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こどくなシード 異世界転移者の帰還道  作者: 藤原 司
姿見せる三銃士
51/202

違い

 極大の炎の矢を、リンは射る。


「大きい!?」


「きたぜ! アニキの特大の一撃!」


「ぶちかませぇ!」


 誰もが勝利を確信する。あの攻撃で無傷ですむはずがないと、少なくとも深手を負わせられるはずだと。


「期待通り! やっぱこうでなきゃね!」


(なんだ? 奴の左手が光って……)


「こいつで答えたげるよ!」


 ツヴァイが左手で地面を殴りつけるとその地面がツヴァイを囲むドームのように包み込む。


 狙い通りの場所には放たれた。だがこれでは直接当てられない。火の矢が着弾すると一気に燃え広がり、周りに熱風を引き起こす。


「ちっ! 防がれたか!」


「そのとーり! 残念だったね」


 リンは地面に転がりながらも、態勢を立て直してツヴァイを睨みつける。


 先ほど囲んでいた地面が元に戻り、ウキウキとした足取りで姿をあらわした。


「当たってたら流石に危なかったかな〜だからこうして力を使わせてもらったよ あっ! でもちゃんと左手で出したらね!」


「……知ってるよ」


 これならいけるとリンは思った。倒せるかどうかは別として当てることぐらいはと。


 だがここまで実力差があると、恐怖や驚きではなく逆に冷静になってしまう。


(これが魔王三銃士か……ってことはアイン(あいつ)も同等レベルってことかね)


 あんなふざけた態度のヤツまでこんなに強いのかと思うと、己の無力さを痛感させられる。


(やっと手がかりがあるってのにここで終わりか……見逃してはくれないだろうな)


 もはや戦意は削がれてしまったが、諦めたくはなかった。


(あれ……? なんでだ? 少し前までは別に死んでもよかったのに……)


 ここに吸い込まれる前も、ここでの戦いの時も、別にどうでもよかった。


 自分がどうなってもいい存在だと、リンは思っていたからだ。


(なんでだ? 今でも自分がすこぶる嫌いなのに……)


「ね〜? ちょっといいかい?」


 ツヴァイがこちらの動きがないのに痺れを切らしたのか、リンに問いかけてくる。


 我に返り、ツヴァイを見る。何度見ても、やはり疲れや怪我は見当たらない。


「なんだ? 一旦引いてくれるのか?」


「いやいやいや それはないかな? むしろ物足りないから両手使って遊ぼうと思ってんだ。」


「ああ それはずいぶん絶望的な提案で」


 手加減されてこの有様だというのに、これ以上加減を解かれたらもはやリンは打つ手がない。


「いや〜そんなつもりなかったんだけど楽しくなっちゃってさ」


「こっちはお前の強さにうんざりしてたんだがな」


「素直でよろしい! ご褒美にちょっとだけ本気で相手してあげる」


「褒美に本気で帰ってほしいよ」


 ツヴァイの口元がニヤリと笑う。そのままさっきとは比べ物にならない速さでこちらの間合いへと入ってきた。


 咄嗟のことだった。聖剣を戻し、もう一つの聖剣へと持ち替える。


「ガイアペイン!」


 土の聖剣『ガイアペイン』を盾として展開する。


 思うように振り回さない大剣。しかしこうして本来の用途とは違うが、地面に突き立てて即席の壁として利用した。


「新しい聖剣……なかなかカッコイイじゃん!」


「こう見えて見掛け倒しだがな」


 ツヴァイの拳はガイアペインが受けて止める。リンの予想通り、この用途に適してくれていた。


「こんな殴っても壊れないなんて流石は聖剣だぁ!」


「だな 持ち主が壊れそうだ」


 受け止めてはいるがその分の負担は大きい。それでもまだ立てているのは、ツヴァイがわざと聖剣を殴りつけてくれているおかげで助かってるだけだ。


「吹き飛びな!」


 今までより力を込められた突きが放たれたれる。耐えるのには、流石に限界だったリンへのトドメにはちょうどよかった。


 後ろに吹き飛ばされる。その場所はチビル達がいるところだ。


「おい大丈夫かよ!?」


「大丈夫に見えたらすごいな……」


「軽口叩けるならまだ大丈夫ね」


「ああ……なんとか」


 頭からいかなくてよかったと、そんなこと考えられているのならまだ大丈夫だろと、冷静に考える。


「オレも戦いますよ! それならまだ勝ち目がある!」


「そんなものは『無い』 今の俺達には絶対無理だ」


 桁違いの強さを目の前にし、今の自分達にはうつ手がないと察した。


 勝つ事では無く、この場を切り抜ける方法をリンは考える。


「じゃあどうする? 逃げるしかもうないけど」


「上手く行くならな それもあの速さなら追いつかれる」


 完全にお手上げであった。


 戦えば負け、逃げればすぐに追いつかれる。ならやれる事はもう一つしか残っていない。


「お〜い そろそろこっち来なよ」


「お前が吹っ飛ばしといてよく言うよ」


「待って! 勝ち目はないのに戦う必要なんてないわ!」


「必要はなくても……やらなくちゃいけないだろうが」


 制止を振り切ってツヴァイのもとへ行く。


 選択肢はただ一つだ。


「本当に……嫌になるな」


 ガイアペインを石に戻し、ツヴァイへ向かって走る。懐に入ると再びガイアペインを出した。


(持てないなら……出して戻すを繰り返せばいい それならわざわざ持たなくていい)


 はじかれると戻し、再び出して斬りつける。重い一撃はどうやら多少は効果があるようだ。


「ホント重いなそれ! 受け止めるコッチの身にもなってよ!」


「そりゃ俺のセリフだな」


 遠巻きに見るシオン達は悔しい表情を浮かべる。


「オレは行くぞ! これ以上アニキにばっか頼っちゃダメだ!」


「待ちなさい! 勝ち目はないのよ それでも戦うのは無謀だわ!」


「だったらどうするんだよ!?」


「逃げるしかないでしょ!」


「そうだな リン(アイツ)が一人で戦うって言うのも時間稼ぎのためだしな」


 皆言わなくてもわかっていた。


 逃げるしか選択肢がないのに相手から逃げられないのなら、誰かが(・・・)時間を稼ぐしかない。


 それを今実行に移しているのはリンであった。


「オレは! アニキを見捨てるぐらいならここでぶっ殺された方がマシだ!」


「レイ!」


 呼び止めるが言うことを聞かず、レイは走り出してしまった。


 シオンは止めようとするが、足が動こうとしなかった。


「なんでよ……なんで私は動けないのよ……」


「レイは馬鹿だからさ ああいうことできるんだよ」


 行動派のレイと理性派のシオンとの違いだった。


 それだけのことの違いが、シオンはとても悔しかった。


「私も……今だけでいいから馬鹿になりたい」


 恐怖に足がすくんでしまう自分に腹を立てながら、シオンは戦いを見守る傍観者になるしかなかった。

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