(29)告白
「――『ゾイドロ』っていうのはね、石化症を発症しない人間のことよ。ううん、ちょっとその言い方だと語弊があるわね。石化症を発症しても人体に影響が出ない体質、と言った方がより近いかも」
「石化症を発症しても、人体に影響が出ない……?」
「そう。『ゾイドロ』の場合、人体が石に変わってしまったとしても、解析魔術が使えれば完全に人体の機能を取り戻すことができるの。完全な石化状態からだと解析魔術で治療しても普通なら何らかの障害が残ってしまうものだけど、『ゾイドロ』はそこがまず違うのよ」
説明されて、カリスの様子を思い出す。何度か石化から回復しては石に戻っているが、その身体機能はおよそ障害があるようには感じられなかった。
「そしてもう一つの特徴、それが瘴気を自在に操れるってことよ」
「自在に操れる? ――それってつまり、自分の中に溜まった瘴気を出し入れできるってことですか?」
ルキは自分が他者に対して瘴気を与えて石化させることができる。その力の正体がそれだと言うのだろうか。
「うーん、それはちょっと違うかも」
期待するかのようなルキの熱いまなざしに、シエルは申し訳なさそうに答えて続ける。
「だってそんなことができたら、彼らは化石になって動けなくなることはないはずでしょ? 自分の中にある瘴気を完全に外に出してしまえば、石になる危険を回避できるんですもの」
「た、確かに」
石化症についての基本的な考え方だ。指摘されて、ルキは恥ずかしさからちょっぴり頬を赤くする。
そんなルキを見ながら、シエルは説明を続ける。
「――おそらく彼らができるのは、致命的な障害が出ないように瘴気のたまり度合いを操作することだと思うの。冬眠する動物と同じようなものと考えればしっくりくるかしら。身体の機能が失われないように、必要な場所には力を温存させて、不要なところに瘴気を集めておく、みたいなね」
(俺の身体はそれを無意識にやっているってことか……)
ルキは自分の手を握ったり開いたりして身体の様子を確かめる。そんな器用なことをやっているようには思えない。
「『ゾイドロ』の研究はまだ進んでいないわ。その特異な存在がわかったのはここ十年くらいのことよ。石化症で化石になってしまったと思われる人間が化石の海で見つかって、それを解石してみたら再び生き返った、それが始まり。彼らの化石には特殊な瘴気の動きがあるから、『ゾイドロ』の化石を見分けるのは意外と簡単にできるの。掘り起こすのがちょっと厄介なだけでね」
さらさらと述べられる台詞を聞いて、ルキはごくりと唾を飲み込むと、恐る恐るといった感じで口を開いた。
「詳しいんですね……」
シエルの説明と自分の体感にそう大きな違いがないことにルキは驚いていた。それ故に彼女の言っていることの信憑性が高いということはわかる。しかしそれ故に不安は拭えない。一般的ではない知識を、どうして彼女は知っているのだろうか。




