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第63話 閃く刃

 会議を終えた私たちは、ルージュの部下になる傭兵を用意するため、商人ギルドに急いだ。アルジェント侯の威光と、金に糸目をつけない条件のおかげで、ルージュも納得できる質の人員を揃えられることになった。


 ひと仕事終えた私とルージュは、商会近くの高級レストランの個室で食事を共にしていた。シャンデリアの柔らかな光がテーブルクロスを照らし、静かな室内に食器の微かな音が響く。


「さ、ルージュ。明日に備えて好きなものを食べなさい!」

「じゃ、遠慮なく」


 そう言いながらも、ルージュはメニューの中で一番質素な料理を選んだ。ウェイターが席を外し、再び二人きりになる。


「あら? それでいいの?」

「貴族の金はもとは庶民の血税だからな」

「まあ……そうね。さすが、庶民の味方の怪盗ルージュね」


 確かにルージュの言うことももっともだ。この世界では気前よくお金を使ってしまっているけれど、もとはと言えば国民の血税。義賊として人々を助けるルージュにとっては、おごりだからといって贅沢をする気にはなれないのだろう。


 食事をしながら、私は先ほどのレオンとシャルロットとの一件を思い出して言った。


「ねえ……どうしたら私、レオン様に好かれると思う?」

「さあな」

「普通、温室育ちの貴族令嬢がビシッと強そうな傭兵を顎で使ってたら、『面白れー女』ってなるもんじゃないの?」

「レオンはそういうのがタイプじゃないんだろ? ほら、さっきも一緒にいた婚約者の……」

「シャルロット?」

「そうそう。ああいう素朴で優しそうな女が好きなんじゃないのか?」


 確かに、今のレティシアはいかにも気が強そうで、素朴とは程遠い。


「でも、私は何としてもレオン様と仲良くならなきゃいけないのよ! どうしたらいいと思う?」

「……何としても、ねえ」


 ルージュの眼差しが不意に鋭さを帯びた。冗談めかしていた雰囲気が消え、真剣な空気が漂う。


「本当に、何をしてもレオンに近づきたいと考えているのか?」

「え、何よ急に……」

「このまま俺が『天使の鏡』を盗めば、ヴァレンティス公爵家も無傷では済まないだろう——いや、もしかすると、その名誉さえ危うくなるかもしれない」

「え……」


 驚きのあまり、カトラリーを取り落とした。冷たい金属音がテーブルに響く。


「そ、それって……どういうこと?」


 ヴァレンティス家が悪事を働いているなんていう設定は、原作にはなかったはず。まして、あんなに高潔なレオンや優しい公爵様に限って……。


「『天使の鏡』を手に入れたら、俺はオルディス家の悪事を新聞社と協力して公にするつもりだ」

「オルディス家の悪事?」

「他国の貴族と結託して、この国に違法な魔道具を輸入している。人を強制的に隷属させる魔道具だ。秘密裏に貴族や商人に売りさばいて、多くの貧しい人々が犠牲になっている。隷属させられ、救いの声を上げられないまま……」

「そんな……」


 原作でもルージュルートで違法な魔道具の被害者を救うイベントはあった。だが、その黒幕の一部がオルディス侯爵だったなんて——設定資料集にも書いてなかった……気がする。


「そんな悪事をどうやって新聞社に公表させるつもりなの?」

「『天使の鏡』をエサにして侯爵をおびき出し、鏡の力で罪を白状させる。それを記事にするつもりだ」


 ルージュはそこで一旦言葉を切り、私の目をまっすぐに見つめる。まるで何かを確かめようとするかのように。


「新聞社がオルディス家の悪事を暴けば、ヴァレンティス家も無関係とは思われない。だが、もし『公の場』……例えば貴族評議会なんかで直接告発できれば、やりようによってはその場でヴァレンティス家の潔白を証明できる。加えて、犠牲者の解放にも協力すると言わせれば、悪い印象を払拭できるかもしれない」


 急な展開に頭が追いつかない。つまり、このままではレオンが謂れのない中傷に晒されてしまうということ? 確かに、ルージュが言うように新聞社がオルディス家の悪事を公表すれば、本家であるヴァレンティス家も国民からの批判を受けることになるだろう。

 一方で、私がこの計画に協力すれば、ヴァレンティス家……つまりレオンへのダメージが少なく、オルディス侯爵を裁くことができるとルージュは言っている。


 ……つまり、私はレオンを救うことができるということだろうか? 神との戦いに完全に出遅れてしまった今、逆転するには並大抵のことじゃ足りない。この大波に、乗るしかない――!


「もちろん、ヴァレンティス家も悪事に手を染めていると分かれば、その限りじゃないがな。どうす——」

「やります!!!」


 私の声が思わず大きく響き、ルージュの言葉を遮った。目を丸くする彼だったが、すぐに笑みをこぼす。


「……あんた、今でも十分『面白れー女』だよ」


 言いながら、ルージュは滑らかな動作で懐に手を入れた。次の瞬間、冷たい金属がわずかに光を反射するのが目に映る。――ナイフだ。


「お前もそう思うだろ? ――リュカ!」

「え?!」


 ルージュの手が閃く。次の瞬間、ナイフが唸りを上げ、隣室の壁に突き刺さった。――と、微かな息を呑む気配。


(ちょっと、急に一体どういう事?!)

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