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女装コスプレをしていることがクラスに知られ全てが終わりかと思っていたが、隣の席のダウナーギャルだけ興奮した目で僕を見ていた

作者: 洗米
掲載日:2026/06/24

 小さい頃から可愛いものが好きだった。

 動物のぬいぐるみや、可愛い人形。好きな色はピンクや紫だったし、二次元のキャラクターの美少女に憧れてたりした。

 

 でもそれが他の男子とは違うことは理解していたし、他の人には絶対にバレないようにしていた。

 

 その抑圧のせいか、僕はSNSで自分のコスプレ画像を上げていたりした。

 自分で作った様々なコスプレ衣装で身を纏い、臨機応変にメイクをする。


 その時に鏡に映る自分は、憧れていたキャラクターのようで、その瞬間だけ本当の自分をさらけ出せている気がした。


 いつの間にかSNSで色んなファンの人が見てくれるようになっていた。最初は性別を隠していけど、いたたまれなくなって男だということを公表したが、何故だかその時からさらにフォロワーは増えていった。

 伸びた理由はよく分からないけど、同じ可愛いものが好きな人がこんなにいることが嬉しかった。


 学校では普通の男子高校生として過ごしているから、絶対にコスプレのことはバレないと思っていた。

 だけど、その考えが甘かったことを僕はすぐに知った。


 ある日学校に登校すると、教室中が静まり返り、皆が僕の方をじっと見つめてくる。

 僕はクラスでも目立つような人間ではないので、こんなことは初めて。


 一体何が起こっているのだろうと焦っていると、近くの席の女子が僕に話しかけてきた。


「ねえねえ夏木(なつき)くん。これ夏木くんなんでしょ」


 その女子はスマホを取り出し一枚の画像を見せてきた。

 それは僕がよく知っている人物……というか僕自身であり。


「ど、どういう意味かな?」


 その画像は紛れもなく僕自身だ。だけどそれを認めたらこのクラスでどういう扱いを受けるか、それが分からないほど僕は馬鹿じゃない。


「鈴木が見たんだって、トミケでコスプレしてる夏木くんを」


 鈴木君はクラスメイトの一人で、あまり話す機会はないが僕と同じオタクだったはず。

 それならコスプレしてる僕を見てもおかしくない。だけど僕のコスプレはだいぶクオリティが高い。自分でいうのもなんだけど。

 それに何年もやってきているし、身バレ防止も毎回ばっちりしている。


 それなのにバレるはずが。


 鈴木君の方に視線を向けると、もう黙っていられないといった様子で、口を開いた。


「お、俺はKTN……通称かたんちゃんの大ファンなんだ!」


 KTNとは僕がSNSで活動する時の名前。呼びづらいからいつからか、かたんちゃんなんてあだ名をつけられたが、可愛いから僕も気に入っている。


「そ、それで?」

「僕はかたんちゃんが有名になる前からずっと推してるんだ。だからこの高校に入学して夏木くんに会った時、何かをビビッと感じたんだ」

「……そ、それで?」

「流石に勘違いかと思ってたけど、かたんちゃんが男なのは周知の事実だし、もしかしたらと思ってたよ」

「……そ、そ、それで?」

「そして夏休みにいったトミケ! そこで久々にあったかたんちゃん! そこで確信したんだよ。夏木くん! 君はかたんちゃんだってね!!」


 鈴木君は某名探偵のように、ビシッと僕に指を指してくる。

 認めたくないけど、全てあっている。今年のトミケにも出たし、そこでコスプレもした。


 だからといってそれが僕本人だということが分かるはずがない。

 

「それに名前の由来も、夏木くんがかたんちゃんなら納得がいく」

「ぎくっ」

「な、つ、き。君の名前の頭文字を取って反対にすると、KTN。そうなんだろ夏木くん!」

「うぐっ……」


 ここまで証拠が揃ってしまえば、否定することは難しいだろう。

 違うと言い続けても、周りにはもう僕を信じてくれないだろう。


 ああ、終わったな。僕の青春。

 僕はこれから、女装コスプレをしている変な奴って思われるんだろう。

 入学したばっかなのに……


 もう正直に白状してしまおう。僕は覚悟を決め、口を開こうとする。


「……おい」


 だが、僕の発言を遮るように、怒気が混じった声を上げた人がいた。


桔梗(ききょう)さん?」


 僕の隣の席にいる、いつもダルそうにしている桔梗さん。大勢の前で喋るのは滅多に見ないけど、一体どうしたんだろう。


「そいつが何しててもお前らには関係ないだろ」

「た、確かにそうだけど」

「そうだよなぁ?」

「は、はい……」


 反論しようとした女子は、桔梗さんの圧に負けすぐに引っ込んでしまう。

 桔梗さんは普段あんなに語気が強い人ではないけど、緊張する場面だとつい言葉が汚くなってしまうらしい。


「あと鈴木」

「あ、はい!!」

「そのかたんちゃんのファンだっていうなら、その正体が分かっても隠しておくのが、ファンとしてのマナーじゃねえのか?」

「はい! おっしゃる通りです!」


 あんなにさっき自信満々に推理を披露していた鈴木君も、桔梗さんの前では強く出ることが出来ていない。

 流石桔梗さん。僕よりも男らしくてかっこいいや。


「ここにいるお前らも、このことは周りに言い触らすなよ……いいな!?」

「「「はい!」」」


 本人は強い言葉が出てしまうことを恥じているが、僕はそんな桔梗さんが羨ましい。

 いつも何かがあると、桔梗さんは僕を助けてくれる。

 

「夏木くんごめんね。私たちも大事にしたかった訳じゃないの」

「別に大丈夫だよ。バレちゃったのはしょうがないし、これ以上知られないならまだ許容範囲内……だよ」


 そんな訳ないが、そう言っておかないと彼女たちに責任を負わせてしまう。

 でも鈴木君。君に対する僕の評価は少し下がってしまったよ。


「じゃあ僕席に戻るから」

「分かった。これからも頑張ってね」


 クラスメイトに僕の活動を応援されるのは少しむず痒いが、馬鹿にされないだけマシだろう。


 僕はいつも座っている窓際の椅子に腰を掛け、隣の席で突っ伏している桔梗さんに声を掛ける。


「また助けられちゃった。いつもありがとね」

「……周りがうるさかっただけ。助けた訳じゃない」


 顔を上げないまま返事をする。

 いつも眠たそうにしてるが、そんなに睡眠が足りていないんだろうか。


「そっか。でもありがと」

「……」


 それ以上返事は返ってこない。

 

 それから少し待っていると、教室に担任の先生が入ってくる。

 朝のホームルームが始まり、連絡事項などを話している。


 それらをあくびをしながら聞いていると。


「……ジー」


 隣から誰かに視線を送られている。

 いや、隣にいる人物なんて一人しかいないんだが。


 バレないように横目でちらっと見ると、桔梗さんは捕食者のような目でこちらをジッと見つめている。

 

 いや怖いよ! 何ていう目つきしてるんだ桔梗さん! いつも鋭い目つきをしているけど、今回はそういう怖さじゃない。なんていうか身の危険を感じるような、そんな目で僕を見ている。


 元々狼のような見た目をしているのも相まって、本当に獲物を狙う肉食動物のようだ。


「あの~桔梗さん?」

「ッ!」


 思い切って声を掛けてみると、いつものようにまた腕に顔を埋めてしまった。

 こういう時の桔梗さんは猫みたいだ。


「何か用があるなら聞くよ」

「……夏木は、可愛いもの……好きなの?」

「ま、まあ好きだけど」

「ふ~ん」


 それだけ聞くと、また桔梗さんは黙り込んでしまった。


 いつも何考えてるか分からない人ではあるけど、今日はより一層考えが読めない。


 それから桔梗さんは口を開くことなく、放課後まであの視線を向けられながら過ごすことになった。







「夏木、この後時間ある?」


 ホームルームが終わると、桔梗さんはそう話しかけてきた。


「今日は暇だよ」


 桔梗さんから呼び止められるなんて初めてのことだ。何か僕に用事があるのだろうか? いつも助けられてばっかりだし、こういう時に恩返しを済ませておかないと。


「そ、そう。ならさ」


 いつも自信に満ち溢れている桔梗さんだが、今は何だかとても恥ずかしそうに身をもじもじさせている。

 こんな桔梗さんは初めて見た。そんなに言いづらいことなのだろうか。


 だが覚悟を決めたのか大きく息を吸うと、言葉の続きを話し始めた。それは僕にとって驚きの相談だった。


「わ、私に可愛いを教えて……ください」


 頬を真っ赤に染めながら顔を俯かせる桔梗さん。

 可愛いを教えてくれと懇願する桔梗さんには悪いが、そんな今の彼女に、僕はボク史上一番キュンとしていた。

 これが……本当のギャップ萌え!! 二次元では散々見てきたような展開だけど、現実でこんな萌えるシチュエーションに出会えるとは。


 僕もたくさん可愛いを学んできたけど、やっぱり計算されていない真の可愛さには勝てないのかもしれない。


「だ、ダメかな……?」

「っ!?」


 そして驚くことに、桔梗さんは追い打ちで縋るような上目遣いを披露してきた。

 この人、自分が可愛いことを本当は理解しているんじゃないか? 僕が努力して習得した技術を、この人は素で行っている。


 いかん。このまま桔梗さんを眺めていては、興奮しすぎてノックアウトしてしまう。

 

 今にも鼻から出てきそうな鼻血を押しとどめ、桔梗さんと向き合う。


「桔梗さん。僕が君に教えることはないよ」

「え? じゃ、じゃあ教えてくれないってこと……?」

「そうじゃないよ。既に桔梗さんは可愛すぎるんだ」

「……へ!?」


 今僕は思い知ったのだ。数年研究し、努力してきた僕の可愛いは、彼女のような美少女には敵わないってことを。

 所詮僕がやっていることは他人の真似事。限界があったのだ。


「だから桔梗さん、自信持って。きみはすごく可愛い!」

「えぇぇぇぇえええ!?」


 まさかこんなに褒められると思っていなかったのか、今までのキャラが崩壊してしまうほどの女の子らしい声を上げていた。

 今まで僕は桔梗さんのことをクールな一匹狼かと思っていたけど、本当はここにいる誰よりも純情な乙女なのかもしれない。


「桔梗さん、可愛いを教えてほしいんだよね」

「そ、そうだけど」

「もちろんいいよ! だけどその代わり」


 僕は最近自分の活動に限界を感じていた。だが彼女はどうだ? 桔梗さんには無限の可能性がある。

 

「桔梗さん、僕と一緒にコスプレしない?」

「えぇぇええぇぇええ……?」

「もちろん僕にだけ見せてくれればいいよ。ネットにあげたりもしない」

「それはそれで何か……」


 やっぱり普通の女の子にはハードルが高いものなんだろう。だけど僕は)めない! 可愛いを追求するためなら僕はなんだってする(人に迷惑をかけないもの)


「その分桔梗さんを世界で一番可愛い女の子にするからさ」

「そ、そこまで求めてないけど」

「いや! 桔梗さんはなれるポテンシャルがある!」

「その自信はどこから来るのさ」


 あれだけ恥ずかしがってた桔梗さんだが、今は普通に落ち着いている。興奮している僕に呆れているだけかもしれないが。


「もちろんダメなら断ってくれて大丈夫。その時は普通に友達として知識を共有するよ」

「……断らないよ」

「もしかして引き受けてくれるの?」

「わ、私も……コスプレ、興味あるし……」


 前髪をいじくりながら恥ずかしそうにそう口にする。

 そんな桔梗さんを参考資料として写真に撮りたい欲をぐっと抑え、今は目に焼き付けることに専念する。


「桔梗さん。もう免許皆伝だ!」

「まだ何もしてもらってないんだけど!?」

「こんな可愛いの集合体、国中を探し回ってもなかなか見つからないよ!」

「た、頼む人間違えたかも……」


 こうして僕と桔梗さんの可愛いを追い求める毎日が始まった。

 二人で服を買いに行ったり、メイクを覚えたり。人を萌えさせるような言葉遣いを調べたり、コスプレの極意を教えたり。


 僕の日常は、桔梗さんがいるのが当たり前になっていた。







「な、夏木。これちょっと私には……」

「コスプレイベントに出てみたいって言ったの桔梗さんでしょ」

「だけどぉ……」


 桔梗さんは僕と過ごしているうちに、自分からイベントに出てみたいと言うまでコスプレにハマっていた。

 最初は女の子らしい服装を着るのも躊躇っていたあの桔梗さんが、今ではコスプレに積極的に取り組んでいるのだから、人の人生というのは面白い。


「あ、あのかたんさん。写真一枚いいですか?」

「ぜひぜひ。いっぱい撮ってください」


 今回僕は女装ではなく、とあるアニメに出てくる男らしいキャラクターのコスプレをしている。

 一方桔梗さんはそのキャラの幼馴染で相棒枠である、綺麗な魔法使いのコスプレ。

 人気キャラクターであるため、桔梗さんのコスプレを見に来る人は大勢いる。

 

 僕はその桔梗さんを引き立てるために今回は女装を控えたのだが、僕が男キャラのコスプレをするのは珍しい、という理由で僕目的のお客さんもたくさん集まってしまっている。


「ね、ねえ夏木」


 桔梗さんはあの日のように、恥ずかしそうな表情でこちらを見つめている。


「どうしたの?」

「私って、可愛いかな」


 最近桔梗さんはその問いをよくしてくるようになった。

 彼女が可愛くない日なんて存在しないため、その問いはあまり意味を成していない気がする。


「もちろん」

「……ふふっ」


 でもそのおかげで満面の笑みを浮かべる桔梗さんが見れるから、毎日聞いてきてほしい。

 

 僕もいつか彼女のような、かっこよくて可愛い人間になれるだろうか。それはまだ分からない。


「夏木!」

「うん?」

「いつもありがとっ!」


 けれど、彼女が笑っている。世界一可愛い桔梗さんが。

 

 それ以上に大切なものなんて、案外ないのかもしれない。

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