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第69話 神は再び

 ルージュの襲撃を退けた後、レオンは改めて陣形を立て直し、一行は再びオルディス邸を目指して行軍を開始した。私とノワールも、行きと同じ配置でレオンに付き従う。


 しかし、レオンに話しかける気にはなれなかった。『天使の鏡』の奪取に失敗してしまい、これからどうするべきかを考えるので頭の中がいっぱいだったからだ。沈黙を保ったまま馬を進めながら、私は思考の渦に沈んだ。


(えーっと……さっき出てきた偽ルージュはルージュの仲間。つまり、ルージュは『天使の鏡』を入手できなかったはず……)


 私は額に手を当て、ゆっくりと瞼を閉じる。


(『天使の鏡』をルージュが手に入れられなかったってことは……オルディス侯爵の闇を暴けなくなったってこと。折角レオンのためにオルディス侯爵を告白するぞって気合入れてたところだったのに……! でも、この世界があと数日でリセットされるなら、レオンにとってはむしろ良かったのかも……?)


 この世界が続くならいずれオルディス侯爵の悪事は公になるだろうが、恐らく7日間でこの世界はリセットされる。ならば、オルディス侯爵の悪事が公にならない方がレオンにとっては良いのかもしれない。


(でも、『公開の場』でレオンを助ける作戦が台無しになっちゃった……。レオンと仲良くなるための別の作戦を考えないと。それに、帰ったらアルジェント侯爵に「昨日頼んだ貴族評議会への参加、やっぱり無しで」って謝らなきゃ……)


 大きくため息をついたその時、隣に馬が寄ってくる気配がした。ノワール――つまり、本物のルージュだ。


「何? ノワール、今私とても忙しいんだけど……」

「そうか? まあ、表情は相当忙しそうだったけど」

「あなたねえ……」


 軽く睨みつけるが、ふとルージュの表情がまったくいつも通りであることに気が付く。


 (……おかしい。『天使の鏡』を欲しがっていたはずなのに、失敗したそぶりがまるでない?)


 私が不思議そうな顔をしていると、ルージュは口元だけで小さく笑う。


「え……?」

「任務は成功したんだし。早く帰って祝い酒でも飲みたいもんだ」


 その言葉で、私は確信する。


 (『天使の鏡』の奪取は、成功しているんだ……!)


 どういうことなのか問い詰めようか迷ったが、ルージュは何も言わず、ひらりと馬を操って私の背後へ戻ってしまった。


(帰ったら詳しく話を聞かせてもらわなきゃ!)


 そう考えながら、オルディス侯爵邸の門が見えてくるのを眺めた。



 * * *



 夕暮れの光が邸宅の石壁を照らす中、私たちは無事にオルディス侯爵邸へと到着した。傭兵たちは次々と馬を降り、屋敷の使用人たちが天使の鏡が収められた木箱を慎重に屋敷へ運び込んでいく。


「これにて、作戦は終了だ」


 指揮官がそう告げると、一同は安堵の息を漏らし、各々の役割を終えたことを確認するように動き始めた。


「レティシア様、よろしければ本日は屋敷でお休みになられますか?」


 オルディス侯爵が私に声をかける。その提案にはありがたいものを感じつつも、今はそれよりも確かめたいことがあった。


「いえ、お気遣い感謝しますが、私はこれで失礼いたしますわ。ノワール、一緒に来なさい」


 私は丁寧に礼をし、待たせていた馬車に乗り込む。ルージュも私に付き従うように馬車に乗りこむ。しかし、ルージュが馬車に乗り込もうと足を上げた瞬間、その場でピタリと静止した。


(これは……?!)


 辺りを見ると、屋敷の前で屯する傭兵たちも残らず動きを止めている。やっぱり、神の仕業だ。私はあたりを見回すが、神の姿はどこにもない。


(今までは神は必ず私の傍でスキルを使っていたけど……今回は別の場所でスキルを使ったってこと?)


 そこで、私はある可能性に思い至った。――神は、リュカを取り戻そうとしているのでは?


 用意周到なルージュのことだ。恐らく、リュカは厳重に監禁されているはず。だが彼は当然ながら神のスキルについて知らない。もしこのまま時間が止められている間に、神がリュカを救い出してしまったら……?


 そんな風に思考を巡らせている間に、再びルージュが動き出す。私は慌ててルージュに訴えかける。


「リュカが危ないわ! 早くアジトに連れて行って!」

「は、はあ?! 急に何……」

「いいから、馬車に乗って! 場所は走りながら御者に伝えて」


 ルージュを急かして馬車に乗り込み、慌てて馬車を走らせる。ルージュはしぶしぶ王都の外れの住所を御者に伝え、馬車が走り始める。しかしそこで、馬車の窓の外の風景が完全に静止する。また、時が止まった。


(早く向かわないと……取り返しのつかないことになる!)

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