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(4)入学式の朝に
そんな二人の様子を眺める影。
アナニプスィ学院付属高等学校校舎最上階にある学院長室。一人の美女――シエルが窓から校門周辺を眺めていた。
「――あぁいうの、初々しくって良いわね」
シエルは優雅な動作で艶やかな長い前髪を後ろに払う。そこで扉が叩かれ、一人の男が入ってきた。
「そろそろお時間です。シエル学院長。学院長に就任した最初の大仕事に遅刻とあっては、お父様に怒られてしまいます」
「ふふふ、そうですわね。あの子達もいい加減に会場に入ったところでしょうから」
「?」
窓の外に視線を向け、シエルは愉快そうに微笑む。「あの子達」が誰を指しているのかわからない男は首をかしげた。
「時間にうるさいお父様をいつまでも待たせるわけにはいきませんね。参りましょう」
学院長のみが着用を許される豪奢な外套を翻し、颯爽と部屋を出るシエル。その後ろを呼びに来た男が続く。
入学式開始まで、あとわずかだった。




