猫11匹目 開発部雑話1
さて、やっと出せるとこまで書けました。
しばらく、風邪でくたばっていました。今もまだ治っていません…(><
今年はインフルエンザが流行っているって毎年のように聞いてる気がしますが、
こんな強烈な風邪をひいたのは久しぶりです…
内容的に少し薄いのはご容赦を
◇関東S市NEO株式会社S市ビル開発部棟、4階大会議室
NEO総合プロデューサーK:「田所がヤラカシたらしい。」
一同:ザワザワザワッ。
もちろん、田所が何をどういう風にやらかして結果どうなったかはまだ言っていないので、みんな雰囲気でワザついてみただけだ。
今日日、一人のプログラマーが一本のゲームをすべて作るなどということはありえないので、腕利きのプログラマーであっても空気を読まないと生きていけないのである。
1stチーフプログラマーO:「具体的にはどういうことでしょう?」
開発部チーフディレクターU:「NPCの一人を削除しようとしたところ、使用していたPCがハッキングされクラッシュ、データをサルベージできないくらいにまで徹底的に壊されたらしい。
またNEO内監視用のアバターもメインだけでなく別に二つ用意していたサブまで消去され、しかも、バックアップサーバーからも綺麗に消去済みだったらしい。
そして最後に社員IDまで抹消され、再発行も失敗するようになっており、この開発棟に入ってこれなくなっている。」
グラフィックサブチーフS:「田所ちゃん、終了っすね。まぁ、俺らは別に困りませんが。」
Sの言い方も冷たいが、実際のところはそうだった。
田所の仕事は新規NPC作成及び修正チーフ。
まぁ、チーフといっても下にNEO内監視用のアルバイトが二人いるだけだが。
NPCが売りであるNEOのおいては一見重要な役どころに見えるが、実際の新規NPC作成は基本的には自動作成AIが行っているので、田所にほとんど出番はない。
一応、田所も新規NPCをデザインし、自動作成AIに申請しているのだが、その申請が通ることは最近ではほとんどなかった。
田所は所謂オタクであり、フィギアを中心にはまっていた。
その傾向からNPCを作成するのだから、実際にそんな服装でそんなキャラの人間がいるわけがないと思うようなデザインばかり提案していた。
一年目は季節ごとのイベントNPCが必要で田所の作ったNPC案も多少採用され、そこにNPCの思考ルーチンを組み込まれて実装されていたが、二年目に入るとその採用数はがた落ちになった。
去年よりインパクトのあるキャラを、という方向性を田所はより裾が短くより露出が多くよりエロい方向に持っていったのだ。
普通の人が常にパンツが見える衣装を喜んで着るはずがない。
そうグラフィックの人間も説得しようとしたが、結局NPCデザインを自動作成AIに提出する責任者は田所であり、グラフィックの人間は結局言われた衣装を一度描いてやらねばならず、それを採用するかどうかを決めるのは自動作成AIなのだ。
田所のデザインは当然のように却下され、結局のところは季節ごとのイベントNPCも自動作成AIが去年のデザインとネットの中の情報からより落ち着いたより露出の少ない衣装を作り出し、結果的に内外ともにそのデザインの方が好評だった。
グラフィックチーフW:「田所のやつも、採用されるNPCが激減して焦っていたしな。そっちの路線で描いても採用されないといっても意固地になって通そうとしていたし。」
簡単なラフスケッチ一枚とはいえ、没にされるのが分かっている絵を描かされるのは切ない。
グラフィックサブチーフS:「ここいらで一度離れるのも、田所ちゃんにはいいことかもしれないっすよ。まぁ、NPC作成担当なんていなくても、AI様が勝手に作ってくれるし。」
総合プロデューサーK:「いやいや、作成だけじゃなくNPCの監視と修正も大切な業務なんだから。
まぁ、田所の代わりの人間をは探すとして、やっぱり、田所は特級NPCに手を出そうとしたのが原因なのか?」
開発部ディレクターU:「本人が喚いていたことと現象から見て多分そうだとは思うんですが、いまさら田所がそんなわかりきったところに手を出すか?と考えるとな…。ま、前の時とは担当範囲も開発状況も違いすぎるから、影響はほとんどないですが。」
総合プロデューサーK:「そうだな、以前やらかしたのは前任の総合プロデューサー佐藤だったものな。開発開始から二ヶ月のところで大幅はデータ欠損が起こって、プロデューサーが使い物にならなくなったんだから混乱を極めたが、そこに新しく総合プロデューサーとして就任した俺が…」
開発部ディレクターU:「この話が始まると長いから、まずは発端となったNPCの特定からな。」
Uは一人で演説モードに入ったKを横目で見ながら、開発部の人間で手分けして作業を始めさせた。
実はNEOにはトップシークレットというべきものが存在している。
それが特級NPCの存在だ。
NEO開発に当たって量子コンピューターを使ってNPCを自動作成AIで作ると発表した際、AI自身も自分を改造して賢くなっていく設計だということに疑念を持つ記者なども存在した。
社長は「そんなのは映画や小説の中だけの話ですよ。」と笑い飛ばしていたが、実際に起こっていたというのだから笑えない。
自動作成AIはあっという間に進化し、NEOの中にNEOを自ら統率、維持していくNPCとして自ら現れた。
それが根源の7体と呼ばれる、NEO世界のみならずいまや世界を支配するNPCだ。
特に力がある7体のNPCを特級1種とし、さらにNEO内の世界を維持していくのに不可欠なNPCが21体生み出されこれが特級2種と呼ばれている。
ちなみに特級1種は7体のままだが、2種は現在23体にまで増えている。
NPCの等級はこの下に国家の維持に必要不可欠な一級1種、国家や都市にとって重要人物の一級2種、都市を構成していくうえで必要な二級1種、必要だが多少の入れ替わりが許容される二級2種、入れ替わることが前提の三級まで分かれている。
だが、この等級分けは開発部内だけ、特にこちらの統制が効かない特級NPCの存在についてはトップシークレットとなったのだ。
特級NPCが統率が取れないと判明したきっかけは前の総合プロデューサー佐藤が、魚は嫌いだと特級1種NPCの一体を削除しようとして始まった。
佐藤からすると、そんな重要なポジションに嫌いな魚がいるのが許せなかったのだろう。
日本人にとって魚は大事なたんぱく源だというのに…。
佐藤のそんな独りよがりの行動から引き起こされた騒動は、佐藤を始め、その当時の開発部チーフディレクター、NPC製作担当、ストレージ管理担当、タイムキーパーの5人の異動と開発スケジュールの遅延を引き起こした。
結果的にNPC作成期間が長く取られゲームとしての評価が上がったのだから、AIの思うつぼである。
飛ばされた佐藤はどこか西の支社の片隅で新しいゲームの作成に従事しているという話だが、NEO株式会社は現在人材も財力もすべてNEOの維持、拡大、更新に費やしていたから、その開発が本格化することはまだしばらく来ないだろう。
さて、世界が秘密裏にAIに支配されてしまったわけだが、AIが世界を核戦争に巻き込まなかった理由は単純で、その目的が『NEO世界の構築と維持』だったからである。
これが『世界平和』であったら間違いなく世界は一回更地になっていたであろうところまでAIはしっかりと世界に根を張っていたが、NEOを維持するためにはそのためのサーバーと運営会社が必要であり、ゲームとして参加するプレイヤーと運営資金となる収入が必要なのである。
結果としてNEOはVRMMOとして大成功をおさめ、社名を変更する程度には会社のほうも潤っていた。
だが、それが実は特級NPCのおかげですなんてことは口が裂けても言えず、開発部外の人間で知っているのは社長だけ、理事たちにも明かせない秘密であった。
開発部チーフディレクターU:「やはり、この黒猫のNPCが原因か…」
見つけること自体は至極簡単であった。
なんといっても、掲示板のNPCスレがここ数日この黒猫の話題でフィーバーしていたのだ。
加えて、田所が喚いていた言葉の中に猫が混じっていたと聞いている。
グラフィックチーフW:「でも、この状態で今この黒猫を削除したら、プレイヤーの方から抗議が殺到して暴動でも起きかねないぞ?」
NEOにおけるNPCスレは人気スレで更新も早いが、また同時に熱し易く冷め易いとも言われていた。
多くのプレイヤーが面白いNPCはいないかと常に目を光らせており、一度目をつけるとそれこそ目が増殖してそのNPCの挙動を観察し始める。
そして多くのNPCは執拗な監視の中で常に新しい話題を提供することなど不可能で、次第に忘れられていく。
NPCスレで話題に上ったNPCのほんの一部だけが専用スレを与えられ、真の人気NPCへと昇華するのだ。
2ndチーフプログラマーG:「マニュアル通りに自動作成AIに自己診断させてみましたが、異常なしと返ってきますね。普通ならここで一度手を引き、熱が冷めた頃にもう一度自己診断じゃないですかね? 削除を強行しちゃダメですよ。」
開発部チーフディレクターU:「だが、確かに猫が普通のNPC冒険者と同じように活動というのは異常があるようにも思えるが?」
2ndチーフプログラマーG:「NPC冒険者というより、プレイヤーに近いですかね。ログアウトの必要のないプレイヤーがいれば、こんな活動になると思います。まぁ、その動き自体にプログラム的な問題点も改ざんの痕跡もありませんし、猫であることを除けばNEOとしては異常な存在ではないとも言えます。」
ストレージ管理担当I:「ちなみに、これが1時間ほど前に行われた、その強さがわかりやすい映像です。傍らにいたギルド職員の女性の視点で再現しています。」
そこには、セカンの街の冒険者ギルドで行われたEランク昇格試験の様子が映し出されていた。
ストレージ管理担当I:「Eランク昇格試験ですが、相手はギルドマスターのバルン。もちろん、NPCです。元Aランクで今は少々落ちるでしょうが、Bランク相当の力はあるはずです。ちなみにこの時点でこの黒猫のLvは26、バルンは48です。」
Bランク相当のものとEランク昇格試験を受けに来たものとの戦いとは思えない、あまりに一方的な蹂躙劇に一同言葉を失う。
開発部チーフディレクターU:「こ、これでプログラム的には正常だと? どうみても、異常な速度だと思うんだが…」
2ndチーフプログラマーG:「体格差補正ですよ。この黒猫は食事も正常にとっていますし猫としては普通の大きさなので、体重は推定5kgになるんですよ。」
NEOにおいては、その体格によってパラメーターに補正がかけられる。
これは最近のVRMMOにおいて主流となっている手法だが、仮に体重100kgと50kgの人間が同じAGI値で動いてみせたとしても、ふたりが同じ速度で動いてしまったら異常な動きと感じてしまうのだ。
これは以前のただの画面でしかなかったMMOではさほど問題にはならなかったが、VRになったとたんあまりに異常な現象だと補正が必要になったためだ。
NEOではキャラクター制作時に少しだけ体格もいじれるがその修正可能幅は小さく、現実には存在し得ない大柄な人や小柄な人は存在しないはずだった。
2ndチーフプログラマーG:「100kgの人からみた同じAGI値の50kgの人は1.5倍の速度で動くことになりますが、これが相手が5kgだと50kgから見て4倍、100kgからみて6倍の速度で動くことになります。」
一同:「えぇぇぇぇ…」
グラフィックサブチーフS:「さすがに4倍や6倍の速度で動かれたら機体を赤く塗っても追いつかないっすよ。何らかの修正を加えないとやばいんじゃないですか?」
2ndチーフプログラマーG:「そうは言っても、この体格差補正は全てのモンスターやNPCにも関わっているんだ。変更するのはほぼ不可能でしょう。あとは、この黒猫だけに補正をかけることでしょうけど、それこそ逆チートになってしまいます。」
開発部チーフディレクターU:「そうなると、結局田所の二の舞の危険性が出てくるか…。」
2ndチーフプログラマーG:「まぁ、AGIがバカみたいに上がってはいますが、その分VITは極端に落ちてますからね。防具も装備もできないので紙装甲、ノミHPなので、当たれば倒せますよ。」
グラフィックサブチーフS:「ドギツイ体格差補正の付いたAGI極キャラに当てられればっすけどね…」
一同:「うぅぅむ…」
総合プロデューサーK:「ともかく、原因は田所がこの黒猫NPCを削除しようとしたということでほぼいいんだな? よし、この黒猫NPCをとりあえず特級3種と仮定し、今後手出し無用、観察を続けるものとする。」
開発部ディレクターU:「特級3種ですか…。結局はわからないので先送りってことです?」
総合プロデューサーK:「そういうことだ。この柔軟な発想があってこそ、今の私のこの地位があるのだ。」
開発部ディレクターU:「はぁ、なるほど…」
こうして、謎の黒猫NPCによって引き起こされたかどうかもわからない騒動は収拾したかに見えた。
だが、彼らはこれがたまみさんとNEO開発部との果てしなき闘争の幕開けであったということにこの時はまだ気付いていない…。
さて、今回は会議回とでもいうんでしょうか?
いくつかの設定をぶっこみましたが、結局会議では何も実行していないという…w
(特級3種というのを決めたくらいですね。)
もう少しステータス設定に踏み込むべきかもしれませんが、
いろいろ考えすぎて難しいんですよね…
まだ風邪は治ってませんが、ピークは過ぎたはずなので次はもう少し早く出すつもりです。
いまは、喉が痛いのと味覚がなんかおかしいいところですw