第77話 6日目
貴族評議会の後、屋敷に戻った私は、アルジェント侯爵に改めて事情を説明した。怪盗ルージュからオルディス侯爵の不正について教えられ、それを暴くために彼を『天使の鏡』の輸送作戦に引き入れたこと。さらには、貴族評議会で『天使の鏡』をすり替える計画に加担したこと。そのすべてを語り、こってりとお説教をいただいた。
(けど、こんな問題を起こしてお説教だけで済ませるなんて……やっぱりアルジェント侯爵は娘に甘いわね……)
原作のレティシアが尊大な態度を取っていたのも、こういう親の元で育ったからこそなのだろうか。彼の優しさに感謝しつつも、どこか申し訳なさが残る。
(ルージュには……迷惑をかけちゃったな……)
私を守るために、シャルモン伯爵の身分を借りて評議会に出席してくれたのに、私は勝手に罪を告白してしまった。その結果、ルージュは騎士団に囚われの身となった。
(何とか逃げ出しているといいけど……)
そんなことを考えているうちに、日は暮れ、私はベッドに沈み込んだ。そして翌朝――6日目の朝が訪れる。
「はあ……これからどうしようかな……」
ぽつりと呟く。もちろん、誰も答えてはくれない。天使のお姉さんと話そうかとも思ったが、なんとなくそんな気にもなれず、私はベッドの上でぼうっと天井を見つめる。
(昨日までの5日間、働きすぎたから、その反動がきたのかな……)
副業の最終日は明日、7日目。王宮で舞踏会が開かれ、そこでレオンと恋愛関係になれば攻略成功となる。しかし、今の状況では到底無理だろう。
(流石にもう、無茶だよね……)
私は軟禁状態。神はきっとその間に、レオンの心をしっかりと慰め、好感度を稼いでいるに違いない。オルディス侯爵の悪事が明るみに出た上に、私はレオンを裏切り、『天使の鏡』まで奪った。そんな私が、神に勝てる可能性なんて……ない。
(……ん?)
ふと、一周目の時に天使のお姉さんが言った言葉が頭をよぎる。
『攻略が完了したり、断罪されてその周回で攻略キャラクターとこれ以上親密になれない状況になると、その周回は終了します』
すっかり忘れていたが、「攻略キャラクターとこれ以上親密になれない状況」になると、この周回は強制終了するルールになっている。そういえば、1周目もシャルロット殺害の(無実の)罪を告白することで、意図的にその周回を終わらせた。
重要な可能性に思い至り、私は勢いよく身を起こす。
今、こうして周回が続いているということは、まだ「攻略キャラクターと親密になれない状況」にはなっていない。つまり……
(……まだ、私にはレオン攻略の可能性があるってこと!?)
まるで、その考えを証明するかのように――不意に部屋の扉がノックされた。
「何かしら?」
「レティシア様、よろしいでしょうか」
もはや聞き慣れた声。セバスチャンだ。私は短く「どうぞ」と促す。
「実は、レオン様がお見えになっておりまして……お会いになりますか?」