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第36話 夜明けの報せ

 それから私たち三人はダフネを捕らえるための装置――『霧の檻』を作るための作業を開始した。


 アントワーヌは、霧を発生させる核となる闇の魔力結晶を金属の中心に据え、専用の工具でその周囲に魔法陣を彫り込んでいく。その魔法陣に設計図通りに鉱石を配置していくのが私とシャルロットの役割だ。鉱石はそれぞれ魔力を伝導する性質が異なるらしく、配置の順序が重要だという。二人で確認をしながら慎重に一つ一つ順番に小さな鉱石を配置していくのはなかなか骨が折れる作業だった。


 アントワーヌは私たちが鉱石を配置し終わったのを確認すると、発光する青い液体の入った小瓶を取り出した。


「魔力液を注ぎます。少し避けていてください」


 青い液体を魔法陣に注ぐと、私たちが配置した結晶が淡く光を放ち始めた。


「成功です。……これで基本構造が完成しました」


 ここまでの作業が実を結んだと分かって、私もシャルロットもほっと胸を撫でおろす。ふと、窓から外を見ると東の空がうっすら白んできていた。作業に没頭していたせいで、随分時間が経っていたことに気づいた。


「二人とも、一旦休んでください。これからの作業は僕一人で進められますから」

「でも……アントワーヌ様が一人で大丈夫か心配です。私にも何かできることがあれば、手伝わせてください」


 シャルロットが食い下がるが、アントワーヌは首を横に振ってその申し出を断った。


「後の細かい調整は僕しかできませんから」


 そう言われると、私もシャルロットもさすがに反論できなかった。それに、ダフネとの決戦はもうすぐそこまで迫っているのだ。万全の状態で挑むためには、少しでも体力を回復しておいた方がいい。


「わかりましたわ。でも、無理はなさらないでくださいね」

「もちろんです」


 アントワーヌに礼を言ってから、シャルロットと私は簡素な寝室として用意された部屋に移動した。硬いベッドに寝転がり、思い切り体を伸ばす。頭も体も使ったからだろう。目を瞑るとすぐに眠気が襲ってきた。


「レティシアさん、起きてますか?」


 しかし、隣のベッドから聞こえるシャルロットの声に、私は現実に呼び戻される。


「シャルロット様? まだ眠れないのですか?」

「はい……なんだか慣れない場所だと落ち着かなくて……それに、いろいろ考えちゃって」


 シャルロットが小さなため息をつく音が聞こえる。


「私、最初はアントワーヌ様のこと、あまり好きじゃありませんでした」


 それも無理はない。二人の出会いは最悪だった。ダフネが仕組んだこととはいえ、アントワーヌは面識もないシャルロットに突然、形見の指輪を譲るよう迫ったのだから。


「そうだったんですか?」

「ええ、少し怖い人だと思っていました。でも……」


 シャルロットは言葉を探すように一瞬黙り、続けた。


「オルビオライトを守ってくれたときに、一生懸命になってくれる姿を見て……あの、ちょっとだけ意外でした。アントワーヌ様って、本当は優しい方なのかもしれないって。それに、あのオルゴールもレティシア様とアントワーヌ様が一緒に作って下さったんですよね?」


 シャルロットの言葉を聞いて、嫌な予感が胸に満ちる。まさか……シャルロットはアントワーヌのことが……?


「レティシアさんは、アントワーヌ様のこと、どう思いますか?」

「え……わ、私は……」


 唐突に私に話を振られ、言葉に詰まる。突然の質問に言葉を失う。牽制のために『私も好き』と言うべき? いや、それは逆効果かも……。

 そもそも、私は本心ではアントワーヌのことをどう思っているんだろうか。研究のためとはいえ、夜を徹してシャルロットのオルゴールを作ったり、今もダフネに対抗するために協力したり……。

 そんなことを考えているうちに、隣から規則正しい寝息が聞こえてきた。


「……寝ちゃったのね」


 私は小さく息をつき、やや唐突に訪れた静寂の中でそっと目を閉じた。



 * * *



 明け方、扉を軽く叩く音が聞こえた。


「レティシア様、シャルロット様」


 アントワーヌの静かな声だ。しかし、その声にはどこか緊張感が漂っていた。私はすぐに飛び起き、扉を開ける。


「どうしました?」


 シャルロットも目をこすりながら起きてきた。アントワーヌは二人の顔を見渡し、小さく頷くと、簡潔に告げる。


「傭兵隊が知らせに来ました。……ダフネが動き始めたようです」


 その言葉を聞いた瞬間、私の心臓が高鳴った。


「……ついに」


 アントワーヌは神妙な面持ちで続けた。


「騎士団がこちらの隠れ家に向かっているとのことです。ダフネが直接率いている可能性が高い。準備に取り掛かりましょう」

「はい……!」


 シャルロットの声はやや震えているが、それでも彼女の瞳には確かな覚悟が宿っているように見えた。私も深呼吸し、心を落ち着ける。


(ダフネ……ここまで来たら、貴方には絶対に負けない!)


 私たちは互いに頷き、アントワーヌとともに小屋の外へと向かった。


 ダフネとの戦い――その幕が今、上がろうとしていた。

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