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失われた物語の結界――沢山咸辺境開拓団の手紙

作者:聖稲
 塩の匂いが漂う港町から、辺境の開拓地「沢山咸」へ――。人々の“語る力”が抜け落ち、昔話も日記も、笑い話さえ紙から薄れていく世界で、瑛大は点呼のたびに同じ合図を繰り返す。「今日も名前を呼ぶ。返事があるだけで、俺は助かる」。光希は、壊れかけの鍬や水桶を見つけると腕まくりし、「得意なことは貸す。苦手なことは一緒にやる」と言って、仲間の手を迷わず取った。友樹也は鍋の焦げを見て大げさに嘆き、皆の笑いを引き出すが、石に刻む言葉の順番だけは譲らない。真由梨は遅れて現れても平然と、道端で泣く子どもを抱えている。「遅れた分、拾える命もあるでしょ」。琉唯は薪割りの斧をそのまま護身に持ち替え、空虹は夜空の星並びで道を決める。
 彼らが追うのは、感情を貯蔵する核の宝石「レオパードジャスパー」。言葉を石に刻んで結界を張る技術で、失われた物語の穴を塞げば、開拓地の食卓に冗談が戻る。だが道中、盗賊が投げる石礫、遺跡門の削れた文、怒りと哀しみだけを増幅させる囁きが行く手を塞ぐ。地下棚で見つかる一冊の“読めない本”、鎖で封じられた古い帳面、祭壇に残る欠けた石――そこには、沢山咸の開拓団が書き残した手紙の断片がある。
 手紙の一行を頼りに沢山咸へ下る道を進むたび、誰かの沈黙がほどけ、誰かの返事が増えていく。火の番を押しつけ合って笑い合い、塩気の強いスープに文句を言いながらも、朝になると同じ鍋を囲む。割れた核から溢れた感情に飲まれそうになった夜、瑛大は声を失いかけ、光希は指先を擦りむきながら石に短い文を刻む。「ここにいる。逃げない」。琉唯が壁役になり、真由梨が時間のズレを利用して奇襲を外し、友樹也が怖さを笑いに変えて皆の肩を並べる。最後に刻むのは英雄の名ではなく、明日の朝飯の約束――物語を守る結界は、結局、人を信じて呼び続けた声で編まれていく。沢山咸の畑に、消えかけた言葉がもう一度芽吹く。
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