(11)恋文は不幸を招く
(はぁ……今日はなんとか平和だったな……)
放課後。
一時限目での教師との衝突ではどうなることかと思われたが、そのあとは特筆すべき事件はなかった。ネリアが絡んでこないだけで、回りは静かなものだ。多少、クラスメートたちとの距離はさらに開きつつあったが。
(ネリアがいないと気がラクだな)
持ち帰る物をまとめるべく、ルキは収納場所に向かう。勉強道具や鞄がそこに納めてあるので、今日の課題に必要なものを持ち出す必要があった。
はらり。
一人一人に割り当てられた収納場所。その扉を開けると一枚の封筒が落ちる。
(ん?)
ルキはそれに気付いて、見覚えのない封筒を拾う。
ルキ様。
表にはそう書かれており、差出人の名前はない。口はしっかり封がされていて、切らねば中身を取り出せない。厚さからすれば紙が一枚入っている程度のようだ。
(なんだ? 果たし状か?)
真っ白な封筒に生真面目そうな筆跡の文字。中身に期待できそうな気配はない。
(まぁ、昔っから何故か恨まれることが多かったからな……)
ネリアが今のような性格になってからは特に人間関係が悪化した。その理由がルキには思い当たらない。
(適当に捨てておくか)
学院指定の背嚢に封筒と教科書をてきぱきと詰め込む。
(さて)
準備ができると動き出す。回りの生徒は教室で談笑しており、寮に帰ろうとしているのはルキくらいだ。
しかし、そんなことはルキにとってどうでもよかった。早く寮に戻り、カリスの状態を確認しておく必要がある。
昨夕はルキから離れることを涙目で拒否するカリスに、先生にその身を預けるか部屋に残るかのどっちかにしろと選択を委ね、その結果彼女は後者を選択した。今頃は寮の収納場所の中に身を潜めているはずだ。これだけの時間が経ってしまったとなれば、おそらく石化して動けなくなっていることだろう。
(できるなら完治させてやりたいんだけどな……今の俺じゃこれ以上のことはできないし。とにかく急ごう)
そんなことを考えていたルキだったが、廊下に出たときに不意に聞こえてきた単語が気になって耳を澄ます。
(――ネリアが、どうしたって?)
妬みや嫉みといった内容は聞きなれていたが、それとはちょっと違う内容に聞こえた。声が聞こえてきた窓際に目を向けると、話していた少年たちがルキに気付いて声を掛けてきた。
「お前、あの特待生に振られたんだってな。ご愁傷様」
そう言って、彼らはにやにやする。
「ん? なんでそう思う?」
話の流れが見えてこない。ルキは彼らに近付きながら話を聞き出すために問い掛けた。
「いやいや、隠さなくって良いんだぜ? 元々釣り合っていなかったんだから、なるようになったってことだろ?」
「いや、だから、どうして俺が振られた事になってるんだ?」
怒るふうでもなく、ただ淡々とルキは訊ねた。そもそも怒る気にもなれない。付き合っているわけではなかったし、ただの幼なじみで単なる腐れ縁だ。ネリアを悪く言っているなら怒りようはあったが、仲をとやかく言われる程度のことならルキは涼しい顔をしていられる。慣れてしまえばこんなもんだ。
ルキの反応があまりにも平坦だったためか、少年たちの一人が怪訝な顔をして続けた。
「ひょっとしてお前、知らないのか?」
「うわー、かわいそうに」
哀れみの振りをして茶化す外野は放置して、ルキは問い掛けてきた少年に真っ直ぐ目を向けた。
「――何を知らないって?」
ルキは彼らからその話を聞くと慌てて走ったのだった。




