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エコ魔導士  作者: 中村 尽
旅立ち編
4/67

第三話『エコの日記』

挿絵(By みてみん)



――師匠がいなくなって232日目。

 今日は1日中いい天気で、時節計がきれいだった。あったかくなってきたので日なたぼっこをする。水辺で魚を釣ったので、夜に焼いて食べる。薪が足りなくなってきたから足さないと。布団を干したから寝るのが楽しみ。



 師匠がいなくなって233日目。

 今日も晴れ。日向ぼっこをする。お菓子でも焼こうかと思ったけど、小麦を挽くのがめんどくさいから止めた。納屋の片づけをする。桶の木が腐って来て、水が漏れる。師匠の生活用魔法の本を調べてみたけど、桶直しの魔法は無かった。



  師匠がいなくなって234日目。

 今日も晴れ。畑が渇いてきたので、そろそろ雨が降ってくれないかな? 桶が漏るので、お風呂の盥に水を汲んで撒いた。春トマトが旬になってきたみたい。もうちょっとで食べられる。



  師匠がいなくなって235日目。

 晴れ。暇なので、本を読む。師匠の本棚にあやとりの本があるけど、二人用のやつが出来なくてくやしい。あやとり用のゴーレムでも作ろうかな。今は夜だけど、時節計が赤紫になってきた。雨が降ってくれるかもしれない。



  師匠がいなくなって236日目。

 待ちに待った雨。日向ぼっこが出来ないので料理をたくさん作った。塩がもう少なくなってきた。晴れたら陸海月おかくらげを干そう。岩塩もあるけど、節約したい。


  師匠がいなくなって237日目。

 雨。暇なので魔法の練習を兼ねて陸海月を狩りに行く。あちこち探し回っても見つからなかったけど、代わりに大きい魚が泳いでいたので釣った。ナマズみたいなやつ。大根の実と一緒に、濃い味で煮たらおいしかった。



  師匠がいなくなって238日目。

 雨が降っていたけど、昼頃上がって虹が見えた。畑を見に行くと雑草の芽が沢山生えていたので抜く。春トマトが2個赤くなっていたので食べた。おいしかった。甘酸っぱくて。



  師匠がいなくなって239日目。

 晴れ。部屋の掃除をした。師匠がいつ帰って来るか分からないので、ベッドのマットレスを干しておいた。1日中ぽかぽかしていたので、食事はあまり摂らなかった。急にマットレスが干したくなったのは師匠が帰ってくる前触れかな? わたしはたまにそういう事がある。




  師匠がいなくなって241日目。

 そういえば昨日は寝ちゃって、日記を書くのを忘れていた。まあ特に書くこともなかったしいいや。そんなことより、今日はびっくりすることがあった。朝は畑をやって、昼過ぎに家の掃除をした。それで水を汲んで戻ってきたらタークという男の人が玄関に立っていた! 師匠以外の人に会うのは初めてだったけど、やさしそうな人だった。一緒にお茶を飲んでご飯を食べた。


 すごく丁寧にご飯を食べる人だ。わたしが作った春トマトのシチューとパンをおいしそうに食べていた。今はもう師匠のベッドで寝てるけど、色んな話をしてくれて、とても面白い。魔導書が珍しいのかな? ご飯の前にずっと読んでいたけど。家にあるのは全部師匠が持ってきたやつだから珍しいのかも。それに、蛍玉や時節計のことも聞かれた。けど、よく考えたらわたしだって師匠の作った魔導具のことは大して知らないんだ。


 起きるかと思ってお風呂を入れたけど、どうやら起きなさそう。お風呂を入れるの、久しぶりだな。呪文忘れてるかと思った。わくわくして眠れない。こんなに長い日記を書いたのは大分久しぶり。




  師匠がいなくなって242日目。

 今日から、タークが一緒に住んでくれることになった! タークは色々なことをやってくれる。畑仕事や水汲み、それに桶も直してくれた。それも、魔法を使わないで。魔法を使わなくても直せるんだって初めて知った。聞いてみたら、タークは魔法が使えないらしい。むしろ、使える人は少ないみたい。当り前みたいに魔法を使ってたから気付かなかった。でも、グロウが使えないならどうやって種を芽吹かせるのかな?明日聞いてみよう。タークは今日もごはんを食べたあと魔導書を読んでいた。



 師匠がいなくなって243日目。タークが来てから2日目。

 いや、3日目かな? タークがおいしそうに食べるから、ついいっぱいご飯を作る。そのせいで塩が無くなっちゃって、また陸海月を狩りに行くことにした。今日は運よくその辺にいたから、捕まえて海月液くらげえきを日に晒した。明日も晴れるみたいなので、そのまま置いてある。裏の畑からキイチゴを取って来てジャムにした。タークはパンが好きみたいだから、これでジャムパンにしてあげよう。あ、種を芽吹かせるのは水に漬けておくと出るらしい。今度やってみよう。



 師匠がいなくなって244日目。タークが来てから4日目。

 やっぱり初めに来た日から数えることにした。タークが魔法を使いたいみたいだから、簡単な呪文を教えた。石をつくるやつ。でも、なぜか発動しない。わたしは始めからできたけど……。なんでだろう。家のトイレは魔導トイレだから、タークは不便だろうなあ。この間はわたしが動かしてあげたけど、タークも恥ずかしそうだったし。

 師匠がいたら、きっとタークにも魔法を教えてくれたのに。昨日海月液を干したから塩がとれたけど、まだ少ししかないのでもう1回陸海月を狩りに行った。大体湿地に行けばいるのに今日はいなくて、代わりに草原に何匹かいた。タークにも手伝ってもらって干した。でも、どうやらタークは陸海月が嫌いみたいだった。わたしはクモが苦手だけど、タークもそんな感じなのかな?



 師匠がいなくなって245日目。タークが来てから5日目。

 タークは暇さえあれば本を読んでいる。結構勉強家だ。わたしは文を読むのも書くのも苦手。絵も苦手だ。この日記だっていっつもちょっと書くと飽きちゃって、途中で止めてしまう。でも、師匠に帰って来るまで書いてなさいと言われて日記帳を渡されているので、これも課題だと思って書くしかない。でももうすぐ紙が無くなるな~。無くなったらどうしたらいいんだろう?

 ちょっと読み返すと、タークが来てから書くことが増えたみたい。この調子なら秋ごろにはページが埋まってしまうだろう。明日また晴れたら、ずっと世話をしていない家の裏の木の世話をしよう。ちょっと裏技だけど、香辛料が切れたからグロウを使って収穫しちゃおうかな。



 師匠がいなくなって246日目。タークが来てから6日目。

 タークが来てから色んな事を聞いたし色んな事を話したけど、タークはどうやら幼馴染の女の人とひと騒動あって、命を狙われているらしい。もしかしたらその内追手がここに来るかもって言っていた。でも、ここにまた人が来るのはちょっと嬉しいかも。

 あんまり人と会った事ないから、悪い人だって言われてもよく分からないなー。本に出てくる怪物みたいに、家を燃やしたり畑をめちゃめちゃにしたりするのかな……。



 今日は裏庭の掃除とか、剪定をした。グロウを使って収穫もできた。その間にタークがうさぎを捕まえて捌いてくれた。肝臓を生で食べたらおいしかった。新鮮なお肉を食べたのも久しぶり。それにしてもタークの作った罠は見事だった。作り方教えてもらおうかな。時節計もまっかっかだし、ちょうどいいかも。頼んでみよう。



挿絵(By みてみん)



 師匠がいなくなって247日目。タークが来てから7日目。

 1日中雨だったので、タークとあやとりをしたり、魔導書を一緒に読んだり、罠の作り方を教えてもらったりした。これだったら魔法で作れそう。あと、暇だからと言って食事を作ってくれた。人の作ったものを食べるなんて、初めてだった。けどまずかったから、もう当分いいや。

 なんだろう? あのしょっぱいスープ。不思議と忘れられない味だ。タークの持ってきた服がボロボロだったから、繕ってあげたら喜んでいた。糸があまりないから、夏になったら糸虫集めでもしよう。



 師匠がいなくなって248日目。タークが来てから8日目。

 まだ雨が降っている。師匠が教えてくれたように、タークにも魔法を教えてみた。教えるのって難しいなー。なんとなくイメージして呪文を唱えれば出来るもんだと思ってた。湿気でかび臭くなってきたから、お風呂の掃除をした。タークは家じゅうの床に雑巾をかけてくれた。今度晴れたら自分の部屋の掃除をしよう。それと、納屋に有った干したハーブと香辛料でお香を作った。2、3日乾かせば使えると思う。



 師匠がいなくなって249日目。タークが来てから9日目。

 タークがどんどん本を読んでるから、師匠の部屋から別のを持って来て台所の本と入れ替えてあげることにした。師匠の部屋はちょっと怖い。散らかってるゴミの下に魔法陣があったりするから、うっかり踏むと死にかねない。師匠は自分の部屋に他の人が入ってくることを考えたくないって言ってた。人のことまで考えると自由な発想が破壊されるんだって。

 ずっと掃除してないから師匠の部屋は埃っぽい。本棚を漁って、何冊かの魔導書を持ってきた。魔導トイレについての本もあったから、タークならこれを読めばトイレを使えるようになるかもしれない。

 昨日作ったお香を、タークが紙に巻いて喫っていた。タークは煙草が好きらしい。でも、旅に出てからは値が張るからあまり喫ってないらしい。昨日のには胡椒とかも混ぜたからごほごほむせてて、面白かった。今度、ちゃんとした煙草を作ってあげるって言ったら喜んでた。そんなに煙草が好きなんだ。



  師匠がいなくなって250日目。タークが来てから10日目。

 今日も雨。長いなー。タークが家に来てからもう10日が経った。楽しかったからあっという間。このまま一緒にいられたら、最高だろうな。師匠が帰ってきたらなんて言うかな? きっと師匠だって許してくれるだろうから、三人で暮らすことになるかも。そしたらタークも師匠に魔法を習えるし、すごくいいじゃない?



 タークは魔導トイレの起動呪文を練習してるけど、なかなかうまくいかない。本を読んで知ったのは、家のトイレは魔導トイレの中の、『生物資化槽式』だってこと。排泄物を小っちゃい虫が肥料に変えてくれるらしい。それで畑の横の所にいっつも肥料が溜まるようになってたのねー。すごく納得。

 魔法が必要なのは、便壺の中に排泄をした後、土の部分を盛り上げて資化槽に入れるところ。どうやら、魔法陣を書いておけば呪文で魔法が使えない人も使えるみたい! 魔法陣、わたしが書くのかな。苦手なんだけどなー。



  師匠がいなくなって251日目。タークが来てから11日目。

 今日はとてもいい天気だった。日差しが強くなっている気がする、時節計の形もだんだん夏っぽくなってきた。洗濯物を干したり、部屋の掃除をしたり、畑をやったり忙しかった。雑草がすごい。日が暮れてから魔導トイレの起動魔法陣をいくつか書いてみた。どれも起動しない……。これだから、魔法陣を書くのは苦手なんだ。

 タークはすっかり日課になった、魔法の練習を欠かさない。あと本で読んだ呼吸術も練習している。気持ちが落ち着いていいって。



 わたしもタークを見習って、何とかトイレを使えるようにしようと思ってしばらく練習した。……でもさっきトイレを探したら、棚の横の壁にちゃんと小さな魔法陣が書いてあった。タークに試しに押してもらったらちゃんと動いた。さすが、師匠。タークが来てから色んなことがあって毎日楽しい。師匠も早く帰ってこないかな。タークの話を聞いて、もっと色々なことが知りたくなった。



 明日は、畑を広げよう。タークと一緒に。


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