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こどくなシード 異世界転移者の帰還道  作者: 藤原 司
大海の海賊たち
14/202

めんどくさいやつ

 キーンと、頭にまで響く声。耳が痛い。遠くからの声だったが、まるで近くで叫ばれたようで身体がビリビリする。


「どういう事だよ兄ちゃん! そんなナヨッとしたやつのどこがいいんだよ!」


「にっ兄ちゃん? 兄弟か?」


 赤毛で小柄な海賊員。


 先程の声の主人の正体である。


「ああ紹介してなかったな コイツは『レイ』ってんだ よろしくな」


 いつもの事なのだろうか、さっきの怒号にも動じずにサラッと紹介する。


「おいテメェ!ちょっとでも兄ちゃんに触れてみろよ! 絶対ぶっ殺してやる!」


「はぁ……」


 突然の殺害予告に疑問を覚えるが、余計な口出しはかえって状況を悪化させそうだったのだやめた。


「丁度良かった レイ お前雑用の仕事教えてやってくれ」


「何でだよ!? こんな奴さっさと船から降ろしてやろうぜ!」


 何でここまで嫌われているのだろうか。今回コイツとは初対面なのだが、まるで親の仇のように睨まれている。


「まあまあ お前子分欲しがってたろ? 少しの間だし仲良くしてやってくれ」


「ええ〜!?」


 アレクは何とか説得しようとしているが、やはり乗り気にはなれないようだ。まあ余所者にあまり長居されたくないのだろう。


「俺も長居する気は無い さっきの話はもともと聞く気は無かったしな」


「テメェ! 兄ちゃんの誘いを断るだとぉ!?」


「どっちなんだよ」


 この『レイ』とかいう奴は面倒くさい、すごく面倒くさい。非常に面倒くさい。


 あまり関わりたく無いタイプだ。


「わかったよ兄ちゃん こいつボロ雑巾みたいに使い倒していいって事だよな?」


「まあそういう感じで頼むわ」


「人ごとだと思ってアンタは……」


「まあまあ 仲良くしてやってくれ」


 肩をポンポン叩いていってアレクはその場を去るっていく。なるべくならコイツと二人っきりにしないでほしかった。


「よし! じゃあ付いて来い! お前には浴場掃除とか皿洗いとか仕事は山ほどあるからな」


「一つ聞きたいんだがチビルはどうした?」


「あの小悪魔か? そいつなら今偵察して貰ってるぜ 空飛べるのは便利だからな」


 チビルはすでに居場所を見つけているようだ。それで残った俺は余り物の仕事をか。


「お前海賊の掟のことは聞いたか?」


「ああ 『使えるものは何でも使え』だったか?」


「そして俺から一つ追加で『兄ちゃんに無断で近づくな』だ」


「努力するよ」


 これはアレか、所謂『ブラコン』という奴か。ここまで酷いのは初めて見たが。


「よし! ならこのオレがキチンとレククチャーしてやるからありがたく思えよ!」


「いえっさー……」


「もっと声だしやがれ!」


 ああ、本当にめんどくさい。


いったいいつまでこの生活が続くのだろうか。不安しかない。


「まずは浴場掃除からだ!」


 連れられた先の最初の仕事は浴場掃除だった。


 船の中ではあるがなかなか広い。大浴場と言っても良いだろう。


「思ってたよりも随分広いな」


「海の上での暮らしがどうしても長くなるからな 清潔に保つ事は自分と他の連中の『命』を守る事にも繋がる……って兄ちゃんが」


「受け売りかい」


「入る時間は決まってるからな いつでも入れるわけじゃないから気をつけろよ」


 ここの海賊はルールには厳しいのか幾つも掟と呼ばれるものがある。守らないと重りをつけて海に投げ出されるんだとか。


「じゃあこの風呂の掃除は十分以内に終わらせとけよ」


「さすがに無理じゃないか?」


「何言ってんだ? この後厨房の方にも行かなくちゃいけないんだぞ」


 結構なハードワークだ。インドア派の自分にはなかなか辛い。


「つべこべ言う前に手を動かしな 『雑用はただ無心に働く 命がけで』って掟を知らねえのか?」


「知るわけないだろ なんだそのブラック企業」


「テメェ兄ちゃんの掟が聞かねえってのか!?」


「はいはいわかりました」


 なんてめんどくさいのだろう。忠義を尽くすのは良いが、ここまで来ると信仰対象、宗教だ。


「なんでそんな兄貴が好きなんだ?」


「オレの唯一の肉親だからな」


 意外に重かった。これは軽はずみに聞いてはいけないことだった。


「無神経だったな すまん」


「ああ? 別に謝られるようなことでもねえよ」


 そうは言うが気にしてしまう。


「物心ついた時から親はいなかったし 知ってるのは前の船長と兄貴くらいだぜ」


「今は二代目なのか?」


「兄ちゃんは『アース船長』から継いだんだ オレ達の育ての親がアース船長でなんでもオレ達の親父の弟なんだとか」


「それで今は二代目を継いだと」


「エドの野郎のせいでな」


「エド?」


「海賊グールの船長だ」


 最初にあった海賊の奴らの船長か。

仲が悪いと聞いていたがそう言う理由があったのか。


「元々エドのやつはこの船のやつでな 裏切り者さ」


「大方自分か船長にでもなりたかったんだろうな」


「そうだったみたいだぜ? 裏で何人もエド派のやつを集めたやがったのさ」


「じゃあもしかしてその時にアース船長は……」


「ああ……その時にな」


 本当の親も、育ての親ももういない。だからこそこいつはアレクのことが心配だったのか。


「ほらほら! 無駄話はこれくらいにしてさっさと掃除掃除!」


「はいはい」


「なんだそのやる気のない返事は! もっと大きな声で!」


「はいはいわかりました……」


言い掛けたその時、外から爆音が聞こえた。

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