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解石魔術と石の乙女  作者: 一花
* 6 * 君と出会った場所で
31/34

(31)君と出会った場所で

 朝陽が昇り、白い大地を照らす。陽の光でぼんやりと赤く煙る化石の海は日中の様子とはまた異なり幻想的だ。


 そんな舞台を背景に並ぶ二つの小さな影。夜から朝に変わる寒暖の差で生じる風になびく外套と、ふわりと広がる金糸の髪。ルキとカリスだ。


 ルキはカリスとともに、彼女を見つけた場所にやってきた。二人きり、ネリアの姿は近くにはない。


「おいっ! 約束どおり来たぞっ! 出てこいよ!」


 目印として立てられた赤い色の杭。一定間隔で立つそれは、化石の海でも学院からそこまで離れていないことを表している。そして、見覚えのある穴が近くにあった。


(さぁ、どうくる?)


 ぎゅっと握られる手。カリスの手の震えが伝わってくる。


「ルキ、大丈夫……?」


「案ずるな。俺がついてる」


 ぎゅっと握り返す。カリスがそっと見上げてきた。


「ん、大丈夫」


 彼女がこくりとあごを引いた直後、異変が起きた。


 ずずずず……。


 地鳴り、そしてルキたちの足元に大きな穴が開いた。


「うおっ!?」


 まさかそう来るとは考えていなかった。


 予想外の展開にルキは瞬時にカリスを引き寄せる。


 ガッ。


 カリスの下敷きとなり、落下の衝撃を肩代わりすることに成功した。その勢いのままに、彼女を抱えたままころころと地面を転がる。


「いてて……」


 舞う砂埃。晴れてきた先には一つの人影。


 気配に気付き、ルキは痛みを堪えてすぐに起き上がる。そしてカリスを立ち上がらせて対峙した。


(くそっ……これじゃネリアの位置から俺たちは見えねぇじゃないか……つっか、見抜かれていたんかな)


 大声で叫べば余裕で聞こえるくらいの場所にネリアが待機し、緊急事態に備えることになっていた。地面に這いつくばっていれば、夜明けの視界の悪さでそう簡単に気付かれることもないだろうと判断したのだったが、このざまである。


「随分と手荒なことをしてくれるな。死んじまったら、あんたらの研究は台無しだろうが」


 思惑通りに進まないことに少々苛立ちながらも、ルキは影に向かって怒鳴った。


「そのときはそのときで、新しい『ハイドロ』を探しますよ。今のところ、代わりはいくらでもいますからね。尊い犠牲者として供養くらいはして差し上げますよ?」


 返って来た声は眼鏡の男のものだった。


(ちゃんと本人が迎えに来たか。――さぁって、どうしたもんかな)


 カリスを一歩後ろに下がらせ、ルキはじっと声の主を見据えた。


 大穴の入り口から差し込む朝日に照らされて、眼鏡の反射する光が見えた。


「いくらでも、ねぇ。無駄な仕事が好きなようだな」


(呼び出したと言うことは、他に仲間がいる可能性が高い。注意しないと、向こうがこの土地を熟知しているだろうことを思うと危険すぎる)


 台詞で挑発しながら、ルキは周囲に注意を向けつつごくっと唾を飲み込んだ。体術を会得しているわけではないルキにとって、力で勝負となったら勝ち目はない。ましてや、解石師としての知識や技術での戦闘でも圧倒的に不利だ。目の前で対峙している相手は、その両方を兼ね備えている。ルキにとっては天敵だ。勝機があるとすれば、こちらは石化させることができるということのみ。


(戦力も不明だからな……とにかくなんとかして、理事長にたどり着ければいいんだが)


 ルキの挑発に、眼鏡の男はくすっと笑った。


「研究なんて、知らない人から見れば無駄の積み重ねのようなもんですよ? いつでも正しい答えにたどり着けるわけじゃないのですから」


 じりっと眼鏡の男は一歩近付いてくる。合わせてルキも下がる。


「そうやって、『ゾイドロ』たちを発掘しては、無理やり研究につき合わせてきたのか?」


「えぇ。必要な研究ですよ? 人類の存続に関わる重要な研究に参加できるのですから、彼らだって喜んでいるんじゃないでしょうか」


 さらりと返してくる男の台詞に、繋いでいたカリスの手に力がこもる。


「何が喜んでいる、だ。同意しているわけでもないだろうに」


 けっと吐き捨てる。胸糞悪い。ルキはさらに続ける。


「悪いが俺たちは、あんたらの研究に参加するつもりはない。それを伝えに来たんだ」


 真っ直ぐ睨んで、はっきりと伝える。こんな宣言程度であっさり引くとは思えない。


 案の定、眼鏡の男は小さく首を傾げて返してきた。


「ん? それは疑問ですね。君たちは他者のためにその身を尽くすことを拒否すると言うのですか?」


 嫌な言い方である。まるで悪者にされたような気分。しかし首を横に振って大声で言ってやった。


「いや、俺たちは俺たちの方法で模索することに決めたんだっ!」


 俺の宣言に対し、彼は眼鏡の位置をそっと直す。


「なるほどね。躊躇なく僕の仲間を石化させるだけのことはありますね」


「!?」


 怯んでしまった。取り繕うようにルキは返す言葉を選ぶ。


「それはあんたらが襲ってきたから仕方なく――」


「仕方なく? その力はそういうことに安易に使っていいものではないと思いますが?」


「くっ……」


 返す言葉が浮かばない。俺は奥歯に力をこめた。


「言いたいことは言い終えましたかね? ――では、おとなしく一緒に来てもらいましょうか」


 だんっ!


 男が跳躍した。


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