第十四話『大変な一日:前編』
エコたちが洞穴で暮らし始めて九日目の朝。
昨日足をくじいたばかりのクイスは、洞穴の脇にある椅子に座って、やわらかい木漏れ日を浴びながらのんびり寛いでいた。枝を組み合わせて座面に布を巻いた簡単だがしっかりした作りの椅子はタークが作ったもので、全部で六脚ある。しかし、クイスが座っている一脚だけは、タークが手を加えて背もたれとひじ掛けを着けた、特別製だった。タークは工房での経験から、家具類の制作が得意なのだ。
クイスの隣にある椅子の上には、クイスを慰めようとヨズとチノが置いたスカーレットの籠があった。ラゾがその脇にしゃがんで、スカーレットと遊んでいる。
「ラゾさんは洞窟探検に行かないのかい?」
クイスがラゾに尋ねた。エコ、ターク、ヨズ、チノの四人は、洞穴の奥まで探検に行っていて居ない。
「ええ。クイスさん一人残しちゃかわいそうでしょ? ヨズたちにはタークさんが付いてるから心配ないわ。それに、私暗くてじめじめしてるとこ好きじゃないの。生まれたところに似てるから」
「そうかい。きみはどんなふうに生まれたんだい? 僕、魔法生物がどうやって生まれるのかよく知らないんだ」
クイスが楽しそうに尋ねると、ラゾが躊躇いがちに言った。
「私にもよく分からないの。気付いたら生まれてたわ。でも、不思議と目の前の人が造物主で、その人と契約を結ばなきゃならないって事はわかった。うん、すぐ捨てられちゃったけどね」
ラゾは明るく言ったが、表情は少し悲しそうだった。つややかな白い髪が、朝日を受けて光る。
「最悪だよなあ、魔導士どもはなぜそんなことするんだろう。それで平気なんだからひでえよ。で、それからは?」
「うーんと、いきなり生まれていきなり放り出されたから、自分がなんなのかもよく分からず途方にくれてたんだけれど……。でも、運よくあの人に会ったの。ヨズとチノはその時はまだいなかった」
あの人というのは、エコに体当たりしたヨズたちの兄のことだ。クイスも後から事情を聞いて、エコたちに起こったことの大体の顛末を知っていた。ラゾが話を継ぐ。
「それからは、んー、そうね。細々と暮らしてたのよ。畑とか牧場を荒らしたりしてね。ふふ、今考えると非常識よね」
「なあに、ちょっとぐらいいいじゃないか。僕だってよくひとんちの果物を勝手に盗って食ってたよ。そういえば、それって何年前くらいの話さ? 魔法生物って、最初から大人の姿で生まれたりするんだろう?」
「四年前……かな? たぶんそれくらい」
「え、四年前? 四年!? じゃ、生まれたときから今とほとんど同じ姿だったって事?」
クイスが飛び上がって驚く。
「そうよ。私たちのもの覚えがいいのは、多分そのせいなんでしょうね。造物主が、必要な知識を短時間で覚えこませるためにそういう仕組みになってるんだと思う。ほら、もう言葉も大分使えるようになったでしょう?」
「そーだな……。きみ達が特別天才なんだと思っていたけれども、そういうことなのか」
「うん。あれ? エコだけ帰ってきた」
ラゾが洞穴の中から出てきたエコを見て言い、つられてクイスも視線を向けた。
「クーイースー! ラゾー! 奥ですごいもの見つけたんだよー!!」
エコが叫んで、手でこちらに来い、と合図している。
「なんだろ? 行ってみよう」
「それじゃ、クイスさん、私につかまって」
ラゾがクイスに肩を貸そうとする。
「杖があるし、いいよ。平気さ」
「この方が早いから! ね」
結局クイスはラゾにつかまって、二人でエコのいる方に歩いていった。
「誰が描いたんでしょうね、こんなもの……」
ヨズが、岩壁を眺めながら言う。暗がりの中にヨズの声が響く。松明の火が照らしているのは、壁一面に描かれた壁画だった。
六人が住んでいたのは洞穴に入ってすぐの開けた部分だったが、洞穴はさらに奥まで続いていた。洞穴の奥がどうしても気になってしまったエコとタークは、ヨズたちを誘って奥まで探検に行くことにした。
洞穴は一旦人が通れる程度の幅まで狭くはなるものの、それが30レーンほど続くと、広間のような空間に抜けるようになっていた。そこに壁画があったのである。
「美しいな。うん。これは……」
「チノこんなのはじめてみた」
タークとチノも感想を言う。
その壁画はよほど昔に描かれたものらしく、大小さまざまの植物が天地を無視して描いてあった。壁画の中心には、その中でもひときわ大きな樹が床から天井まで聳え、他の全ての植物をその葉の下に収めている。脇に小さく、人が手を合わせて拝んでいる姿が描いてある。
「これは《御樹》だろうな。樹教のご神体だ」
そうタークが一人合点すると、ヨズが寄ってきて質問する。
「それって一体なんですか?」
「ものすごく天気がよければこの辺からも見えるが、東に《御樹》っていう馬鹿でかい樹が生えてるんだ。それを崇め奉っているのが『樹教』って宗教で、かなり昔からある。『樹教』では全ての植物が《御樹》の眷属であるとして信仰の対象にしてるんだが、この絵は多分それを表現してんだろうな」
「そんなにおおきなきがあるの?」
チノがタークに話しかけるのは珍しいので、タークはすこし驚いた。エコとラゾがいないせいだろうな、と思いながら答える。
「ああ、でかいぞ。洞穴の正面に、山がずーっと見えるだろ? あの山よりでかい樹なんだ。ブロッコリーみたいな見た目の樹だ」
ふつうなら《御樹》のことは「森のような」と例えるものだが、タークはブロッコリーに例えたほうが分かりやすいと常々思っている。敬虔な樹教徒なら怒り出すだろう例えだ。
「へー、みてみたいな! てんきがよかったらみられるの?」
「かなり遠くだからな、なかなか難しい。もう少し寒くなると、空気が透き通るんだが」
「ぼくも見たいです! もっと寒くなったらって、どれぐらいですか!?」
「うぅーん、霜が降りるくらいか? もうちょっとだよ」
「タークさん、霜って何ですか?」
「寒くなると地面が凍るんだ。そして、土をかぶった氷の柱が立つ。見たことないか?」
「ありますあります! 霜って言うんだ……」
「ねえ、なんではしらになるの?」
「む、うーん……」
二人が次々とタークに疑問をぶつける。タークは実家にうじゃうじゃいる弟と妹達を思い出して、懐かしい気分になった。子どもというのはしばしば大人を質問攻めにして、しまいには大人にもわからないような疑問までぶつけてくる。こうなると厄介だが、それが可愛いところでもある。
「おっ、ほれエコが戻ってきたぞ、チノ」
丁度エコが二人を連れて戻ってきた。わからない質問が来たら、話をそらすに限る。タークは経験的にそういった対処法を身に付けていた。
チノがエコの元に駆け寄り、「ねえ えこ、なんでしもははしらになるの?」と、タークにした質問をエコにもした。
「霜の柱? ああ、地面で氷ができると、土の下から水が上がってきてまた凍るの。そうやってどんどん凍って行くと、柱みたいに高くなるんだよ」
「へー、そうなんだ! あ、らぞ!」
チノがエコの後ろから付いてきたクイスとラゾに気付いた。
「あ、ごめんクイス。足元照らすの忘れてた」
エコが持っている松明を下げて、クイスの足元を照らす。
「ありがとうエコちゃんっ! おお……! こりゃスゴイな!」
「本当に……! 何かしら? これ」
クイスとラゾも、壁画を見て素直に感嘆の声を上げる。タークがもう一度、《御樹》と樹教について説明した。ラゾとエコが感心して聞いている。
「それ、見たことあるかもしれません。大きな樹ですよね? 一本なのに、森みたいな……。私が生まれた所、その近くだったかも……」
「生まれは【ツィーリィ・セフィーア】辺りってことか? 巡行者の聖地だ」
「そこまではわかりません。けれど、兄と二人で結構な距離を移動してきましたから……」
それからしばらく思い思いに壁画を見ていたが、いいだしっぺのエコは早々に飽きてしまい、昼食の準備をするという建前でタークと一緒に戻ることにした。
クイス達は壁画を隅々まで眺めて、いろいろと話をしている。時々混ざる笑い声は、笑い上戸のラゾのものだった。
「クイスさ」
エコが狭い帰り道で、前を歩くタークに話しかける。
「大分打ち解けたね。最初かなり警戒されてなかった?」
「そりゃそうだろ。アイツ、ラゾたちを売ろうとした奴等の仲間だったんだぞ? 信用ならんよ」
「今では、チノやヨズとも普通に話してるよね。……クイスががんばってたのって、罪滅ぼしのつもりだったのかな」
「さあな。だが、クイスがいたお陰で大分助かったよな。俺には、あんなに立派な寝床のシェルターは作れないぞ。作るとこ見てたが、手際がよかったよ。大したもんだ」
「すごいよねー。でもタークも椅子とか作ってたじゃん」
「まあ一応な」
話しながら歩いていると、開けた空間に出た。少し前まで寝るのに使っていた、入り口部分だ。
「さってっと、お昼何にしようかなー」
エコが昼食の準備をするため洞穴を出ると、眩しさで一瞬目がくらんだ。咄嗟に手で日を遮り、目を瞑る。
明るさに慣れた目を開けると、先ほどクイスが座っていた椅子に、見知らぬ女が座っていた。
鍔の広い帽子をかぶり、黒いドレスを纏っている。帽子の陰になって、顔はよく見えない。
ひじ掛けに片肘を付き、頬を拳で支えて悠然と椅子に腰かけたまま、女は冷たい目でエコを見て、うすい唇を開いた。
「こんにちは、お嬢ちゃん。――早速本題に入るけど、貴女は魔導士なんですってね? お名前伺ってもよろしい?」
出し抜けに問う。
「こんにちは! わたしはエコ。あなたは?」
「フルネームでね」
有無を言わさぬ口調で、かぶせ気味に女が言う。エコは少しムッとして、答えを跳ね返す。
「わたしはエコ。名前はそれで終わり。あなたはなんて名前なの?」
「苗字がない……? なるほど。私が“行政魔導士”ソリャ・ネーゼだって分かってるわけね。じゃあきっと用件も分かるのよね?」
ソリャ・ネーゼと名乗った魔導士からただならぬ気配を読み取ったエコは、さり気なく、杖の置いてある所へ近づいた。背後でタークがそれとなく警戒して、いつでも飛び出せるように身構えている。
「わたしに用件? ……心当りがないよ。誰かと思い違いしてるんじゃないの?」
「分からないはずはない。もう一週間も前にすぐ近くの草原で、『人間もどき』駆除業者の一団を痛めつけたでしょう? ね?」
顎を少し上げ、エコを見下すような態度でソリャ・ネーゼが指摘すると、エコは硬直した。瞬間、エコの眼前に男達がうめき声を上げて苦しそうに転がる、あの光景が蘇った。それを見て女がほくそ笑んだ。タークが上着の下に小刀を隠し持ち、エコの前に立ちはだかる。
「ご用件伺いました。全く身に覚えがないことだ。我々に嫌疑をかけるに至った事情を、詳しくお聞かせ願いたい」
タークはシラを切り通すつもりらしい。幸い、ラゾたちは洞穴の奥に居て、証拠は何もない。ソリャ・ネーゼは、不敵な笑みを浮かべながらタークの顔をじっと見て、言った。
「その駆除業者から直々に報告があったのよ。女の子の魔導士にやられたって口々に言ってて、その特徴が――エコちゃん? によく似てるって訳なのよ。分かった? 短剣を隠し持ったお兄さん」
見抜かれていた。どうやら全てを知った上で、ふっかけて来ていたらしい。
「なるほど。……困りましたね、こりゃどーも。……疑いはどうしたら晴れるんだ?」
タークは腹を括った。この感じだと疑いは晴れない。ならば……。
「700,000ベリルね。無ければ命乞いなさい」
賄賂の要求。しかも法外な額だ。交渉の余地は無いと言っているも同然の答えだった。
タークはそれを聞くか聞かぬかの間に、手にした小刀を抜いて投げた。女は座ったまま呪文を唱え、眼前に水の幕を下ろす。小刀が水の幕にぶつかって弾かれ、同時に、タークめがけて火の玉が襲ってくる。タークは飛びのいて火の玉を躱したが、火の玉は軌道を変えて宙に居るタークに迫った。
――直撃。タークは瞬時にそう判断して、苦い顔で火の玉を見据えた。しかし、火の玉がタークに当たる直前に水の玉が間に割り込み、熱い蒸気を上げて火の玉を打ち消した。エコが咄嗟に放った『ウォーターシュート』だ。
水の幕がゆっくりと左右に開き、椅子にゆったりと腰掛けたままのソリャ・ネーゼが現れた。
「ほほ……。今のはほんの小手調べ。余興よ。とはいえ二人がかりというのは厄介。だからいいこと教えてあげようか」
「なに?」
エコが敵意をあらわにしながら聞く。
「洞窟の奥に『人間もどき』が居るのは、私知ってるの。もうひとつ知ってるのは、その子たちを今、例の駆除業者が捕まえてるところだって事。その洞穴ねえ、入り口はなにもそれ一箇所だけじゃないのよ?」
タークとエコの顔に、焦りの色が走った。
「なんだって……? 話が真実だという保障はあるのか」
「たしかに、二対一が面倒だという本音はあるわよ。でもねえ、二人かがりでもあなたたちなら負けっこないわ。つまり嘘を言う理由が無いのよ。実は私、あの連中が嫌いなの。誰かやっつけてくれないかしら? ねえ、若いお兄さん?」
嘲るような口調でソリャ・ネーゼが促す。エコは顔をソリャ・ネーゼに向けたまま、タークに言った。
「ターク、行って来てくれる? この人はわたしだけいれば満足みたいだから」
「くっ……、う、うう、分かった。こっちは任せておけ」
そう言ってタークは洞穴へと急いだ。エコは改めて、“行政魔導士”ソリャ・ネーゼと対峙する。背中に、一筋の汗が走る。
エコには分かる。この女はフィズンとはまったくの格違いだ。――そしてきっと、わたしとも。
「さて、仕切り直しだね、エコちゃん。遊んであげようね。私は、この椅子が気に入ったから……。こうやって腰掛けたままで戦うよ。分かったらかかっておいで」
ソリャ・ネーゼは明らかにエコを下に見ていたが、エコは冷静だった。息を整え、杖を頭上に構え直す。
「先手を取らせるとまでは言ってないよ?」
ソリャ・ネーゼが短く細い木製の杖を軽く振ると、たちまちエコの元へ鋭利な風の刃が届いた。
「むうぅっ! くらえぇ、『フレイム・ロゼット』!!」
エコは風の刃をかろうじて避け、雄たけびとともに杖を振り下ろした。まともに詠唱せず作られた『フレイム・ロゼット』の火球は、以前フィズンに使った時の半分以下の大きさしかなく、ソリャ・ネーゼを少なからず失望させた。
「なんだあ……? ちんけな魔法」
ソリャ・ネーゼの前で、水の幕がゆったりと閉まる。『フレイム・ロゼット』はゆっくりと幕にぶつかり、じゅう、と情け無い音を立てて消えた。
「がっかりしたよエコちゃん。ちゃーんと詠唱しなきゃあ。――そんな暇与えないけど」
杖を優雅に振って水の幕を開きながら、ソリャ・ネーゼがエコに言い聞かせるように言う。しかし、視界をふさいでいた水の幕を開いた時、彼女が見たのは――――思いがけない光景だった。
――
「やめて! その子達を放して!」
「うるっせえ! 『人間もどき』め! く、口答えするなよ!」
「馬鹿言え、なんで放さなきゃならないんだ! に、『人間もどき』が人間の言葉なんか話しやがって……!」
「ラゾ! クイスさん!!」
「たすけてえー!! いやああぁぁーー!! うえええぇぇえぇぇぇ!! あーあぁあぁぁあう!!」
チノとヨズは、恐怖から泣き叫んでいる。男たちは全部で六人。全員が身体中に包帯を巻き、痛々しい外見をしている。ヨズとチノはすでに捕らえられ、六人の男達に囲まれている。赤く日焼けしたリーダー格らしい顔中傷だらけの男が、ヨズとチノに剣を向けて叫ぶ。
「言葉が通じるなら却って都合がいいじゃねえか……。殺されたくなきゃ、言うことを聞け!! おいクイス、その女をこっちに連れて来い……。ありがとうなクイス、今まで見張っててくれてよ……」
クイスはそれを聞くと、困惑した顔を少しずつほころばせ、やがて汚く笑った。
「くへへへ……ああ、傷の兄貴……。今連れてくよ、へへ……。おい! 大人しく言う事を聞きな……。あっちに行くんだ。肩を貸せ!」
ラゾに大声で命令すると、ラゾはクイスを涙ながらに睨みつけて、しかし黙って命令どおりに肩を貸した。
「なあ、クイス……。お手柄だったぜ。お前があの悪魔少女と知り合いだったとはよぉ。そりゃあ夢にも思わんわな。点々と落としてあった武器と、それが入った袋を見てびびっときたぜ……お前がこいつ等の居場所を教えようとしてたってこと。ありがとな」
「へっへへへ……。あれは気が利いてただろ、兄貴。あの女の子が確認もせずにぐんぐん行っちゃうからよ、目印にと思ったのよ……」
「うぐっ、クイスさん、あなた最悪よ……。最低の人間だわ……。うっ。せっかく信じて……やっと仲良くなれたと思ったのに……」
ラゾが泣きながらクイスを責める。裏切られた。怪我しても陽気で、頼りがいのある人だと思っていたのに……。
ラゾとクイスが男達の下へ辿り着く。
「私はいいからその子たちは助けて! お願いだから……。その子たちには怪我をさせないで!!」
ラゾは必死に頼んだ。顔中に傷のある男は、無言でラゾの腹に前蹴りを入れた。ラゾの視界が赤く染まる。
「ぐふっう、ごおばあっ!!」
腹を蹴られたラゾは、その場に蹲って、たまらず吐いた。足元に生暖かい嘔吐物が撒きちらされる。脇に立つクイスの足にもラゾの吐いた汚物がかかったが、クイスは表情を変えずに、黙ってラゾを見ていた。
「うっせえ!!! 『人間もどき』が言葉覚えたくらいで調子に乗って、戯言抜かすんじゃねえ! こっちは手前等と悪魔少女のせいで、仲間を二人再起不能にさせられたんだ!」
顔中に傷のある男は、吐き捨てるようにそう言いながら、蹲るラゾの身体をめちゃくちゃに蹴った。ラゾが嘔吐物の上に崩れ落ちるように倒れる。
「げほっ……、ぐ……お、お願いだから……」
二人の男が、ラゾを縛り上げるべく縄をもって近寄ってきた。ラゾは吐瀉物に顔を埋めて地面に這いつくばり、少し離れたところで抱き合うヨズとチノのことを思って、ただ涙を流し続けていた。
後編に続く