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序章

世の中は不景気だ。

それは何も人間だけではない。


――そう。現代めったに見ることのなくなってしまった彼らも――


+++++++++


最近入室した彼には困っている。このアパートの管理人、田上はため息をついた。

決して流行っているとはいえない、このアパートにとって、新しい住人は神様のような存在だ。

とは言っても、猫を連れ込んだり、急にすごい物音をたてたり、悲鳴のような声をあげるのはどうかと思う。

田上は、一階のあまり日の当たらない一番端っこの部屋を眺めた。

すると丁度、件の住人が顔を覗かせた。田上は目を合わせないように、手に持った竹箒を片づける振りをした。


+++++


寂れた道に面したボロアパート。灰色の薄汚い壁はひび割れていて、いかにも安物物件という雰囲気だ。

彼が住む部屋の前の鉢植えには小さな柚の木が、周りの景色に不似合いに鮮やかな緑を輝かせ、日の光を受けている。

その木の前に、彼はいた。すっきりとして上品な顔立ちともいえる。

だが、色あせて元の色がわからない如雨露を手に、

細い目を眠そうにさらに細めてあくびをかみ殺す姿はそのイメージを見事に壊していた。

普通の人から見たら、かなりの変人。ある者たちにとっては、かなり重要な人物である。


「あおみ〜」


甲高い声に、彼はあくびを飲み込んだ。

如雨露を鉢植えの前に置き、洗濯物を干すためだけにある庭を横切る。

5歩で塀まで行き、その上に座っている猫をつかみ、ためらいもなく部屋に連れ込んだ。

そしてカーテンを閉めて、猫に向き合った。


「……虎珠こたま。外ではやめろと言ってるだろ?」


青年は眉間にしわを寄せる。

我が物顔で部屋に座り、毛繕いを始めていた猫が顔をあげた。


「あおみ……」


今のは猫の言葉である。変わった鳴き声というわけではない。

れっきとした、意味を持った言葉である。この猫は、青年の名を呼んだのだ。


「仕方あらへんやろ?このアパート、犬猫侵入禁止やん。

一昨日も管理人のおっさんに追い出された」


……もう見間違えようもない。猫が話している。しかも関西弁で。

青年は、別段驚いた顔もせず言う。


「……で、また依頼か?」


「そや。こっちの、な」


猫は、しっぽで自分の顔を指す。青年は、やっぱり、とつぶやいた。

彼は、表向きにはただのフリーターということになっている。

だが、副業……と言っていいのか微妙だが、人間の感覚でははみ出し物とされる者たちの依頼を受けているのだ。


青年の名は、土門碧海つちかど あおみ

代々、‘あやかし’を退治するという家業を伝えてきた血筋である。

土門という名字は、陰陽師の土御門家に由来し、普通の陰陽師のまじないより直接的な術を使う分家の一つであった。

だが、現代、妖怪を妖怪として見ることができる人間が激減し、この血筋を生かせる仕事など無いに等しい。

こうして、土門家は仕方なく、一般人に紛れ静かに暮らしてきた。

が、この事態に不満持つ者は退治側だけではない。

人間の驚き、あるいは恐怖などの感情を糧に生きてきた妖怪当人も、純粋な心を失なっていない人間が住む所に出張しなければならなくなった。

うまくいけば、村の神としてそこに居座れるが、就職倍率がかなり高い。

大半の妖怪は、人里離れた山道の心霊スポットなどで、地道に稼ぐしかないのだ。

こうなると困るのは、子供の問題だ。

慣れない場所で、幼い子供に無理をさせる訳にはいかない。


という訳で、やっと碧海の所につながる。

どちらも妖怪のいた時代に戻りたいと思っている。

よって、碧海は妖怪の子供を預かり一時的に面倒をみる。

妖怪は妖怪としての仕事を全うする。

碧海の仕事が増える。


本末転倒。その上、詐欺要素満載。


だが、本人たちは至って真面目で、切実だ。

こうして、利害の一致による、敵対者同士の提携体制が成立してしまった。

妖怪ベビーシッターの誕生である。


「今回もすごいでぇ〜!かの有名な‘やまびこ’さんの長男や」


緑色の目を光らせて、猫が言う。

彼の名は、虎珠こたま。碧海の使い魔だ。

もとは、柚の精霊だが、情報集めの便宜上、猫の姿をしている。

猫は妖怪がきちんと見える動物の一つなのだ。

しかも、機嫌が良いときはかなりの情報を流してくれるありがたい存在だ。


虎珠は、茶色のしま模様の体を得意げにそらした。


「どや?うちは、イケメンやから、かわい子ちゃんは、すぐに話してくれるんや。

わずか1日で、仕事を成し遂げたで」


虎珠は期待のまなざしで、碧海を見上げる。

碧海は、虎珠の頭をなでながら微笑んだ。


「分かった。枷を一つ外す。移動距離が増やしてやるよ。しばらく自由に遊べ」


碧海は小さく何かをつぶやく。それは、風の流れと調和して、虎珠を包んだ。


「俺が呼んだら戻って来いよ」


彼が言い終わる前に、虎珠の姿は静かに消えた。


(やれやれ。まぁ、柚の本体はこっちにあるから呼び出すのは簡単だが)


彼は、カーテンをあけ、一つだけ実のなった木を眺めた。

つややかな果実が日の光を反射して輝く。

この果実が、妖怪たちの目印になる、虎珠の本来の姿だ。

今は宿主である虎珠はいないが、この柚の香りだけでも目印には十分だ。


(やまびこ……となると、騒音騒ぎが心配だな)


窓から外を見ると、管理人の田上が掃除を終えて戻るところが見えた。


(……入室して早々、あのおっさんには嫌われたみたいだし)


碧海は苦笑する。

……でも、仕事は仕事だ。

彼は、深呼吸して仕事の準備に取り掛かった。


読んでくださってありがとうございます。

初心者なので、見苦しい点もあったかと思いますが……というか問題外と言う感じですが、もしよければ、アドバイスなどしていただけたらうれしいです!

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