表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こどくなシード 異世界転移者の帰還道  作者: 藤原 司
より強くなる為に
69/202

ムラマサ

「おやあ? 随分朝が早いな? 二代目」


「ムロウか」


 太陽がようやく登り始めたといった時間、ムロウは縁側でくつろいでるリンを見つけた。


「アンタこそ早いな」


「おりゃあいつもこんなもんよ 一番早起きかと思ったら先越されて拍子抜けだぜ」


「どっちが早かろうが変わらんだろ」


「いんや! どんな事でも負けるのは性に合わねぇ!」


「はいはいそうですか」


 リンは適当にあしらおうとしたのだが、ムロウは隣は座ってきた。


「よっこいしょ……っと」


「何だよおっさん」


「せめておじさんぐらいにしてくれねえかね?」


「言われる努力をするんだな」


 縁側の風景を観ていると、綺麗に整備されているのがわかる。


 こういうのを風情があるとでも言うのだろう、リンはこの庭の風景を気に入っていた。


「良いところだろ?」


「まあな」


「……あの人(・・)も好きだったよ この場所が」


「昨日も言ってたな? それは『もう一人の聖剣使い』の事で良いのか?」


 ムロウは聖剣を盗まれた事を気にしていた。


 その理由は『あの人』の大切な物だからだと言っていたのをリンは思い出す。


「そうさ ガキの頃にはよく面倒をみてもらってたなぁ……まあ師匠みたいなものさね」


「師匠ね……アンタに刀を教えたのもか?」


「ご明察 今も目指してるところだ まだまたま足元にも及ばないからな」


 この世界の『もう一人のリン』について懐かしそうに話すその姿は、まるで子供が夢物語の主人公について語るような無邪気で、そして純粋な『憧れ』だった。


「……悪かったな 勝手に決闘なんかに付き合わせて どうしてもお前の顔を見てたら戦わずにはいられなかった」


「そうか……」


「……」


 しばしの沈黙の後、最初に口を開いたのはムロウであった。


「魔王軍との戦い……どう思う?」


 そう言って問いかけてきた内容は至って真剣な内容である。


「……真面目に奴らの強さを見たのは『サンサイド』ぐらいだ 後は幹部の『魔王三銃士』か」


「勝てると思うか? 魔王軍に」


「俺個人の意見で言うならおそらく……『勝てない』 だろうな」


「どうしてそう思う?」


 そう言いながらいつのまにかムロウは煙管(きせる)を手に持ち、それに火をつけて蒸していた。


「風の噂じゃあお前さん『太陽都市 サンサイド』に居たそうじゃあねえか しかも魔王軍が進軍してきたその日に」


「ああ 理由はわからないが魔王軍が退いた 有利な状況にもかかわらずにな だからこうして命拾いしてるしサンサイドも壊滅は免れた」


「聞いたぜ あのサンサイドが手も足も出なかったってな」


「実際の戦力がどれほどあるかは知らん だが『質も量も』あれだけあったのなら 『アクアガーデン』ぐらいなら簡単に落とせる……ここを含めて(・・・・・・)な」


「……」


 黙っていた。


 ムロウは虚空を見つめて何かを考えているのだろう、ただ静かな時間が流れていく。


「……それでも勝たなくちゃあいけねえ」


「負けるつもりはないさ」


「お前との戦いでおりゃあお前さんに可能性って奴を見た気がするんだよ」


「可能性?」


「今のお前さんじゃまだ足りないだろうがよう いつか『あの人』を超えられるんじゃないかって」


「……過大評価だ」


 それは謙遜などではなく正直な気持ちだった。


 こっち(・・・)のリンがどれだけ強いのかは知らないが、『伝説の英雄』として語られる人物に至れるとはリンには到底思えない。


「そうかもしれねえ だがそれでも……お前さんに賭けてみたいと思ったんだよ」


 それがあの戦いの理由だった。


 同じ顔を持つ聖剣使いの実力を、もう一人の聖剣使いを知っているからこそ、実力を知りたかったのだ。


「一応言っておくが俺の目的は『元の世界に帰る事』だ その為に聖剣を集めて邪魔してくる魔王軍を倒してるに過ぎない」


 リンは立ち上がり縁側を後にする。


 だが、歩き出したかと思うとピタリと止まって、ムロウに顔も合わせずにこう答えた。


「まあ……アンタに態々言われなくったて勝手にやるさ」


 そう言い残し今度こそその場を後にする。


 その答えに満足したのだろう、ムロウはニヤニヤとした笑みを浮かべていた。


「それにしてもムラマサの刀っていったら名刀も名刀 非の打ち所がないって言われてるほどの職人ですよ! いったいどんな人なんですかね?」


 向かう場所は伝説の刀匠『ムラマサ』のいる山の麓。


 準備を整え、案内をムロウに任せて出発した。


「さあな」


 今の話しの話題は勿論『ムラマサ』の事だった。


「言ったとは思うがかなり気難しい人さ 会ってくれって言っても余程の事じゃあなけりゃ会うこともしてくれねえ」


「よく会ってくれる気になってくれたわね」


「親父とは旧友だしな まあ頼んだところでまず会ってくれねえだろうが……なんてったって二代目聖剣使い様だからな 今回に関しては少しは興味持ってくれたんじゃあねえの?」


「よかったなリン!」


「まあ貰える物は貰うだけだけさ」


 凄い凄い言われるが、残念ながらリンはどれほどの凄さなのか知らない。


 聖剣の代わりとして貰えるのならさっさと貰って、ここを『カザネ』を出たかった。


(ここに長く長居するのもよくない……魔王軍が俺を狙ってきたのなら早く移動してしまったほうがいいだろう)


 世話になったこの場所を自分が居座る事で危険にさらしたくはなかった。


 何より元の世界に帰る手がかりになりそうな『ド・ワーフ』にリンは行きたいのだ。


(眠り姫……か)


 今手持ちの中で、異世界についての最も有力な情報はこれしかない。


 ここに長居するかという事は、もう一人の異世界からの人物が危険にさらされる可能性も高くなる。


「眠り姫……あまり良い響きじゃ無いな」


「ん? 何か言った?」


「いや……それよりもうそろそろ着くのか?」


「おう この並木道の先にあるぜ」


「道にしてはずいぶんお粗末だかな」


「そうね ずいぶん歩きにくいわ」


 ムラマサの性格のせいか、あまり人と関わりを持たないためなのか、人が通った痕跡があまり無い。


 案内がなければここを道とは思わなかったかもしれない。


「まあ贅沢言いなさんなや ほら見えたぜ あの家だ」


 ムロウが指をさした方向を見ると、小屋があった。


「あそこか……」


「近くの小屋は鍛冶場かしら?」


「おい! あっちの小屋から煙が出てるぞ!」


「今まさに作ってる最中て事ですかねアニキ!?」


 少し興奮気味の三人を尻目に、煙の出ている鍛冶場に近づく。


 だがリンが扉を開くよりも先に、小屋のドアが開いた。


「ん? これは珍しいでござるな こんなところに客人とは」


 現れたのは若い女だった。


 カザネ特有の袴に、長い黒髪を後ろで結ったござる口調のその女は、リン達を見て驚いている。


「まっまさかこの人が……?」


「伝説の刀鍛冶師の……『ムラマサ』!?」


「女!?」


「……ハハ〜ン? 成る程成る程 そういう事でござったか」


 事情を理解したといった表情をした謎の女は、ニヤニヤしながらこう答えた。


「半分正解でござる 確かに拙者も『ムラマサ』でござるが……それはうちの『爺様』の事でござろう?」


「爺様?」


「ってことはこの人は……」


「「ムラマサの孫!?」」


「大正解でござる〜」


 パチパチと手を叩き、女は自分の正体を明かした。


「拙者はアヤカ 『ムラマサノ アヤカ』 伝説の刀鍛冶と呼ばれる『ムラマサノ ヒャクヤ』の孫娘でござるよ」


 この出会いはリンにとって、地獄の日々の始まりでもあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ