表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/90

第53話 戦場へ

 晩餐会の時間が近づくにつれ、私の屋敷は慌ただしさを増していた。


 鏡の前に立ち、侍女たちの手で華やかなドレスに身を包む。濃紺のドレスは、金の刺繍が施され、照明を受けるたびに華やかに煌めいた。


 今夜のオルディス侯爵邸での晩餐会は、原作でもレオンとシャルロットの関係にとって大きな分岐点となる。きっと神も、レオンとの仲を進展させようと色々画策しているに違いない。


(けれど、私にはリュカとルージュという強力な味方がいる)


 リュカがレオンとシャルロットの間をかき乱してくれれば、レオンの視線はシャルロットから逸れ、少なくとも彼女の攻略を遅らせることができるはず。


 そして、ルージュ。彼には晩餐会の最中に発見されるよう、『天使の鏡』の予告状を出してもらえるよう頼んである。その騒動の際、計画通りに上手く立ち回ることが出来れば、きっとレオンとの距離は縮められるはずだ。


 侍女が最後に髪飾りを整えたことを告げる。私は鏡に映る着飾ったレティシアの姿を見て、満足げに微笑んだ。


「完璧ね」


 準備を終えた私は、深紅のドレスの裾を揺らしながら屋敷の玄関ホールへと向かった。そこではすでに、一人の赤い髪の男が待っていた。


 大理石の柱にもたれかかるようにして立っているのは、黒の軍服に身を包んだルージュ。無駄な装飾を省いた礼装用の軍服は、歴戦の傭兵としての威厳を漂わせつつも、貴族の宴席に相応しい洗練された仕立てだった。

 ルージュがこちらを振り向くと、肩にかけた漆黒のマントがまるで夜の闇そのもののように揺れる。


「随分と時間がかかったな」

「淑女の支度にはそれなりに時間がかかるものよ」


 ルージュは私のドレスを一瞥し、皮肉めいた笑みを浮かべる。


「……派手な戦装束だな」

「今夜の戦場にふさわしい装いを選んだだけです」


 私が返したちょうどそのとき、玄関ホールに軽やかな足音が響いた。


「これはこれは、星々すら霞むほどの輝き。今宵のレティシア様は、夜の女王と見紛うほどです」


 軽やかな声と共に現れたのは、深い緑のタキシードを纏ったリュカだった。彼は朗らかな笑みを浮かべながらも、その瞳の奥には鋭い意志が宿っているように見えた。


「ごきげんよう、リュカ」

「ごきげんよう、レティシア様。こちらは……?」


 リュカの視線がルージュへと移る。私は軽く手を差し出し、さりげなく二人を紹介した——ただし、ルージュの名はノワールとして。


「ノワール、こちらはリュカ。王都で名高い吟遊詩人です。そしてリュカ、こちらは私が信頼を寄せる傭兵、ノワールです。今日の晩餐会の主催者、オルディス侯爵にご紹介する予定なの」

「ほう……なんとも凛々しいお方ですね」


 リュカは優雅に片手を胸に当て、微笑む。ルージュは軽く顎を上げ、無言で応じた。私は二人を交互に見やると、意味ありげに微笑んだ。


「今夜の晩餐会、楽しみましょうね」


 私の言葉に、二人ともわずかに口角を上げる。


 屋敷の扉が開かれ、待機していた馬車の嘶きが夜の空気を揺らした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ