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解石魔術と石の乙女  作者: 一花
* 2 * 恋文は不幸を招く
14/34

(14)恋文は不幸を招く



 日が沈みかけて、部屋が赤く染まっている。


(あ。しまった。カリスをネリアに預ける話をするの、すっかり忘れてた……)


 裏庭での事件がなければ相談するはずだった。向こうもカリスのことを訊ねてこなかったのは、自分の身が危うくなった衝撃が大きかったためだろう。


「はぁ……」


 盛大にため息をつく。ここでカリスに先生の元へ行くように説得しても、おそらく芳しい結果は得られないだろう。


(このまま化石のまんまにしておくのも可哀想だからな……)


 ルキは角灯に火を灯すと紗幕を閉め、カリスの姿を探す。


 棚の影や収納場所の隅を探してみるが、彼女の姿はない。


(あれ? おかしいな……)


 遠くに行ったとは思えない。昨日の様子からすれば、動ける時間は限りなく短い。ルキとともにいることを強く望んでいる節があったので、おとなしくこの部屋で待っているだろうと期待していたのだったが、その見通しが甘かったんじゃないか。ルキは寝台に腰を下ろし、落ち着いて振り返ってみる。


(――まさか、俺を追って学校に向かった、とか、ないよな?)


 外をうろついている間に石化が始まり、身動きが取れなくなってしまったんじゃないだろうか。


(外で一人きり、俺が来るのを待っていたら――)


 一人寂しく石に変わっていく姿が脳裏を過ぎる。誰にも気付かれず、ひっそりと一つの岩に変わり行く様が浮かぶ。


(あぁっ! 俺はなんて酷いことをっ!)


 寝台に手をついて、勢いよく立ち上がる――その瞬間。


 むにゅ。


 どこか身に覚えのある感触が右手に伝わった。


「は……はひゃっ……ルキ……積極的……」


「……」


 ルキは自分が掴んだ丸くてふかふかとしたものを見て、勢いよく飛びのいた。


「か……かかかカリスっ!? なんで俺の寝台にいるんだよっ!?」


 声はできるだけ潜めて、ルキは敷布に包まった金髪の少女を質した。ルキの表情は冷静を装うと必死な様が明らかであり、耳まで真っ赤に染まっている。夕陽に照らされていた部屋なんて比ではない。


「ルキの……温もり、恋しくて……」


 答えて、カリスはきゅっと敷布を抱き締めた。あまり変化のない少女の頬にほんのりと朱が差す。


「だぁぁぁぁっ! そんなところにいて、誰かに見つかったらどうするんだっ!?」


「ごめん……でも、気持ちよくて、つい、そのまま……」


 俯いて、顔が前髪に隠れてしまう。


「ったく……今日はばれなかったから良いけど、次はちゃんと隠れていろよ? ここは一応、女の子は入っちゃいけない場所なんだから」


「は、はい……」


(ネリアとは全然違うな。こっちは素直だ)


 こくっと頷くカリスの頭をルキはそっと撫でると、机のそばに置かれていた背嚢から教科書を取り出す。宿題がいくらか出ているのだ。


「……? ルキ?」


 机に向かって作業を始めようとしたルキに、カリスは近付いて声を掛ける。


「どうかしたか? 俺はこれから課題を片付けなきゃならんのだが」


「落ちた」


 拾って差し出されたのは手紙だった。裏庭の一件で記憶の隅っこに追いやられていたが、ルキ自身も手紙を受け取っていたことを思い出す。


「あぁ、ありがと。でも、関係ないから」


 受け取って答え、ルキはその場で破り捨てた。散り散りに破れた手紙の欠片は屑箱の中に降り積もる。


「……いいの?」


「うん。いらないもんだ」


 果たし状だろうと恋文だろうと、そんなのはどちらだったとしても結果は変わらない。ルキはどんな呼び出しであっても、差出人がすぐにわからない手紙には応じないと決めていたからだ。幼い頃から何度も嫌な目に遭ってきているので、面倒ごとを避けるにはそれが一番だと心得ていた。


「手紙、ばらばら」


 屑箱の中に散らばる手紙の欠片を見ながら、カリスはぼそっとつぶやく。


「……カリス?」


 せっかく見つけて手渡したのに目の前で破り捨てられてしまったのがショックだったのだと言うことに、ルキは彼女の様子を見て思い至る。声をかけて顔を上げさせると、カリスは乏しい表情でただじっと見つめ返してきた。


「いいかい? その手紙は俺がこの部屋で処分しなくちゃいけない大切な手紙だったんだ。それを忘れずにできたのは、カリスが拾ってくれたおかげだよ。落ち込むことじゃない」


 そう説明してやると、カリスの瞳にほんわかとした光が宿った。


「……はい」


 こくっとわずかにあごを引くと、ほんの少しだけ口角を上げた。それが彼女の微笑みだと理解したのは数瞬あとで――。


(ネリアも昔はこんな感じだったんだがなぁ……)


 カリスを見ながら、何故か彼女を通してひねくれものの幼なじみを思い浮かべてしまう。ルキはそんな自分に腹立たしさを少々感じながら、宿題に取り掛かったのだった。


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