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転生死神ちゃんは毎日が憂鬱なのDEATH  作者: 小坂みかん
* 死神生活三年目&more *
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第339話 死神ちゃんと追加戦士③

 死神ちゃんはダンジョンに降り立った瞬間、何者かが直下から突き抜けるように通過していった。思わず死神ちゃんが悲鳴を上げると、通過していった本人も上空で悲鳴を上げた。遠くから聞こえてくるステータス妖精さんの声に耳を傾けながら、死神ちゃんは全方位に視線を巡らせた。一体何が行われているのかと首をひねると、先ほど打ち上げられて上空に舞い上がった者が落下してきた。



「ぎゃあああああああ!!」



 落下してきた冒険者も死神ちゃんも、再び盛大に悲鳴を上げた。冒険者は死神ちゃんを貫通すると、そのまま砂地にめり込んだ。一緒に打ち上げられていた二名は、頭から砂に刺さってもがいている黒ジャージを呆れ顔で見つめた。



「黒澤さん、練習だからって気を抜かないで、もっと真剣にやろうよ」


「ちょっと待ってよ! 今、僕、二回何かを貫通したんだけど! 見てたよね? 見てたでしょ!? そりゃあ驚いても仕方ないよね!?」


「あ、何だ、ブラックさんじゃん!」



 青ジャージの小人族(コビート)が〈黒澤〉と呼ばれた黒ジャージのコビートと言い合いをしていると、赤ジャージのコビートが死神ちゃんを指差して目を瞬かせた。すると、黒澤がギョッとした表情でうろたえだした。



「ちょっと、赤井君! ブラックは僕でしょ!? 何を言ってるの!? ――あっ、君はいつぞやの女の子!」


「悪いな、黒澤。実は俺、お前よりも先にブラックとしてジャージメンに加入させられていたことがあるんだよ。……不本意ながら」


「もしかして、やる気出して追加戦士・ブラックの座を奪いに来たの!? やめてよね!? そういうのは、あの子だけで十分だよ!」



 あの子? と死神ちゃんが首を傾げると、黒澤は少し離れた岩場を指差した。そこには岩に隠れるように、しかしながらバレバレな感じで白ジャージを着た縦ロールヘアーのコビート女子が身を潜めており、じっとりと恨めしげな視線をこちらに投げつけていた。


 このコビートたちは〈ジャージメンファイブ〉というヒーローグループを自称する冒険者集団である。黒ジャージのブラックこと黒澤君は、ジャージメンの紅一点・ピンクの桃子ちゃんの同郷の幼馴染だ。黒澤君は里にいる間、年上の桃子ちゃんに守られっぱなしだったのだが、今度は自分が桃子ちゃんを守りたいという思いから、先に里を出て冒険者になっていた彼女のあとを追い、陰ながら彼女のことを守っていた。しかしその後、黒澤君はジャージメンたちの前に姿を現し、追加戦士として堂々と活動するようになった。

 普段は〈追加戦士たるもの、五人がピンチになってから颯爽と現れる〉という信条のもと、今まで通りこそこそと五人のあとをついて回っていたのだが、本日は〈六人揃ったときに繰り出す技の練習〉ということで、彼らと行動をともにしているそうだ。



「ちなみに今のは、魔法で作ったトランポリンで上空に三人飛んで、降りてくるときに敵に大ダメージを与えるっていう技の練習をしていたんだよ」


「へえ、ちょっと面白そうだな」


「じゃあ、君もやってみる?」



 赤井の提案に、死神ちゃんはきょとんとした顔を浮かべた。赤井と黒澤は死神ちゃんを挟み込むようにして手を取り〈定位置〉に連れて行くと、他のメンバーが気合いの篭った声で技名を叫んだ。



「トリプルダイナミックしばき倒しドロップッ!」



 彼らの叫び声とともに死神ちゃん達の足元に魔法陣が現れ、死神ちゃんは空高く打ち上げられた。落下が始まると、赤井と黒澤はドロップキックの体勢をとった。死神ちゃんもそれに倣ってキックの姿勢をとると、落下速度が加速し、敵に見立てたカカシに勢い良くぶち当たった。

 赤井も黒澤も微妙に着地に失敗していたが、死神ちゃんは華麗に着地を決めた。スッと背筋を正して体を起こすと、死神ちゃんは目をキラキラと輝かせた。



「やばいな、これ! 楽しいな!」


「しかも、すごく格好いいだろう!? ヒーローには、決め技は必須だからね! だけど、こういう技は天井が高いところでないと使えないから。だから天井を気にせず練習できる砂漠地区(ここ)で練習していたんだよ」


「ところで、あの白がめちゃめちゃ呪わしげに睨んでくるんだが……」



 死神ちゃんは頬を引きつらせると、岩場から呪詛を投げつけてくる縦ロールを眺め見た。黒澤は疲れた表情を浮かべると「僕もずっと、そういう目で見られるんだよ」とこぼした。

 どうやら縦ロールは〈六人目〉に収まりたかったらしい。しかし、自分よりも先にその座を得た黒澤のことをライバル視して付け回しているのだとか。



「しかも、彼女、どうやら桃子ちゃんのことを慕っているみたいじゃあないか」


「だから、僕、余計に目の敵にされているんだよね……。手紙が届いたと思ったら、カミソリが入っていたりとか。靴に画鋲が入っていたりとか。あの子と遭遇してから、そういうことも起こるようになって」


「何だ、その典型的な嫌がらせは。――そういえば。さっきの技名って……」



 死神ちゃんが苦い顔を浮かべると、黒澤は嬉しそうにうなずいた。



「うん、そうだよ。桃子ちゃんが名付けてるんだよ。格好いいよね」


「道理でえげつないわけだよ」


「えげつないとは何なのですの! 桃子様に失礼ではありませんの!? まったく、黒というのは、どいつもこいつも立場をわきまえない豚野郎ばかりのようですわね!」



 突然隣で声がして、死神ちゃんと黒澤は驚き硬直した。ゆっくりと視線を声のするほうへと向けてみると、案の定縦ロールがご立腹と言わんばかりに、頬を膨らませて仁王立ちしていた。

 黒澤は思わず、死神ちゃんの背後に回って身を隠した。その様子を見て、縦ロールはハンと鼻を鳴らした。



「女の子の後ろに隠れるだなんて、どうかと思いますわ。そんなんで桃子様が守れると思っているだなんて、ちゃんちゃらおかしいんですのよ!」


「地味に酷いことをされ続けてたら、そりゃあ怯えもすると思うんだが」


「あら、あなた、黒同士だからってそんな弱虫のことを守るんですの? もしかして、そいつのこと、お好きなの?」


「私が一体、どうしたの?」



 いつの間にか〈上空に飛ばされる組〉の近くに〈魔法陣設置組〉がやって来ていた。桃子は黒澤の横に並ぶと、きょとんとした顔で首を傾げた。縦ロールは顔を真っ赤にすると、恥ずかしそうにどもりながら「桃子様」と声をひっくり返した。桃子は困惑顔を浮かべると、首を逆方向に傾けて言った。



「あなた、この前黒澤君と私を取り合った子よね。ところで、どちら様?」



 縦ロールは愕然とすると、ぷるぷると震えだした。



「本当に、覚えておりませんの……?」


「ええ……。以前会ったことがあるのかしら?」



 なおも困惑する桃子にすがりつくような視線を向けると、縦ロールは〈桃子との出会い〉を話し始めた。

 彼女は桃子とは別の里から都会に出てきて、大学生生活を送っているという。そしてその大学というのは、桃子たちジャージメンの通う大学と同じなのだそうだ。



「なんだ、お前ら。ジャージメンはサークル活動だったのかよ」



 死神ちゃんが目を瞬かせると、ジャージメンたちは照れくさそうに頭を掻いた。縦ロールは咳払いをして注意を自分に向け直させると、再び〈出会い〉について話し出した。



「そう、あれは入学してすぐのころ……。私は〈しつこいサークル勧誘〉という名のナンパを受けていたんですの。あれは、とてつもなく迷惑でしたわ。でも、相手は体格差のあるエルフや人間(ヒューマン)。怖くて言い返せないでいたんですの。そしたらちょうどそこに通りかかった桃子様が―― 『何しとんのじゃ、ワレェ。幼気(いたいけ)なコビート捕まえて、何晒しとんのじゃ、ボケェ! 彼女、嫌がってるやろが。それ以上しつこく迫るってんなら、この私がいてまうど。泣いて詫ても許さへんからのう!』って……」



 縦ロールは〈当時の桃子の様子〉を完全再現してみせた。メンチを切る縦ロールを眺めながら、死神ちゃんは顔をしかて「うわあ」と呻いた。黒澤はというと、〈さすがは桃子ちゃん〉と言わんばかりのキラキラとした瞳で桃子を見つめていた。

 思わず、死神ちゃんはボソリと呟いた。



「桃子は、大学生デビューを機に女子を装ったクチなんだな……」


「装ったって何なんですの! 桃子様ほど素敵な女性はいらっしゃいませんでしょう!?」


「いや、どう考えてもヤンキー上がりだよな?」


「ひどいですわ! 桃子様に謝って! ……とにかく、そうやって助けて頂き感動した私は〈今度は私が守れるようになりたい〉と思ったんですのよ。ですのに、この黒澤とかいう幼馴染が私の狙っていた席―― をおおおおおお!?」



 憤る縦ロールのキーキーとした声に釣られて、モンスターが集まってきた。悲鳴を上げた縦ロールを庇うように、ジャージメンたちは並び立った。



「今こそ、練習の成果を見せるときよ! さあ、みんな!」


「あんな話を聞いたあとでキャルンとされても、正直ホラーだよな」


「あなたってば、本当に毒舌ね! 今はそんなことよりも、目の前の敵に集中しましょ!」



 桃子の呼びかけに、ジャージメンたちは応と返事した。そして練習の成果として、先ほどの〈しばき倒しドロップ〉や〈一人ずつ敵に突っ込んでいっては一撃を与え、最後の一人が渾身の一撃で叩き伏せる〉という技などを次々と披露した。縦ロールはそれを眺めながら「パーティーの上限が六人でなければ、私だって」と悔しそうに呟いた。

 しかし数々の必殺技を繰り出しても、敵を一掃することができなかった。黒澤は額に汗を浮かべて歯ぎしりすると、重たい口調でポツリと言った。



「これは、奥の手を使うしか……」


「奥の手ってまさか! 死神憑きのときにしかできないという、あの……!?」


「でも、ここに死神なんていないじゃない!」


「でもほら、毒舌ブラックさんのあだ名って〈死神〉だから! もしかしたらイケるかも……!?」



 死神ちゃんはジャージメンたちが真剣な面持ちで語り合うのを聞きながら「だから、俺は本物だっつの」と心中でツッコミを入れた。黒澤はゴクリと唾を飲み込むと、意を決したという表情で片手を天高く伸ばし、そして叫んだ。



「我に宿れ! 死神の力よ!」



 すると、死神ちゃんの胸元にブローチ状にして付けてあった魂刈が勝手に外れた。そして黒澤の頭上に飛んでいって元のサイズへと戻り、ゆっくりと降下して彼の手の中に収まった。死神ちゃんは呆然と目を見開くと、腹の底から思いっきり「ええええ」と叫んだ。ジャージメンたちは「すごい、成功した!」などと言いながら、嬉しそうにキャッキャと飛び跳ねていた。

 黒澤は金の魂刈を振り回して、目の前の敵を薙ぎ倒していった。そして全て倒し終えた彼は仲間たちに向かって格好良く親指を突き立てると、そのままサラサラと灰と化した。



「そうだった! この技は〈灰化〉という代償があったんだよ!」


「黒澤君! 桃子のために、そこまで体を張ってくれるだなんて……! 黒澤くううううううんッ!」


「黒澤さん、いいやつだったのに……」


「ちょっと待て、ブルー! まだ生き返らせられるんだし、そんな〈もう帰らぬ人〉扱いしてやるなよ!」



 思わず、死神ちゃんは素っ頓狂な声を上げた。縦ロールは悔しそうに歯噛みしながら「私もあの技を覚えなければ」と闘志を燃やしていた。

 死神ちゃんはいつの間にか胸元に魂刈が戻っていることに気がつくと、疲れのこもったため息をついた。そして「お疲れ」と呟くように挨拶すると、その場からさっさと姿を消したのだった。





 ――――よく分からないイザコザに、(いろんな意味で)巻き込まないで欲しいのDEATH。

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