幕間 きらカレ@攻略Wiki②
(おいしい! おいしすぎる……脳がとろける……!)
久しぶりの外食に、次から次へと箸が進んでしまう。悪役令嬢って最高だ!! 海鮮の旨味に脳を焼かれた私は、本能のままに寿司を貪り、そしてその流れで食後のコーヒーとデザートを注文する。最近の回転寿司はなんでも食べられるから恐ろしい。
しばらくすると楽し気な効果音とともにコーヒーとガトーショコラが手元に届く。うきうきと小さなガトーショコラをつつきながら、私はおもむろにノートPCを取り出し『きらカレ@攻略Wiki』を開く。
(仕事終わりに次の仕事の準備をするとは……しかもそのために重いパソコンを持ち運んで来るとは……私、偉い!)
なんて、自画自賛をしながらまずは一番気になるもう一人の悪役令嬢、『ダフネ』の設定を確認する。
ダフネ・ヴァルミオン。代々将軍を輩出するヴァルミオン伯爵家の長女として生を受けた令嬢だ。幼い頃から父から厳しく鍛えられたため、剣では中途半端な男性には負けないほどの強さを持つ。その実力を買われ、近衛騎士団の副団長に任じられており、主人公・シャルロットが王都に来るにあたって、彼女の護衛としての任務を命ぜられている。恋愛については不器用で、縁談の話は片っ端から断っている。攻略キャラクターのひとりで近衛騎士団長のジュリアンには、過去任務の最中助けられた経験があり、憧れの感情を抱いている。
あんまりザ・悪役令嬢っていう設定のキャラでもないんだけれど、ジュリアンを攻略しようとするとちくちく嫌味を言ってきたり微妙に陰湿な嫌がらせをしてきたり、レティシアといい勝負の悪役ぶりだった記憶がある。
この設定から、例のダフネのスキルを予想してみる。一周目ではダフネがシャルロットを殺したことで私の断罪イベントが開始してしまった。天使のお姉さんは「スキルをうまく扱えなくて、ダフネはシャルロットを殺してしまったのでは」というようなことを言っていた。つまりは、ダフネのスキルはレティシアの【国家予算級のお小遣い】とは違って、相手に攻撃をすることができるようなスキルなのだろう。
(うーん……普通に考えれば誰でも倒せるスキルとか……? でもそんなスキルだったとしたらちょっとチート過ぎるよな)
例えば任意のキャラクターを誰でも倒せるスキルだった場合、私が誰かの攻略を完了しようとしたときその攻略キャラクターを殺めてしまえば、私は絶対にダフネには勝てなくなる。神様とやらがゲームの駆け引きを重視するならば、そんなスキルをダフネに与えようとはしないだろう。
(攻略キャラクターは殺せないとか、制限があったりして?)
そこまで考えてみて、ダフネに会った時間が短すぎて情報が足りないことに気が付く。とりあえず、二周目では誰でも倒せるスキルを持っていると仮定して、警戒しながら相対するしかない。それを前提に、二周目で誰を攻略するかだけど……。
(やっぱりジュリアンかな~……)
ダフネの意中の相手であり上司でもあるジュリアン。ジュリアンを攻略しようとすれば自ずとダフネの動向もつかめるだろう。攻略キャラクターを落としつつ相手の情報もゲットする! 一石二鳥の作戦だ。
(さて、ジュリアンのページはどこだったかな……ここか!)
ジュリアン・レインハート。類い稀なる剣術の才能を持つ、王国一の騎士。もともと平民の戦災孤児だったが、縁あって前・近衛騎士団長に拾われ騎士見習いとして腕を磨き、戦争で戦果を上げ現・近衛騎士団長に就任するに至った叩き上げ。一方で性格はそんな過去を感じさせない明るいタイプで、面倒見が良いお兄さんという感じだ。
原作では、初めて王都にやってきて右も左もわからないシャルロットがジュリアンの朗らかさに惹かれ、ジュリアンもまた辺境で育った素朴で可憐なシャルロットに惹かれ、恋に発展していく。
(確か最初の出会いは、シャルロットが婚約者レオンに初めて会った後、「お前を婚約者として認めたことはない」と冷たくあしらわれて落ち込んでいたところに優しく声をかけられる……っていうかんじだったっけ)
シャルロットでジュリアンを攻略した経験を活かすならば、ジュリアンの面倒見の良さを利用するような方法が有効かもしれない。31歳女子に、そんな振る舞いがうまく出来るかは分からないが。
(でも、ボーナスのため! やるしかない!)
ガトーショコラの最後の一口を楽しみつつ、二周目でジュリアンを攻略し、ダフネのスキルを明らかにすることを胸に誓った。