強者
雷迅の左手から放たれた閃光を躱す。あの一撃を受けてしまえば、ひとたまりもないというのはすぐにわかった。
ギリギリだった。自分でもよく回避することが出来たなと思わず感心する。
「レイはシオンを安全なところへ運べ! チビルは応援を呼べるか知らせに!」
「あいよ!」
「アニキは!?」
「俺が相手する」
この狭い地下牢の空間では、一人を相手にするのにかえって動きづらくなる。
なら一人のほうが良い。その方が気も楽だ。
「いいねその面構え……オレの相手にとっては不足なしとみたぁ!」
雷迅は笑みを浮かべている。
すぐに分かった、あれは戦いをまるで『スポーツ』として、楽しんでいるのだと。
「楽しそうだな」
「伝説の聖剣使い様と戦えるんだ 胸が高鳴るのは当たり前だろう?」
「悪いが二代目なんでな 過度な期待はするなよ」
「強いかどうかはオレが決める 二代目かどうかなんて知らねえよ!」
そう言うと勢いよく距離を詰めてくる。リンはすぐに火の聖剣『フレアディスペア』を手に取り、剣を振るう。
案の定聖剣は躱された。だが剣から放たれている炎によってそのまま攻撃されることはなかった。
「火の聖剣か!」
「行け!」
隙は作った。あとは逃げられるだけの時間を作って、あとで合流すれば良い。
「了解!」
「無理すんなよ!」
雷迅が怯んでる隙に二人を行かせた。これで心置きなく戦える。
「話には聞いていたが……噂通りのいい炎だ」
「これも食うのか?」
「冗談 オレは電気専門なんでね」
「もっとも……問答無用で喰らわすがな」
「言ってくれるね それじゃあ試してみるかい!?」
雷迅は左手をかざす。再びさっきの閃光を放つのだろう。
「あんたの火力とオレの電力! どっちが強いか勝負といこうや!」
再び放たれた閃光が雷撃となって勢いよくこちらに向かう。これを躱わしたところですぐに第二波がくるだろ。ならばここは相殺するべきだ。
「火剣『紅蓮突貫』」
こちらも聖剣から勢いよく炎を噴射して、放たれた雷撃に対抗する。
雷の閃光と炎の閃光が激しくぶつかり合う。初めは互角だったが徐々に押され始めている。
「どうした!? そんなんじゃやられちまうぜ!」
「くっ!」
このままでは持たない、だったらここは聖剣を下ろし閃光を躱す。
それと同時に剣に炎を貯め、それを放つ。
「『熱波飛炎』」
剣を振るうと、炎の剣が相手に向かって飛んで行く。一点特化の紅蓮突貫と違いこの技なら範囲が広い。この狭い空間なら当たる確率は高い。
「甘いね!」
雷迅はすかさず使っていなかった右手から電撃を放ち、それを相殺した。
だが先に動いていた分、まだこちらに分がある。そのまま接近し剣で斬りかかる。
「これで……どうだ!」
先ほど相殺されたおかげで煙幕ができていた。相手の判断を鈍らせるのには十分なはずだった。
「それも甘い」
後ろ回し蹴りだった。煙幕を利用していたのは雷迅も同じだったのだ。
大体の位置は把握できていたが、相手が何をしていたかまでは視認することはできていなかった。
「ゴフッ!?」
迂闊だった。
その鋭い一撃は、左の横腹に命中した。躱すことなどできなかった。
完全に読まれている。今までの戦いでなんとなく戦えていた程度の実力では、まるで歯が立たない。
聖剣を維持することもできなくなったのか、聖剣は消滅し、リンの中に戻ってしまった。
「スジはいいがキレがない 場数の差ってやつかね」
「ゴホッゴホッ!」
「技に頼りすぎだぜ 戦いじゃあ感覚がものを言うんだからよ」
「アドバイスどうも……」
「立ちな 寝んねしてても勝てねえぞ」
その差は圧倒的だった。殺そうと思えばすぐに出来るのだろうが、戦いを楽しんでくれてるおかげで命拾いしている。
でもこのままでは勝てない、そう悟った。
(この状況下が勝てる可能性はほぼゼロだ……どうする?)
今の状況を打破するために、頭を最大限に回転させた。まだ手はあるはずだ。
そして一つだけまだ試していないことがあった。
(土の聖剣『ガイアペイン』……)
それは海賊ナイトメアの船長『クレア』に譲り受けたもう一つの聖剣『ガイアペイン』だった。
(あまりにも博打すぎるが……これしかない)
火の聖剣『フレアディスペア』の時と同じように手に力を込める。すると手には土色の賢者の石が現れた。
(こんなことならさっさと試しとけばよかったな……)
後回しにしていなければ、もう少し頼れてたのだが遅かった。
今度貰う|聖剣『アクアシュバリエ』はちゃんと確認しておこう。
(反省は後だ……これでなんとか切り抜ける)
「その顔はまだ諦めてねえって顔だな?」
「ああ何でだろうな 諦めれば楽なのに」
「そりゃあ困るな……俺はもっと楽しみてえからよ!」
そう言いながらリンの顔面を蹴り上げた。その追い討ちを軽減することもできず、そのまま意識を失いそうになるがぐっと堪える。
「見せてみろ聖剣使い! まだ戦えるなら暴れようぜ!」
「どうなっても知らねえぞ! 木偶の坊!」
もう考えない、目の前のこと以外。こいつは間違いなくここで倒さなくては危険な敵だ。ここの電力を食べ尽くしたのであれば今のアクアガーデンの防衛は少なからず手薄となっているはずだ。
そんなところを魔王軍に襲われたりでもしたら、襲われて大きな被害を出した『サンサイド』のようになってしまう。それだけは何、としてでも食い止めなくてはいけない。
「こい……『ガイアペイン』!」
右手に握られた賢者の石は砂塵を纏い、光を放つ。




