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第73話 運命の日、その朝

 ―― そして、5日目の朝がやってきた。


 私はかすむ目をこすり、ゆっくりと目を開ける。


 天井に目を向けると、いつもより暗く感じるのは、金庫室の照明がまだ灯されていないからだろう。結局、簡易ベッドの上で寝落ちしてしまったらしい。


(結局寝ちゃったか……)


 慣れないベッドで寝たはずなのに、妙にスッキリしている自分に驚く。昨夜の緊張が抜けきらないはずなのに、体はいつにも増して軽く、頭の中も冴えていた。


(不思議ね……。もしかして、覚悟を決めたからかしら?)


 ――ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。


 扉が五回、決められたリズムで叩かれる。セバスチャンだ。私はむくりと体を起こし、扉の向こうへ声をかける。


「セバスチャン、大丈夫よ。入って」


 扉が開くと、セバスチャンが静かに姿を現した。その後ろから、続いてルージュも入ってくる。


「昨日は何も無かったようですが、お体はいかがでしょうか?」


 やはり、神の侵入には誰も気づいていないらしい。真実を話しても混乱させるだけだし、ここは適当に話を合わせておこう。


「ありがとう。快調そのものよ」


 私の返事を聞くと、セバスチャンは安堵したように息をついた。背後のルージュも、わずかに目元を緩めたように見えた。


「事前に決めた通り、これは俺が責任をもって()()場所に運んでおく」

「ええ。お願い」


 私の返事を聞くと、ルージュは数人の仲間を部屋に入れ、天使の鏡の入った木箱を慎重に、けれど速やかに運び出す。さすがは怪盗ルージュの仲間たち、といったところだろうか。


 木箱が部屋を出るのを見届けると、ルージュもそれに続く。


「それじゃあ、後でな」

「よろしくね」


 短く言葉を交わすと、ルージュは仲間たちを追い、あっという間に去っていった。その背中はいつも通り軽やかで、今日も頼れる味方でいてくれる――そんな確信を抱かせた。


 これで、あとは貴族評議会に向かうだけだ。


「セバスチャン、準備を手伝ってくれる?」

「はい……しかし、本当に貴族評議会に参加されるのですか?」

「ええ、予定通り参加するわ。偉いおじさまたちに舐められないよう、威厳のある装いにしてちょうだい」


 私がそう言うと、セバスチャンはいつも通り、優雅に一礼する。


「畏まりました」


 何も言わず、私の決断を受け入れてくれる。その信頼の深さが、今日はひどくあたたかく感じた。


 きっと今日は――この7日間の最大の山場になる。


 今日が終わったとき、私はどうなっているのだろう。勝者として微笑んでいるのか、それともすべてを失い、悲嘆にくれることになるのか。


 わからない。でも――進むしかない。


 荒れ狂う海に、小さな舟で漕ぎ出すような心地で、私は一歩を踏み出した。

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