再会
別れ
週に1度、ミカに勉強を教える日々を過ごしていくうちに半年ほど時が流れ、冬を迎えていた。その日はあと数日でクリスマスがやってくるとても寒い日だった。いつものようにミカに勉強を教えてあげた帰り道、踏切に引っ掛かって電車の通過を待っていた。
「あ」
3才くらいの小さな女の子がふらふらと踏切の中ほどを歩いているではないか。
「危ない」
太郎はそう叫んで、その子の方へ走っていた。電車の音が近づいてくるのが分かった。スローモーションのように感じた。その子を抱き上げて前へ跳びながら、ポンとその子を投げた。その子がぐるぐる回って着地するのが横目に見えた。ドン!真っ暗になった。
太郎は即死だった。
美花が太郎の死を知ったのはテレビでだった。
「美花、アレって‥‥」
「太郎!」
美花は慟哭した。親も驚くくらいに。やっと、やっと会えたのに。大人になったら結婚する筈だったのに。慟哭と嗚咽を繰り返した後、死んだように眠った。
ミカは白いお花のいっぱい咲いた草原にいた。
「ミカちゃん」
背後から温かい、優しい手が抱きしめてきた。
「太郎!」
太郎が会いに来てくれた。ミカは嬉しくて嬉しくて、号泣した。太郎の胸の中で泣いた。温かくて、幸せだった。
「ミカちゃんごめんね。こんなことになってしまって」
「いいの。テレビを見て、太郎らしいって思ったわ。太郎は素の心で行動するもんね。太郎、毎日会いに来てね。私はこれまで育ててくれた両親や私を人間界に送ってくれたパパのためにも、一生懸命に生きていこうと思うの。だから太郎、その間、1万回会いに来て」
「うん、分かった。1万回会いに来るよ」
永遠に
美花はすくすく成長して外国語を学ぶ大学へと進学し、英語の他フランス語、イタリア語も習得、国際線のCAになっていた。その間、太郎は毎日美花に会いに来てくれた。美花にとっては何よりも心強く、毎日を幸せに暮らすことが出来ていた。
ある日、イタリアから成田に向かう便に搭乗していた時、フィレンツェの街並みが美しかったことやトスカーナ料理がとても美味しかったことなどを楽しそうに話すナイジェリア人の乗客がいた。赤ワインを届けに行くと、新婚旅行でアフリカ北部からヨーロッパ各地と、なんとも豪勢な周遊をしてきたことを話してくれて、何だか幸せのお裾分けを貰ったようだった。この時、窓側の席に座っていた新郎が少し咳込んでいたが、薬を飲むほどではないということだったので、それきり気に留めなかった。
それから1週間程経っただろうか。美花はなんだかだるくて、測ってみたら熱もあった。風邪かなと思ってその日は早く休むことにした。何日かしても治らず、顔や首がむくんできたので、慌てて病院に行った。大学病院に回され、ラッサ熱と聞かされた。あの時飛沫で感染したのだろうと言われた。ここまでは意識があったが、真っ暗になった。丁度、太郎が1万回会いに来てくれた日の事だった。
美花は白いお花のいっぱい咲いている草原にいた。
「ミカちゃん」
「太郎だぁ」
太郎は黙ってミカの手を引いて、草原の奥の建物の方へむかった。真っ暗な部屋に入ると、遠くに蝋燭の光が2つ見えた。そちらの方に進んでいくと、重厚な感じの扉があった。ギギギ。思ったより軽く開いた。眩しいと思った光の先に誰かが。
「ようこそ、お2人さん」
「パパ!」
神界への扉が開いたのだった