最低の別れ
「基礎? 異なる世界? 何を言っている」
態度が変わったことにも驚くが、それ以上に理解できない内容に質問するしかない。
いくらなんでも馬鹿げた話だと。
「そのままの意味だ お前は次元の穴に吸い込まれたはずだ」
意味がわからなかった。
だが、吸い込まれたと言う言葉にリンは心当たりがある。
「……それが本当だとして何故俺が吸い込まれた? どうしたら帰れる」
「それは俺も知りたい」
どう言う意味だ?
この男も吸い込まれたと言うことなのだろうか?
「一体何故お前は来た? 何か特別な力があるのか? それともその顔だけか?」
「言ってる意味が一つもわからない だいたいなんだ顔だけってのは」
「答えろ」
そう言うと突然首を掴まれ、後ろの木に叩きつけられる。
首を絞める力は普通の人間とは思えない程の力だった。
「ガッ……ハッ!?」
「答えろ」
無茶を言うな。
あんたのせいで話せないんだ。
いいから手を離せ。
一発ぶん殴る。
頭の中では言葉が出るが声に出せない。意識が飛びそうになる。
だが、黒コートの男は何かに気づいたのか顔をリンの顔に近づける。
「お前は……? そうか……そう言うことか!」
そう言うとさっきまでビクともしなかった手の力を緩め、リンを解放する。
「ゴホッ! ゴホッ!」
「お前は『反対なのか』!」
「意味が……わからん」
一発ぶん殴ってやりたいが、その気力はすでに失われていた。
それにここまで力差があるのなら簡単にねじ伏せられていただろう。ある意味助かったのかも知れない。
「お前はわからなくていい! いやむしろ無知のままでいろ! その方が都合がいい!」
何がおかしいのか「HAHAHA!」と高らかに笑う。
その笑い方が非常に腹ただしい。
「……今すぐあんたを殺してやりたい」
「そうされたいのは山々だが今は遠慮させてもらう その代わり……お前にいいことを教えてやろう」
そう言うと、黒コートの男はリンから見て左の方向を指差す。
「そこをまっすぐ行くと出口だ な〜に行けばわかる」
「信用できんがな」
「だが行くしかない 信用するしか選択肢はない」
実際その通りだった。
右も左も分からないならどこに行っても同じだろう。運や勘に頼るのはさすがに無謀すぎる。
こいつはそれを知っていて教えたのだ。
「悪趣味だな」
「十人十色と言うだろう〜?」
ぶん殴りたい。
こいつに限ってははそんな事絶対言ってはいけない。
気力も戻ってきたので一度ぶん殴ろうと殴りかかるが、それを難なく躱すと軽々と5メートルはあるであろう木の枝まで跳躍して見せた。
「降りろ猿野郎」
「猿に失礼だろウ?」
「いきなり喋り方戻すんじゃねよ」
だいぶ慣れてきたのかこいつは何が出来ても不思議ではないと思えてあまり驚かなかった。
「最後に一つ教えてやる さっき行った道をすすめば街が見えるはずだ まずはその街の城に迎えばいい お前を手厚く歓迎してくれるはずだ」
「その理由は」
「『英雄顔』だから」
やはり意味がわからない。
「こちらから一つだけ質問させナ お前の名前ハ?」
「……優月輪だ」
「リン……名前もか」
「何がだ」
「顔と一緒の意味サ」
その意味もわからないのだが。
「そうかい黒ピエロ 世話されてやったぜ」
話してても埒があかない。十分に話も聞けただろう。
参考になったかは別としてだが。
「ならそろそろお暇させてもらいますヨ 次会う時が楽しみダ」
そう言うと黒コートの男は闇のなかえ消えて行く。
黒コートが消えた後、さよならの挨拶代りに右手の中指を立てて見送り、リンは唯一の道を進み出す。