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解石魔術と石の乙女  作者: 一花
* 1 * 化石の海からこんにちは
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(6)化石の海からこんにちは


(はぁ、やれやれ)


 ルキにとっては毎度のことであるが、ついつい会話がケンカっぽくなってしまう。互いに素直じゃないのだから仕方がない。


「――って、一人で先行するなっ! 見通しは良くても、足元がどうなっているのかは怪しいんだぞ!」


 ずんずんと進むネリアのあとを、ルキは慌てて追いかける。


「大丈夫よ。ここはまだちゃんと指定された道なんだから」


 脇にはさんでいた地図を広げて道を確認する。


 真っ白な岩石ばかりで一見何もないように感じられるが、ここはアナニプスィ学院の敷地内でもあるため、至るところに目印の杭が打ち込まれている。それらを見失うことがなければ、まず道に迷うことはない。


「――ほら、あそこに赤い印がついた杭が立っているでしょ?」


 ネリアが指で示した先には、彼らとほぼ同じ高さの杭が伸びていた。その遠くにもやはり同じような杭が立っているのが見える。真っ白な大地に映える赤い杭は花を咲かせているように感じさせる。不思議な光景だ。


「だからって、一人で先行するのが危険だってことには変わらないだろ?」


 追いついたルキはネリアの手を取る。


「!」


「あんまり勝手な行動するなら、首輪をつけるぞ」


 その手をネリアは払う。


「か、勝手に触らないでよっ!」


「触られるようなことをしたんだろ? 自覚しろ」


 なんでもないことのような口調でルキは指摘してやる。払われたのはびっくりしたことによる条件反射だろう、くらいにしか思っていなかった。


「お、女のコに触れていいのはそのコの恋人だけなんだからねっ!」


「普段俺に対して婚約者がどうのとか騒いでいる奴の台詞とは思えんな。普通、婚約者ってのは恋人になった連中が結婚前提で付き合うことにしたときから言うもんじゃないのか?」


 手持ち無沙汰なのでルキは自分の頭の上に手を乗せる。アナニプスィ学院の指定の帽子がちょっぴり邪魔だが、陽射しを避けるにはちょうど良い。実地調査のために身につけることが決められたようだ。


「あたしが結婚する相手はあとにも先にもルキだけなんですー。きっちり責任とってもらうまではそうなんですー」


「――なぁ、前から気になっていたんだが、俺が責任を取らなきゃいけない原因ってなんなんだ?」


「それがわかっていない時点で、ルキは減点対象ね」


 ぷぅっと膨れてネリアは答える。


「減点って……」


 減点ばかりで株が上がったことは一度もないんだがな、とルキは思う。ネリアがどんな基準で評価に減点方式を採用しているのかわからない。


「とにかく、気安くあたしに触らないでちょうだい」


 ぷいっと横を向いて、むっと膨れたままネリアは足元を見ずに歩き出す。


「おいっ! ちゃんと回り見て歩けって!」


「ひぁっ!」


 ルキが慌てて手を伸ばすが間に合わず。ネリアがルキの視界から消失した。


「ネリア!」


「アイタタター」


 痛いと言っているわりには元気そうなネリアの声。丈夫さがとりえでもある彼女なら、そう大きな怪我はしないだろう。


「ったく、言っているそばから……」


 文句を呟きつつも、ルキはその返事を聞いてほっと胸をなでおろす。


「怪我はないのか?」


「大丈夫そうよー」


 ネリアが落下した穴の縁に手をかけて崩れてしまわないことを確認すると、縁からそっと底を覗き込む。ルキの身長の三倍ほどの深さがある穴底にネリアの頭が見えた。腕を伸ばすと端と端に手がつくくらいの広さの空間にいるネリアはパタパタと服についた埃を払うとルキを見上げながら手を振った。


「そりゃ良かった。今引っ張り出してやるから待ってろ――こりゃあ縄が必要だな」


 手を伸ばせばなんとかなる深さではない。ルキは早々と諦め、背負ってきた背嚢の中を探る。


「あながち、冒険道具一式は忘れられないわね」


 穴の中からネリアの声。


 化石の海を歩くときの持ち物を冒険道具一式と呼び、携帯しておくよう推奨されている。縄の他に火打ち石、角灯、固形燃料、保存食を少なくとも一つずつ持つようにとのこと。


 それらの荷物は現在、ルキがまとめて管理していた。


(ったく、俺がはぐれたらどうするつもりだったんだ? こいつ……)


 危機管理がなってないなと思いながら、ルキは縄を取り出す。二人分の縄をつなげば自分の身長の三倍以上にはなるはずなので、これで足りるだろう。


(――で、縄の端をつないで……)


 つなぐための適当な場所を探すが、高低差のないなだらかな高原。見通しの良さが示すように、縄を結びつけることができそうなところはない。


「根性で引っ張れってか?」


 思わず顔がひきつる。正直なところ、体力には自信がないのだ。


「ルキー! どうかしたー?」


 足元からネリアの威勢の良い声。いらついた様子は微塵もなく、今のところおとなしく待っているようだ。ルキの制止を無視して穴にはまったことを少しは反省しているのかもしれない。


「あぁ、いや、ちょっと待ってろ。もうすぐ準備が整うから」


「了解ー」


 背嚢の中を再びガサゴソと探す。取り出したのは釘と金槌。地面はほとんどが石化した生物が固まってできた岩石である。その岩石に縄を釘で固定しようというのだ。


(あんまり気が進まないが、生きている人間を助けるためだ。許せよ)


 ルキはできるだけ化石の少なそうな場所を探し出す。


(――解石師になれない俺には、お前らを助けることはできないのだから……)


 化石の海――そう呼ばれている場所は世界中の至るところに存在する。かつて治療不可能と言われていた原因不明の病、石化症を発症した生物のなれの果てがこの大地を形成しているのだ。


(あぁ、心構え的な面でも解石師失格だな、俺)


 実は現在、石化症はそれほど脅威になっていない。解石魔法と名付けられた魔術の登場で、石化の進行を食い止める方法が確立されたからだ。この魔術を扱える人間を解石師と呼ぶが、それを目指していたルキとしては気が重かった。


(許してくれよ)


 ルキは地面に縄を置き釘をあて、金槌を構える――と、そのときだ。


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