第二十八話『魔獣との戦い』
エコとタークは来た道を引き返し、クイス達と過ごした懐かしい洞穴への道を行く。3か月前に一度歩いた道だが、季節が変わったこともあって二人は初めて歩く道のように感じていた。
連絡なしに3か月。クイス達がまだあの洞窟に居るかは分からない。だがもしあの四人がそこに居たとしても、エコとタークはそのまま【石の町トレログ】に向かうつもりだった。
【ハロン湖】での事件は、二人にとって全く予期しない寄り道になってしまった。できることなら冬の旅は避けたかったが、流石にここまで旅程が遅れるとそうも言っていられない。
冬の旅路は、なにしろ寒い。荷物が増え、旅程は鈍り、その分だけ旅の危険は増す。だがエコの寿命のことなどを考えるとタークには一刻も早く師匠の手かがりを得てやりたいという思いがあったし、それにはエコも同意見だった。
一応【ハロン湖】でも師匠のことを尋ね歩いたのだが、その手がかりがエコの記憶だけとなれば、見つかるわけも無かった。
「やっぱりさ、ゼイゼリリさんに聞いた『記憶陣術』を使える魔導士さんを探そうよ」
道々、エコがタークに提案する。『記憶陣術』とは人の記憶から情報を引き出す術の事で、主に裁判などに使う。高額な金を払えば記憶の底にある物を引き出して似顔絵を描いてもらうこともできると、以前ゼイゼリリが教えてくれた。
「そうだな、……これじゃあちょっとなあ~」
タークはポケットからきれいに畳んだ紙きれを取り出す。それを開くと、たどたどしい筆致でエコが書いた、師匠の似顔絵が現れた。エコが驚いてタークを見る。
「なっ……! それ、捨てたんでしょ!? 捨てたって言ってたじゃん!」
「言ったけど、まだ捨ててないんだ。名残惜しくてな。……味があって、良いじゃないか」
「ないってそんなもの! 捨ててよそれ、皆に笑われたの思い出すでしょ!」
絵を描いた当初は僅かでも師匠を探す手助けになればと思い、エコは尋ねる人々にそれを見せていた。
しかしそれを見せたうち半分の人がそれを人の顔だと認識してくれず、その度に必死に説明しては、笑われた。従って、エコはこの絵にいい思い出はない。
「どうせ分かんないって! 前例多すぎ! ほら、貸してよ」
「渡さない。お前、燃やす気だろ。もったいない」
「ちょっと……、はーぁ。いいよもうそれあげるよタークに……」
エコは呆れて、力なく言った。
洞穴には、次の日の夕方に着いた。
草が枯れたせいで風景が変わっており、どの辺りがかつてエコ達が住んでいた場所か、すぐには分からない。薄れた記憶を頼りにしばらく歩き回ってエコがようやく目印を見つけた時には、周囲は薄暗くなっていた。
「あ! ターク、あれだよ! あの木! ほら、ソリャ・ネーゼと戦った時に生やしたやつ!」
エコが見つけた大木めがけて走り出す。タークも走って後を追った。
洞穴付近は、見る陰もなく閑散としていた。辺りに人の気配は全くない。エコとタークが四人の痕跡を探すと、草むらの中から見覚えのある椅子の足やシェルターの木組みの一部、焚き木の燃えカスなどが見つかった。
「クイス達どうしたんだろうね……。やっぱり移動したのかな」
「さあな。荷物は無いみたいだし……、移動だろうなあ。無事だといいが」
エコが洞穴の穴の縁で何かを見つけて、それを拾い上げる。赤錆びた金属の棒。スカーレットの入っていた檻の残骸に間違いない。
「みんな、元気にしてるかなぁ……?」
こうなることを既にある程度予想していた二人は、昔を懐かしんで洞穴で一夜を明かす事にした。起こした焚き火で持って来た干し魚炙りながら、静かな洞穴に佇む。
「どうも、彼らがここを引き払ったのは2か月は前の事らしいな。結果的には、正しい判断だろう」
「大丈夫かなあ~、あの四人。【ハロン湖】に来ればよかったのにね……」
「いや、ラゾ達を連れて人里には入れないよ。……ラゾとチノはともかくとしても、ヨズの一本角はどう見ても人間には見えないし、本当なら街道も危ないくらいだ」
魔導士達の情報操作によって、一般人には『人間もどき』はあまり知能がなく、凶暴だと考えられている。人目に付くようなところを歩けば、すぐに行政魔導士に通報されるだろう。エコはそこまでの事情は知らない。
「それにしても、なつかしいなぁここ。もう3か月も前なんだ。……なんか全然先に進んでないね、わたしたち。ここから2日歩けば、わたしの家にも帰れちゃうんだから……」
エコが遠い目になって、ぽつりと言った。『わたしの家』と言ったことで、家が燃えて無くなってしまったことを思い出したのかもしれない。
「なに、ゆっくり行けばいいさ。最後に【エレア・クレイ】にさえ着けば。……」
タークはそう軽く言ってから少しの間黙り、急に改まった態度になった。
「ところで、エコに話しておきたいことが……、………………?」
そう言いかけ、タークはエコの注意が洞穴の外に向いていることに気付いた。
追ってタークもそれに気がついて神経を張りつめ、外の深い暗闇を睨む。腰を上げて入り口から外を伺うと、タークの背筋に痛みにも似た悪寒が走った。
ミミズのように動く大きな鼻をしきりに動かし、六本の脚でゆっくりと地を踏みしめながらこちらに接近してくるそれは――、既に、二人の存在に気付いているらしかった。
全長20レーンを超す巨体故に歩幅は広く、見かけ上鈍重な動作とは裏腹に、移動速度は早い。
魔獣は、猛然とこちらに近づいて来ていた。
「エコ! 洞窟の奥に入れ!」
タークが叫ぶ。――――その声を聞きつけた魔獣の耳が反応して動いた。同時に脚の動きが速くなり、やがて洞穴に向かって巨体を揺らしながらの突進を始めると、足音が地響きとなって洞穴を揺らす。
かつてクレーターに現れ、『人間もどき』を襲った魔獣――『ヒカズラ平原の人食い魔獣』は、冬になると食糧を求めて殊更凶暴化する。よく効く鼻と鋭い聴覚によって獲物を捉え、あらゆる生物を食べるその魔獣は、久しぶりの栄養価の高い獲物を見て口から溢れるままによだれを垂らしていた。
魔獣の巨体が猛スピードで洞穴の入り口にぶつかり、洞穴全体にすさまじい衝撃が走る。それと同時に魔獣の前足がタークめがけて突っ込まれたが、タークはすんでのところで奥に繋がる幅の狭い道に入っていた。
「エコ! 奥に逃げろ! 他の出口から出るんだ!!」暗闇の奥、タークが前方にいるはずのエコに向かって叫ぶ。
「ダメだッ……!! 奥に入れない! 今の振動で道が塞がったよターク!!」
「なにぃっ……!?」
今エコ達がいるのは、壁画のある広い空間へと繋がる、人が並んでは通れないほどの狭い通路だ。落盤により、二人はその通路に10レーン程入った所で立ち往生する羽目になった。
魔獣はとてつもない力で洞穴の入り口を崩して広げながら、無理やり腕を伸ばして通路の奥に入ったタークを掴もうとしている。流石に腕がタークに届くことは無かったが、魔獣のすさまじい膂力によって岩壁に幾条もの亀裂が走り、通路は今にも崩れそうになっていた。
「これじゃ崩れるよ! 出るしかない!」通路の奥でエコが叫ぶ。
「アイツがいるだろ、食われるぞ!! なんとかやり過ごすんだ!」
言ったそばから崩れた岩壁が剥がれ、タークのすぐ脇に落ちた。エコが奥から取って返し、タークの目の前に来た。
「このまま生き埋めよりは……、戦った方がまだいいよ!」
「だが……あれに勝てるか!?」
「杖があれば、多分!」
エコが力強く頷く。咄嗟の事だったので、エコは荷物と一緒に杖を置いてきていた。タークが後ろを見ると、魔獣の湿った鼻が二人を探して蠢いているのが、洞穴をまさぐる太い腕越しに見える。
「じゃあ俺がアイツの腕を引かせる。エコはその後から行け! 行くぞ!」
タークの合図で、二人は同時に駆けだした。前方の暗闇で、魔獣の太い腕が通路の壁をまさぐるようにして動いている。タークは小刀を抜き、その指先を突くように切った。
「ぎュアっ!!!」
魔獣が痛みで腕をひっこめる。その瞬間、ひざを折って素早くしゃがんだタークをエコが飛び越え、入り口に向かって一気に走り抜ける。幸い、杖は落盤に埋まらずに元の位置にあった。
「ぐワぁー!!」
魔獣がエコの姿を認め、身体を掴もうと反対側の腕を伸ばしてきた。
「ふんっ!」
その手がエコに触れようとした瞬間、タークが投げた握りこぶし大の石が魔獣の指を直撃し、魔獣の爪を砕いた。血が飛び散る。
その隙に乗じてエコは杖を取り上げ、素早く詠唱すると、『フレイム・ロゼット』の大火球を魔獣に向けて放った。エコの成長に伴ってかつてとは比べ物にならないほど巨大になったそれは、魔獣の顔を赤々と焼き上げ、魔獣に苦悶の声を上げさせた。
(……いける!!)
エコは、更に二発の『フレイム・ロゼット』を唱え、魔獣に向かって放った。その内一発は魔獣の左肩に当たり、もう一発は耳を燃やした。
その激しい火炎の向うからは魔獣の腕がエコを掴もうと当てずっぽうに伸びて来たが、エコはその腕を身を沈めて躱し、もう一発『フレイム・ロゼット』を命中させた。
魔獣は筆舌に尽くし難い熱さと痛みに耐えかね、耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げた。
「もぉっとかぁー!!」
エコはその後も猛烈な勢いで『フレイム・ロゼット』を唱え続けた。
そこから更に五発、計九発の『フレイム・ロゼット』を魔獣の全身に打ちつけると、魔獣の体は燃え盛る炎に包まれて辺りを照らす巨大なかがり火になり、周囲は一気に明るくなった。
魔獣は苦しみ、全身で悲鳴を上げながら二本の前足で顔面をかきむしっていた。エコは薄く勝利を予感し、荒れた息を整える口元に微笑が走る。
……が、魔獣の強靭な生命力は、その程度のことでは尽きなかった。
高熱に巻かれて呼吸もままならず、痛みと熱さに苦しむ魔獣が体中の火を消そうとして起こした行動は、その巨体で地面を転げ回ることだった。
「うわ、うわっ!」
息の切れたエコが、巻き込まれまいと必死に逃げる。岩を砕き、大木をなぎ倒しながら辺り構わず転がり回る魔獣の巨体にエコが危うく潰されそうになった時、脇からタークが飛び込み、間一髪のところでエコを救出した。
タークはそのままエコの身体を抱え上げ、魔獣を避けて小高い崖の上に登った。
「はーっ、はー、はー。ありがとう、ターク!」
「大丈夫か? 今のうちに呼吸を整えろ!」
「えっ?」
「アイツ……こたえてない! まだ生きてやがる……」
「嘘っ!?」
息を切らしながらエコが驚いて後ろを見ると、辺りを煌々と照らしていた魔獣の体はあっけなく燃え静まり、黒こげになって不気味さを増した魔獣の巨体が、月光を背にして暗い影を落としていた。不気味に赤く光る魔獣の眼が、はるか頭上からこちらを睥睨している。
タークは足を止め、左手に持った小刀をかざしてエコに見せる。刀身が濡れていた。
「やはり、まともにやって倒せる相手じゃない……。今このナイフに毒を塗った。これを打ち込めば多少は効くかもしれん」
「なるほど! じゃあ、隙を作んなきゃ! ターク、下ろして! また魔法で……」
エコが言い終わらない内に、タークは突然エコを放り投げた。
「えっ?」
エコは何が起きたのか分からず、スローモーションになった感覚の中で、ゆっくりと離れていくタークを見る。
するとタークの左側から何か黒いものが近づいてきて、そのままタークの脇腹に接触した。途端にタークの表情が苦痛に歪み、そのまま殴り飛ばされる。
黒い魔獣の腕が、タークの身体を殴りつけたのだ。
魔獣の怪力をもろに引き受けたタークの体はその勢いのまま数レーン飛ばされ、深い藪に突っ込む。衝撃で折れた枝葉が辺りに飛び散らかった。
エコは咄嗟に受け身をとって、草地に転がる。魔獣を睨みつけた。
「よくもやっ……!! 食らえぇ!」
エコはその場で態勢を整え直すと、再び『フレイム・ロゼット』を唱えようとした。しかし魔獣の足元でのその行動は、カエルがヘビの口の前で反旗を翻すがごとくの、無謀すぎる試みだった。
詠唱を始めたエコの無防備な体を、魔獣がすかさず掴みあげる。
「うあわあぁあああーーーっ!! ッ!――――――――…………」
魔獣はエコの身体を空中高く持ち上げると、力まかせに振り回した。強烈な遠心力が、エコの意識の糸を強引に引きちぎる。気絶したエコの身体から力が抜け、魔獣の手にぐったりと収まる。
――傷だらけになりながらやっとのことで藪から這いだしたタークが、呆然とその光景を見ていた……。
魔獣がゆっくりと手を開いて、中の獲物を確認する。
位置的には魔獣の手の影になってエコの姿は見えないはずだが、見上げるタークの瞳には、動かないエコの肢体が魔獣の手中に収まっているのが、何故かはっきりと見えた。
青い顔をしたエコ。握る手に力はなく、ほどけかけた指からは今にも杖がこぼれそうになっている。先ほど断末魔かもしれない悲鳴を発した口は半開きで、助けを呼ぶこともできない。
その小さな体が、魔獣の大きな黒い手のひらに収まっている。まるで木の実のようにころりと無抵抗に………………。
魔獣がそれを口に運ぼうとする間じゅう、タークの思考は幻視したエコの姿を永久的に反芻し続けていた。
絶望。もはやタークにはどうする事も出来ず、ひたすら自分の無力さを悔いた。何もできないまま死んでいった女、シェマのイメージが今のエコの姿と重なり、傷だらけの顔をくしゃくしゃにして、タークは慟哭した。
こんなことでエコが死ぬ。魔獣に噛み砕かれるとき、エコは苦しむのだろうか…………。
タークの全神経が、その光景を見ることを拒否していた。だが無力なタークに、魔獣を止める術はない。
せめて目を閉じようと思ったが、どういうわけかそれもできない。こうしている間にも、魔獣がエコを食すべくエコを乗せた手を口に運んでいる。……絶望の極限でタークの五感は真っ赤に塗りつぶされて何も感じなくなり、同時に一切の思考が止まった。……………………
――次に気が付いた時には、タークは魔獣の前にいた。
知らぬ間に魔獣に正対する形になっていたタークは、眉を寄せて眼前の魔獣を見る。魔獣の様子が、どうもおかしい。苦痛に身を捩らせ、轟く絶叫は、どうも悲鳴のように聞こえる。
魔獣の視線の先に目をやると、エコを掴んでいた魔獣の腕が、手首から無くなっていた。
そこから目線を落とすと、何本か指の折れた、魔獣の手首が落ちていた。腰に下げていた長剣が、いつの間にかタークの右手に握られている。
どうやらそれを断ち落としたのは、他ならぬターク自身らしい。だが当のタークの頭の中はすぐにエコの事で一杯になり、それどころではなかった。
(エコはどこだ!?)
タークは全身左右に振り回し、必死にエコの姿を探す。
だが、エコの姿はどこにも見当たらない。タークは焦り、脳を絞りだすようにしてあらゆる可能性を検証した。魔獣に放り出され、草むらに落ちているのか? 手首と一緒に見えない所に落ちたのか? あるいはもう、魔獣に食われて腹の中――――? 最悪の事態を想定したタークの思考に先ほど聞いたエコの痛々しい悲鳴が重なり、タークの気が遠くなった。
(エコ!)
全神経をエコの行方を探すことに集中したタークは、背中からかすかな寝息が聞きとった。それでようやく、自分がエコを背負っている事に気が付いた。
タークは心底安心し、背中でエコの暖かい重みを確かめる。そうして肺に溜まっていた空気を思うさま吐き出すと、魔獣の鋭く尖った歯列が眼前に迫っていた。
エコの身に危険を感じたタークの神経が、再び音を立ててざわつく。タークは反射的に足に力を入れ、跳躍していた。すると魔獣の歯列は瞬く間に遠のき、驚きで見開かれた眼を、はるか眼下に見下ろす形になった。
(あれ?)
すさまじい勢いで跳躍したタークの視点は、地上およそ7レーンの高さにまで浮かび上がっていた。
エコと合わせて二人分あるはずの体重を軽々と浮かび上がらせたタークの身体は、当然激しいはずの着地の衝撃をも、全く意に介さない。
着地後すぐに繰り出された魔獣の腕を、タークは何も考えずに右手の剣で捌く。魔獣は怒りで我を忘れその後も執拗に攻撃を繰り返したが、タークはそれを苦も無く避ける。このあたりでタークは徐々に、自分の体に起こった変化に適応しつつあった。理由はさっぱり分からないが、どうも人の身に余る程の力を手に入れたらしい。
タークは自分の体の性能を把握すると、急に攻撃に転じた。闇雲に繰り出された魔獣の腕から指を3本切り落とすと、そこから地をひと蹴りして魔獣の右側に回り込み、踏み込みの余勢を駆って長剣を振り抜き、魔獣の体重を支える脚の1本を、骨ごと切り落とした。
「がガごぎゃああああああ!!!」
魔獣の放つ悲痛な大音声を背景に、タークは残るもう1本の脚も同じように斬ろうとした。だが、剣先が肉を断って骨に達した時、長剣は甲高い音を立てて折れてしまった。
タークは咄嗟に無用になった剣の柄を離すと、空いた右手で脇にあった岩を掴み上げ、魔獣の足の甲に思い切り叩きつけた。重くくぐもった音を立てて、魔獣の指骨が砕ける。
魔獣は体重を支えていた2本の脚を失い、堪らず横転した。巨体が枯草を舞い上げて倒れた時には、タークは既に体の下をくぐって反対側に抜けていた。
痛みに咽ぶ魔獣の苦しそうな目を見て、タークは申し訳ない気持ちになった。それは、タークが狩りで必要以上に獲物を苦しませてしまった時、いつも感じる感覚だ。相手がいくら凶暴な魔獣とはいえ、この状況は今のタークにとって、うさぎ狩りとなにも変わりがなくなっていた。
――とすれば、仕留めた獲物は一刻も早く楽にしてやらねばならない――。タークは小刀を何回か地面に刺してさっき塗った毒を完全に拭き取ると、死を恐れてタークを見つめる魔獣の首に、深々と差し込んだ。そのまま慣れた手つきで頸動脈を断つと、黒っぽい血が、濁流となって流れ出す。
こうしてようやく、魔獣の命は絶たれた。タークは気絶したエコを背負ったまま、ぼんやりとその流れを見つめていた。




