予知能力者の決意
白書集めも最後、今回は、曙達が頑張ります
幼稚園から大学院まである私立八刃学園の近くにある占いの館。
そこは、八刃学園の女子生徒にも人気がある店である。
曙達は、白書があとどのくらいあるのか、駄目元で占ってもらいに来た。
「ここの人は、高い能力の予知能力者みたいです」
和の言葉を聞きながら入ると白髪の和風な女性が立っていた。
「いらっしゃい。待ってたよ」
白髪の和風な女性、城田織羽の言葉に華夏が驚く。
「でも、あたし達が来るって事は、言ってなかった筈ですが?」
高笑いをあげる織羽。
「あのね、あたし達を何だと思っているの? 予知能力者だよ。その位、予知出来るって。奥で明日が待ってる、こっちも忙しいんだから急ぎな」
「ありがとうございます」
和が頭を下げ、他のメンバーは、まっすぐ奥の部屋に行く。
そこには、地味な雰囲気の女性、星語明日が居た。
「私から伝える事は、次の白書が最後です。そして、それを持つのは、過去の私だと言う事」
沈黙の後、華夏が言う。
「詰り、先行者の手にあるって事ですね?」
星語明日は、頷く。
「そして、それが回収出来なければ、この世界に大きな変貌が起こる可能性があります。先行者との決戦で八刃が敗北する可能性が出てくるからです」
それを聞いて和が唾を飲み込む。
「大事ですね」
そして星語明日が言う。
「今の私なら確信できます。あの頃の私は、急ぎすぎていました。止めて下さい」
頭を下げる星語明日。
曙が頷く。
「あちき達に任せておいて」
こうして、曙達は、最後の白書の時代を知り、そこに向うことになるのであった。
「これで最後なんだね」
しみじみと言う幼女に和が頷く。
「はい、頑張ります」
「準備が終ったよ!」
曙の言葉に、ヤヤが言う。
「最後の白書は、八刃の力を封印する物。懲罰の一種として考えられていた物だけど、これが先行者に渡れば、負け確実で、歴史が大きく変わるわ」
華夏が真剣な顔で言う。
「解りました。一命にかえましても取り戻します」
そして過去に行く曙達であった。
「今回は、ヤヤさんに直接頼むのが一番でしょう」
華夏がそう言って、ぬいぐるみショップシロキバに入ると百爪が言う。
「ご苦労、幼女、あんたは、ここで待機だぞ」
幼女が頷く。
「了解」
和が驚いた顔をする。
「百爪様、もしかして事情が解るんですか?」
百爪が頷く。
「お前達が入って来たときには、結界の外部情報から事情を察知した。事情は、ヤヤに説明済みだぞ」
曙が頬をかく。
「流石は、八百刃獣。あちきの結界なんて意味なしって感じだね」
奥に行くとヤヤが深刻そうな顔で言う。
「事情は、百爪様から聞いています。困ったことになりましたね。まあ取り敢えず、星語明日さんは、呼んであります」
すると、入り口から曙たちと同じ年の星語明日と当時の3Sのメンバー、遠糸歩、一文字千剣、ツモロー=ホープが来ていた。
「ヤヤさん、明日ちゃん連れてきたけど、どうして?」
それに対してヤヤが笑顔で言う。
「ちょっとした事情なの。貴女達は、ゼロさんの所で特訓していて」
「またー」
嫌そうな顔をするツモローを引っ張り千剣が言う。
「拙者達に必要な特訓です」
そして残った星語明日が言う。
「事情は、解っています。私が手に入れた技術を返せと言うのですね?」
ヤヤが頷く。
「力ずくって言うのは、やりたくないんだけど、駄目かしら?」
それに対して星語明日が少し悩んでから言う。
「ゲームをしませんか?」
ヤヤがあっさり頷く。
「そうしますか。それでルールは?」
星語明日は、曙達を見て言う。
「彼女達、未来から来た三人掛かりで瞳輝と戦うというのでは、如何でしょうか?」
ヤヤは、曙達を見て言う。
「了解、その条件で行きましょう」
曙がぼやく。
「あちき達の意見は、聞かないんですか?」
ヤヤがあっさり言う。
「先行者には、獣輝や体輝が居るの。これ以上不利な条件を出される前に決めるのがベストね」
和が拳を握り締めて言う。
「力の限り戦わせてもらいます」
こうして曙達と瞳輝との戦いが決まったのであった。
戦いの場は、八刃学園のグランド。
「馴染み深い所での戦いですよね」
華夏の呟く中、八刃学園の大学生でもある瞳輝が言う。
「あたし、この後バイトが入っているんだからね」
軽い雰囲気の瞳輝を見て曙が言う。
「えーと、瞳先生ってどのくらい強いんだっけ?」
和が緊張した面持ちで言う。
「3Sの初期メンバーで、その後、オーフェンハンターにも居た事がある実力派で、八刃以外では、トップクラスの実力者です」
瞳輝は、和の槍を見て言う。
「それってゼロさんが持っていた槍だけど。もしかしてゼロさんの娘さん?」
和が頷くと瞳輝が言う。
「まさか、ゼロさんが外人と結婚するなんて、意外」
驚く瞳輝を見ながら曙が言う。
「そういえば瞳先生って前に外人と結婚するなんてむっつり助平だって、独身ならではの愚痴を言っていたね」
瞳輝が頭を抱える。
「そんな、ゼロさんの娘があんな年になるまで結婚出来ないなんて!」
そんな瞳輝に星語明日が言う。
「安心してください。瞳輝が勝てば、歴史は、変わります」
「そうね、絶対に歴史を変えて、玉の輿に乗ってやるんだから!」
変な所で決意を強める瞳輝であった。
「あんな事を言ってるから結婚できないんだよ思う」
正直な感想を言って睨まれる曙であった。
そして戦いが始まる。
「行きます!」
突撃する和。
「残念だけど近づかせる気は、無いわ」
瞳輝の支配眼の力で地面が盛りあがり、和の突進を防ぐ。
しかし、影を通り、華夏が視線の届かない瞳輝の後ろを取る。
『影刃』
影が伸び、瞳輝に迫る。
「甘いわよ」
瞳輝は、手鏡を使って背後の影を見て、逆に華夏に向わせる。
咄嗟に横に避ける華夏。
「戦いなれしてるね」
驚く曙に瞳輝が笑みを浮かべて言う。
「修羅場の数だったら貴女達には、負けないって事」
『ツインテール!』
和が連続攻撃で土の壁を粉砕し、正面から迫る。
「私も、実戦の数では、負けません!」
「そう見たいだけど、蒼牙に頼りすぎね」
瞳輝が和によって粉砕された土を支配して、和を攻める。
咄嗟に蒼牙で防ぐ和の背後をとる瞳輝。
「だから、咄嗟の時に蒼牙をだして、隙が生まれる」
至近距離からの打撃でダメージを食らう和。
『影刀』
華夏が自分の影に手を差し込み、刀を生み出し斬りかかる。
「こんな技も使えるのよ」
空中の空気が支配され、硬度を持った空気に顔面をぶつけ、墜落する華夏。
「まだやるの?」
余裕たっぷりの瞳輝。
悔しそうな顔をする和と華夏。
そんな二人に槍の蒼牙が言う。
『落ち着け、個々に戦って勝てないなら力を合わせるのよ。そのキーポイントは、曙、貴女よ』
その言葉に曙が言う。
「でも、あちきは、この世界を維持してるから、ろくな術は、使えないよ?」
それに対して蒼牙が言う。
『力の大小なんて意味は、無い。力を合わせると言うことは、お互いの力を知り、有効に組み合わせて何倍にもすること。後は、自分達で考えなさい』
厳しい蒼牙の言葉に曙が手を振る。
「集合!」
曙の所まで下がる和と華夏を平然と見守る瞳輝。
そして、相談して曙が言う。
「これで決めます。これが決まらなければ、あちき達の負けで良いです!」
瞳輝が笑顔で答える。
「諦めが良くてよろしい。でも手加減は、しないわよ」
「望むところです!」
和が再び突進する。
「同じ事をさせない」
瞳輝が土の壁を作ろうとした時、曙が陣を引く。
『光遮陣』
ただ、光を遮断するだけの簡単な魔方陣である。
有効範囲もそう広くなかった。
しかし、土の壁を作るのを邪魔するのには、十分だった。
舌打ちして、迎え撃とうとした瞳輝。
そこに華夏が影から襲い掛かる。
「だから背後をとっても意味が無いわよ!」
手鏡で後ろを見ようとしたが、華夏は、瞳輝の真後に出ることで手鏡の視界から逃れる。
『影断』
「あたしが動けば済む事!」
言葉通り、動いて、手鏡の視界に影を入れる。
その一瞬だけ瞳輝の注意が前方からそれた。
『イカロスアロー!』
和が蒼牙を投げつける。
咄嗟に体を捻りかわす瞳輝。
『影刀』
影から刀を取り出した華夏がそんな瞳輝に迫る。
「まだよ!」
瞳輝は、自ら接近し、刀の間合いの中に入り、華夏の服を睨む。
その途端、服が華夏を縛り付ける。
『バハムートブレス』
和の攻撃が遂に瞳輝に決まる。
大きく吹っ飛ぶ瞳輝。
「あちき達の勝ち!」
曙が嬉しそうに言った時、瞳が生み出した大粒の雹に襲われ、一瞬で戦闘不能にされる曙達。
ヤヤが手を叩く。
「お見事、それで、どっちの勝ち?」
瞳輝が大きく溜息を吐いて、星語明日に言う。
「すまないけど、あたしの負けにしてくれる?」
星語明日が頷く。
「かまいません。元々、私の八刃との戦いの予知には、無かった力です。余計な技術は、予測に悪影響を与えます」
ヤヤが苦笑する。
「本気ださせた事に対するご褒美?」
瞳輝が肩をすくめて言う。
「相手の作戦を敗れなかったんだから仕方ないでしょ」
本人達が意識を失っている間に最後の白書の回収が成功するのであった。
元の世界に戻って、和が安堵の息を吐く。
「本当に良かった」
「そうね、これで元に戻ったわ。ご苦労様」
ヤヤが笑みを浮かべ、労う。
「もう、帰って寝る」
曙が眠そうに目を擦る。
「家まで我慢して下さい」
華夏がフォローする。
三人が帰るのを見送るヤヤ達であった。
こうして、白書による、歴史の改竄は、防がれたのであった。
「あたし達がフォローできるのは、ここまでだよ」
幼女がそう言って消えた後、空中に一頭の馬とそれに乗る少女が現れる。
「白書の奪回は、失敗したけど、八刃の技術を奪うのは、止めない。その技術をこの世界の人間に広め、更なる成長を促す。そうすれば、お父さんの償いが早く終る筈だから」
その少女、曙の母親、闇によって能力が失われた魔磨にヤヤが言う。
「そう、ところであちきがそこに放置した、メモリースティックは、絶対に持っていかないでね」
その言葉に魔磨が戸惑う。
「何のつもり?」
ヤヤが言う。
「そこに入っている情報は、普通の人々にも使える技術だからって盗まれて良い物じゃない。持って行くなと言っているの」
魔磨が呆然とする中、苦笑する声が聞こえてきた。
「少し、あからさま過ぎませんか?」
気配を消していたもう一人の侵入者、元オーフェンの六頭首で、先行者の剣輝とも呼ばれていたファザードが現れる。
「二対一とは、苦戦は、間逃れないわね、来なさい」
ファザードが頷く。
「そうさせてもらいます。魔磨さん、私が必殺の白手の食い止めている間に、そのメモリースティックを持って逃げてください」
魔磨が戸惑いながら頷きメモリースティックに近づく。
「だからやらせないって!」
ヤヤが邪魔をしようと動くが、ファザードが牽制する。
その間に魔磨がメモリースティックを奪取すると自分が乗る神の使徒、空駆馬の力で逃げていく。
悔しそうな顔を演技してヤヤが言う。
「空駆馬の力を使われたら追いかけられないわ」
「私も退散します」
そのままファザードが逃走するのであった。
アジトで戻ったファザードに魔磨が言う。
「どういうこと!」
ファザードが苦笑しながら答えた。
「必殺の白手もその技術を広めたいのでしょう。私達は、その為に利用されたと言う事です」
魔磨が驚く。
「まさか、どうして?」
ファザードが真剣な顔をして答える。
「こんなあからさまな事をしないといけない程、迫っているといるのでしょう、導輝、星語明日が予測した大惨事が」
魔磨も真剣な顔で言う。
「世界間の移動を阻む壁の大崩落……」
八刃の家の長達に絞られて帰ってきたヤヤに良美が言う。
「ヤヤにしては、あからさま過ぎたな」
ヤヤが苦笑して言う。
「魔磨がどうにかしてこっちの技術を盗みたかったのは、解ってたし、ファザードが居るのも知ってたけど、あのタイミングまで待つとは、思わなかったから、ちょっと焦ってたんだよ」
良美が真面目な顔をして言う。
「他の動きは、順調なのか?」
ヤヤが頷く。
「十斗さんに協力してもらって、異邪に有効な兵器と技術の開発と供給ルートの確立も進んでいる。あの目玉の量産もほぼ完了したしね」
良美が真剣な顔で言う。
「大きな戦いになるんだろうな?」
ヤヤも辛そうに言う。
「多分、八刃の中でも多くの人が死ぬ事になると思う」
良美が手に持ったビールを飲み干して言う。
「それでもあたし達は、勝たないといけない」
ヤヤが頷く。
「異界壁崩落大戦、それがこの世界の運命を別ける」
歴史の改竄は、起こらなかった。
しかし、運命は、大きな別れ道に差し掛かろうとしていた。
先行者によって予言された八刃だけでは、勝てない大災害。
この世界に明るい未来は、あるのであろうか?