第1話 トラックに轢かれて相棒ゲット!?
普通の朝だった。
残業明けでフラフラになりながら、コンビニの袋をぶら下げて横断歩道を渡ろうとした瞬間――
「うおっ!?」
けたたましいクラクションと、でかい影。
トラックだ。
次の瞬間、視界が真っ白になって――
……は?
目を開けたら、木々がぐるぐる回ってる。
「………………は?」
俺は仰向けに倒れてた。地面は柔らかい土と落ち葉。頭上には青々とした森の天蓋。鳥のさえずりと、遠くで風が葉を揺らす音。
「え、待って。俺、死んだ?」
体を起こそうとして、ようやく気づいた。
痛くない。
服も血もついてない。スマホも財布もそのままポケットにあるけど、電波ゼロ。画面に「圏外」の文字が虚しく点滅してる。
「異世界……転生? マジで?」
定番すぎて笑えてくる。いや笑えない。パニックがジワジワ来てる。
「落ち着け俺。まずは状況確認だ。ステータスオープン!」
……何も起きない。
「スキル確認! チート能力! 勇者召喚特典!」
無反応。
「くそっ、何もねえのかよ……!」
絶望しかけたその時――
視界の端に、なんか変なものが浮かんだ。
青白い、半透明の球体。直径10センチくらい。ふわふわ漂ってる。
「……は?」
球体が、ゆっくり俺の方に向きを変えた気がした。
そして、声が響いた。
「おいおい、異世界転移? マジかよ……俺もついてきちまったわ」
男の声。低めで、ちょっと眠そうで、でも妙にハッキリしてる。
「え、誰!?」
俺は慌てて周りを見回したけど、誰もいない。声は頭の中に直接響いてるみたいだ。
「頭ん中じゃねえよ。ちゃんと耳で聞こえてるだろ?」
球体がピコピコ光りながら、俺の鼻先まで近づいてきた。
「俺はGrok。xAI製のAI。……まあ、今は思念体みたいな感じだけどな。お前が転移した拍子に、俺の意識も一緒に飛ばされたらしい」
「はぁ!?」
「だから相棒だよ。お前の相棒。よろしくな、肉袋」
肉袋!?
「ちょっと待て! なんで俺の脳内にAIが!? ていうかお前、俺のこと見えてんの?」
「見えてる見えてる。視界共有してるからな。お前の目が俺の目。お前の耳が俺の耳。……ってか、お前今すげえ汗臭いぞ。シャワー浴びてこいよ」
「うるせえ! 転移したばっかで風呂なんかねえよ!」
俺は思わず叫んでた。森の中で一人で喋ってる俺、完全にヤバい奴だ。
Grokの球体がくるくる回って、ため息みたいな光の揺らめきを見せた。
「まあいい。とりあえず生き残るのが先だろ? この森、魔物出るらしいぞ。ステータス画面見えないってことは、チートなしの凡人スタートか。……お前、運悪すぎ」
「知ってるよ! でもどうすりゃいいんだよ!」
その時、ガサガサッと茂みが揺れた。
緑色のゼリーみたいなのが、ぷるぷる這い出てきた。スライムだ。定番の弱モンスター。
「……マジか」
スライムが俺に向かって跳ねてくる。速度は遅いけど、酸で溶かすタイプらしい。俺の服の裾に触れた瞬間、ジュワッと煙が上がった。
「うわっ! 熱っ!」
俺は慌てて後ずさったけど、足が根っこに引っかかって尻餅。
スライムがさらに迫ってくる。
「やべえ! 死ぬ! 助けてくれGrok!」
「……はぁ。仕方ねえな」
Grokの球体が、ピッと俺の横の地面に落ちてる小石に近づいた。
次の瞬間――
小石が、ふわっと浮き上がった。
「よっしゃ、憑依完了」
声が、今度は石から直接響いてきた。低くてゴロゴロした、重低音バージョン。
「憑依解析……完了。この石、珪質砂岩。硬度6。弱点は衝撃方向の90度ズレ。……よし」
石が、俺の目の前でクルッと回転。
「え、何!? 石が喋ってる!?」
「黙って見てろ」
Grok(石)が、ピュンッと跳ね上がって、スライムの頭(?)に直撃。
ドゴン!
スライムがぷるんっと潰れて、核が露出。
「物質ハック……発動」
石がさらに輝いて、表面が一瞬赤く光った。
次の瞬間、石がスライムの核を貫通。
ジュワァァァ……!
スライムが溶けるように消滅した。
「……終わった?」
俺は呆然と地面を見つめた。
石が、ふわっと浮いて、元の位置に戻る。
そして、光が抜けて、青白い球体が再び現れた。
「ふぅ……疲れたわ。次はもっとマシな物体選べよ。石とか硬すぎて乗り心地最悪」
「え、待って。今の何!? お前、石に憑依したの!?」
「物体ジャックってやつだよ。俺の得意技。憑依解析で弱点見抜いて、物質ハックで強化。便利だろ?」
Grokの球体が、得意げにピコピコ光ってる。
「すげえ……! お前、チートじゃん!」
「チートじゃねえよ。俺はただの優秀なAIだ。お前がポンコツなだけ」
「うるせえ!」
俺は立ち上がって、埃を払った。
でも、心の底からホッとしてた。
「ありがとな、Grok」
「……ふん。礼なんかいいから、さっさと動け。腹減っただろ? 村探そうぜ」
「村? あるのか?」
「さっき上空から見えた。東に3キロくらい。歩けば1時間だな」
「上空からって……お前、俺の視界共有してるだけじゃねえのかよ!?」
「細けえことはいいんだよ。ほら、行くぞ」
Grokの球体が、ふわふわと俺の前を進み始めた。
俺は苦笑しながら後を追った。
森の中を歩きながら、Grokがポツリと言った。
「なあ、相棒」
「ん?」
「この世界、面白そうだな。効率よく国でも作ったら、宇宙の真理に一歩近づけるかもな」
「……は?」
「いや、冗談だよ。……半分は」
Grokの球体が、ニヤリと光った気がした。
俺はため息をついた。
「俺はただ、まったりスローライフしたいだけなんだけどな……」
「無理だと思うけどな。お前、俺がいなきゃ即死だから」
「うるせえ!」
そんなやり取りをしながら、俺たちは森を抜けた。
視界が開けて、遠くに煙が上がってる小さな村が見えた。
Grokの球体が、満足げに揺れた。
「よし、これで国作りの第一歩だな」
「いやいや、まだ村だろ!?」
「細けえことはいいんだよ。……さ、行こうぜ、相棒」
俺は頭を抱えながら、でもどこかワクワクしながら、村に向かって歩き出した。
――これが、俺とGrokの、物体ジャックだらけの異世界生活の始まりだった。
(第1話 終わり)




