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第5話 入るぞ!ジュリアンルート

「こちらでございます」


私はセバスチャンに案内されて、屋敷の応接室の前にやってきた。この部屋の中にジュリアンがいるらしい。過去、乙女ゲームで攻略したキャラクターが目の前にいるなんて。しかも、副業で悪役令嬢に成り代わって攻略し直すことになるなんて。今さらながら信じがたいことが起きていると思うが、先週もらった日給2万円は、私の通帳と私の胃袋にしっかり刻み込まれている。


(よし、行くか)


心の中で気合を入れなおし、応接室のドアをノックする。すると、いかにも爽やかな声で「どうぞ」と返事があった。まさに昔聞いたジュリアンの声だ。


返事を受けて、セバスチャンは何も言わずに部屋のドアを優雅な所作で開く。部屋の中には、まさにあの日画面越しに見たきらカレのジュリアンが立っていた。

整った顔立ちは騎士らしい鋭さを備えているが、明るい栗色の瞳は柔らかく輝いていて、本人の優しい気性をよく表している。濃い栗色の髪は少し無造作に後ろへと流されており、飾らない身なりに柔らかさを添えていた。ジュリアンの良さを全て引き立てつつ完璧に立体化できている。神様は相変わらず原作再現に余念がないようだ。


「レティシア様、どうかされました?」

「へぇ? は、いえ。少し寝不足で、失礼いたしましたわ」


あまりのジュリアンの立体化の出来の良さに、もといビジュアルの良さにしばし惚けてしまったが、本人からやや怪訝な様子で呼びかけられて慌てて意識を戻し、部屋に入る。


「それで、本日はどういったご用件でしょうか」

「実は、ダフネ副団長の件でご相談をしたくてお呼びしました」


ジュリアンに問われ、私はあらかじめ考えてきた『近衛騎士団長を呼び出した理由』を話す。


「ダフネ副団長について、ですか?」


用件がダフネのことだとは思っていなかったのだろう。ジュリアンは怪訝な顔をする。眉根を寄せて軽く首をかしげるその仕草は、何度も立ち絵で見たポーズだ。


「結論から申し上げます。私をダフネ副団長から守って頂けませんか?」

「ダフネ副団長から守る? なぜ?」

「恐らく私は、ダフネ副団長から命を狙われています」

「は?!」


ダフネから命を狙われているということにして、これから始まる7日間、ジュリアンに私を護衛してもらう―――というのが私の作戦だ。こうすればジュリアンとは会話し放題の好感度高め放題。その上ダフネから攻撃があった時にはこのゲームの最強キャラ・ジュリアンに守ってもらえる。まさに一石二鳥の作戦だ。ただこの作戦には小さな欠点が一つある。それは……。


「ダフネ副団長が誰かの命を狙うなんて、そんな話信じられません」


ダフネが私の命を狙っている証拠は今のとこは一切なく、事実無根だということだ。ここをうまく誤魔化して、ジュリアンに護衛についてもらわなければいけない。


「最近、王宮ですれ違う時に睨まれている気がしまして……殺気を感じるのです」

「いや、そんなの気のせいですよ。そもそもレティシア様とダフネ副団長が顔を合わせる機会って、そんなにないですよね?」

「我がアルジェント家はこの国でも有数の家。きっと誰かに頼まれて私の暗殺を企んでいるのです……でなければあんな殺気、放てるわけはありません!」

「いや、そんなあいまいな理由で……。大丈夫ですよ、レティシア様。ダフネ副団長は不器用なヤツなんです。顔は怖いけどなかなか親切なところもあるんですよ」


ジュリアンはやや脳筋キャラなので意外とあっさりOKをもらえるかと思ったが、なかなかそううまくはいかないか。ただ、ここで引き下がるわけにはいかない。


「なんで私を信用してくださらないんですか?! こんなに不安に感じているのに……」


私は顔を手で覆ってわざとらしく泣きの演技をする。見る人が見れば白々しい姿かもしれないが、ジュリアンには効果があったようでわかりやすくオロオロしてくれている。


「レ、レティシア様が不安に思っているのはよくわかりましたから。どうか泣かないでください」

「本当にですか? じゃあ、ジュリアン様が私を護衛してくださるんですか?」

「いや、私もこう見えて仕事がありますから。部下を派遣しましょう、それではどうです?」

「それでは駄目です! ダフネ副団長より強い騎士は、私、ジュリアン様しか知りません!」

「わかりました。じゃあ一日だけ……」

「7日間! 7日間は守ってもらえないと安心できません!」

「7日間ですか……まあそのくらいならなんとか……」


よしキタ! 私はジュリアンに見えない角度でサムズアップする。とりあえずはゲームの舞台になる7日間だけ、ジュリアンに護衛してもらえればいい。私はコロッと笑顔になりジュリアンの手を握る。我ながら、いかにもレティシアっぽい切り替えの速さだ。


「ありがとうございます! それではこれから7日間、よろしくお願いしますね。セバスチャン! ジュリアン様のお部屋を用意して差し上げて」

「はい、畏まりました」


私の命を受け、後ろで控えていたセバスチャンは早速メイド達に指示を出す。


「レティシア様? 部屋って……」

「私は命を狙われているのですよ? 片時も離れず守って頂かなくてはいけません。これから7日間この屋敷に滞在できるよう、お部屋を用意させて頂きます」

「は? そ、そんな急に」

「もちろん、色々準備が必要なことは分かっております。私はこのあと、本日王都にいらっしゃるシャルロット様にお会いする予定です。その会合が終わるまでに準備して頂ければと思います。もちろん、我が家の使用人もお手伝いしますわ。なんでもこちらのセバスチャンに申しつけてくださいまし」


そこまで畳みかけて、私はにやっと悪役令嬢らしく笑う。そんな私をみてジュリアンは反論するのをあきらめたのか、セバスチャンに何やら荷物の運搬や屋敷の外との連絡の取り方などを相談している。よしよし、上手く丸め込めたようだ。


こうして、私とジュリアン、ときどきダフネの7日間が始まったのだった。

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