力温存というところまで慎重になる必要はまったくないと、たまみさんvs4人組で討伐数を競って勝負をしていた。
「右からオークが三匹来ます。」
「よし、いいぞ、千の心。お前の索敵能力が俺たちの勝利の鍵だ!」
「そないなことゆーとっても倒すのに時間かけすぎてたら追いつかんで?」
「そこは出し惜しみなしだ。たまみさんに勝てれば、エリアボスなどどうということはない。」
「すっかり、目的を見失っていませんか? 私たちの目的はたまみちゃんとお友達いなることですよ?」
「それも本来の目的ちゃうわ! うちらはエリアボスの手伝いに来たんやろが…」
四人はすっかりヒートアップしていて、さながらタイムアタックをしているかのようだ。
では、たまみさんは?というと…、
「シャ!」(負けられないわよ、透! とオークを三枚に下ろしているように見える。)
もちろん、負けるつもりはかけらもなかった。
そもそも1対4で数を競っている段階でたまみさんの圧勝なんだが、そんな基準はたまみさんには関係なかった。
僕はたまみさんの助っ人をしていないのか?と思うかもしれないが、あまりの速さについていけなくなり今は審判役に徹している。
「さっきからちらほらオグルも混じるようになってきましたが、まだ頭数勝負でいいんです?」
「にゃにゃ~」(どうせ全部倒すんだから、難しい区別は不要よ と適当に考えているように見える。)
「モンスターを識別する前に倒すべし!」
「いや、ちゃんと相手を考えて倒さんとダメやから!」
パーシヴァルはタンクだから突っ込んでいくだけでいいが、敵が強かった分の負担は後衛のヒカリとLILICAのMP消費量に反映されていく。
もともと、回復と攻撃魔法を兼ねる賢者のヒカリのMP消費が厳しいため、遠距離物理だけではなく遠距離魔法攻撃も担えるようにLILICAは魔砲を使うようになったのだ。
魔砲は物理弾と魔法弾を切り替えられる汎用性のある武器だが、その武器の稀少性とともに弾薬の消費という欠点がある。
あまり調子に乗っていると、ヒカリのMPが尽きるのが先かLILICAの弾薬が尽きるのが先かという問題になるのだが…。
「パーシー、その茂みの向こうにホブゴブリンが5匹。まだこちらに気付いていないから、茂みの中から一気に仕掛けて数を減らすぞ!」
「おうよ!」
実はその消費を抑えるために奮闘しているのは、千の心さんだった。
奇襲をかけるためと言ってひと呼吸入れさせ、しかもその奇襲で楽にモンスターの数を減らす。
一気に大量のモンスターに囲まれないようにエンカウントの順番をコントロールし、しっかりとパーシヴァルにタゲを取らせてから速やかに敵後衛を排除しに行く。
そして、こっそりとオグルなどの強い個体がたまみさんに流れるように誘導していた。
僕は実はその誘導に気づいてはいたが、たまみさんが気にしないと言っている以上はみなかったことにしようと思っている。
本来はエスコートしている高Lvパーティーが強い個体を受け持つべきでは?と思う人もいるだろうが、セカンの街北側のこのエリアに関してだけ言えばたまみさんにとってもこのほうが相性が良かった。
街の周辺のフィールドには実はそれぞれ特徴があり、始まりの街はそれぞれの方位で敵の特徴が変わること自体が特徴だった。
ではセカンの街は?といえば、デミヒューマン型のモンスターが多いことが特徴である。
東側は弱いが数群れる連中を、南は海があるので海洋系の魚人が少し顔を出し、西にはリザードマンやフロッグマンなどの特殊なデミヒューマンが現れるようになっている。
そして、北はというとRPGでよく見られるゴブリンやオークのようなモンスターが中心だが、街から離れるに従って大型の個体が交じるようになっていた。
ホブゴブリンやオークでも十分大人と同じくらいの体格になっているが、さらにそれを超えて2mや3mの個体が出てくるようになる。
その一つがオグルで3m近い巨体と大きな棍棒を振るって鎧ごとたたきつぶす怪力が脅威となるモンスターだ。
本来は私一人では倒すのに苦労し、四人組でも少し時間のかかる強敵なのだが、たまみさんにとっては相性のいいカモだった。
オグルは一撃は重いが、遅いのだ。
その一撃を受けようと思うとしっかりしたタンクが必要だが、たまみさんはさっと回避し、空振りしたところを刻み放題だった。
たまみさんにとってはオグルよりもマジシャンが混じってくるホブゴブリンの集団の方が相性が悪いといってもいいくらい、オグルに対しては一方的だった。
また一匹、大量のパーティクルをまき散らしながら倒れていくオグルを見ながら、このくらいのハンデがないとまた調子に乗るからなとただの一匹として記録に加えた。
結局、予定よりも1時間早い5時間でエリアボス手前のセーフゾーンに到着した。
深追い禁止のせいもあって、進行方向のモンスターをいかに先に奪うかが勝負となっていたため、みんな飛ばしすぎだったのだ。
「にゃ~?」(あたしのほうが圧倒的だったでしょ? と自信を持っているように見える。)
「残念ながら、圧倒的というほどではありませんね。たまみさんが206匹、パーシヴァル達が204匹。かろうじて2匹だけたまみさんが勝ちました。」
「くそー、あと2匹かぁ。惜しいところまで追い上げたんだが。」
「最後に引っ掛けたベビーフォレストジャイアントが痛かったな。あれがいなければ、追いついていたかもしれない。」
「せっかく、たまみちゃんがグリーンモンキーで手こずっていたのにね。」
たまみさんは木に登れるが、木から木に飛び移るモンキー系は少し苦手なようだった。
やはり、近距離攻撃がメインだと逃げ回る敵は時間がかかる。
「シャシャー!」(あの生意気な猿どもは次会ったらギタギタにしてやるわ! と気合を入れてるような気がする。)
「なんにせよ、一度お昼休憩を入れてからエリアボスですよ。ちょうど今、エリアボスと戦っている人達がいるようですね。」
われわれがセーフゾーンのたどり着いた時には既にエリアボスと先頭をしているグループがいた。
人数的には4パーティー分いるが、1パーティーちょっとはあまり戦闘向けではない人たちのようだ。
おそらく、馬車で街道を移動してきて一部の非戦闘職のエリアボス通過を手助けして報酬を得ているものたちだろう。
非戦闘員を庇いながらでも余裕でエリアボスを通過できるツワモノ達が率いているようだった。
私たちの目の前で、セカンの街のエリアボス、サイクロプスが巨大な棍棒を冒険者たちに叩きつけていた。
やはり、書くテンポが悪いと、いまいち流れが悪いですね。
ま、書き直すといつ完成になるのかわからなくなるのでやりませんがw
よろしければ、ブクマ、感想、評価などをよろしくお願いします。
もう少し燃料がないとテンポが……ゴホッゴホッ