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にゃんこ10匹目 Eランク

今回は第三者視点なのでたまみさんが何を言ってるのかはわかりません。

多分こんな事を言っているんだろうなぁと想像しながら読んでください。


もしかしたら、あとがきを書き換えて正解を発表するかも…(しないかなw

◇とある街の冒険者ギルドマスター


 俺はセカンの街の冒険者ギルドマスターをやってるバルン。


 けして腹が出てきて風船のように膨れたからこの名前になったのではない。

 昔は鍛え上げたスラっとした体格だったし、Sランクへの壁は越えられなかったがAランクまでは上げた堂々としたトップクラスの冒険者だった。

 だが、流石に最近は職員に文句を言われるほどに運動不足にはなっている。



 セカンの街は商業都市である。

 周囲には特別危険な魔物の生息地もないし他国との国境も接していない。

 近くにあるダンジョンもどれも小物でスタンピートが起こる可能性もほとんどない。

 大規模な討伐隊が編成されることも戦争で最前線になることもないのだ。

 この間の東の小国ビルドロアとの小競り合いの際には後方の補給基地として機能したが、冒険者ギルドマスターの仕事は後方で輸送部隊の護衛の割り振りばかり。

 冒険者ギルドマスターが直接指揮を執る規模の大物の魔物の討伐は、10年前まで遡らないと記録に出てこない。



 だが多数の商人が行き交うが故の小さな案件は山のようにある。


 一番多いのは商人の護衛。

 割り振り自体は職員の仕事だが、そこで起きたトラブルに関する書類が山のように出てくる。

 やれ護衛対象を置いて逃げ出しただの、逆に護衛だったはずの連中に荷物を奪われただの、商人の方が報酬を出し渋っただの、道中の待遇が契約と違っただの…。


 次に多いのが、街道沿いにでたモンスターの討伐。

 けれど、この周辺に出てくるのは弱いモンスターばかりで討伐隊を組む程のものは出ない。

 討伐依頼を掲示板で募集するだけで大抵は済むが、たまになかなか依頼を受けてくれる冒険者が出てこないと、ギルドの方で調整してやる必要が出てくるくらいだ。

 小物の盗賊は常に出てくるがそのために護衛を雇うのであり、護衛ではどうにもならない規模の盗賊団は冒険者ギルドを通り越して領主が討伐を指揮すべき案件である。


 結果として、この街のギルドマスターの仕事はほとんど書類仕事になるというわけだ。



「マスター、今日ちょっと面白い冒険者がEランク試験を受けに来ると思うんですが、久しぶりに試験官をやってみませんか?」

「お、面白そうだな。だが、いつもは俺が試験官をやるのを嫌がるのに、今日はいいのか?」

「相手がちょっと特殊なので、普通の人には頼みにくいんですよね…」


 冒険者ギルドにとって冒険者のランクの管理も重要な業務で昇格試験を行っているが、その中でもEランクへの昇級試験は特別だ。

 Fランクへの昇格は貢献ポイントだけで十分であるため、ほかの冒険者に付いて回るだけで昇格する金魚のフンが存在する。

 Eランクに上がるとより危険な地域への入場が可能となっていくため、実力もない他力本願の者を昇格させるのは危険なのだ。

 不慮の事故を防ぐためには、個人の実力を安全な状況で見極めなくてはいけない。


 そこで、Eランクへの昇格は、ギルドが用意した試験官と模擬戦を行い、その内容で判断されるのだ。


 ただ、Eランク昇格試験の試験官はギルドマスターだけの仕事ではない。

 Eランクへの昇格試験自体は本来はどこの街の冒険者ギルドでも行われているが、外界人が大量に始まりの街に出現したことでここ二年弱の間は特に忙しく、試験専用の職員を増員したほか、ある程度の見極めができる高ランクの冒険者を雇ったりして対応に当たっていた。

 外界人のEランクへの昇格試験の件数が一番多いのは始まりの街のギルドだが、人数が多すぎて順番待ちが長くなるので、セカンの街まできて昇格試験を受ける者もかなりの数がいた。

 一時期大量に外界人がEランク昇格試験を受けに殺到し、結構の数の昇格希望者がセカンの街の冒険者ギルドにやってきた。

 ただ、周辺のモンスターは始まりの街よりセカンの街周辺のほうが圧倒的に強いため、ギルドの職員も滞在している冒険者もセカンの街の方が上だ。

 そのため、始まりの街で受けるよりもこちらで受ける方がEランク昇格試験は難しくなると言われているらしい。

 あくまで資質を見るための試験なので試験官に勝利しなければ不合格となるわけではないのだが。


 そう、けしてたまに試験官をするギルドマスターの私が手加減が苦手だから厳しいと言われてるわけではないはずだ。

 ほかにも試験官をする人間はいるのだから、私だけが厳しいわけではないはずだ。

 ちゃんと手加減もできるし、相手の力量を見極めることもできる。

 相手に何もさせずに、いきなり全力でたたきつぶすなんてことは…ほとんどなかったはずだ。

 だから、もう少し普段から昇格試験の試験官を任せて欲しい。

 けして、書類仕事をサボるための口実でも、ストレス発散の気分転換でもないのだから…。



「そういえば、特殊というのはどういうふうに特殊なんだ?」

 件の冒険者がEランク昇格試験を受けに来たと呼ばれたので、さっそく装備を整えながら呼びに来た受付嬢のマリに聞いてみた。

「冒険者ギルドへの登録自体もセカンの街で行われたんですが、あまりに特殊だったのですぐに報告書を作成して届けてあるはずですが。まさか、まだ読んでいらっしゃらない?」

「ははは、もちろん、読んだとも。」

 どうやら、まだ積み上がったままの今日の書類の中にその報告書が埋もれているらしい。

 私を見るマリの目が、どうも誤魔化している私の内心を見透かしているようだ。

「ま、その件も含めて見極めてもらうために、マスターに試験官をお願いするんですがね。」

 マリのため息がもう手遅れですけどねと言っているような気がする。

 少し、悪い予感がしてきた。



 私が試験会場となる冒険者ギルド内の訓練場に入ると、そこには黒猫を連れた若者が待っていた。


 テイマーだから特殊なのだろうか?

 魔物をテイムするにはそれなりの強さが必要だし、連れ歩くには守れる強さとともにある程度の財力が必要となるのでEランク試験を受けにくるものがテイムモンスターを連れているのは確かに珍しい。

 だが最近現れた外界人の中にはLvが低いうちからテイマーを始め、始まりの街周辺の弱いモンスターを無理やりテイムして連れ歩いているものもいるので、全くいないというわけではない。

 見ると青年の装備もなかなか高価なもので、Eランク昇格試験を受けに来るようなレベルではないのかもしれない。


 たまに現れる、冒険者ランクを上げずに先に進み行き詰まって冒険者ランクを上げに戻ってきた冒険者だろうか?

 それならば、テイマーであることも少し良い装備に身を包んでいることも説明がつく。


 それとも、黒猫というテイムモンスターが特殊なのだろうか?

 ペットで猫を飼っているという話はよく聞くが、テイムモンスターとして猫を連れている話は聞いた覚えがない。

 テイム可能な猫のモンスターなどいただろうか?

 黒豹の子供を連れているという可能性もあるが、あれはどう見てもただの黒猫に見える。



「マスター、いっておきますが、テイマーが試験の相手ではなく、あの黒猫が試験を受ける冒険者なんですよ?」

「なに?」

「にゃ~~」

「たまみさん、相手が太っているからって弱いわけではありませんからね? それにどうもあの試験官はギルドマスターのようですし、油断しちゃダメですからね?」

 よくタグを見ると黒猫のタグは内界人のものであったし、青年のタグは外界人のものだ。

 黒猫のタグもテイムモンスターのものではなく、完全に独立した個人についているべきものだ。


「内界の猫が冒険者になったということか? その猫がEランク昇格試験? 一体なんの冗談なのだ?」

 流石にそんな話は聞いたことがない。

 確かに街の中に猫はいるが、外界人が街の外に連れ出すことはできないはずだ。

 たまたま外に出られる猫がいたから、いたずらに連れ回してみたのだろうか?

 その猫がEランク昇格試験を受けに来たと言うならば確かに特殊な案件だが、冒険者として猫を登録したというのがそもそもいただけない。

 これが終わったら報告書を急いで読んで、登録を受け付けた職員をきつく叱らねば。


「シャーーー!」

「たまみさん、別にたまみさんのことを馬鹿にしてるわけじゃないですって。相手が猫だから驚いてるだけで…でも猫だからと侮っていることになるのかな? たまみさんのことをまだ上に報告していなかったりします?」

「いえ、登録した直後に報告書を書いて提出したはずなんですが、まだ読んでいないらしくて…。うちのギルドマスター、書類仕事が嫌いで処理が遅いんですよね…。書類が嫌いなのに、なんでセカンの街でギルドマスターになったんですかねぇ…」

 どうやら、マリが登録したらしい。

 そして報告書を読んでいないことがバレているが、その報告書に猫を登録した納得できる理由でも書かれているのだろうか?

「ちなみに、たまみさんの武器は主に爪と牙なんで刃止めはできませんし、寸止めでも有効打かどうかの区別ができないでしょうからフルコンタクトになると思いますが、大丈夫ですよね?」

「この訓練場には決闘と同じように終了後に体力などを元の状態に戻す機能がありますから大丈夫ですよ。でも、普通のEランク昇格試験は寸止めで行うことが多いですし、当てると痛みはありますがそれは大丈夫ですか?」

「えぇ、そこは仕方ないですね。まぁ、当たらなければどうということはありませんし。ちなみに、やはりギルドマスターさんは強いんですよね?」

「もちろんです。元Aランクの冒険者でしたから。まぁ、あのお腹が元って所を物語ってますが…」

 確かに運動不足がお腹に出てるが、マリのやつも失礼な言い草だ。

「それも試験を始めてみればすぐわかるはずだ。猫だからって手加減してやらんからな?」

「いや、Eランク昇格試験なんだから、少しは手加減しましょうって…」

「な~~~」

「いや、たまみさんもあまりやりすぎないでくださいね? 仮にもただの試験なんですから。」

 青年の言い方も、どちらかというと私の方を侮っているかのようだった。


 黒猫がゆっくりと訓練場の中央に歩み出てきて私と対峙する。

 私も愛用の長剣を構え、その姿を見据える。

 やはり、猫相手にEランク昇格試験を行うのはバカらしく感じるが、これも役目と腹を決めた。



「では、始めようか。」


 そう声をかけた瞬間、黒猫の姿が消えるように黒く霞んだ。

 私はとっさに反応して長剣でその爪を受ける。

 伊達にAランクだったのではない、この位の反応はできるさ。


 と思ったが、受け止めた爪とは違う側の爪が私の胴体に爪痕を刻んでいた。

 そう、黒猫の攻撃は二連撃だったのだ。

 ダメージのパーティクルが宙を舞う。


「な、なんだと?」

「あちゃ~、やっぱりマスターでも猫相手だと油断しちゃいますよね。」

「にゃにゃ~~」

「いや、たまみさん、相手が油断してたところに一撃入れただけですから、まだですって。それに、お腹が出てるからって弱いわけでもないですって。」

「でも、マスターが油断してたのも運動不足で太って動きが鈍ってるのも事実なんですよねぇ…」



 やばい、これは油断していい相手ではなさそうだ。

 相手が猫であるということはこの際忘れよう。


「ふん!」

 上段からまっすぐ振り下ろしたが、あっさり躱された。

 相手が小さな猫であるので水平に振っても全く高さが合わないし、届く攻撃となると限られるので攻撃を読みやすい。

 そしてその小さなサイズでその速度だと、全く攻撃が追いつかない。


 猫であることを忘れてはダメだった…。


 剣を空振りした隙を突くように黒猫が足元を通り過ぎ、脛に強烈な爪擊を加えていった。

 やばい、すね当てを付け忘れている。


 この高さから脛を狙われると反撃の当てようがないし防御も届かず、あっという間に足を削られて動きが止まりかねない。

 体重が増えすぎて動きが遅いどころの騒ぎではなくなるぞ…。


「クソッ!」

 低い攻撃に対応できるよう姿勢を落とすため片膝を突いた。

 この高さなら脛への攻撃も防御できるし、カウンターも出来るはず。


 だが、それは完全な悪手だった。


 黒猫の姿がふっと消える。


 速すぎて見失った??

 いや、これは…。


 とっさに前に頭を下げ、延髄への一撃は回避する。

 だが、続く連撃を背中にまともに喰らい、ダメージのパーティクルが大量に飛び散る。

 今度は延髄への一撃を含む4連擊だった。


 これはシャドーステップ。

 暗殺者系の職業で使えるようになる敵の背後に瞬間移動するスキルだが、コイツが使えるようになるためにはどんな職業でも1次転職していないと無理なはずだ。


 ということは、この猫はもう1次転職しているってことか?


 Eランク昇格試験に1次転職を済ませた冒険者が出てくることもそこまで珍しくもないが、そんな連中は迷うことなく合格にしてもいいと思っている。

 だが、1次転職しているからって猫を合格にしていいのだろうか?


 背中への衝撃を受け流すためにくるりと前転し、反撃しようと振り返ったがそこにはもう黒猫の姿はなかった。

 実に見事なヒットアンドアウェイである。

「にゃ~」

 黒猫は既に十分な距離をあけていて、不敵に前足でヒゲの掃除をしている。

 猫の体格で十分なレベルがあるせいか、スキルを別にしてもバカみたいな速度になっている。


 やばい、これは昇格試験に合格かどうかの世界ではなく、このままだと一方的に狩られる。

 仮にも元Aランクの私がEランク昇格試験を受けに来た相手に一方的に倒されるわけには行かない。


 だが、ここからどうやって押し返す?


 シャドウステップに対応するために振り向けるような腰の高い姿勢にすれば脛を削り放題だし、姿勢を落としすぎるとたとえ膝をついていなくても咄嗟に振り向くことはできない。

 せめて、武器がもう少しリーチのある槍であるか、背後を防御しやすい双剣や盾であったなら…。


「あの、マスター。これは決闘じゃなくてあくまでEランク昇格試験ですから、もう合格でいいんじゃないですか?」

「にゃあ~?」

「いや、たまみさん、倒さなくていいんですって。これはあくまで適性を見るための試験なんですから、勝てなくても十分の強さがあれば合格する話なんです。でなかったらギルドマスターが試験官で出てきませんって。」

「そ、そうだな、Eランクに昇格させてもいい強さだろう。まぁ、猫だが合格としよう。」

 このままではやばかったので渡りに船と猫をEランク合格としてしまった。


「マスター。猫ではなく『たまみ』ちゃんです。これからは猫としてではなく一人の冒険者として扱ってください。」

「あ、あぁ、そうだな、すまなかった、たまみ君。君をEランク冒険者として認めよう。」

 たまみさんはやや消化不良だったのかフンスと鼻を鳴らしていたが、試験の終了を受け入れてくれたようだ。

 訓練モードが終了となり、傷が消えていく。

 もちろん、たまみさんにはかすり傷ひとつ付けることはできなかった。


「では、今日はありがとうございました。」

 たまみさんは無言で出て行ったが、付き添いらしい青年が礼を述べてその後ろを慌てて追いかけていった。

 あの青年はたまみ君と一体どういう関係なのだろう?

 私はその後ろ姿を呆然と見送った。

 ゆらゆらと尻尾の先に揺れる白が、まるで幻を見たかのように私を幻惑する。



「た、確かに特殊な相手だったな。こりゃ、ほかの試験官じゃダメなはずだ…」

「ちゃんと報告書を読まないマスターが悪いんですからね? 明らかにあのままじゃ負けてましたよね…」

「面目ない…」

 これは部屋に戻ったら急いで報告書を読まなくてはいけない。

「あれほどの強さなのは知っていたのか?」

「はい。既に1次転職してからギルドに登録に来ましたし、私は見てませんが登録前に街中で決闘騒ぎを起こしていたのを通りすがりに見た職員がいるんです。

 相手はテイマーで、テイムモンスターのフロストウルフがレベルが上にも関わらず全くなす術なく一方的に倒されていたって話です。

 こりゃ、普通の職員じゃ瞬殺されかねないと思ってマスターに試験官をお願いしたんですが、結局一方的でしたね。」

「あれは完全にEランク昇格試験で出てくる強さじゃなかったな…」

 はぁとため息をついたが、後の祭りだった。

 あれでは脛当てをしっかりつけた上で初めから油断せずに全力で戦っていても、勝てるかどうかわからなかった。



 私はあんな猫も世の中にはいるのだという教訓を心に刻み、報告書を急いで掘り出すべく執務室へと戻った。

元Aランクのギルドマスターをぼこぼこにしてしまいましたが、

あくまで『元』なので、こんなものかと思ってください。

戦士系の人は一線から退いてしばらくしたら、弱くなりますよねw

これが魔法使い系ならまた違ったでしょうけど…


よろしければ、ブクマ、評価、感想などをよろしくお願いします。

最近、じわりとブクマが増えてきましたね(感謝です (ーλー

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