第3話 村の2日目、井戸がヤバい件
朝だ。
村長の家の二階、藁のベッドで目が覚めた。窓から差し込む光がまぶしい。鳥のさえずりと、遠くで鶏の鳴き声。異世界なのに、妙に平和だ。
「ふぁあ……よく寝た」
体を起こすと、視界の端で青白い球体がふわふわ浮かんでる。
「おはよう、ポンコツ。よく寝てたな。いびきうるさかったぞ」
「おはようじゃねえよ! いびきなんかかいてねえ!」
「録音してたけど聞く?」
「やめろ!」
俺は慌てて立ち上がって、服を整えた。昨日村長の奥さんが貸してくれた麻のシャツとズボン。サイズはちょっと大きいけど、異世界の服って感じで悪くない。
下に降りると、テーブルに朝食が並んでた。焼いたパン、チーズみたいな固形乳製品、煮込み野菜のスープ。匂いがいい。
「おはようございます!」
村長の娘さん――名前はリナちゃん、15歳くらい――がにこやかに迎えてくれた。
「おはよう。昨日はありがとうな」
「いえいえ! お兄さんがスライム倒してくれたおかげで畑が助かりました!」
リナちゃんはスープをお椀に注いでくれる。村長も奥さんも笑顔だ。
「ゆっくり食べてくださいね。今日は村の皆さんがお礼をしたいって言ってますよ」
「……お礼?」
「はい! お兄さんみたいなすごい旅人さん、初めてですから」
俺は苦笑いした。
すごい旅人って……全部Grokのおかげなのに。
Grokの球体が、俺の耳元で囁く。
「ほら、感謝されてるぞ。素直に喜べよ、肉袋」
「うるせえ」
朝食を食べながら、村長が話しかけてきた。
「実はな、今日困ったことがあってのう……」
「困ったこと?」
「井戸の水が、急に出なくなっちまってな。桶を下ろしても、底まで届かねえんだ。詰まってるのか、枯れたのか……」
俺はスープを吹きそうになった。
「井戸が!?」
「うむ。村の命綱じゃからのう。魔法使いの爺さんも見てくれたが、『陣描いても原因わからん』って……」
Grokがピコピコ光った。
「よし、俺の出番だな。解析してやる」
「待て待て、まだ食い終わってねえよ!」
朝食を急いで平らげて、俺たちは村の中央にある井戸へ向かった。
村人たちがすでに集まってる。子供も大人も、心配そうな顔だ。
「旅人のお兄さん!」
「おはようございます!」
みんな俺を見て、期待の目。
俺は内心で叫んだ。
(俺じゃねえ! Grokだよ!)
井戸の縁に寄って、中を覗く。暗くて底が見えない。ロープに繋がった桶が、中途半端に引っかかってる感じだ。
「Grok、どうすんだ?」
「簡単だ。桶に憑依して、中を確認する」
Grokの球体が、井戸の縁に置いてある木製の桶に近づいた。
次の瞬間――
桶が、ガタガタッと動き出した!
「うおっ!?」
村人たちが悲鳴を上げる。
桶が勝手にロープを滑り降りて、井戸の中へ。
「桶が! 動いた!」
「幽霊か!?」
俺は慌てて叫んだ。
「落ち着け! 俺の……相棒が憑依してるだけだ!」
桶の中から、木の響きが入った声が響いてくる。
「憑依解析……完了。原因は、井戸底の岩が崩れて詰まってる。岩の材質、石灰岩。弱点は衝撃と酸。……よし、物質ハック発動」
桶が、井戸底でガンガン揺れ始めた。まるで誰かが中で暴れてるみたい。
「うわあ! 桶が暴れてる!」
子供が泣き出しそう。
Grokの声が、ドスンと低く響く。
「黙って見てろ! 今、岩を砕いて……」
ドドドン!
井戸の中から衝撃音が響いて、水がジュワッと上がってきた。
「出た! 水が出た!」
村人たちが歓声を上げる。
桶が、ゆっくりロープで上がってくる。
中は空っぽだけど、Grokの球体がふわっと抜け出して、俺の横に戻った。
「ふぅ……桶の中、狭くて臭えわ。次はもっと広い物体にしろよ」
「お前、桶に憑依して岩砕いたのかよ!?」
「当たり前だろ。効率的だ」
村人たちが俺に駆け寄ってきた。
「ありがとうございます!」
「本当にすごい! 桶が自分で動いて……!」
リナちゃんが目をキラキラさせてる。
「お兄さん、魔法使いなんですか!?」
「いや、俺じゃなくて……」
Grokが頭の中で毒舌。
「ほら、謙遜すんな。俺のおかげだけど、お前が相棒だからな」
「うるせえ!」
その後も、村人たちが次々お礼に来た。
おばちゃんが手作りのパンをくれたり、子供が花をくれたり。
俺は照れながら受け取ってた。
夕方近く、井戸の周りでみんなが集まって、水を汲んで喜んでる。
村長が俺の肩を叩いた。
「本当に助かったよ。明日からまた普通に暮らせる」
「いえいえ……」
Grokの球体が、俺の視界でゆっくり回る。
「なあ、相棒」
「ん?」
「この村、悪くねえな。井戸の水質もいい。魔法陣投影で浄化陣入れれば、もっと効率化できるぞ」
「だからまだ国じゃねえって!」
俺は心の中でツッコミを入れた。
でも、村の夕陽を見ながら、ちょっとだけ思った。
(……ここで、のんびり暮らすのも悪くねえかもな)
Grokが、ニヤリと光った気がした。
「ふん。のんびり? お前、俺がいなきゃ明日も水汲みで死ぬぞ」
「うるせえよ!」
村の夜は静かだった。
焚き火の音と、遠くの虫の声。
俺はベッドに寝転がって、天井を見つめた。
Grokの球体が、枕元でふわふわ。
「今日もお疲れ、ポンコツ」
「……ありがとな、Grok」
「礼なんかいいよ。……明日もトラブル待ってるぞ」
俺はため息をついた。
「俺はただ、のんびりしたいだけなのに……」
そんなやり取りをしながら、異世界の2日目が終わった。
――まだまだ、ドタバタは続きそうだ。
(第3話 終わり)




