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解石魔術と石の乙女  作者: 一花
* 3 * 解石師への道
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(17)解石師への道

「――まだ入学してから一ヶ月も経っていないのに、俺の何が認められたんです?」


 試験があったならわかる。実習があったならわかる。しかし今のところそのような力量を示す場はなかった。


 ルキの問いを受けて、シエルはわずかに眉を寄せる。


「警戒しているの?」


「なんとなく裏があるような気がして」


 詮索するつもりはない。鎌をかける素振りはなしに、ルキはありのままの気持ちを隠さずに答える。


「用心深いことは解石師にも必要だと思うけど、そんなようでは人生損するわよ?」


「生憎、生まれ持った性格なもので」


 苦笑するしかない。


(しかし、これで俺も解石師になる資格を得られたわけだ)


 奥歯に物が挟まっているような気分だが、ルキは状況は状況として処理することにした。拒否する必然性はないのだ。


「――とりあえず、了解していただけたかしら?」


 一通りの説明を終えてやれやれといった様子でシエルは問う。


「はい」


「じゃあ急で悪いけど、早速明日から育成科に合流してもらえるかな?」


 別の資料を取りに執務机に戻りながら訊ねる。


「……本当に急ですね」


 何故そんなに急ぐ必要があるのだろうかと疑問に思って、ルキは言う。勉強が始まったばかりとはいえ、切りが悪いはずだ。


「学び始めるなら早い方が良いだろうという配慮よ。編入早々に差ができていては何かと不利でしょう?」


「えぇ、確かに」


 シエルは必要書類の入った封筒と暦を手に取ると、ルキに封筒だけ手渡す。


「で、寮の引っ越しは次の休みでいいかしら?」


 暦で次の休日を確認しつつ問う。


「え? 寮も変わるんですか?」


「当然でしょう。いつまでも普通科の寮にいては面倒じゃない? それに校舎からも遠いし、不便でしょう?」


(――ふむ)


 ルキは頭の中を整理する。


(誰かが俺を普通科から追い出し、育成科に強制編入させて下さったわけか。俺の願いや感情は無視ってところかな。先が思いやられる……)


「……はぁ」


 つい出てしまったルキのため息に、シエルは驚いた顔をする。


「あら、どうしてそこでため息をつくのかしら。君にとっても朗報だと思ったのに」


「あ、いえ……もうこれは癖なんで」


 学院長の前でため息をつくなんて失礼だったなと反省しつつ、ルキは手を振りながら慌てて答える。


「ふぅん……。ため息ばかりついていると、不幸になるわよ? 小さい頃は迷信かと思っていたけど、案外とそういうものなんだから」


「む……」


 ネリアも似たようなことを言っていたなぁと考えつつ、曖昧に頷いておく。


「――さて、これで事務連絡は終わりなんだけど、一つ聞いても良いかしら?」


「なんですか?」


 学院長の話は決して短くはならないのだな、なんて思っていることが面に出ないように注意しながらルキは問う。


「君、元々育成科志望だったって聞いているんだけど、どうして解石師を目指しているの? やっぱり人助けがしたいから?」


「!」


 その問いにはすぐに答えられない。言いたくないならば適当にごまかせば良かったのに、その機会を失って視線を反らす。


(――つーか、どうしてこういうときにネリアの顔が浮かぶかなぁ)


 採石場での出来事――そこから始まった連鎖。あの日のことがなければ、ここを目指すことはなかったかもしれない。


「――あ、他人には言えない理由なのね。ならば無理には聞かないわよ」


 言って、シエルはにこやかに手を振る。


「ちょっとユート君の愛弟子に興味があってね。気分を害したならごめんなさい」


「いえ……俺は別に。――それにユート教授は愛弟子だなんて思っていないですよ。落ちこぼれですから、俺」


(せいぜい、出来の悪い息子といったところだろう。これっぽっちも期待していないっぽいし)


 他人からユートの愛弟子に見えると言われて、ルキは謙遜しつつも少し嬉しくなる。解石師として尊敬する師の愛弟子なら悪くない。


「そう? 彼は君に――正確には君たちかしらね。ユート君は出来る限りの知識や魔術を教えようとしていたように感じられたんだけど。――君のクラスで解石学概論を教えていた教諭からも聞いているわよ?」


「あれは――まぁ」


 石化症を発症してしまったネリアのために覚えた知識。ユートから、ルキ自身も近いうちに発症すると言われて必死に学んだ魔術。


(――俺が解石師を目指す理由、か)


「――ユート教授のそばにいる時間が多かったというだけですよ」


「……わたくしにはちっとも教えてくれなかったくせに」


 子どもが拗ねているみたいに頬をわずかに膨らませてシエルが呟く。


「――あの……失礼かもしれませんが、学院長とユート教授って親しいんですか?」


 純粋な興味である。会話の節々に職場以上の関係が見え隠れしているのが気になっていた。


「あら、愛人よ?」


 張りのある胸を反らしてシエルが答えるのを見て、ルキは頬が熱くなるのを感じる。


「あ、愛人……?」


 そんなルキの反応に、シエルはクスクスと笑う。


「ヤダヤダ、冗談よ。本気にしちゃだめよ?」


 人差し指を立てて片目をぱちっと閉じ注意する様子がなかなか様になっている。


「……」


「彼はそこまで器用な人じゃないし、真面目だからね。浮気出来るほどの度胸もないわ」


「はぁ」


 少し不満げに見えるのは何故だろうかとルキは思いながら相槌を打つ。


「――ユート君とはこの学院で同期生だったのよ。彼は育成科の特待生、わたくしは普通科の一般生徒。当時から彼は天才だって言われていて、有名人だったの。わたくしの父の研究室を見学しに来たときに知り合って、それからの付き合い。仕事以外でもよく話すのよ?」


「へぇ……」


(つーか、学院長も育成科出身だと思っていたが、違うんだな。――ん? ってことは、学院長はユートさんと同じ歳……)


 ユートは童顔で背も低く幼く見えるが、シエルもシエルで若作りだななんて感心しながら納得する。それ以上に今の話はなかなかルキにとって興味深いことだった。


「今作る人間関係って、これまでと違って長く続くから大事にしなさい」


「は、はい」


 余計なお節介だと一瞬感じながらもルキはその気持ちを押し込んで返事する。ここで文句を言ったとしても話が延びるだけで得策ではないと思い直したのだ。


「他に聞いておきたいことはあるかしら?」


「いえ」


 学院長とこうして話す機会はないだろうが、特に聞きたいことはないし、これ以上長居をしているつもりももちろんない。ルキはほっとした気持ちを隠しつつ答える。


「では、もう戻って良いわ。育成科での活躍が聞こえてくることを楽しみにしてます」


「はいっ。――失礼いたしました」


 ルキは一礼すると部屋を去った。

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