第3章:灯火の行方
1. 最後の爆破計画
4月29日、昭和の日。
人々が集う新宿駅周辺。
その地下構内に、複数の爆弾が設置されようとしていた。
「この国は変わらない。だったら壊すしかない」
“灰の手”のリーダー格の一人がそう吐き捨てた。
だが、ミナミはその中にいなかった。
彼女は、ある“選択”をしていた。
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2. 決死の潜入
透は公安の追跡を振り切り、神崎の手引きで新宿駅地下へ潜入。
すでに封鎖された非常口、無線妨害。時間は限られていた。
構内に仕掛けられた爆弾は6基。
ミナミの証言とUSBの情報により、おおよその位置は掴んでいた。
1基、また1基と解除するたび、
透の頭には美咲と咲の笑顔が浮かんでいた。
「おれは……もう、誰も失いたくないんだ」
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3. ミナミとの再会
最後の爆弾の近くにいたのは、ミナミだった。
「来たのね」
「止めに来た」
ミナミはスイッチを握っていたが、その指は震えていた。
「…本当は、わかってた。あなたが言ったこと、全部正しかった。でも、私の中の怒りが、それを許してくれなかった」
透はゆっくり近づき、彼女の前に膝をつく。
「怒りがなくなったら、残るのは“喪失”だけだ。
でも、その痛みを背負って、生きるしかない。
君が…俺にUSBを渡したのは、その証だ」
ミナミの瞳から、涙が落ちた。
そして、スイッチは床に転がった。
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4. 黒幕の終焉
その瞬間、封鎖された構内に銃声が響く。
公安の特殊班が突入したのだ。
透を狙った銃弾が彼の肩を貫いた。
ミナミが透をかばい、撃たれそうになった瞬間──
神崎の狙撃によって、班の指揮官が倒れる。
「遅れて悪かったな。やっぱり…俺も、正義が見たい」
その後、USBのデータは報道局へ流され、
桐原局長を含む公安高官数名が責任を問われ、退任。
“灰の手”の一部は逮捕、一部は行方不明。だが、爆破事件は防がれた。
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5. 灰の中の灯火
数日後。
透は入院先の病室で、ふたたびあの夢を見る。
咲と美咲が手を振っている。
「パパ、おかえり!」
透は微笑み、彼女たちに手を伸ばそうとするが──
夢は消える。
目を覚ますと、窓の外は朝焼け。
ミナミがそっと椅子に座っていた。
「おはよう、警察官さん」
透は静かに答える。
「……おはよう。生きてるな、俺たち」
ミナミは小さくうなずき、手のひらを差し出す。
そこには、小さな灯火の形をしたペンダントがあった。
それは、透の娘・美咲が最後に握っていたキーホルダーの形だった。
「これを……ずっと持ってて。
あなたが、“正しさ”を証明してくれたから」
透は、それを手に取る。
「これは、彼女の命の証だ。
…これからも、守るよ。何があっても」




