小学生ヤヤの恐怖
零や闇の娘達が、キョウの報告書の時代に飛ぶ話
幼稚園から大学院まである私立八刃学園の中等部の教室。
少し古風の顔立ちの少女が、机に突っ伏して寝ていた。
そこにスリムなショートカットの現代風な少女がやってきて言う。
「曙、八刃の長がお呼びだ。起きろ!」
しかし、呼ばれた少女、間結曙は、顔を背けて言う。
「もう少しだけ寝かせてよ、華夏」
現代風な少女、谷走華夏は、曙の長い髪を引っ張る。
「イターイ!」
流石に起きる曙。
「何するのよ!」
華夏は、舌打ちして言う。
「あのな、八刃でも一番偉い、八刃の長からの呼び出しだぞ、少しでも早く行くのが普通だろう」
それに対して、曙は、欠伸をしながら言う。
「ヤヤさんだったら、平気よ。本当に急ぎの時だったら、自分から動くもの。あちきは、曙、一番眠い時間の名前を持つ娘、その名に恥じない行動をとらないと」
また寝ようとする曙を無理やり引っ張り、華夏は、目的の場所に向かう。
華夏達の目的の場所は、広大な八刃学園を出た直ぐ傍にあるぬいぐるみショップ『シロキバ』だ。
通販も行っていてそこそこ人気店である。
店の前に一人の小さな女の子ぽいのが店のエプロンをつけて掃除をしている。
「ソウちゃん、おひさ!」
曙がフレンドリーに挨拶をすると華夏が慌てて頭を押さえて下げさせる。
「百爪様、すいません」
それに対して、その小さな女の子っぽい子、百爪が答える。
「気にしなくても良いよ。ヤヤは、奥の和室に居るけど、ちょっと面倒な事になってるから、気を引き締めておきな」
唾を飲む華夏。
そして、中庭を横切ると騒ぎが聞こえた。
「私は、死んでお詫びします!」
金髪童顔の少女が首吊り自殺しようとしていた。
「止めるんだ、和。ヤヤさんも今回の事は、お前に責任が無いって言って下さってる」
必死に少女、白風和を止めるこっちも金髪の少し年上の少年。
そんな二人をのん気に見ている曙達と同じくらいの黒髪の少女を見つけ曙が言う。
「似丹、今度は、どうしたの?」
それに対し、聞かれた少女、白風似丹が答える。
「ワがまた仕事に失敗したんだって。ヤヤさんも良いって言っているのに毎度の様に責任とるって、騒いでるところ」
慣れた様子の言葉に、華夏も諦めに似た顔で言う。
「和は、能力があるんだが、何処かドジだから失敗もする。しかし、八割がたは、成功してるんだから良いと思うけど、何でか、責任を重く感じるんだよな」
「こう騒がれる方がよっぽど迷惑なのに、どうして気付かないんだろうね」
似丹のストレートな意見に苦笑する華夏。
そんな少し異常な日常風景を尻目に、奥の和室に行く曙と華夏。
「遅れました、八刃の長」
部屋に入るなり、頭を下げる華夏。
「お待たせ、ヤヤさん何ですか!」
友達みたいに声を掛ける曙。
「馬鹿か!」
怒る華夏と動じない曙を見ながらその部屋に居た、童顔だが、落ち着いた大人の女性、八刃の長、ヤヤが言う。
「構いません。それよりも、今回は、面倒な仕事をお願いすることになります」
華夏が息を呑む。
曙も少し、真面目な顔をして言う。
「さっきから皆がそういうけど、何かあったんですか?」
ヤヤが頷く。
「八刃白書を知っていますか?」
曙が首を傾げる。
「何ですか、それ?」
華夏が怒鳴る。
「馬鹿か、お前も八刃の本家の人間だろうが!」
曙は、そっぽを向く。
「術の鍛錬に忙しくて余計な事を覚える時間が無いんですよーだ」
まだ文句を言い出しそうな華夏を制止してヤヤが説明をする。
「一般的には、白書とは、政府の公開している報告書の事よ。八刃白書は、八刃の所属している家が関係した案件と特別な技術等の報告情報を収めた特殊な宝玉の事。八刃では、案件の記録など、オカルト業界に公開したりしているわ」
華夏が言う。
「八刃でもトップクラスの重要な物だと聞いています。普段は、間結の古来より強化し続けている封印の地に納められていると聞いていますが、それがどうかしたのですか?」
ヤヤが頷く。
「今年分の記述をし、公開する内容も転写し終え、封印の地に輸送中に襲撃があって、その一部が喪失してしまったのよ」
「それは、大変ですね」
のんきな反応を示す曙。
重要性が理解できた華夏が思わず立ち上がり叫ぶ。
「一大事じゃ無いですか!」
ヤヤが宥めながら言う。
「そう、だから貴女達を呼んだのよ」
曙が不思議そうに言う。
「失われたのを元に戻すのなら、あちき達より、八子さんに頼んだ方がいいんじゃないんですか?」
ヤヤが苦笑する。
「それがそう簡単なことじゃ無いの。物が物だけに幾重にも術的防御があって、八子さんでも復元は、不能。それでも、本当に喪失したり、奪われたりしたら困るから、奪取されそうになった場合にその情報を過去情報に逃がす安全装置があるの」
「過去情報に逃がす?」
意味が解らないって顔をする華夏を見て、優越感をもって曙が言う。
「八刃の見解では、時間の流れが無いの。現在を形成する為に、過去情報が存在するって事になっているから、その過去情報に情報を逃がす事で、襲撃者から護り、過去情報から追いかけて現在にある筈の情報を回収できるって訳よ」
ヤヤが頷く。
「でもね、その方法には、少し問題があるの。明確な歴史の改編になるし、外部に漏れる恐れもある。普通なら、ある程度は、諦めなのだけど、今回は、色々と幸運があって直接サルベージする事が可能なのよ」
それを聞いて曙が手を叩く。
「なる程ね、それであちきが呼ばれたんだ」
華夏が不満そうな顔になる。
「どういう事なんだ?」
曙が自慢げに言う。
「あちきは、過去情報を再現する魔方陣を作れるからよ」
まだ理解できない華夏にヤヤが補足する。
「簡単に言えば、過去に起こった事をシュミレーションし、そこにある筈の無い八刃白書の情報を回収して、その状態で過去情報を再度更新することで、歴史の改編と情報の流出を防ぐ事になったの」
華夏が少し考えてから言う。
「そんな神業みたいな事が本当に出来るんですか?」
「既にある過去情報を再現するだけだからそんな難しい事じゃ無いよ」
曙が胸を叩きヤヤが続けて言う。
「過去情報の再更新については、高位の神の使徒に協力が得られる事になっているわ」
その時、空間が歪み、幼稚園くらいの幼女が現れる。
「それをやるのが幼女だよ」
小さな体で精一杯胸を張る幼女に華夏が困った顔をして何か言おうとする前にヤヤが釘を刺す。
「幼女様は、百爪様より上の立場のお方ですから失礼がないようにしてね」
華夏が慌てて頭を下げる。
「よろしくお願いします」
そして、曙が言う。
「それで、目標は、もう決まっているんですか?」
ヤヤが頷く。
「時代は、華夏のお父さんの従兄弟、谷走鏡さんが中学生の時代。物は、生きた人の魂を使った外法、人工魂製造法の技術情報よ。それで曙さん、ここに居る人は、全員、連れて行けますか?」
曙が少し考えてから答える。
「あちきと華夏は、大丈夫。幼女さんは、自力でいけるとして、ヤヤさんは、無理だけど、あと一人、あちき達クラスの力の持ち主だったら可能だよ」
ヤヤは、頷き言う。
「そう、だったら、夢無にお願い……」
そこに和が割り込んで来た。
「私が行きます。どうか、汚名返上のチャンスを下さい!」
真剣な和の顔に曙が言う。
「もしかして、八刃白書を警護してたのってワだったの?」
和が頷く。
「はい、私の失敗で大切な八刃白書の一部を失うことになりました。その汚名を返上したいんです!」
華夏が顔を引きつらせて言う。
「今回ばっかりは、本当に自殺物の失敗だったのか」
少し困った顔をしてヤヤが言う。
「責任に感じなくて良いわ。今回の件は、襲撃を予測せず、十分な体勢を組まなかった私の責任なんだから。それに、今回の事は、失敗が許されないの。時間として百時間以内に回収を終えないと失敗で、二度とチャレンジできないの。だから別の機会にしてくれない?」
表面上は、お願いだが、八刃の長であるヤヤの言葉は、この場では、絶対で和が悔しそうに沈黙する。
すると、和が持っていた青い槍からテレパシーが発せられる。
『すまないけど、ここは、和に任せてあげてもらえない。彼女の成長には、丁度良い機会だと思うのよ』
それにヤヤが複雑な顔をする中、幼女が驚いた風に言う。
「上級の戦神、蒼貫槍の一部から生まれた魔獣、蒼牙がこの世界に居るって聞いてたけど、本当だったんだ」
『お初にお目にかかります。私は、蒼牙、白風の血統を護り、育てる為にここに居ます』
ヤヤは、諦めた顔をして言う。
「蒼牙様がそうおっしゃるのでしたら、仕方ありません。和、頑張ってね」
嬉しそうな顔をする和。
「一命をかけてやらせて頂きます!」
こうして、過去情報に埋もれた八刃白書を回収するメンバーが決まった。
曙が、過去情報に入る為の魔法陣を書いている間に華夏にヤヤが注意点を話す。
「さっきも居たけどタイムリミットは、百時間、それ以上経ったら復元が難しくなるので諦める事になるわ。情報の確保、完全なコピーをすれば後は、幼女様が元の情報に更新してくれるから、何をしても良いけど、中で死んだら現実でも貴女達が死んだ事になるから気をつけてね」
華夏が神妙に頷く。
「後、中で八刃の人間に協力を求めるのは、問題ない。そうしないと百時間以内に回収は、難しいでしょう。今から行く時代なら谷走鏡さんがベストです」
それを聞いて和が言う。
「でも、その時代だったら八刃の長もいらっしゃいますよね?」
期待を篭った言葉にヤヤは、顔を引きつらせて言う。
「間違っても、当時の私に会おうなんて思わないでね」
魔方陣を書いてた筈の曙が嬉しそうに言う。
「昔の自分を見られるのが恥ずかしいですか!」
ヤヤは、黙して語らなかったが、代わりに蒼牙が答える。
『止めておいた方が良いのは、確かね。あの当時、凶暴性では、八刃の中でも屈指だったからな』
華夏がヤヤを見てから首を振る。
「信じられません。八刃の長であり、人格者で知られるヤヤさんがそんな凶暴だなんて」
同意を求めようと、当時を知っていそうな人間に視線を送る華夏だったが、誰も視線を合わせようとしなかった。
「用意すんだよ!」
曙の言葉を聞いてヤヤが言う。
「それでは、お願いいたします」
半ば誤魔化されるままに曙と華夏、和に幼女のチームは、過去の世界に旅立った。
「到着したよ」
曙の言葉に華夏が周りを見回して言う。
「今とそう違いませんね」
「そんな事より、急いで捜索を開始しないと」
和が槍の蒼牙を振り回し、周りの人間から奇異な視線を向けられる。
「ここは、まず谷走鏡さんに会わないと、こっちの情報網が使えません。確か、当時は、白風の分家の一つ、白水零子さんのやっている探偵事務所によく出入りして居た筈」
「じゃあ、いこうか」
曙がそういった時、今まで黙っていた幼女が不満気な顔で言う。
「お腹すいた……」
華夏は、顔を引きつらせて言う。
「あの、出来ましたら、もう少しだけ我慢して頂けませんか?」
「いや! 幼女は、お腹が空いたの!」
駄々をこね始める幼女。
周りから突き刺さる視線に華夏が折れる。
「解りました。近くで食事をしましょう」
「ここが、問題の事務所があるビルですね」
和が感動した様子で言う中、ファミレスで思う存分食べて寝ている幼女を背負った華夏が言う。
「そうです。無駄な時間をつかったから早く行かないと」
そして、問題の事務所に着くと、一人の男性が居た。
「零子さんの頼みでしたら、頑張らせて頂きます」
「こんな仕事を回してしまってすいません」
頭を下げた知的な女性、白水零子に鼻の下を伸ばす男性。
「直ぐに解決しますから!」
そのままその男性が立ち去っていく。
それを見ていた華夏達の背後に真面目そうな制服の少年が立っていた。
「お前達は、何者だ? 返答次第ではただでは、済まさないぞ」
曙がその少年を見て言う。
「鏡さんって中学時代、こんなだったんだ」
自分の名前を知っている事で警戒を強める鏡に華夏が慌てて言う。
「落ち着いて下さい。事情は、じっくりと説明します」
鏡は、零子に視線を送ると、零子が頷く。
「話を聞かせてもらいましょうか」
そうして、華夏達は、零子の事務所で事情を説明する事になった。
事情を説明し終った後、零子が頭を押さえ、鏡も呆れた顔をする。
「幾らなんでも八刃白書を喪失させるなんて、よく命がありますね」
和が窓に手を掛ける。
「やっぱり私は、責任をとって死んだ方が良いんだ!」
白風の分家の立場上、零子が止める。
「和様、お待ち下さい。そちらの責任者が問題ないとしてるのでしたら構わない筈です」
鏡が小さく溜息をついて言う。
「確かにそうですね。しかし、それだけ責任を負え、懐が深い人物が、居るのですか、未来も明るいですね」
多少皮肉を籠めた鏡の言葉に華夏が頷く。
「ヤヤ様は、八刃でも指折りの人格者ですから」
その言葉を聞いた瞬間、鏡が眉を顰める。
「何の冗談ですか? 白風較が人格者と聞こえたのですが?」
顔を見合す曙達。
その時、ドアが開けられて、ポニーテールの女子小学生が入ってきた。
「零子さん、何か面白いトラブル、起きてない?」
その少女は、曙達を見て凶悪な笑みを浮かべる。
「面白いのがいっぱい居るね。丁度良い、あちきと戦わない?」
和が戸惑いながら言う。
「もしかして、この人が、小学生のヤヤさん?」
鏡が諦めた顔で頷く。
「到底、そうとは、思えないだろうが、白風の次期長、白風較だ」
「「「嘘ーーーーー!」」」
曙と華夏と和の声がハモった。
事情を聞いた後、小学生ヤヤが面倒そうに言う。
「あちきも随分と甘くなったもんだな」
この中では、最年少なのに、偉そうである。
「とにかく、人工魂の製造法については、零刃の情報網で探索しますから、暫くお待ち下さい」
華夏が頭を下げる。
「よろしくお願いします」
「あのーその間、私にも何か仕事を……」
和の言葉に小学生ヤヤが言う。
「丁度良い、あちきの相手をして!」
顔を引きつらせる和を引っ張り、小学生ヤヤが出て行ってしまう。
曙が驚いた顔をして言う。
「しかし、ここまで違うとまるで別人だよ」
零子さんが苦笑する。
「まあ、未来で人格者になると解っただけでも私は、気分が楽ですね」
「こっちは、それが信じられないがな」
鏡が今でも納得していない顔をしていた。
そして、人工魂の製造法の場所が判明したのは、五十時間後だった。
目的の場所に到着した一行。
「ここで、人工魂製造の実験を行っているのですか?」
華夏の質問に、案内に来た零子が頷く。
「はい。相手側もふってわいたような技術に戸惑っているみたいですが、有効な技術として、実験を繰り返しています」
零子に買ってもらったお菓子を食べながら幼女が言う。
「いっぱいの人が犠牲になってる。復元するの、大変そう」
「私の所為です! やっぱり死んで……」
和が騒ぎそうになるのを止め、鏡が言う。
「今は、それより、あんな実験を中止させる事が優先。私と華夏さんで、先行します」
華夏も頷き、二人は、呪文を唱える。
『『影走』』
谷走に伝わる、影の術で、影の世界を進み、施設に潜入する鏡と華夏。
「あちき達も行くぞ!」
小学生ヤヤが和を引っ張り正面から、施設に突っ込んでいく。
当然、警報がなり、大量の警備の術者達が現れる。
『ここは、我等、不死鳥法人の施設だ。貴様等が何者か解らないが今すぐ、立ち去れ!』
それに対して、小学生ヤヤが高らかに宣言する。
「あちきは、八刃が一家、白風の次期長、白風較! あんたらの人工魂製造法は、我等の術。それを大人しく返すなら、見逃してあげる!」
明らかな挑発に八刃の不可侵を知る警備の術者達もいきり立つ。
『たかが、小娘の二人、殺せ!』
次々と放たれる火炎の術。
先に反応したのは、和。
『カーバンクルパラソル』
和の術が術に対して斜めに受け流す。
その間に、小学生ヤヤが術者の中に入り込む。
『オーディーンハルバート』
小学生ヤヤが回転しながら放つ手刀は、術者達を次々と戦闘不能にしていく。
腕を振って、返り血を振り払いながら笑みを浮かべる小学生ヤヤ。
「もっとちゃんと抵抗して。さもないと、全員、二度とベッドから出れなくなるよ」
戦闘で爛々と輝く小学生ヤヤの目に術者達は、怯む。
和も蒼牙を振るい、次々と戦闘不能にしていく。
そんな二人を見て、実は、過去情報に入る術の為、余力がなく戦力外の曙が言う。
「和も普通に戦う分には、問題ないね。それにしてもヤヤさんって小学生の頃って本気で凶暴ですね」
零子が溜息を吐く。
「まあ、色々事情があるんですよ」
こうして、小学生ヤヤと和が正面に敵を集めている間に、華夏と鏡は、問題の場所への潜入を成功させていた。
「ここに、問題の情報があるんですね」
華夏の呟きに、そこに居た一人の老博士が言う。
「そうだ、しかし、返すつもりは、ない。この技術があれば、手に入れる事が出来るのだ」
鏡が老博士の背後の水槽に浮かぶ少女の姿をした物を指差して言う。
「どれだけ近い魂を入れた所で、それは、娘には、なりません」
老博士が怒りのままに叫ぶ。
「うるさい! お前等みたいなガキに何が解る! 私は、娘を生き返らせる為に、全てを捧げてきたのだ。しかし、幾ら肉体が作れても魂は、作れなかった。その問題が遂に解決するのだ、邪魔は、させない!」
狂気の表情に華夏が思わず一歩後退するが、鏡は、逆に一歩踏み出す。
「無駄です、全ては、終わった事。過去を変える事等、誰にも出来ない」
少し複雑な顔をする華夏。
しかし、老博士が手元の装置に自分の手を当てて言う。
「足りない魂は、私の魂で補う。さあ、娘の魂を作り出せ!」
装置が動き出し、装置に接続されたカプセルの中で人が暴れ、老博士の顔からも魂が抜けていくと同時に死相が出る。
そして、水槽に浮かんでいた少女が目を開ける。
「やった、娘を蘇らせられ……」
言い終わる前に絶命する老博士。
「自分の命までかけるんだ」
華夏の呟く中、鏡が術を放つ。
『影円』
影の円が水槽の少女を二度と動かなくさせた。
「何をするの!」
華夏の抗議に鏡が答える。
「所詮は、全て、欺瞞だ。お前も資料を見ただろう。あの少女は、あんな小さな子供じゃない。老博士の助手と駆け落ちした挙句に、生活力がない夫の代わりに体を売って生活していた女で、今も生きている。あれは、この馬鹿な老人の妄想の産物だ」
華夏が困った顔をする。
「そうだったっけ。早く情報を回収しないと」
そして、自分の理想の為に、不死鳥法人を作った天才だが、妄想の中でしか生きられなかった老博士が死に、華夏は、無事に情報を回収した。
零子の事務所。
「やり足りない。時間があるんだったらあちきと勝負しない?」
餓えた目をして言ってくる小学生ヤヤの提案をやんわりと断る華夏達。
そして、幼女が言う。
「それじゃあ、全ての過去を戻すよ!」
両手を広げて、幼女が唱える。
『全ての過去を司る存在、白老杖様の使徒、幼女の承認にて、この世界の過去を戻さん!』
強い光が世界を覆った。
曙達が次に目を開けると、曙が魔方陣を作った場所に戻っていた。
「疲れたから寝る」
そう告げて、その場で寝てしまう幼女。
「ご苦労様でした」
近づき声を掛けてきたヤヤに、華夏が小学生ヤヤを思い出して苦笑する。
「いえ、コレも八刃の勤めです」
「色々あったけど面白かったね」
のん気な曙。
そして、和が言う。
「次も一緒に連れて行ってください!」
その一言に華夏が固まる。
「それってまさか……」
ヤヤが小さく溜息を吐いて言う。
「予想通り、まだあるのよ。詳細がわかったらまた連絡するわ」
「了解。次は、どの時代だろう」
楽しそうにする曙。
「またこんな大変な事をするのかー」
疲れきった顔をする華夏であった。
曙と華夏と和の八刃白書を回収する過去への旅は、まだまだ続くらしい。