(18)解石師への道
ルキが退出した後で学院長室の電話が鳴る。シエルは相手を想像しながら、優雅な動作で受話器を取った。
「はい、こちら学院長室。シエルでございます」
「――ルキ君の編入手続きは終わったかね?」
金属がぶつかる音や砂が流れるような音が背後に響く中から聞こえてくる低い声。その声は、シエルにとっては聞きなれた声だった。
「えぇ、お父様――いえ、理事長」
慌ててシエルは言い直す。普段の家での呼び方に慣れているため、職場では仕事の立場で接しなければいけないのをうっかり忘れてしまう。
「なかなか直らないようだね。自覚が足りないんじゃないかな?」
鋭く厳しい声に、シエルは身体を震わせる。
「すみません」
呼び方を何度も注意されているのに直らないことを落ち込みつつ、シエルは父親であり理事長でもあるコーメイが話し出すのを待つ。
「お前が自分からその地位を望んだんだ。きちんとその自覚を持って仕事に励めよ」
「はい――あの、理事長」
電話を切られそうな雰囲気だったので、シエルは急いで話を切り出す。返事を聞かずに続ける。
「何故ルキ君を今頃編入としたんです?」
ルキの編入は教授からの推薦ではない。理事長に命じられて行ったことだった。
「そんなことを聞いてどうするんだ? お前には関係のないことだろう?」
「いえ、関係あります。わたくしの仕事は生徒の管理です。生徒の移動に関して知る権利はありますわ」
毅然とした態度できっぱりと答える。コーメイの口調は突き放すような冷たいものであったが、その程度ではシエルは屈しなかった。
「――大体おかしいではありませんか。試験の採点ミスによる繰り上げ入学ならまだしも、理事長自ら教授の推薦書を偽装してルキ君を編入させるだなんて。彼に何があるというのです?」
採点ミスによる繰り上げ入学となると学院の名に傷がつくおそれがある。それ故に採点ミスという架空の事故をでっち上げるのではなく、推薦による編入というかたちを取った――そう考えることは自然だろう。
しかし、そこまでしてルキを育成科に編入させなければならない理由がシエルには思い浮かばない。何故なら、ルキが育成科からはずされた理由がその入学試験の成績ではなく体質にあったからだ。
「お前が知ることではない。お前はわしの言うとおりに動いていればいいんだ」
「わたくしはあなたの人形ではありません!」
シエルの耳に届いていた雑音が消える。学院長室には静寂。
「切られてしまった……だめね、わたくし……」
修復されて新しくなった窓から外を眺める。美しい夕焼けが空を彩っていた。




