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第31話 駆ける決意

 ダフネによってシャルロットの形見の指輪と、それに嵌った煌軌石オルビオライトは砕かれた。砕け散った煌軌石オルビオライトの欠片は無残に床に散らばりながらも、未だに美しく淡い光を放っている。シャルロットはそれを、呆然と見つめていた。


「そんな……形見の指輪が……。煌軌石オルビオライトが……」


 シャルロットの頬を涙が伝う。ダフネは彼女の護衛として、ずっとその傍らに寄り添う存在だったはずだ。そんな存在にいきなり斬りつけられ、訳も分からないまま大切な形見の指輪を壊されてしまったのだから、無理もない。


「ダフネさん、どうして……?」


 シャルロットは震える声で問いかけるが、ダフネは答えなかった。彼女は剣を静かに鞘に収めると、応接室の入口へ向かって走り出す。

「待ちなさい! ……セバスチャン! ダフネを捕らえて!」


 私はすぐに声を張り上げ、廊下に控えているはずのセバスチャンを呼んだ。同時に自らもダフネを追おうとする。しかし、扉の向こうから聞こえたのは金属がぶつかる鈍い音と、短いうめき声だった。


「セバスチャン!」


 廊下に飛び出すと、そこには剣を抜いたダフネと、胸元を深々と切られて倒れるセバスチャンの姿があった。彼女は冷ややかなにこちらを一瞥すると、再びどこかへと駆け出していった。


「レティシア様……申し訳ありません……」


 セバスチャンは血を流しながらも私に詫びる。その言葉に胸が痛む。


「大丈夫だから、少し待っていて! ……誰か、手当を!」


 叫び声に応じて、遠くからアルジェント公の屋敷のメイドが駆け付け、セバスチャンに応急処置を施し始めた。私はその様子を確認しつつ、混乱する頭を整理しようと深呼吸する。


 まず間違いないのは、ダフネが何らかの意図を持って煌軌石オルビオライトを砕いたということだ。あの迷いのない剣筋を見る限り、衝動的な行動ではないだろう。では、この行動をとったダフネの目的は?……答えはひとつしかない。


 ダフネの狙いは、間違いなく私のアントワーヌ攻略を邪魔することだ。


 煌軌石オルビオライトがアントワーヌ攻略のカギになることは、ダフネも当然知っている。だからこれを砕き、私の攻略を妨害しようと考えたのだろう。もし私が攻略に失敗すれば、ダフネの望む副業の継続に近づくことができる。


(悔しいけど、実際、煌軌石オルビオライトを失って、私の計画はめちゃくちゃだ。どう挽回すればいいか、今は全く見えない)


 ここまで大胆な行動に出たダフネが、このまま大人しくなるとは思えない。シャルロットに弁解することなく立ち去ったのが、その決意の表れだろう。彼女が次に取る手段を考えれば、行き着く答えはひとつ――攻略対象であるアントワーヌを狙い、私の動きを完全に封じることだ。


「シャルロット様! 馬車を貸してください!」

「……レティシア様、何故……?」

「アントワーヌ様のもとへ行きます!」


 私はシャルロットから馬車の使用を得ると、すぐに使用人たちに準備を命じた。ダフネが次に狙うのがアントワーヌだとすれば、先回りして彼の安全を確保しなければならない。

 急いで屋敷を出て馬車に飛び乗ろうとしたその時、誰かに腕を引かれた。驚いて振り返ると、髪を乱し、息を切らしたシャルロットが立っていた。


「私も、連れて行ってください」


 驚く私を、シャルロットは息を切らしながら懇願するように見上げくる。一瞬ためらうが、やがて私は彼女の手を取り、頷いた。


「行きましょう、シャルロット様」


 こうして私たちは馬車に乗り込み、アントワーヌのもとへ向けて駆け出した。

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