(28)告白
「では始めるわよ。――君たちは、化石の海で何かを目撃してしまったんじゃないかしら? そこにあってはいけない物の存在を知ってしまった、とか」
始まったシエルの問いに、ルキとネリアは同時に首を横に振る。
「特にはないですよ。穴に落っこちたネリアを助けはしましたけどね」
さらにルキは補足した。
「穴? それはどんな穴だったのかしら?」
まさかそこを訊ねられるとは思っておらず、ルキは一瞬きょとんとした顔をした。穴なんてあの周辺にはいくらでもあるものだと思っていたからだ。しかしルキは懸命に思い出して続ける。
「普通の穴ですよ? 縄を何本かつなげなきゃいけないくらいの深い穴です。あっ、でも――あの穴の断面というか表面というか……壁になっていた部分がやたら滑らかで、人工的な感じはしましたけどね。縁がぎざぎざしている風だったので、それが妙な感じで」
「確かにそうね。もうちょっとでこぼこしていても良いような気がしたわね。あんまり突起がなかったから、自力で登れないって思ったし」
ルキの説明に、ネリアも付け足す。
そんな二人の答えに、シエルは腕を組んだまま何度か頷き、次の質問に移った。
「なるほどね。それ以外のものは思い当たらない、と。――じゃあ、化石の海から持ち帰ったものを教えてちょうだい。課題で持ち帰った化石、どんなものだったの?」
シエルの視線は主にネリアに向けられていた。
「あ、あたしが持ち帰ったのは貝の化石ですよ。手のひらに収まるくらいの」
そう答えて、ネリアは視線をルキに向け、そして自分の寝台に向けた。
「ね、そうよね、ルキ?」
「あぁ、うん、そうだな」
ネリアの視線の動きが意味するところを察し、ルキは頷いて合わせる。
(話すか、話さないか……)
どうしようか迷っているルキに、シエルの視線が向けられる。
「他に何かあったのかしら? ネリアちゃんが言っていたのは確かに課題として提出されていたけど、他には?」
既に調査済みだったらしく、シエルは頷いて促した。
「……」
そうは言われてもどう説明すべきかわからず、ルキは視線を外してだんまりを決め込む。今はまだ話したくはない。
そんな態度のルキに、シエルは別の質問を投げた。
「まだ状況がわからないのかな? じゃあ、『ゾイドロ』って単語には聞き覚えがないかしら?」
「ゾイ……」
ルキは大きく目を見開いて、ネリアの前に腕を出す。彼女を一歩後ろに下がらせて、シエルを真っ直ぐ睨みつけた。
「学院長、あなた、まさかあいつらの仲間じゃ――」
ルキの気迫に満ちた視線にシエルはやんわりと微笑んで返した。
「違うわよ。君たちの味方よ? 先生が生徒を守るのっておかしいかしら?」
「だって『ゾイドロ』って……さっきの黒尽くめたちがそう言っていたんだ。俺の特異体質は最初の症例患者と同じ『ゾイドロ』だって――」
口を滑らせたことに気付いてはっとそこで黙った。視線をそらし、ルキは顔をしかめる。
「君の特異体質については、わたくしも知ってるわ。君が解石師として不適とみなされたのは、その体質が原因だったのよ?」
(不適の原因が、この体質だったって……?)
その台詞に、ルキは反射的に顔を上げシエルを見つめる。
「どういうこと……なんですか?」
「あの、あたしにも教えてください」
ネリアもルキの腕にしがみつくようにして訊ねる。必死な声だ。
「そうね。君たちは知っておく必要があるから、教えてあげる」
シエルは自身の長い髪を払うと、姿勢を直した。そしてゆっくりと告げる。




