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八刃白書  作者: 鈴神楽
2/5

恋少年勇一の思い

大戦時代、それは、もっとも過激な時代

 幼稚園から大学院まである私立八刃ハチバ学園の中等部の教室。

 曙は、何時もの様に安らかな眠りについていた。

「平和だな」

 華夏も暢気に呟いていると、和が駆け込んでくる。

「曙さん、華夏さん、新たな白書のページが発見されました!」

 華夏は、顔に手を当て、曙は、反応しない。

「急ぎましょう」

 駆け寄ってくる和の口を押さえ華夏が言う。

「お願いだから、八刃でも最高機密を大声で喋らないでくれ」

 青褪める和であった。



 ぬいぐるみショップ、シロキバの庭に面した客間。

「死んでお詫びを!」

 また庭で首吊り騒ぎを起こしている和を無視し、欠伸をしながら曙が言う。

「今度は、どの時代ですか?」

 ヤヤが答える。

「今度は、異空門閉鎖大戦直前。目的の記述は、また魂がらみで、人の魂をエネルギーに変換する装置よ」

 華夏が複雑な顔をする。

「なんでうちは、そういった人道を無視した技術を大量に保有しているんですか?」

 何故か居る似丹が答える。

「そんなのまだまだ、良い方だよ。中には、人の人生を喰らって、過去を改造したり、わざとエッチしてその相手に消滅の因子を組み込んだりって極悪な術式とかもあるんだから」

 とんでもないことを平然と言う似丹。

 華夏が眉を顰めて言う。

「先行者の行動も間違ってなかったのかもな。八刃って、非人道的過ぎる集団だよな」

 ヤヤの視線が鋭くなる。

 曙が一気に覚醒し、華夏が冷や汗を垂らす。

「過去を非難する事は、誰にでも出来るわ。問題は、そんな過去を踏まえた上でより良くしていくこと。貴女達にその意思が無いのなら、八刃で有る事を辞めるのね」

 華夏が慌てて言う。

「勿論、よりよい八刃にする為に、誠心誠意頑張らせてもらいます!」

 曙も慌てて頷く。

 ヤヤが微笑み続ける。

「そのためにも、白書の記述の回収をお願いね」

「「了解しました」」

 曙と華夏が声を合わせる。



「問題児のはとこだが、よろしく頼む」

 何とか自殺を防いだ夢無が華夏に頭を下げる。

「はいはい」

 そして、曙が魔方陣の準備を終えて言う。

「準備OKだよ」

「こっちも良いよ」

 過去情報の整理を終えた、修正役の幼女にヤヤが頭を下げてから曙達に命じる。

「条件は、前回と同じ、百時間以内に回収を終える事。今回は、かなり過去なので、言動には、気をつけて。頑張ってきて」

 頷き、曙達が過去の世界に旅たった。



「因みに、今回は、お母さんに言われて、服装を少し、モダン風にしました」

 ハイカラさん風の曙達。

「それでどうしてあたしが男装なのか聞いていいか?」

 華夏の言葉に、幼女が気楽に言う。

「似合っているから良いじゃん」

 大きく溜息を吐く華夏。

『この時代で間違っても問題の技術が流出したら、死ぬ人間の桁が三桁は、増えるぞ』

 蒼牙の忠告に、唾を飲む和。

「戦争ですか、実感は、正直ありません」

 曙や華夏も同感の様だ。

『戦争は、決して悪いことでは、無い。しかし、そこには、明確の意思と制御された力が必要なの。今回の様な、制御出来ない力は、戦争を悪化させるだけ』

 蒼牙の言葉に幼女がしたり顔で頷くが、見た目が見た目だけに、説得力が無い。

 そんな時、目の前を男女三人の珍しい組み合わせが通る。

「なあ、ツバサ、この後に用事が無かったら活動写真を見に行かないか?」

 濃い男性の言葉に知的な女性、翼が答える。

「すいませんが、この後は、鍛錬の予定になっています」

 つれない言葉にも濃い男性は、諦めない。

「なあ、後で手伝うから、良いだろう?」

 女性が困った顔をして、もう一人の優しそうな男性の方を向く。

勇一ユウイチああ言ってるんだから、少しぐらい駄目か?」

 その言葉に翼が少し俯いて言う。

キョウがそういうのだったら」

 すると濃い男性、勇一が優しそうな男性、京と翼の肩を掴み言う。

「それじゃ、早速」

 その様子を見ていた蒼牙が言う。

『そこの八刃の者達、すまないですが、この時代の白風の長、ミヤコの所に案内してください』

 その一言に、三人の顔が一気に引き締まる。

「何者だ!」

 攻撃的な表情で勇一が言うと和が慌てて言う。

「ええと、私の名前は、白風和、未来から来ました。事情は、都様の所で話しますので、どうか案内して下さい」

 それを聞いて、翼は、曙達に注意を払いながら言う。

「どうしますか?」

 京は、和が持つ槍、蒼牙を見て言う。

「あの槍は、家の蔵に有るのを見た事があります。しかし、あそこまで力が無かった筈です。複雑な事情があるのでしょう。都様の所に連れて行くのが、最良な判断だと思います」

 そして、曙達は、都の所に向かった。



 そして、確りとした雰囲気を持つ老女、都の前に出て、頭を下げる曙達。

「それで、未来から来たという事ですが、いかなる用件でしょうか?」

 和が事情を説明すると、都の額に血管が浮かぶ。

「それ、本当ですか?」

 和が涙目になって答えられないので、代わりに華夏が頷く。

「はい、こちらの幼女様の協力が得られて、過去の修復の当てが出来たため、回収に来ました」

 その場に居た勇一が小声で言う。

「何か、大事みたいだが、そんな大層な物なのか?」

 翼が呆れた顔をし、京が説明する。

「白書って言えば、直接見る事が出来るのは、八刃の長会議で許可を得た時のみって、八刃でも最重要機密だよ」

 勇一が和を指差して言う。

「よく、処刑されなかったな」

「やっぱ、死んでお詫びを!」

 騒ぎ出す和の周りに曙は、素早く魔方陣を描く。

封博円フウバクエン

 動きを封じられた和を尻目に華夏が言う。

「とにかく、回収しないと問題があるので、協力をお願いいたします」

 都は、しかめっ面で答える。

「当然です。白書の技術の流出など、八刃の恥以外の何物でもありませんからね。直ぐに調べさせます。一両日内に答えが出るでしょう。それまでは、京、貴方達が相手をしていなさい」

「了解しました」

 あっさり頭を上げる京と翼。

 勇一だけが嫌そうな顔をして呟くのであった。

「せっかくの機会が……」



「なあ、未来から来たんだったら、俺達が将来、誰と結婚するとかも知ってるのか?」

 客間で待たされる曙達に勇一が質問すると京が首を横に振る。

「彼女達にそれを聞くのは、未来予知者に聞くのと同じで、意味がそれ程あることじゃないよ。少なくとも八刃にとってわね」

 詰まらなそうな顔をする勇一に翼が言う。

「貴方も、萌野モエノの長の息子なのですから、もう少し自覚を持って下さい」

 勇一は、気楽に言う。

「良いんだよ、どうせ長は、天才で優秀な兄貴が継ぐんだからな」

 そんな会話を複雑そうな顔で見る華夏と和。

 そんな中、曙が言う。

「お母さんに聞いてたとおりだ。勇一さんって翼さんの事がす……」

 曙の口を塞ぎ、勇一が睨む。

「余計な事を言うな! 第一、誰から聞いたって?」

 曙が勇一の手から逃れながら言う。

「お母さん、間結闇アンって名前だよ」

 舌打ちする勇一。

「あのガキは、余計な事を教えやがって、今のうちから余計な事を言わないように教育してやる」

 苦笑しながら京が言う。

「しかし、そうすると君達は、二、三十年後から来たって事だね?」

 軽い気持ちの質問に、曙が頬をかき、蒼牙が代わりに答える。

『さっき、自分が言った通り。この娘達の存在する未来を気にする事は、無意味』

 京は、何か意味があると察知してひく。

「そうですね。ところで、ここでじっとしているのもなんですから、外に出ませんか?」

 曙が反応する。

「行く!」

「でも、待っていた方が良いんじゃ?」

 和の言葉に勇一が言う。

「バーカ、そう簡単に情報が集まるかよ。それにいざってなったら何処に居たって直ぐに谷走の奴が現れる。奴等の情報網は、凄いからな」

 華夏が嬉しそうに同意する。

「幼女も良いわよ」

 幼女が嬉しそうに言い、曙達は、昭和の町を散策する事になるのであった。



「野菜も魚も美味しかった」

 嬉しそうに言う曙に、爪楊枝で歯の屑をとりながら勇一が言う。

「そうか? 正直、手近で済ませたから、いまいちだったぞ」

 そんな会話をしていると、京も頷く。

「そうですね、明日は、市場に行って良い材料を手に入れて美味しいものを作りましょう」

「手伝います」

 翼が同意する。

 そんな二人を見て勇一が口をへの字にするのであった。



 その夜、白風家に泊まった勇一が屋根の上で星を見ていた。

「何をしてるんですか?」

 華夏が隣に行き尋ねると勇一が言う。

「翼、やっぱり京の事が好きなんだろうな。それなのにお互い、次期長だからって遠慮してやがる」

 嫌悪感を隠さない勇一に華夏が言う。

「でも、その方が、勇一さんは、いいのでは?」

 勇一が華夏を睨む。

「俺は、京に遠慮するつもりは無いが、翼と京の家庭事情につけこんで、奪い取るような事は、しねえ!」

 強い意志を籠めて言う勇一。

 呆気にとられた華夏を見て、急に恥ずかしくなったのか顔を背けて言う。

「明日は、早いから俺は、もう寝る」

 そのまま、降りていく勇一。

 そして、鍛錬をしていた和が華夏の隣に来て言う。

「前の萌野の長、勇一様が、前の遠糸の長、翼様に恋焦がれて居たって噂は、聞いた事がありましたけど、お互いの家庭の事情で結ばれなかったと思ってました」

 それに対して蒼牙が答える。

『大戦で京が消滅した事で、お互いに近づく事が出来なくなったのよ』

 まだまだ本当の恋愛を知らない華夏や和には、難しい話であった。



 翌朝の朝食の時間。

「お前、本当に谷走か?」

 勇一が本気で疑いの目を華夏に向けた。

「本当ですよ!」

 必死に抗弁する華夏に翼が呆れた顔をする。

「間結の人間の守護を行い、従者的仕事も行う谷走の人間の料理が下手と言う事実は、信じられません」

 怯む華夏に半分眠りながら曙が答える。

「華夏は、戦闘力が高いけど、執事技能は、壊滅的って有名だから、正式な主人は、まだ居ない」

「うるさい!」

 華夏が顔を真赤にして怒鳴った時、都が来て言う。

「問題の物が見つかった。間結と谷走の人間が協力して、隔離しているから、急いで向かいなさい」

「「「はい!」」」

 曙達は、答えて、問題の場所に向かう。



「何か軍人さんが多く居るみたいだけど?」

 華夏の言葉に、同行した京が頷く。

「はい、日本の軍事基地ですから」

 顔を引き攣らせて和が言う。

「国の軍施設に乗り込むんですか!」

 平然と言う勇一。

「仕方ないだろう。今は、富国強兵ってやってるからな。理解できない技術でも使おうって、腹積もりなんだろうぜ」

 翼が淡々と答える。

「八刃の任務の為です、しかたありません」

 華夏が少し戸惑いながら言う。

「随分と慣れていますね?」

 勇一が平然と言う。

「国の施設に突っ込むなんて、日常茶飯事だからな」

 曙が呆れた口調で言う。

「殆ど、ヤヤさん並みの感性です」

 そんな会話をしながらも、進み、当然、兵士が止めるが。

 勇一は、一切の躊躇をせず、攻撃する。

『我が攻撃の意思に答え、炎よ尽きぬ流となれ、流炎翼リュウエンヨク

 炎の帯が兵士達を蹴散らす。

 ライフルを構える兵士達に、翼が弓を向ける。

『我は、九尾鳥キュウビチョウ様の眷属なり、我が矢に黄の尾の力を授けたまえ』

 雷撃の力を持った矢が次々と兵士を戦闘不能にさせていく。

 仲間の犠牲を省みず特攻してくる。

『白い風よ、我が手を包み、全てを切り裂け、白刃ハクバ

 京が手刀を強化し、切り裂いていく。

 凄惨な状況に顔を引き攣らせる曙達。

 和が言う。

「もう少し手加減とかしないのですか?」

 勇一が舌打ちする。

「八刃も随分と甘くなったな。人の技術を盗もうとする奴等が、幾ら死のうと関係ないだろうが!」

 翼も頷く。

「手加減すれば、やられるのは、こちらです」

 それを証明するように、仲間の犠牲を無視した、光線が襲ってくる。

『我が攻撃の意思に答え、炎よ全てを爆炎に包め、爆炎翼バクエンヨク

『我が意思に答え、白き風よ、雷を産め、白雷ハクライ

 勇一の爆炎と京の雷が光線を弾くが、それは、基地の壁を完全に消滅させた。

 呆気にとられる曙達だったが、翼は、冷静に弓を構える。

「破壊しても構いませんね?」

 京が首を横に振る。

「万が一の可事もある。生け捕りにしたいから、周囲を狙ってくれ。その間に近づく」

 翼が頷き、放った矢が、曙達の視界の届かない所にあった兵器の土台を破壊する。

 一気に進む、京と勇一を見送り、華夏が呟く。

「あたし達の出番無しね」



 情報を確保するが、曙達は、浮かない顔をしている。

「人が死んだのがそんなに珍しいのか?」

 勇一の言葉に曙が複雑な顔で言う。

「お母さんは、よく言っていた。この時代は、人が死ぬのが普通だって。それでもヤヤさんは、殺すのは、楽だけど、八刃は、そんな楽な道を選んでは、駄目だって」

 翼が苦笑する。

「理想論ですね。八刃は、決して絶対では、無く、神でもない。人より多少、力があるだけですよ」

 和が首を横に振って言う。

「それでも、私は、ヤヤさんの言葉が正しいと思います。ヤヤさんは、何時も言っていました。人を殺した事があるし、数え切れない人を死んだ方がましって目に会わせたけど、それが正しい選択だって思わない。そして間違った選択のつけは、子供に、子孫に残されるって」

 京は、そんな和を見て、その槍、蒼牙に問う。

「貴女は、どう思われますか?」

 蒼牙は、答える。

『ヤヤのいう事は、理想論で、この者達の言葉は、ヤヤの受け売りの軽いもの。でも、京、貴方の子孫、ヤヤは、理想論を現実の物にしようと努力をしている。自分の間違いを認め、それでも進み、変えていこうとしている。立派な子孫よ』

 京は、何かを予感めいた物を感じて言う。

「八刃は、神に逆らう無謀者の集まり。理想論を持ち、戦う者が居ても良い筈ですね。出来れば、僕もその力になりたいですね」

『お前は、その大きな助けになっている。お前の想いが無ければヤヤは、戦い続けられなかった』

 蒼牙の答えに京が嬉しそうに言う。

「それは、良かった」

 そんな中、幼女が言う。

「それじゃあ、全ての過去を戻すよ!」

 両手を広げて、幼女が唱える。

『全ての過去を司る存在、白老杖様の使徒、幼女の承認にて、この世界の過去を戻さん!』

 強い光が世界を覆った。



 曙達が次に目を開けると、曙が魔方陣を作った場所に戻っていた。

「もう、寝る」

 曙がそのまま眠りにつこうとするのを華夏が抱える。

「次こそは、役に立てるように頑張ります!」

 一人、強い意気込みを持つ和を尻目に華夏は、早くこの仕事が終ることを祈っていた。



 人の姿をとった蒼牙が杯を傾けながら言う。

「京は、過去での気持ちを叶え続けているな」

 おつまみを持ってきたヤヤが右手を見て言う。

「そうですね。京さんの想いがあちきを消滅から救ってくれている」

 ヤヤの右手は、第一の八百刃獣、白牙の力の使い過ぎで、侵食されている。

 それを留めていられるのは、同じ様に使い過ぎで、飲み込まれた京の思いがあっての事である。

 ヤヤは、そんな右手を天にかざして言う。

「あちきは、そんな思いに答えます。先行者を始め、多くの人が予言した異界からの力の蹂躙も、それによる八刃も消滅も、全ての運命を変えて見せます」

 蒼牙が頷く。

「それでこそ、白風の血統。頑張るのよ」

 笑顔で頷きヤヤが言う。

「そのためにも、曙ちゃん達には、頑張ってもらわないと」

「任せておいて、私がちゃんと監督するから」

 蒼牙が微笑み杯を差し出す。

 ヤヤは、日本酒を注ぐ。

「よろしく、お願いします」



 曙と華夏と和の八刃白書を回収する過去への旅は、まだまだ続くらしい。

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