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第37話 迫る脅威、決断の時

 騎士団が迫っているという知らせを聞いて、私は外に飛び出した。小屋の前庭では、商人ギルドが手配した傭兵たちが緊張した面持ちで配置についている。


 その中心に立つのは、傭兵隊の隊長と思しき中年の男性だ。鋭い目つきで周囲に指示を飛ばしている。私は彼のもとに駆け寄り、声をかけた。


「騎士団が迫ってきていると聞きました。状況をお教えいただけますか?」

「奴らは、今朝になってこの拠点の存在に気付いたようです。斥候が動きを監視していますが、いつ襲ってきてもおかしくはない状況です。もちろん、足止めできるように準備は進めておりますが」


 私たちが昨夜到着したときには、ここには何もなかった。それが今や、頑丈なバリケードが張り巡らされ、傭兵たちが武器を手に戦いの準備を整えている。彼らもまた、夜を徹して作業を進めてくれたのだろう。


「ありがとうございます。ここまでしっかり準備してくださったなら、きっと……」

「効率的な配置がされているようですね。しかし、ダフネがいる以上油断はできません」


 背後から声がして振り返ると、アントワーヌが立っていた。私を追って、小屋の外に出てきたらしい。


「彼女がバリケードを突破してきた場合には、我々が作った『霧の檻』で対処するしかありません」

「アントワーヌ様! 『霧の檻』は完成したのですか?」

「はい。ここに」


 アントワーヌが手にしているのは、無骨な黒い装置だった。これが完成した『霧の檻』なのだろう。


「装置を起動するには、彼女を射程内に捉えた後、十数分の時間が必要です。もしもの時は、彼女の足を止めるための稼いで頂きたい」

「わかりました」


 隊長は真剣な表情で頷くと、再び仲間たちに指示を飛ばし始めた。ふと、バリケードの隙間から、何者かの影が見えた気がした。


「あの、あそこ……!」


 私が声を上げようとした瞬間、突如バリケードの一角が大きな音を立てて崩れ落ちる。ついに、騎士団の襲撃が始まったのだ。弓兵たちがバリケード越しにボウガンを放ち、応戦を開始する。

 形勢は騎士団のほうがやや優勢だった。傭兵たちの奮闘にもかかわらず、少しずつバリケードが破壊されていく。その先頭にいるのは――ダフネだ。


 彼女は剣を抜いているものの、ほとんど振るうことなく進んでくる。だが、剣先が向いた瞬間、盾は砕け、槍は粉々になり、傭兵たちは次々と後退を余儀なくされた。やはり、ダフネのスキルは『指定したものを破壊する』能力なのだろう。


「アントワーヌ様、『霧の檻』を!」

「今、起動中です! あと少し、時間を稼いでください!」


 アントワーヌは『霧の檻』を地面に置き、必死に何か操作をしている。しかし、その間にもダフネは傭兵隊を蹴散らしながらこちらへ向かってきていた。すぐ近くで、戦いの喧騒が響いている。


(こうなったら……もう、腹を括るしかない!)


「私をダフネの前に連れて行ってください」

「な、なんですって……!?」


 私が傍で指揮を続けていた隊長に頼むと、彼は驚きの声を上げる。アントワーヌも驚いた顔で私を見上げた。


「私はアルジェント家の令嬢です。騎士団はやすやすと私のことを傷つけることはできないでしょう」

「しかし……」

「背に腹は代えられません! 急いで!」


 隊長は一瞬沈黙し、それから静かに頷いた。


「そこまで仰るなら、私がお連れします」

「ありがとう」


 隊長とともに最前線へ向かおうとする私の背中に、アントワーヌが叫ぶ。


「正気ですか!? 危険すぎます!」


 私は軽く振り返り、強気に微笑んだ。


「大丈夫、勝算はあります」

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