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転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH  作者: 小坂みかん
* 死神生活一年目 *
5/364

第5話 びば★のんの

挿絵(By みてみん)

 寮内のとある場所で、死神ちゃんは迷っていた。神妙な面持ちで見つめるその先には、入り口が二つ。その双方へと交互に視線を投げ、そして死神ちゃんは頭を抱えた。



「どっちに入るのが正解なんだ……」



 死神ちゃんは深い溜め息をつくと、はためく温泉マークに背を向けた。そして、とりあえず一度、自分の部屋へと戻ることにした。




   **********




 死神ちゃんも関わっているこの〈ダンジョン運営〉は、さながら企業のようだ。だからお給料もちゃんと出るし、完全週休二日のシフト制で休日も保証されている。

 研修期間中、死神ちゃんは〈帰って寝るだけ〉の生活を送っていた。あまりにも濃密な出来事の連続で疲れきってしまい、夕飯を食べに行く以外はどこに寄ることもできず、帰ってすぐに朝まで泥のように眠るという五日間だった。

 そして迎えた初の休日、昼近くまで惰眠を貪った死神ちゃんは、寮の近隣にある食事処へのんびりとブランチをしに行った。帰ってきてからはマッコイが歓迎会を企画してくれて、ちょっとしたゲームを楽しみつつ寮のメンバーとの顔合わせを改めて行った。シフトの関係で全員とは会えなかったが、どの人も親切で優しくて、死神ちゃんは楽しい時間を過ごした。女性陣に抱きかかえられ大好きなスイーツをこれでもかというほど堪能し、男性陣とは〈(おとこ)の会話〉を楽しんだ。

 夜になり、死神ちゃんは寮内に風呂があることを思い出した。疲れの抜けきらない死神ちゃんは、湯に浸かってリフレッシュしたいと考えた。しかし――



「なあ、俺はどっちに入ればいいと思う?」



 死神ちゃんが真剣な顔でそう言うと、共用のリビングで寛いでいた面々の表情が固まった。



「言われてみれば……どっちなのかしら……」


「えっ、別に私らと一緒に入ればよくない?」


「でも、(かおる)ちゃんって、中身はおっさんなんでしょ? 男の人と一緒に入るのは、ちょっとなあ……」


「じゃあ、俺らと一緒に入る?」


「いや待てよ。お前、ペドじゃん。中身おっさんだって知ってるから今は何とも思ってないにしても、さすがに裸見ちゃったらそんなの関係なくなるんじゃね?」


「やだ、それ、薫ちゃんがピンチ!」



 ああでもないこうでもないと言い合う同居人達を、死神ちゃんはげっそりとした顔で静かに見つめた。一体、本当に、どっちの風呂に入ればいいんだ――。

 すると、そこへマッコイがやって来た。彼は事情を聞くと「じゃあ、アタシと(・・・・)一緒に入りましょう」と笑った。



「ん? アタシと(・・・・)?」



 不思議そうに首を傾げた死神ちゃんに、マッコイは苦笑いを浮かべた。そして彼は死神ちゃんを手招きすると、リビングから出て行った。




   **********




 マッコイは男湯の暖簾(のれん)に〈マッコイ使用中〉という札をかけた。死神ちゃんが不思議そうにそれを見ているのに気づいた彼は、苦笑いを浮かべて言った。



「気にしないようにしていたって、結局は何かと気を遣うのよ。みんなも、アタシも」



 ああ、と死神ちゃんは相槌を打った。彼が先ほど「アタシと」と言ったのは〈どちら(・・・)と一緒に入るのかを悩むのならば、それ以外(・・・・)と入ればよい〉というわけだ。



「この折衷案のおかげで、優雅に貸し切り。浴槽も広々!」



 彼は札を揺らしながら笑ったが、心なしか表情を暗くして「やっぱり、〈アタシと〉は抵抗ある?」と遠慮がちに聞いてきた。死神ちゃんはケロリとした顔で「全然」と答えると、率先して暖簾を(くぐ)った。


 幼女になってから一週間が経とうとしていたが、死神ちゃんはいまだに服の脱ぎ着に慣れずにいた。というよりも、腕のリーチが微妙に足りず、まだ〈上手にやれるコツ〉を掴んでいなかった。

 死神ちゃんが脱衣に手間取っていると、マッコイが手伝ってくれた。無事にかぼちゃパンツ一枚になるまで脱ぎ終えた死神ちゃんはふと、彼を見上げた。そして思わず呟いた。



「脱いだら凄いんだな……」


「あら、薫ちゃんったら破廉恥ね!」



挿絵(By みてみん)



 ニヤリと笑った彼に、死神ちゃんは真っ赤な怒り顔で抗議しようとした。しかしそれを「冗談よ」と遮って、彼は続けて言った。



「アタシもこう見えて、その筋(・・・)の〈名うて〉だったのよ」



 マッコイが遠慮がちに笑うと、死神ちゃんは納得の表情で笑い返した。二人はそのまま笑い合いながら浴室へ入っていき、そして死神ちゃんはマッコイに頭を洗ってもらった。邪魔にならないよう髪をまとめ上げてもらい、体を洗ってから仲良く湯に浸かる。死神ちゃんはしみじみと、母親(・・)がいたらこんな幼少時代を送ることができただろうかと思った。



「お風呂に入りたい時は、いつでも声をかけなさいね」



 そう言って、マッコイは死神ちゃんに笑いかけた。死神ちゃんはムスッとした顔を照れくさそうに赤くすると、無言でコクンと頷いたのだった。





 ――――こうして、死神ちゃんの初めての休日はほっこりと()けていったのDEATH。

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